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ベトナム

2010年8月

海外情報プラス

中国とベトナムの労働組合組織

1.中国の労働組合組織
中国の労働政策は労働者保護へ
 中国の労働法・労働政策は、数年前の外資企業の投資誘致優先の政策から2007年を期に方向転換を図り、国内資本、労働者寄りの国民主体の政策に大きく舵をきっている。2008年の労働契約法及び同法実施条例を始め、賃金・社会保険・組合・組合規約・紛争仲裁法などにより労働者保護政策が明確に打ち出され、昨今頻発する中国でのストライキ発生の一因ともなっている。

中国労働組合の歴史的背景
 中国への外資企業、特に日系企業の進出の背景を振り返ると、市場開放政策の下で急激な拡大が期待される中国市場への進出と並行し、多数の輸出加工型企業がかつての台湾進出と同様に中国企業との合弁会社設立からスタートしている。したがって、中国政府は共産主義政策及び中国労働組合法により、国民の約4%を占める共産党員を組合委員長とすることで労働組合を基盤に外資企業をコントロールしようと考えたのではないかと推察される。

共産党員関与のメリット、デメリット
 企業の利点としては、共産党員である組合委員長が経営者に対し労働者の管理を責任を持って行うことであり、経営者側と組合幹部とが好関係にあれば労働組合との労使紛争はあまり発生しないことになる。逆に、経営者側が組合幹部との調整に失敗した場合は全組合員を束ねる労働組合と真っ向から対決することになり、労使紛争は深刻な経営問題にまで波及することになる。

2.ベトナムの労働組合組織
ベトナムの労働組合は労働階級及び勤労人民の社会的・政治的組織
 ベトナムの労働組合組織も中国とほぼ同様の概念で組成されている。ベトナム労働組合法第2条3項は『労働組合は、労働者が国の主人としての役割を果たすことを組織化し、教育し、促進するとともに、ベトナム社会主義共和国の建設及び防衛についての国民の義務を果たすことについて、責任を負う』と明記している。つまり、ベトナムの労働組合は労働階級及び勤労人民の社会的・政治的組織である。これに対し、日本の労働組合は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他団体行動をする権利を保障する組織」と規定されており、すなわち「労働条件の維持改善その他、経済的地位の向上を図る経済的組織」である。この点が労働組合に関するベトナムと日本との重要な基本的相違である。

ベトナム労働組合の組織構造
 ベトナム労働組合の組織構造を分析してみると、企業内労働組合の上に地方組合組織があり、さらにその上部組合団体として「労働組合総連合会」が指導・監督する形となっている。企業内組合育成の責務は上部組合団体と規定されている。

ベトナムの外資企業
 ベトナムへの外資企業の進出は、ベトナム市場に比重を置かない生産拠点としての独資経営(南北各商工会の製造業会員の90%以上が独資企業)からスタートしている。また、1990年代中頃より進出を開始した外資企業の大半は、進出当初よりベトナム労働法に基づく労働組合の組成義務規定を受けて、労働組合の組成を積極的に進めることにより効率的経営・生産管理を目指したように思われる。

ベトナム日系企業の労働組合の特性
 多くの外資企業(特に日系企業の場合は顕著であるが)においては、企業経営者主導による労働組合組成となり、企業経営者が指名あるいは推薦するベトナム人中堅管理職による組合執行部が形成された。また、ベトナム政府は、外資企業誘致を強化することを優先し、日系企業が一般的にネガティブに捉える共産党員による労働組合組成には力を入れなかった。そのため、ベトナムの労働組合組織は中国とは基本的に異なる幹部組織となり、それがベトナム日系企業の労働組合の大きな特性となっている。ベトナム政府は中国ほどに共産党員の組織化・動員能力を有していないことも、上記日系企業の労働組合の特殊な組成の一因であろう。

3.ベトナム労働組合の再編
最低賃金法改正が労働組合再編の引き金に
 2006年の最低賃金法(注1)改正後にベトナム南部日系企業で突然発生した一連の違法ストライキ(注2)により、日系企業はベトナム外資企業の労働組合の矛盾を認識し、かつ再編を求められるようになった。ベトナム外資企業における労働組合の再編の実態としては、政府が指摘した経営者に近い中堅管理職の組合幹部が労働者を纏めきれないことによる違法ストライキの問題と、経営者と労働者の両者を調整する組合幹部となる中堅管理職の希望者がいなくなったことが再編の主要因といわれる。

機能しない上部組合団体
 さらに、共産党員のいない企業内組合と共産党員の指導が前提である地方組合及び労働総連合会には共通の理念が存在せず、外資企業が行政にこの問題を指摘しても「企業と労働者との個別の対話が必要」とのことでらちが明かない。要するに、フレームワークとして組織が機能していないことが根本の問題となっている。

4.ベトナム日系企業における労働組合への取り組み
 このようなベトナムの労働組合問題の根深さを一部の日系企業は認識した上で、1990年代に組成した組合組織を改編し、2006年以降労働者組織の中から選出された現場従業員のリーダーによる労働組合の再編に努力した形跡がみられる。

マブチモーターベトナムの労働組合
 マブチモーターベトナム社長の北橋昭彦氏に伺った、同社の労働組合に関する取り組みは以下のとおりである。

 マブチモーターベトナム(ドンナイ省のみ)の現在の労働組合は全従業員8200名のうち60%が組合員であり、組合は組合員から年間組合費として5000ドン(約25セント)を徴収している。執行部は各部門から選出された役員20名で組織されており、委員長は33歳の工場内女性事務職員(中堅管理職ではない)である。

 会社側は従業員給与の1%を組合運営費として支給するのみで組合運営には一切関知していない。労働組合の活動としては毎月1回の労使協議、従業員子女の学力優秀賞贈呈、育児者の育児教育、カラオケ大会、料理教室、バイク免許講習会などが行われている。

なお、日系企業の労働者採用年齢は2000年中頃までは18〜24歳が常識的基準であったが、最近の採用人数に対する就職希望者不足により18〜35歳の範囲に拡大している。1975年のベトナム戦争終戦後に生まれた35歳未満の従業員は、「戦争を知らない世代」で解放的な家庭・学校教育を受けており、組合活動に参加するより各自自由に行動する傾向があり労働組合にも参加しない従業員が40%にも達する。そのため、労働組合のみでは労働者を一つに纏める組織とはならない。したがって、マブチモーターでは採用時に労働組合への加入を前提に雇用することにより、労働組合の組織強化を図っている。

(ベトナムOVTA協力員)


注1:
法定最低賃金は2000年から6年間凍結後(ベトナム政府の外資企業誘致政策の一環と思われ、外国投資額の一定の目標を達成後)、一気に約45%切り上げ、その後毎年十数%上昇し2010年1月までの10年間で114%、ドル換算でも82%上昇した。
注2:
1900年代の外資企業の進出以降、ベトナム系・台湾系・韓国系企業の違法ストライキ発生は散見されたが、日系企業においては例外的に違法ストライキの発生はほぼ皆無であった。
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