各国・地域情報

タイ

作成年月日:2016年9月

海外情報プラス

タイ国情報 2016年8月

2016年8月のタイ政府、日系企業の取材を中心にタイ政府の方針、タイ日系企業の賃金事情、雇用関係、欧米系企業の経営方針と人材募集の考え方を紹介します。

1. タイ科学技術大臣(Dr. Pichet Durongkaveroj)の8/3講演から

2. (事例) タイの日系レストランと和風料亭の「おもてなし」人材の育成

3. 日系企業の賃金管理の実情(バンコク日本人商工会議所JCCの調査を踏まえて)

4. (事例) 社員の解雇か、自主退職か(ある中小企業の営業マンの退職事例から)

5. 欧米系自動車部品メーカーの調達方針、調達組織、人材確保



1.タイ科学技術大臣(Dr. Pichet Durongkaveroj)の8/3講演から

タイの軍事政府は、3つの大きな政策を打ち出している。1)汚職の追放とともに、2)格差社会の是正、3)中心国の罠からタイ経済を先進国入りをする、の3つである。

8/3に泰日協会主催、バンコク日本人商工会議所共催で講演会が開催された。講師の科学技術大臣が「科学技政策によるアセアンの投資のハブに向けて」と題して講演されたポイントを紹介する。

1)アセアン+3、アセアン共同体の発足とアジア主要国との関係

アセアンに一大経済圏が形成されてきた。

2)アセアン各国の強みと弱み

シンガポールは高い技術を持つが、市場性(後背地)が少ない。

インドネシアはアセアン最大の人口を有するが、海洋国家で国土が分散している。

マレーシアはアセアン2番目の高いGDPを持つが、優秀な技術者が不足している。

フィリピンは1億を超える人口を持ち、英語が話せる優位性がある。

ただし、基本的なインフラの整備が必要な国家である。

3)タイの優位性

東西回廊、南北回廊など、陸アセアンのインフラは、鉄道、陸路ともタイを通過点としている。その意味で、地理的な優位性は高いことが明白である。

加えて産業集積の度合いは、周辺国と比較すれば歴然としている。

そのような背景を踏まえて、より高い技術生産性の高い産業を誘致、育成することが重要である。

4)タイランド・インダストリアル4.0(ドイツの産業高度化をタイ風にアレンジした)

タイ政府は、今後の産業をリードする主要な産業を育成、誘致することを目指して いる。

昨年(2015年)10月23日にバンコクでタイ政府投資委員会BOI主催の投資セミナーがあった。「クラスター開発インセンティブパッケージ」と題したパネルディスカッションでは、アチャカ工業大臣が、経済成長の牽引していく新成長エンジンとして指定した10業種について説明。短中期では次世代自動車、スマートエレクトロニクス、医療・メディカルツーリズム、農業・バイオテクノロジー、食品―の5業種。長期ではロボット工学、航空・物流、バイオ燃料・バイオケミカル、デジタル、医療ハブ―の5業種を位置付けし、手厚い税制優遇を付与するなど恩典制度を拡充するという。

5)科学技術省の関連では「フードイノポリス」構想

大臣は、科学技術省の関係する構想の一つとして「フードイノポリス」構想を説明された。目的は、政府の研究機関と民間のR&D拠点が複合することで、高付加価値製品を生み出したい、との意向がある。場所は、バンコクの北、パトムタニ県のサイエンスパークの一角で、食品関連の高付加価値製品を開発する拠点を作るという。そのための人材、税制、投資恩典が付与されていることと、世界の大手食品産業が関心を寄せていると説明があった。構想は第1段階であるが、順次、拡張するという。

最後に、高付加価値産業を育成する仕組みも説明されて、政府の研究者を無給で民間に出向させる制度もある。

(写真:科学技術大臣Dr.Pichet)

2.(事例) タイの日系レストランと和風料亭の「おもてなし」人材の育成

最近は食をめぐる環境が大きく変わってきた。外食産業に絞っても、外的要因としての自然災害、公共インフラの障害、社会環境で起こる問題、経済状態、営業中の業務妨害、人材不足など。内的な要因としては、衛生管理、顧客対応、労務管理、店舗管理、経済的な要因も多い。食の安全に関しても相当な問題を抱えている。経営者としては事業の継続をする中で、絶えず、危機管理対応が求められている。  

今回若手経営者の勉強会で料亭T店のオーナーは、タイ、シンガポールでいくつかの業態のレストランを経験する中で、タイで独立。海外での和食ブーム、グローバル化の中で、バンコクで日本と同じ料亭スタイルをとる展開をされてきた。  

2015年JETROの調査では、タイでは日本食レストランが2,126店ある。上位5つのスタイルは @日本料理603店、Aしゃぶ鍋315店、Bラーメン店307店、C居酒屋230店、Dが鉄板焼き177店である。もちろん、飲食業は開店と閉店の動きが早く、3年以上継続する店が生き残りをするとみられる。T店は、業態としては@で、いわゆる京都風のおもてなし、舞子姿でサービスを打ち出したい、という。  

しかし、京都や金沢など日本の料亭文化は一朝一夕でできるものではない。できれば、タイ人の20歳未満の女性を京都の料亭で仕込んでほしい、と何度か申し入れをされてきたが、なかなか日本側の受け入れができない。そのため、ある地方の料亭と協議をして、季節限定で、日本から舞子を呼んだ。しかし、短期間の滞在では、着物の着付け程度はできても、心から日本の文化を学び、みやびやかな衣装で、客先と会話ができ舞子サービスまでは難しい。むしろ、同店で働いた、ということから他の和風のレストランから引き抜きがあって、一定水準のサービスを提供することが難しい、と言われる。  

確かに、日本料理といってもタイ国で舞子のサービスをうけるまでの「おもてなし」ができる体制を確立するのは難しい。料理、お酒、和服などの形は整うが、日本の伝統と文化を踏まえて和風のサービスマインドまでタイ人に植え付けるには課題が多い。

 

(写真は、バンコクのT和風料亭での勉強会)

 

3.日系企業の賃金管理の実情(バンコク日本人商工会議所JCCの調査を踏まえて)

JCCでは、毎年4月に会員企業を対象に賃金労務実態調査を実施している。8/9に開催された報告会では、2016年度調査結果をまとめた概要を報告された。

以下、要点のみ紹介する。

1. 初任給 製造業、高卒ワーカー 2013年から2016年まで基本給は9,000バーツで、月給としては諸手当を含む10,200バーツが多い。

2. 初任給 非製造業、大卒営業の場合、2013年の基本給は10,664バーツ、月給は12,000バーツが、2016年には基本給が12,000バーツ、月給としては14,000バーツが多い。

3. 役職者、実在賃金では、製造業の事業部長【含む役員】で基本給70,000バーツ、月給85,000バーツ【49歳】。部長クラスも同水準(46歳)課長クラスは基本給45,000バーツ、月給は51,500バーツ【41歳】

4. 役職者、実在社賃金では、非製造業は事業部長【含む役員】で基本給95,000バーツ、月給は100,000バーツ【48歳】、部長は基本給66,400バーツ、月給は79,000バーツ【45歳】課長は基本給53,500バーツ、月給は60,800バーツ【40歳】の事例が紹介されている。

5. 業種別の賃上げ率は、製造業、非製造業とも中央値は4.5-5%であった。

6. 労働分配率でみると、日本の69%台に対して、タイでは31-32%である。

7. 業種別の賞与は,業種によるばらつきが大きく製造業では輸送用機械の5.2か月を筆頭に電気電子で2.6か月。非製造業では金融の3か月を筆頭に航空運輸が2.1か月であった。

8. タイの労働組合の組織率は2-3%でフィンランドの69%、日本の17.8%からすると低い。

9. 社内不正に対しては、「ある」と回答した製造業は25%、非製造業は6.6%であった。内訳は、製造業で、ドラッグの使用、備品・商品の窃盗、非製造業では金銭の横領、備品商品の窃盗がある。もちろん、製造業(69.4%)、非製造業(42.3%)が社内不正防止に取り組んでいる。

10. 延長、雇用継続に関しては、製造業の52.2%、非製造業の76.9%が何らかの継続雇用制度を持っている。 なお、報告書そのものは9/7に発行され、2015年度から2016年度の在タイ日系企業の賃金・賞与の動向等が把握でき、給与改定の際にも参考になる。

詳しくは,JCCのWbsiteで案内されている。http://www.jcc.or.th/

(写真は、9/7に発行された賃金報告書の表紙)

4.社員の解雇か、自主退職か(ある中小企業の営業マンの退職事例から)

1)事例 トラックの付帯装置設置業J社の営業マンの退職に関する相談事例から、労務管理の実情を紹介する。経営者として、何をすべきか考えてほしい。

(事例)既存営業スタッフ退職の際の退職金(解雇手当)に相当する金銭の支払いの必要性についてアドバイス頂きたい。

(当該者)35歳 男性既婚 鋼材の営業でしたが採用に応募してきたため採用。 勤務開始 20xx年11月 給与は前職給与を参考に30,000B+自家用車使用のため6B/Km(月12,000-20,000バーツ程度)

(いきさつ)

20xx年11月2日付で営業として採用、試用期間4か月間終了の3月に給与体系を固定給から歩合給に変更した上で正式採用の契約をするつもりでしたが詳細が決め切らず今(20xx年8月)に至ります。営業スタッフは他に3名おりますが同様に試用期間後に正式に雇用契約書を発行していません。2016年6月に業界での営業経験者を採用したことにより営業人員体制の見直しを行い、既存1名を削減し工場内勤へ部署異動という方向になりました。(工場勤務は賃金が下がる)

8月6日に本人に異動を伝えたところ、突然の話ですぐに返事は出来ないため考えさせて欲しいと要望があったため後日に本人の意思が固まった時点で改めて話を聞くとしてその場は終わりました。

部署異動の理由として以下の内容で伝え、異動の期日は給与〆21日以降とした。

1.営業成績不振(他3名の営業と比較して販売数の違いではなく商談件数の違い)

2.勤務態度 ミーティングの際でも雑談やミーティングに集中せず他のことをやっているケー スが多々ある。2点については都度注意や改善のためミーティングを行っていました。 8月20日に最終の意思確認のため話し合いの場を設けようとしましたが顧客訪問の予定があるとのことでしたので〆日以降の翌週23日に話を聞いた結果が以下の通りです。

8月6日に異動の打診は受けたが正式に書面で辞令もないのは無効ではないか。

自分は工場勤務はしたくないし、このような扱いを受けてこれ以上営業としても当社で働くつもりはないので退職したい。そのため向こうXヶ月分の給与を補償してほしい。また、正式に工場勤務の異動を辞令として書類を発行してほしいというものです。

当社としては特に実績もなく売り上げに寄与された訳ではないため退職金等の支払いをしたくないのが本音です。そうなれば労働訴訟にもなりかねないためどのような処理が最適なのかアドバイスをお願いできませんか。ご検討お願い致します。

 

1) 相談内容(質問は助言する側から、会社側の回答/助言)

質問@ 従業員に上記の注意をされた時、文書での注意か? 口頭だけの注意か?

会社側 口頭の注意のみ(タイの労働法、解雇に繋げるには注意文書3回は必要)

質問A 他の営業マンとの比較結果は本人も納得した結果であるのか?

会社側 商談件数のみ比較している。新規開拓件数、成約率など他のポイントで、  本人の評価を見直すポイントは持ち合わせていない。(偏った評価をしているのではないか、との労働者が訴えた場合に、反論できるのか。公正な評価をしていると説明が必要)

質問B 勤務態度についても意見をされているが、就業規則で解雇理由の中に、勤務態度が悪い場合、解雇となりうると記載されているのか。

会社側 明確な解雇理由は例示されていない。(日系企業では多いのが、解雇理由の明快な説明が無いことが多い。具体的に明示すべきである)

質問C 営業職として採用したとあるが、雇用契約には、社内事情で職種の変更もある、と記載して、本人が了承しているのか?

会社側 営業職として採用としている。職種の変更には事前の了解を得ていない。

(職種変更の説明が採用時に了解されていると、職種の変更は可能であるが、後日の変更で、しかも賃金が下がる前提では、本人の納得を得るのは難しい)

2) まとめ 労働裁判では、最終的に労使の和解を裁判所から勧告されることが多い。そのため、裁判に持ち込まれない方法をお勧めした。金銭による解決である。企業によれば、最高裁まで持ち込んでも決着をつけるという企業もあるが、今回の案件は金銭的にも少額で、本人も退職したい、という意向も聞こえたので上記の助言をした。

今回は、本人が労働事務所や労働裁判所に訴える前に、会社側が本人と面談し、解雇手当相当分の和解金を支払うことで、自主退職という形になった。 労働問題は、採用時から始まるので、注意深く人物を見極めて採用し、採用の書面にも、就業規則にも予断を許さない、明確な解雇理由を説明しておくこと。営業職の評価は特に恣意的な判断が少ないポイントを入れておくことが肝要である。

今回は、幸いにも、労働事例にもならなかったが、今後の労務管理、人事管理の参考になった事例である。

 

(写真は、J社外観)

5.欧米系自動車部品メーカーの調達方針、調達組織、人材確保

今月は、欧米系の自動車部品メーカーに取材する機会があり、それぞれの調達方針、調達組織、人材確保に関して日系企業との違いを感じたので紹介する。

1. B社はドイツ系の自動車部品および工具メーカーである。

今回取材したのは、自動車部品部門の調達課長で、窓口はタイ人であった。 調達方針は基本的にはドイツの本社が決めるが、調達先の選定は現場が主役になる。ISO9001、TS16496など、会社の管理組織は第3者の監査が受けてあれば入り口では問題が無い。しかし、商品の品質や価格面では複数の企業から選別され、最終2社まで絞り込んで、再度、上司を交えて選定する。 購入する工場はアジア全域に散らばっていても良い。最終の工場への持ち込み価格で総合的に判断がなされている。 組織上は、本人の上司は中国に滞在して、毎週のTV会議とメイルで仕事の進捗状況を報告。また、3か月に1度は、中国での会議に出かけて、方針と実績の確認がなされている。その意味で、事務所はあくまでも現住所であり、組織上はアジアが1つの会社と言える。たまたま、サプライヤーの近くにいるところに中心的な人材を配置しており、同社ではアジアでは中国からの調達が多い、ことから責任者が中国に滞在。東南アジアはタイに事務所があるが、商品によれば、インドもカバーをしている。 面談した本人は、自動車部品業界に来る前は、日系の電機品業界で商品調達をしていたことから英語での意思疎通ができることからB社に転職をした。

2. C社もドイツ系の自動車部品メーカーである。

タイヤ、ブレーキ、インテリア、パワートレインなどの部品を欧米系の自動車メーカーに供給をしている。 日本にも支社があって、タイの責任者は日本でも仕事をしたことがある。

今回取材したのは、調達担当の副社長出会った【ドイツ人】

調達方針は、広く世界からサプライヤーの候補を探して、まずは基本的な会社の組織が自動車部品メーカーにふさわしいか、ISOの認定が前提となる。 同社は、世界からの調達部門が一体ではなく、地域のサプライヤーから、工場まで個別に調達するスタイルである。 副社長からは、タイにおける日系企業への売り込みが難しいことから、タイで調達した部品が、中国やインドに供給できないか、との観点で質問があった。 B社 と似ているのは、スタッフが国籍を問わない、という点である。タイにある関連会社の責任者は日本人。タイのスタッフはタイ人が多いのは当然としても数か国の国籍の社員が在籍する。そのため、社内用語は英語で、もちろん中国とのやり取りも英語が基本とのことであった。 そのため、幹部社員の募集は実務経験とともに世界のどこでも勤務する、という条件。ローカルスタッフも、男女を問わず海外出張は当たり前である。

3. 日系企業との相違

2社はたまたまドイツ系の大手メーカーということから、サプライヤーも世界各国から調達をする。入り口は公平に扱おうという姿勢がある。また、1社に絞り込まないで、最終段階まで2社を競争させる。その意味では、日本の調達組織では、従来の取引先を変更するには壁が多い。現在、日系企業のローカル化が高めるためには、欧米系、地場系にこだわらずオープンな姿勢が必要である。言いかえると、これからの海外に働く日本企業は日本人、タイ人だけではなく優秀な人材であればどこからでも採用する。また、世界のどこにも勤務させる、仕組みが必要な時期になって来た。

JCCの調査にあった給与水準では世界にまたがる人材があつまるかどうか、である。

 

(写真は、C社の副社長)

 

(以上)