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作成年月日:2019年7月

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タイ国情報 2019年6月

1.タイにおける労働争議の傾向と対策

2.労働と人権確保の在り方(タイの国際企業の事例)

3.タイにおける労働法の基礎を学ぶには

4.泰日工科大学セミナーから「タイ王室と日本の皇室との交流について」など

5.タイの日系企業に関心が高い人事、労務の課題とは(公開講座開催準備)



1.タイにおける労働争議の傾向と対策

6/4にバンコクの法律事務所を訪問した。弁護士と代表者が裁判所からの帰社直後であった。

代表者の説明によると、数年前まではタイの東部、いわゆるEEC地区での労働組合の組織化が進み、多くの工業団地では年末の給与改定と賞与引き上げ交渉で大きな労働問題が生じた事例がある。日本人経営者側は「タイの労働法に不慣れで、労働組合が、地方の労働裁判所や労働事務所に提訴するだけで、給与引き上げ、賞与引き上げの組合側の要求をのんだ事例が多かった」と説明された。それが最近は、タイ中部から北部、特にアユタヤ地区に散見される。

 

同法律事務所は「労働者の基本的な権利は尊重するが、行き過ぎた要求をすることで、企業が疲弊すると労使ともに共倒れになる事例もある」として、経営者、従業員側に説明をして労使で協調路線を推進する手助けをしてきた。

 

タイ政府もタイランド4.0時代を迎え労働者にたえざる学習をすることを進めているように、タイの社会はますますデジタル化社会になり、銀行の窓口業務や工場の現場で繰り返しできる作業はロボットに引き換えられる恐れもある。そこで「労使が協力して技能や知識を引き上げることが必要だと主張をしている」と説明された。「労働者側のリスクは政府がカバーされる場合もあるが、経営者のリスクは自分たちで守らなければならない」と力説された。

 

(写真は、M Fair展示会。省力化を進める道具として移動式のレールが紹介されていた。)

 

2.労働と人権確保の在り方(タイの国際企業の事例)

6/5にChulalonkorn大学Sasin大学院、明治大学主催で「労働と人権の確保についてのセミナー」があった。難しい課題ではある。日系企業、まして海外で働く場合の人権侵害の事例があるのか、という素朴な疑問から参加したが、タイは水産業を代表として「奴隷労働」が長く続き、欧米からも労働環境に注意をする国に指定をされていた。それがレッドマークだと、その業界、またはその業界が輸出する場合、受け入れ国の輸入許可が出ない、という恐れがあった。

 

近年、タイ政府は水産業の違法操業、奴隷労働の実情を調べるとともに、環境改善の努力してきたおかげで黄色のマークを昨年から、逃れることができた。なかでもタイの水産業でも世界市場のNO.1を占めるタイ・ユニオン社の事例が聞く機会があったので参加した。

 

まず、どのような手順で労働と人勧侵害を防止するのか? 同社の事例の一部を紹介すると、次の通り。

1) 企業の方針、コミットメント、戦術、目標を定める

2) 企業とValue Chain 内で人権に対する影響、リスクを精査

3) 人権侵害が起こりうる場合、リスクの防止、軽減措置の在り方研究

4) 人権侵害の実ケースの特定

5) もし人権侵害があった場合、適切な措置と是正措置が取られるか

6) 人権のデウーデリジェンスの取り組みと進捗状況の把握。外部への開示、という段階を経ることになる。

 

講演後のパネル・デイスカッションで出された質問と回答

質問

「国際企業でもあるThai Unionの先進的な経営の一端を伺えたのは、大変参考になった。その戦略の一つに、狩りとる漁業から、育成する、養殖した魚を販売するという漁業の在り方を変えようとする動きがあることを知りました。一方、一部の消費者は、海や陸でとれたたんぱく質ではなく、工場で作られたたんぱく質を好む動きがあります。このような、動きを御社ではどのように考えているのでしょうか? このようになると、御社のサプライチェーンで働く、多くの労働者の働く場所が無くなるとは思いませんか?」

 

回答

「興味深い、質問ありがとうございます。わが社でも、工場で作られるたんぱく質に関しては関心をもって見ています。現状では、消費者の多くは肉や魚は自然に収穫されたものを好むとみています。いずれ工場生産のたんぱくは出ていると思いますが、まだ時期は早いとみています。従い、現状では漁業の重要性は無くなってはいません」

 

(参考)1948年国連で宣言された「世界人権宣言」

「何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。」(第4条)


 

(写真は、6/5チュラロンコン大学で行われたセミナーの模様)

3.タイにおける労働法の基礎を学ぶには

6/7にタイー日系合弁の法律事務所主催で標記のセミナーがあった。

採用から解雇までの一連の過程で起こりうる、労働問題である。 大手日系企業では、人事など特定分野の日本人専門家を派遣していたが、最近では現地人が育ってきたこともあり、日本人マネジメントは労働問題に直接タッチせず、タイ人スタッフが日常的な課題を解決し、大きな課題の場合、日本人幹部が、指示をすること傾向になってきた。

その場合、日本や世界的な基準で判断できる分野と、タイ独自の判断が求められる場合がある。特に、日本の労働基準法と言われるタイの労働者保護法は、文字通りタイ人労働者を保護する意図が強く、世界的にみても妥当なのかどうか、判断に迷う場合がある。今回のセミナーでは事例を紹介しながら、どのような判断が必要なのか、学ぶ機会があって参考になった。

なお、タイで労働法を学ぼうとすれば、基本はタイ語である。次に、英訳された労働法関係の資料がある。最後は、日本語の資料を探すと、最新の労働法の解説もあるが、英訳されたものの和訳であったりして、実際のタイ語から翻訳されたものかどうか、確認をする必要がある。

それだけに、法律事務所が主催するセミナーでは、最新の資料が入手できることから、有効に活用させてもらっているのである。


  

(写真は6/7当日の様子)

 

4.泰日工科大学のセミナーから「タイ王室と日本の皇室との交流について」など

6/17に泰日工科大学主催で日系企業セミナーがあった。

内容は、1)タイと日本の王室・皇室の交流、2)TNI卒業生の日系企業での活躍事例、3)技術系学生の日本語習得の苦労と指導、の3テーマであった。

第1のテーマが、聴講した理由でもある。

 

第1テーマの内容は、明治、大正、昭和、平成時代を通じて両国の王室、皇室がどのような行き来があったのか。元日本留学生の会長自らが、両国の交流の一助を通訳として担われた経験も踏まえてお話をされた。特に、前のプミポン国王(ラマ9世)と、今の上皇との交流のエピソードが大かった。 例えば、タイ王室から第2次大戦後の経済発展期に「タイではたんぱく質を取る機会が少なく、養殖にふさわしい魚種として何かないか」と皇太子時代の上皇に尋ねたところ、後日、ピラニアの一種を紹介された。最初は、王宮のあるチットラダ宮殿で育成されて、孵化した稚魚を数か所の農業試験場経由で全国に普及された。魚種の名前は、上皇の名前も取って、「プラーニン」と言われている。今では、全国どこでも収穫できる魚種である。

 

第2テーマでは、自らが勤務する企業の体験を踏まえて日系企業の良い点、難しい点を簡潔に紹介されていた。

 

まず、良い点は次の通り。

1)安定性、タイ企業、外資企業と比べて日系企業は解雇する事例が少ない。

2)仕事の仕組み化、仕組み化するため、担当者が不在でも仕事が進められる。

3)ルール厳守、ルールを大事にして、厳しく守るので、社内に公序良俗がある。

 

日系企業の難しい点。

1)余計な時間厳守、現在、多くの会社が勤務時間をflexibleにするなかで当該の仕組みを導入する日系企業は多くはない。

2)あいまいさ、高いコンテクストのため、暗黙知のルールや、あいまいな表現を使いがちである。

3)本社による統制、現地適応の度合いが高いとは言えない。それによって意思決定の遅れが生じがちである。

4)国政差別、日本人同士だけの非公式の集まり、日本人だけの福利厚生がある企業もある、など、タイ人社員からみた日系企業の性格を適格に把握されていた。

 

第3のテーマである、技術系の学生の日本語習得の苦労と指導については、現場ならではの実情を紹介されていた。タイ人から見た日本歩習得の困難点として、1)語彙、2)文法、3)漢字、4)発音、が挙げられていた。(主な内容は省略)

 

講演後の、質疑応答を紹介したい。

 

質問1

日本とタイの皇室、王室の交流の流れを伺えて興味深い。ちょうど、日本では平成から令和に代わり、新しく天皇の世代交代があったように、タイでもラマ10世の戴冠式など、双方の国での新しいスタートがくしくも、同時期に行われることになった。さて、日本の皇室は憲法をはじめ、皇室典範などルールに沿って行動をされている。一方、タイの王室もそうなのか? タイで報道されている憲法と王室との関係は1932年の民主革命後に、絶対王政から民主化されて王政に代わったと理解をしているが、たびたびの憲法改正で、その位置づけは変わったのでしょうか?

回答1

今回は外交関係について説明したので、政治についての講演ではないことを理解ください。今の質問は微妙な質問で、正確に答えるには短時間では難しい。別途、個別に回答をできればと思います。

 

質問2

日系企業で活躍する事例は、我々が気が付かない点を適格に指摘されていた。そこで、最近の日系企業では「現地化」をさらに進める意味から、現地の代表をタイ人に任せる建設関係、自動車メーカーおよび販売会社など増えてきた。そこで、日系企業の難しい点の、本社による統制から現地化を推進するために、必要な条件とは何か、伺いたい。

回答2

まだまだ勉強中で今の質問に答えるのは難しい。多くの日系企業では現地タイ人に任せる分野が増えているのは事実です。そのため、タイ人もさらに勉強をして幹部に任せてもらうように努力することが大事でしょう。

 

(写真は、6/17の泰日工科大学でのセミナーの様子)


5.タイの日系企業に関心が高い人事、労務の課題とは(公開講座開催準備)

6月のはじめから、バンコク日本人商工会議所の工業団地連絡協議会、従来OVTAと共催して公開講座を開催してきた工業団地、日系企業会に今年の公開講座の共催を呼び掛けた。

 

いくつかの工業団地、日系企業会から照会があったが、多くはその工業団地内の単独のセミナー、講座の開催が希望されて、一般公開には消極的であった。

 

また、テーマとして、いくつかのヒントがあった。

 

1) 今年から施行になる「個人情報保護法」によって企業の従業員管理、顧客管理などはどのようになるのか?

2) 2019年3月の総選挙によって内閣組閣が7月中旬に遅れている。今の選挙法では大政党ができず、複数の政党が連立してできる。そのため各党のマニュフェストを見ると、最低賃金が大幅に引き上げるという政党もある。今後の最低賃金の動きなど、関心が高い。

3) タイでも高齢化が進み、定年の年齢が従来の55歳から、60歳に延長をしなければならないのか?、

 

などの質問があった。

 

一方で、講師となる候補については、従来の法律事務所からの協力には前向きな声もあり、新しい課題についても推薦できる候補が見つかっている。

 

最後に、従来共催したある地区の日系企業会から、紹介があってある工業団地と現在、公開講座に関して協議を開始している。上記の課題を踏まえて、近く、案内ができる段階となる見込みである。

 

以 上


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