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タイ

作成年月日:2016年8月

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タイ国情報 2016年7月

2016年7月に出会った日系企業の取材を中心に、タイの労働関係、労使関係およびTPP加盟問題を紹介します。

1. ASEAN統合と農業関連業界の経営戦略、人材戦略

2. トラック架装業界、地場企業に学ぶ

3. コールドチェーン業界の現状と課題、必要な人材育成

4. 中国での労務管理、タイでの労務管理

5. (参考)TPPの在タイ日系企業への影響可能性

1.ASEAN統合と農業関連業界の経営戦略、人材戦略

タイ政府は、タイ経済、タイの社会を支える農業、林業、水産業の生産性向上に力を入れている。先月6/22にバンコクで開催された日-アセアン官民対話として日本からアセアンに技術移転を進めるフォーラムがあった。当日発表された農業関連の業界関係者を7月になって取材して、アセアン統合で関連業界の経営や人材面での考え方の違いを紹介する。

K社:アセアンには業界に先駆けて進出し、タイでは最大手のSグループとの合弁事業を展開。人事労務に関しては、タイのSグループの考え方、やり方に準じているため、人材面でも優秀な人材が集まっている。AEC2015に先駆け、インドネシアには現地法人を設立すみ。ラオス、カンボジア、ミャンマーにも販売会社を設けている。基本的には、タイをハブとして展開。会議では日本語とタイ語は基本で、通訳を活用している。

I社:アセアンではインドネシアに製造会社を設立しているが、部品調達の40%はタイからの輸出である。そのため、いずれタイにも製造拠点を設けるべく、準備中である。そのため、タイ人の人材募集は今の時点では行っていないが、いずれリクルートが必要になる可能性はある。駐在員事務所の共通言語は英語である。

Y社:アセアンではタイ、インドネシアにすでに進出済。タイが進出の歴史が長いので、製品開発の一部は現地で行う分野もある。社内言語は公式には英語とタイ語で、駐在が長い日本人はタイ語も自習。スタート時点から、人材育成のため、日本本社での研修を重視しているため、長く勤務するタイ人でも日本語が話せる人材がいる。

3社三様の経営方針であるが、技術の核となるものは日本からの移転されたもの。今後のアセアン展開では、タイで応用、適用した様々なアレンジ、部品加工が生かされる。また、そのためにもタイ人の育成、研修に力をいれている。これを応援する形で、タイ政府が各種研修施設を設けているのである。

(写真:K社の商品)

2.トラック架装業界、地場企業に学ぶ

地場系と日系との大きな違いは、品質重視か、価格重視かである。トラックは乗用車と異なり、エンジンと車台のまま販売されて、使用用途によって別途架装業者が、必要な設備を後付けで設置することが多い。各国にトラックの架装するビジネスがあるが、日本の技術がタイに持ち込んで通用するのかどうか、今回は地場企業がノウハウの構築、人材育成をどのように進めているのか、の観点から取材をした。

タイでは、架装事業と言えどもタイでは品質よりもまずは価格重視である。

そのため、地場系と日系企業を訪問した点で、次のような大きな違いを感じた。

1) 地場系S社:オーナーは、社員教育としてノウハウの蓄積とともに、精神教育にも重視している。このため、毎月、尊敬する寺院から僧侶を招いてタイ人社員に説話をしていただいている。 作業現場に行くと、任された作業員がボルト1本でも、倉庫の担当者に出庫伝票を書いて、在庫管理を重視している。また、調達面では、今まではコスト重視できたが、トラックの架装を施した後で利用者から耐久性という点で、苦情を受けることがあった。そこで今年から、日本人アドバイザーを招いて、経営の視点を品質重視に変えてきた。 このため、部品調達も従来の、価格だけ安ければよいという点から、品質、納期も検討したうえで、価格面も含めた総合しての顧客提案に変えた。現状、顧客には品質重視に舵を切ったと公的には説明をしていないが、インフラ工事を重視する政府関係から大きな受注がとれたため、納入の場合も、この点も報告する予定である。

2) 日系J社:現在は、公共工事関連など、タイの公共事業関連のトラック・バスの架装事業には参加できない。その理由は、後発のためか、また、進出の準備調査が足りないためか、苦戦中。営業部隊が顧客開拓に走りまわっても先発業者との競合、価格競争になる恐れから、無理をせず、新しい市場を探している。そのため、広い工場でもトラックが数台待機して架装を待っていた。そもそもターゲットはコールドチェーンとして冷凍トラック、冷蔵トラックの架装を狙ったのは良かったが、タイの市場の姿が見えなかった。そこで、いかに他社との差別化をして、また価格が正当に評価される方法を模索中である。

そのような意味から、海外から進出する企業には、事前に業界の動きなど予め調べ、特に主要なプライヤーの動きには注意が必要だろう。地場企業に学び、そのうえで、進出する企業として必要な経営戦略を立てる。また、現地の人事戦略を考えることが肝要だと感じるのである。 。

 

(写真は、タイの地場のトラック架装会社)

 

3.タイのコールドチェーン業界の現状と課題

7月上旬に開催されたアジア・コールドチェーン展の会場に出展されていた日系企業の責任者との次の意見交換を行った。

1) 熱帯地域に位置するタイの冷凍冷蔵倉庫能力は、業界の推計によると2008年時点で50万d。国際冷凍冷蔵庫協会(IARW)の同年の資料では、米国2,830万d、日本1,108万d、インド743万d、ロシア640万d、中国600万dと続く。2013年時点のタイ国内の営業用冷凍冷蔵倉庫は147カ所、収容能力約75万dで、08年からの5年間で収容能力が5割増えた。しかし、収容能力4,000d以下の小規模な倉庫が多い。

2) タイの低温物流が抱える課題は、保管料や輸送料が一般貨物と比べ低く抑えられている点だ。冷凍冷蔵倉庫業界は依然として小規模な事業者や施設が多いため、施設・商品管理についてソフト面で品質にばらつきがあり、日系企業が提供するサービスの品質の高さが評価されていないことも大きい。

3) そのため、如何に日系企業としての品質を維持するか、大きな課題がある。

4) 対応の一つは、グループとしてコールドチェーン全体に取り組む仕組みを構築中であった。また、日本からの技術移転により、品質が高くても、価格面ではタイと競争できる仕組みを構築する、との説明があった。

5) そこで考えられるのは今から30年前にタイの工業省と、日本の通産省(現在の経済産業省)が冷凍冷蔵技術の移管を狙って、タイ人研修生を日本の関連業界が受けいれた制度が、今ではなくなっていることである。日本とタイの経済連携交渉(JETEPA)でも自動車業界が中心となって技術移転を行っているが、今後のタイの食品業界の高度化などを考えると、コールドチェーン業界も人材育成が必要になる。

6) また、食品以外にも化学、医薬、高付加価値の食品は原料から最終消費者までのサプライチェーンを考えると、冷凍冷蔵技術に関する知恵が必要になる。

7) そのための必要なタイ人のエンジニアをどのように育成するかが、大きな課題となると思われる。

(写真は、7月上旬に開催されたアジア・コールドチェーン展の模様)

4.中国での労務管理、タイでの労務管理

輸送機器Kメーカーの中国の販売会社で5年を経験して、タイに転勤されて3年目のMさんと面談して、中国での労務管理とタイの労務管理の差異を取材した。

Mさんは、中国人の行動を3つのキーワードを使って説明された。

「今だけ・カネだけ・自分だけ」 中国人の営業マンの人事管理をしていると、短期間に売り上げを上げたい、という長期的な視点からの営業戦略が理解されない、との悩みをお聞きした。

現在のお客に買えるだけ押し込むのではなく、必要な台数を提供して、K社のファンを作り、リピート買を進めるという方針を理解させるために苦労をした。

次の「カネだけ」というのも同様の背景がある。業績管理で、社内の昇進を求めるものが少なく、売り上げによる販売手数料などに興味が高く、後進を育てて、企業全体としてのパワーをつけることを考えない。

最後は、従業員が信頼するのは、上司でもなく、社内の同僚でもない。自分の家族のためなら、社内のルールも無視する、傾向がある、という。

同社の元社長は、次のような経営方針を掲げた。

「そこで私は社員の『行動基準』の内容を変えることにしました。それまでの『ミス、不正を無くせ』から『人間だからミスはある。そして世の中の基準が変わるとしたら不正もある。従ってそのことを起こしたことより隠そうとする行為を厳しく問う』と変えました。」

「しかし、そのような悪い情報はトップにすぐに上げないと、公表できません。だから私は全世界のグループ会社にバッドニュースをトップに即座に伝えるように指示しました。また、今言えば今回は許すが、後になって問題が発覚したら承知しない、といった潜在的なコンプライアンス問題の調査なども実施しました。」

また、Kウェイについても深い知恵を感じます。

Kウェイのマネジメント編の柱とは何ですか。

「ルールの遵守についてはすでに触れましたが、(1)取締役会を活性化すること、(2)トップ自らが全ステークホルダーとのコミュニケーションを率先垂範すること、(3)ビジネス社会のルールを遵守すること、(4)決してリスク処理を先送りしないこと、(5)常に後継者育成を考えること――この5本の柱です。」

現在のタイの販売会社は地場企業との合弁である。そのため、タイ人の意見は日本人の幹部には伝わらず、得てして、タイ人のパートナーに届く。そこで、問題が起こると、タイ人幹部から日本人に伝わり、われわれが日本の本部に伝える段階が遅れることもある。そこで、本社、現場の日本人幹部、タイ人パートナーとの意見の齟齬が起こらないか、確認が必要である。パートナーはK社だけではなく、日系では、N、Yとも合弁をしているため、日本式な経営手法は理解をしているが、長期的な視点から人材を育てるといったK社の考えを理解してもらうべく、努力をしている、との説明で合った。

 

(写真は、展示会で説明するK社)

5.(付録) TPPの在タイ日系企業への影響可能性

タイは環太平洋パートナップ協定(TPP)に加入するのかどうか、また、それにより在タイの日系企業にどのような影響があるのか、について日本大使館主催でN研究所に調査が委託され、その結果の報告セミナーが7/26に日本大使館のホールで開催された。

以下はその報告の骨子ある。

1) TPPは世界全体のDGPの36%を占める巨大な協定である。なかでもアメリカと日本の存在感は大きく、タイと両国との関係性は重要である

2) 原則、関税撤廃、サービス自由化であるが、例外も存在する。タイの交渉を考察するうえで、他国の交渉結果(例外設定)は参考になる。

3) タイは既に多くの多国間協定および2国間協定に参加している。TPPの影響を見極める際に、既存の協定による恩恵の確認が必要である。

若干、業種別の影響について補足をすると、次の通り。

1) 製造業、特に自動車関連産業

TPPでは累積原産地規則を設けていて、TPP加盟国間で一定の水準の付加価値を生産することを定めている。その水準は製品により、AEC(アセアン経済共同体)よりも厳しい場合がある。タイがTPP非加盟の場合、長期的には製造業者が累積原産地規則に準じるため、サプライチェーンをTPP加盟国を中心に構成する場合がある。単純に言うと、タイが加盟していない場合、ベトナムなど加盟国にサプライチェーンを移す場合もある。

2) 医薬品、農業、サービス業

医薬品はTPP加盟により、タイの事業者は売り上げ減、国民の医療費の負担増が予 想される。これは知的財産の保護により、新薬開発者への権利が重視され、ジェネ リック医薬品の製造、販売が遅れる可能性がある。 農業に関しては、タイは牛肉、豆、トウモロコシには高い関税がかけられてきたが、 これが下げられると、米国などからの輸入が急属して国内産業には影響が出る恐れがある。 その他、通信サービスでは。タイはデジタルハブを目指しているが、周辺国と比べ ても通信速度が遅く、通信料金は高い。現在の国営企業CATとTOTに対する国営企業改革とも関係するが、外資が簡単に参入する、という事情ではない。ただし、国営企業の改革は注意が必要となる。

3) 結論は、TPP加盟の有無により、短期的には影響が少ないが、長期的には影響の出る分野がある。

講演後の質疑応答で提出された内容を数点紹介する。

(質問1)タイには我々外国人、外国企業に対するいくつかの規制のルールがあるが、TPPによって変化が生まれるのか?

(回答1)タイ政府は、国際通信を担うCATと国内の通信を担うTOTの統合問題を抱えている。これに日系企業との関係があるため、(独占禁止法など)同一の規制がかかるかどうか、注意が必要になる。

(質問2)TPPは主に環太平洋の12か国を対象にした協定であるが、タイは同時に中国と歴史的にも文化、政治、経済面での関係が深い。そのようなタイの立場を考えると、安易にTPPに入るとは言えないと思うが、われわれ日系企業としてはどのような点に注意をすればよいのか?

(回答2)確かにタイは全方位外交を取っており、特定の国だけとの関係が深いわけではない。しかし、TPP協定に入らない場合、海外投資家は、タイを選ぶか、ベトナムを選ぶかとなればおのずとベトナムの優位性がある。その点、タイの指導者は世界の動きをみているため、どうすればタイの国益が損なわれないか、考えている。現在は、軍事政権で、国内政治の安定が重視されるため、TPP参加かどうか、の判断は先になるのではないか。

(質問3)TPP協定では、企業が国家を訴えて、場合によれば国が企業に対して賠償をせざるを得ない場合がある。その際の、裁判費用やは賠償金はたとえGDPがTPPによって拡大するとしても、最終的には国家の負担が納税者の負担に変わることになるのではないか?その場合、タイの国税収入のかなりの部分は外資が担っている現状からすると、われわれ外資企業の負担が増えることにならないか?また、現状のタイの弁護士の質と人数を考えると、今後、TPPに加盟した場合、訴訟事項が増えると予想される際に、現状のタイ人弁護士では外国の優秀な弁護士に負けてしまうのではないか。従い、われわれが応援できることは、優秀なタイ人弁護士を育成する面で、応援しなければならないのではないか。

(回答3)TPPに加盟したから、訴訟が増えるとは言えない。また、訴訟により、タイ政府が負けるということも言えない。確かに、国際交渉に長けた弁護士は少ないかもしれないが、必要ならタイ政府も海外の弁護士を採用する場合もある。税金負担が増えないかについては今の時点では何とも言えない。

 

(写真は、在タイ日本大使館の本館)

 

(以上)