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タイ

作成年月日:2016年11月

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タイ国情報 2016年10月

2016年10月13日にタイのプミポン国王が崩御されました。享年88歳。在位70年とのタイの歴史上、最長の治世期間でした。謹んで哀悼の意を表します。

そこで、今回は、国王崩御のタイ政府の報道内容と国民の対応、日系企業の対応など報告します。

また、国王が70年の治世期間の中で、折に触れて述べられた哲学と実践指導された事業内容の一部を紹介します。

一方、タイの労働者の最低賃金が2013年以来4年ぶりに2017年1月から引き上げられます。今後のタイ企業が取り組む課題は何か、特に工場の自動化、ロボットの導入について日系企業の取材を中心に紹介します。

また、産業の国際化、高度化、人口の高齢化に向かう中でのタイ日系企業の労働事情、雇用関係を考えたいと思います。

1. タイ国王崩御のタイ政府の報道内容とタイ国民の対応

2. 国王崩御、直後の日系企業の対応

3. 70年間のプミポン国王治世下の哲学と実践内容

4. 最低賃金、2017年1月から引き上げ

5. 産業の国際化、高度化、人口の高齢化に向かうタイの日系企業の課題と展望

(写真:10/22の王宮前で弔意を示すタイ国民。2週間で延べ300万人ともいわれる)



1.タイ国王崩御のタイ政府の報道内容とタイ国民の対応

在タイ日本大使館の報道によると、タイ政府は国王の崩御を以下のように報道しました。

「10月13日(木)18時50分、タイ王室庁は、テレビを通じてプミポン国王陛下の崩御を発表しました。王室庁発表の概要を以下のとおりお知らせします。衷心から哀悼の意を表します。

プミポン国王陛下は、仏暦2557年(西暦2014年)10月3日より王室庁がこれまで発表してきたように、シリラート病院でご健康回復のため治療を受けてきた。医師団は、最大限の努力で治療を続けてきたが、ご体調は回復せず、仏暦2559年(西暦2016年)10月13日(木)15時52分、シリラート病院にて安らかに崩御された。享年89歳、王位在位期間70年であった。

また、続いて、10月13日19時、王室庁によるプミポン国王陛下崩御の発表の後、テレビの一斉放送により、首相府から発表がありました。

概要を以下のとおりお知らせします。

(1)全ての公的な場所、国営企業、政府関係機関及び教育機関は、10月14日(金)より30日間半旗を掲揚する。

(2)全ての公務員及び国営企業従業員、政府機関職員は、10月14日(金)より1年間喪に服す。

(3)一般国民は、適切な行動を考えて行動すること。」

 

プラユット首相は、一般国民の服喪期間は任意としたが歌舞歓楽は30日間自粛とした。その一方で、市場、金融、経済活動の継続するとともに不測の事態を招かないよう協力して治安を守るよう国民に求めた。

 

10月15日(土)の新聞、TV報道と実際に10月30日(日)まで都内を歩いた報告をします。

1.町を歩く人々の服装は、黒か白(喪章付)または灰色や濃い目の青色などが多い。

2.首都バンコクに在住するからかもしれないがタイ人には国王を敬愛する気持ちが深かったようでどの場所にいても悲しむ人が多い。

3.大手企業(銀行や大型店舗)の前のスペースは、国王崩御を悼む、気持ちを表すデイスプレイでいっぱいである。ご健康な時代の国王誕生日、王妃誕生日には慶祝したデイスプレイが多かったが、それ以上に全ても公共の建物、大手企業など弔意を表している。

4.服喪期間の最初、1ケ月は、遊興は避けるようにとの指示が出て、TVでは娯楽番組が無くなり、国王の業績を示す映像が紹介されています。観光イベントも延期になっています。ゴルフコンペも中止された企業もありました。ただし、11月10-14日のロイカトン(灯篭流し)など、宗教関連の行事は遊興的な側面を除いて実施されています。

5.10月14日以降の新聞では、大手企業はこぞって1面、半ページで哀悼の意を示す広告を掲載しています。

(写真は、K銀行前のモニュメント)

2.国王崩御、直後の日系企業の対応

JCC、JETRO および日本大使館は国王崩御の直後10/14と10/17、10/25に日系企業の活動にどのような影響があったのか、30社の聞き取りをしています。同時に、大使館もタイ政府の各機関の動きを取材して10/19現在の報告を在タイ日本人向けに報告がありました。

10月14日(金)は、政府機関が臨時に休日と宣言したため税関など一部、窓口が閉鎖されたため、日系企業の通関業務など支障があったものの、いたって平静に国王崩御の影響と受け止めた企業が多かった。

 

週明けの10月17日(月)現在の3機関共同調査、ヒアリング対象30社では次の通り。

1.本日(10月17日)の従業員の勤務状況はいかがですか?

@通常勤務 : 30社

A一部、あるいは全社員が休み・自宅待機: 0社

2.取引先(納入元)について影響は出ていますか?

@出ている : 0社

A出ていない : 28社

B不明・その他 : 2社(無回答はこちらに分類)

3.その他

<出張者、従業員関連>

・日本人駐在員は、ダークスーツ、白シャツ着用を指示。ネクタイ着用が必要な際には黒色着用を指示。対応できない場合でも、少なくともシンプルな服装で黒リボン着用を指示。

・日本人駐在員には、勤務中の服装(喪服の着用)や接待関係等、業務に関係する部分で社内通達を出したが、ローカルスタッフに対しては、明示的な指示や通達は出していない。

・全従業員に、弔意を示す(暗い色の)衣服の着用を指示。日本人駐在員は黒スーツ、白シャツ、黒ネクタイ着用を指示。

・すでにタイ国内にいる出張者は、先の方針通り、In-Outの連絡を徹底。速やかな出国を勧告する方針。出張予定者に対しては、不要不急の出張は避け、避けられない場合は、現地法人への事前登録を徹底し、ダークスーツ、黒ネクタイ持参を指示。

・タイで活動する日本企業としてタイの国民感情に配慮した適切な行動の徹底を指示。

・タイへの出張者に対しては、不要不急のものは避ける方針にて対応。

・自社主催の当面のゴルフコンペは中止。業務に伴う会食は容認だが、二次会以降は自粛。

・服喪期間は、当面は30日間としたが、その後さらなる期間延長等の対応については、30日間経過後に追加措置の要否等を検討していく

10月25日(火)の共同調査では、次の通り。

1.売上の変化について

(1)国王崩御前に比べて崩御後の売上に変化はありましたか?

@ない : 22社

A減少した : 6社

B不明・その他 : 2社(無回答はこちらに分類)

<Aに関するコメント>

・販売店へのヒアリングの結果、約7割の販売店から、来場者数・受注が減少しているとの報告があった

・高級店における販売にさほど影響はでていないものの、スーパーストアの家電売り場での販売は激減しており、特に中所得者層以下の国民の消費マインドは一時的に急激に冷え込んでいる模様

・コンシューマー部門の家電、工機の小売においてディーラーへの卸が10-15%ダウン、ディーラーから消費者への販売は20%ダウン ・周年イベント等の各種イベント運営業務がキャンセル/延期となっており、それに伴う売上減が発生

・30日間の服喪期間の影響により、インバウンド、アウトバウンドの団体客にキャンセルが発生しており、それに伴う売上減が発生

・小売部門は前年同月比で落ちているものの、崩御によるものなのかどうなのかはさらなる分析が必要

(2)今後の見通しについて教えてください

(影響なし)

・海外の顧客が多いため、今回の件は特に影響なし

・今後も状況を注視はしていくが売上に大きな影響が出るような変化は想定していない。

 

(タイ政府のその後の動き)

1.財務省 経済刺激策を導入へ 財務省は、プミンポン国王陛下の崩御を受け、今年第4四半期に経済刺激策を講じる計画を明らかにした。同計画は、国民感情に配慮して実施される。今期はとりわけ、国民が喪に服すためタイ国内の経済活動がやや低迷する見込み。同省によると、これまでの経済成長率を維持するため新たな政策を展開することが不可欠だ。また同省は、来年に向けて民間企業投資を促進させる意向。同省の予測では、今年のGDP成長率は、3.3%。

同幹部によると、喪中は商業セクターの活動が緩和する。特に、展示センター、ホテル、娯楽施設などでの記念式などの式典を開催することが不適切だとされたため。年内にBITECでの展示会やバンコク国際モーター・ショーなどが中止となる可能性があるため、同省は影響が長期化すればこれらの救済措置を検討する。(参考11.2クルンテープジャーナル)

2.11/14服喪期間明けから 政府は国民に1か月の服喪期間があけば従来通りのTVの娯楽番組の放映、娯楽の自粛は解除されると、説明をした。しかし、いったんブレーキがかかった経済の復興にはしばらく時間がかかる見込みである。

 

(写真は、10/29バンコク都内BTS サイアム駅前の大型商業施設前)

 

3.70年間のプミポン国王治世下の哲学と実践内容(一部)

(写真は、Thaiembassy.Orgから)

 

2016年10月13日の国王崩御の翌日から1週間、英字紙のバンコクポスト紙は国王の治世70年間の実績の一部を写真と記事で紹介してきた。国王の実績に関しては多くの著書があるので、タイを知っている方には周知のことであるが、毎年国王の誕生日(正式には、その前日の祝賀の会の場で)に国民に対するメッセージを述べてこられた(TVでも放映)。

1974年の12月4日(国王誕生日の前の日)に国民が成功するため中庸と平和、労働を助ける道の重要さを述べられている。後世、足るを知る経済、と言われる哲学である。

陛下は、「極端な富を持つべきではない、といわれる。富は中庸であれば、素晴らしい」1997年の経済危機で、陛下が常に言われてきた「足るを知る」ことの意味が理解された。

陛下が作られたChaipatana財団のWebsiteで簡単に説明がされている。(図は、上記) 足るを知る経済の哲学は3つの柱からなる。

1. 中庸:「足るを知る」とは少なすぎることもなく、個人や他人の支払いが多すぎることでもない。例えば、生産するにしても消費するにしても中庸が重要である。

2. 合理性:足るを知る決断は理性的にまた事実を注意深く観察して、支出が予想される範囲での支出に留めるべきである。

3. 危機管理:将来の不確定要素を考慮して様々な変化、影響と取り組む準備をすべきである。特に、決定には2つの条件を考えなければならない。1つは、知恵。物を作り、計画する段階からそれに関する知恵を備えなければならない。2つは、徳を積むことである。正直で、我慢強く、粘り強く、人々を指導する知恵があること。

 

足るを知る経済を農業分野では、「新しい理論」として紹介されています。国王は、農家が大儲けをしようとして大規模な投資をした結果、価格変動や市場変動により大きなリスクを抱え、ひいては高利貸の高い借金に陥ることから逃れ、足るを知る農家になることを諭されたのです。

 

「新しい理論」とは、30:30:30:10の構成です。

農家は、所有する土地の30%を池、または遊水池として確保することです。これは、干ばつがあっても穀物に水をやることができ、洪水の時には、水を留めることができます。池では魚を飼って、食用にもなります。 次の30%は水田にして、家族が食物に困らないように使います。食べ物を買うためのお金を使わないようにするためです。次の30%は果樹、野菜、ハーブなどを栽培して毎日の生活に使うべきです。最後の10%は、家畜を飼ったり、道路や何か、構築物に使うのです。

しかし、これにはある程度の土地がいります。平均的な家庭が消費する米には最低5ライの土地がいるでしょう(1ライは1,600u)平均的な農家としては15ライはいります。米作りは雨期の季節だけしかできませんので、乾季は他の作物を作るべきでしょう。 この構成では、小さい規模の農家は、自分の作物を販売しなければ生きてゆけませんので、市場経済に組み込まれることは、避けられません。(以上)

 

2006年から数年の農家の現状を紹介すると、ゴムの価格が上がった際には、ゴムの木を多数栽培し、数年を経ると、ゴムの国際市況が低迷してゴムの樹液から生ゴムの乾燥したラテックスの価格は低迷して、農民が政府に買い上げ価格の引き上げを要求しました。また、バイオデイーゼルがもてはやされた際も、サトウキビやキャッサバ芋の栽培に農家は集中しましたが、国際的に石油価格が低迷すると、燃料に添加するアルコール価格も下がり、ひいては、農作物の価格も低迷しているのです。

これを考えると、儲かるからと言って、集中して特定の作物に畑の大半を栽培すると、収穫期の市況によっては低迷した際にはかかった経費すら回収できない場合があります。

このような農家の子弟が、農業から他の産業分野に多く出ることになります。

 

国王は、農民に上の事例を諭されましたが、産業界でも参考になります。特定の製品だけを扱い、特定の顧客だけを対象にする場合、よい場合もあるが、逆にそれだけに頼ると、悪い場合は共倒れになる恐れもあります。

この点は、タイだけではなく日本でも同じようにリスク対策を考えるヒントになります。

4.最低賃金、2017年1月から引き上げ

タイ国家賃金委員会(委員長 プントリック労働事務次官)は10月19日、バンコクなど全国69県で最低賃金を1日300バーツ(約900円)から5〜10バーツ引き上げると発表しました。最低賃金の改正は、閣議承認を経て、2017年1月1日付で発効する。最低賃金の変更は全国一律300バーツを導入した2013年1月以来となります。

最低賃金を49県で5バーツ、13県で8バーツ、7県で10バーツそれぞれ引き上げ。8県を除く。プントリック委員長は、生活コストや消費者物価指数(CPI)の上昇などを総合的に考慮したと説明されています。

最低賃金が1日310バーツとなるのは、バンコク首都圏の6都県と南部プーケット県(ナコンパトム、サムットサコン、ノンタブリ、パトゥムタニ、サムットプラカン、プーケットの各県。

308バーツとなるのは、コンケン、ナコンラチャシマ、プラチンブリ、チョンブリ、ラヨン、スラタニ、ソンクラー、チェンマイ、サラブリ、チャチュンサオ、クラビ、パンガー、アユタヤ。

据え置くのはシンブリ、チュンポン、ナコンシータマラート、トラン、ラノン、ナラティワート、パッタニ、ヤラーの8県。

 

(写真は、プントリック労働事務次官)

5.産業の高度化とタイ企業の労務、人事管理の課題

現在、タイ政府はタイが中進国の罠から逃れるためにはIndustrial4.0などの高度技術産業の誘致、高付加価値産業への切り替えを推進しています。また、タイ国最大の工業地帯、イースタンシーボードをEastern Economic Corridor(EEC)と名付けて国内外の投資を呼び込みこの地域の産業の核とする計画があります。東部臨海地区(イースタンシーボード)はタイ最大の産業地域となります。この地域への道路、鉄道、港湾、空港などインフラ投資により雇用を拡大し、経済価値を高め、継続的に海外からの投資を引き込み、結果として経済成長とGDPの増大に貢献するという構想です。

同時に、タイ政府投資委員会(BOI)はスーパークラスターと他の目的別のクラスターという2つのタイプのクラスター政策を用意しました。スーパークラスターは先進の技術を使い将来の産業を目指すという内容です。

上の記事にあるようにタイの最低賃金の引き上げは避けられません。また、先月の報告にあるように人口の高齢化は日本以上に速度が速い状況です。

そこで、タイにある日系企業として何が課題でしょうか?

第1は、機械化をより進めた状態で、例えばロボットの導入です。

第2は、タイ政府が進める産業の高度化Industrial4.0がどこまで進むのか、でしょう。

第3は、日本と同じく、シニア人材の活用、職場から家庭に入った女性の社会復帰をどこまで支援するかでしょう。

第1について、若干の補足をします。

8/10付けの地元紙によると、日系のロボットメーカーN社は、この程、タイ国内の自動化ロボット需要が、急激な速度で導入されていると報道しています。これは、現在同社が導入したロボット、4,200台が2018年には8,400台に達する見込みです。とりわけ、食品や食品加工セクターの需要が上昇しています。同社によると、今後数年間にわたり、継続的なロボット需要が見込めます。ロボット国際連盟(http://www.ifr.org/home/;IFR)によると、ASEAN圏で積極的にロボットを導入しているのは、タイに続きベトナムです。

IFRは、1987年に結成され、日本、台湾、イタリア、フランス、スウェーデン、ロシア、英国、米国、デンマーク、ドイツ、スペインや中国の12カ国が参加して設立された団体。

IFRの役目は、ロボットの促進、ロボット業界の保護や強化を世界的に目指したもの。同社は、タイは生産工程で高度なロボットの導入が推進されている市場だと述べた。また、ロボットは労働者の省力化に不可欠なもの。ロボットの導入により、労働者不足の回避、コスト削減や労災の発生を防止する役目を担っている。N社によると、数年前からタイはASEAN圏でもいち早くロボットの導入がなされた。しかし、当時のロボット価格は高額であり導入が困難だった。現在では、生産効率の向上や労働者のコスト削減のため、各工場が積極的に導入している。

8/24-8/25にタイ工業省裾野産業振興局(BSID)主催の展示会SITEXでも、産業の高度化Industrial4.0を進めたい、という意向を踏まえてセミナーや産業展示がありました。

9/21から9/23の3日間、物流、運輸業界の最新技術やノウハウを紹介する展示会「タイ国際物流フェア2016でも物流分野の合理化が進んでいる状態を取材しました。

この点は先月の報告に紹介しておりますが日系の2社の内容を抜粋すると、次の通り。

■O社:「ロボットに関しては、ABB(スイス)やクーカ(ドイツ)など競合する企業もあるが、マテハン分野では他社に負けないロボットが提供できる」

■M社:「タイの現状は、物流倉庫のハード面では各社どこも同じように見える。しかし、ソフト面ではわが社が今まで蓄積したノウハウからパッケージ化して提供している。」

10/18(火)に訪問したT社の社長によると、大手自動車メーカーでは、工場内の合理化、物流倉庫の合理化に対するエンジニアリングの相談が多い、との説明を受けました。

全産業のあらゆる分野までロボット化が進むというのではなく、食品業界や大手企業を中心に、タイの産業をリードする企業は積極的に推進をしている、と理解すべきでしょう。

マスコミ、設計分野では、無人飛行機ドローンの活用など、今や技術的には先進国と中進国では情報の格差が無くなっています。従来のように、労働集約型産業はタイではなく、周辺国の活用を考える時代になってきたと認識をすべきでしょう。

(写真は8/24のタイ工業省BSID主催の展示会sitexにて紹介されたロボット)

 

以 上