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タイ

作成年月日:2016年6月

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タイ国情報 2016年5月

2016年5月1日のメーデーを始め、労働関係団体、労働市場の動きを紹介します。

また、4月のソンクラン(タイのお正月)が明けて、今月は、機械展、食品展、IT展示会など各種展示会が続きました。そのため、タイの日本企業だけではなく周辺国から来訪された企業及び地場企業の取材を踏まえて、報告します。

1. タイの休日数について

2. 最低賃金の動き

3. タイの産業高度化振興策「スーパークラスタ―制度」と人材育成

4. フィリピンの金型産業と技術の定着について

5. タイの農産物、食品業界について(世界の食生活をリードする仕組み)

6. (付録)アフリカまで進出する繊維産業

1.タイの休日数について

タイ政府は、日本と同様に飛び連休となる中日を休日にして5月の5日から8日まで休日とした。メーデーの5月1日が日曜日と重なることから2日は繰り延べ。加えて、5月9日はPloiching Ceremonyとして官庁は休みである。

このようなことから、タイは休日が多すぎるのではないか、との意見が出た。もちろん観光産業などには良いのだろうが、製造業、オフィスワークでは、生産性が低下する。 「追加の休日は良いニュースではない。工場であれ、事務所であれ、仕事や製造過程の効率性を低下させる恐れがある」(SCB証券、専務)

「休日が多いことは、外国からの投資家にとっては好ましからざる現象である」(グループリース会長)

弊社の顧問先のエンジニア会社でも、5月2日のメーデーの振り替え休日を5月6日にして、土曜日の休日も入れると5月5日から5月8日までの連休にした。そのような休日の変更も可能な日もあり、国王の誕生日、王妃の誕生日などのように変更ができない休日もあるのが、タイである。

表は、休日数と適応される国

21

インド

18

コロンビア、フィリピン

17

中国、香港

16

タイ、トルコ、パキスタン

15

日本、マレーシア、アルゼンチン、ベトナム、スウェーデン、リトアニア

14

インドネシア、チリ、スロバキア

13

韓国、オーストリア、ベルギー、ノルウェー、台湾

12

フィンランド、ロシア

11

シンガポール、イタリア、デンマーク、モロッコ、チェコ、ルクセンブルグ

10

米国、ポルトガル、ポーランド、ウクライナ、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、クロアチア、ルーマニア

9

セルビア、ドイツ、ハンガリー

8

英国、スペイン、カナダ

7

メキシコ

(写真:5月の連休でホアヒンまで出かけたタイの旅行者)

2.最低賃金の動き 〜最低賃金300THBは360THBに上がるか〜

5月1日のメーデーを前に、労働団体は生活コスト上昇を理由に、最低賃金を360THBまで引き上げることを要求していた。プラユット首相の、メーデーに寄せる放送での発言でも労働者向けの政策を打ち出すことを説明し、賃金については職能に応じた賃金を推奨している。言いかえると、能力が上がれば、賃金を上げるという仕組みを理解している。 最低賃金に関しては、Thai labour Chronicle紙(2016.4.25)では次のように見通しを示す。

 

1. 現在の最低賃金300バーツは2016年12月31日まで有効。

2. 2017年1月1日から10-15県の最低賃金は上がる(バンコクの周辺県については、バンコク周辺として注意が必要)

3. 労働省技能開発局は20職種については、職務の明確化を行い、プラユット首相が言われる能力に応じた賃金が示される見込みである。しかし、技能開発局は評価の方法を明示していない。また労働者も自らの技能の開発と評価をされることが求められている。しかも、技能開発局としては全国レベルの評価制度についてはまだ準備がされていない。

4. 首相が能力別給与に理解を示しているように、多くの日系企業が進める職能給など給与決定方法は評価されてよいと思われる。課題は、評価は適正かどうかである。  

 

4月7-8日にタイ南部の食品工場を訪問した際も、最低賃金の行方が話題になった。  

数年前から、タイ人は最低賃金を引き上げても、仕事の厳しい食品加工工場では働いてくれない、という。そのため、タイに近いミャンマーから140万人ものワーカーが出稼ぎに来ている。その大半は、最低賃金で働いているという。最低賃金を引き上げたから、タイ人の働きぶりが良くなるのかどうか、これは単純な答えではないのである。

 

 

(写真は、ミャンマーの労働者を1,000名近く活用する食品工場)

 

3.タイの産業高度化振興策「スーパークラスタ―制度」と人材育成

5月11日に開催した日系企業の自動車産業セミナーでは、自動車の未来について考えるとともに、タイ政府投資委員会BOIが自動車産業振興策として推進する「スーパークラスター制度」について学ぶ機会であった。

まず、自動車の未来を考えると、大きな課題は4つある。

1) 燃料であるガソリン、軽油から、水素ガスなどの燃焼系のエンジンか、あるいは電気自動車のようにモーター駆動系か、その組み合わせのハイブリッドなど、社会環境が変わればおのずと変わる。

2) 安全性の向上と車づくりである。2022年に米国では自動ブレーキの義務付けが政府と20社余りの自動車メーカーが合意をしている。

3) 自動運転に見るように知能化、渋滞対応である。

4) 省エネと環境問題。ガソリン、軽油から排ガスなど地球環境問題は避けて通れない。

一方、BOIが考えるスーパークラスターには、自動車、宇宙工学、医療、繊維など大きな産業ごとに、産地を形成する(クラスター)構想がある。その条件とは、各産業の高度化を図りたいというタイ政府の意図がある、そのため、条件として、高度教育機関、研究機関との人材交流が条件になっている。BOIの新しいスーパークラスター制度の定着には、企業の理解と各大学、教育機関、研究機関の協力がないと成果が生まれないと懸念される。

従来、タイの科学技術省、労働省、教育省では、人材開発やイノベーションに関して様々な施策が講じられてきた。最近の事例の一つは国立の研究開発機関のスタッフを民間企業に派遣する、という仕組みである。給与は政府機関が支給するため、民間ではその負担がほとんど無いままで、企業の研究開発に携われるという仕組みである。名称は、タレント・モビリテイプログラムである。スーパークラスター制度ではこれらの科学技術省の施策と各産業の高度化を推進する仕組みが連携することが条件の一つである。

また、各大学の学生にインターンシップとして産業界である一定期間、実習を行うことで学生には産業界の実情を学び、産業界では人材募集面での便宜を図るという仕組みも、スーパークラスター制度利用の条件となる。

現実はどうか? タイの高等学校教育では2008年の予算が3,014億37百万バーツから2016年は5,201億32百万バーツ(72%の伸び)であったものの、国語であるタイ語をはじめ、社会科学、英語、数学、生物、化学、物理など2012年から2016年までの学力テストの結果で上昇したのは社会、数学だけで、他の教科は軒並み低下しているという結果がでた。(2/10BANGKOK POST紙)

これらの人材交流がスーパークラスター内の対象企業が、恩典を得るための条件となるが、産業界ではまだまだこの制度の意図が理解されていない。理念としては考えられた構想だと思えるが、現状は様々な課題を抱えた制度だと懸念される。そのため、政府の政策をどのように民間企業の目的達成とすり合わせをするのか、検討するための時間が今しばらくかかると予想される。

(写真は、5/11の自動車セミナーの模様)

4.フィリピンの金型産業について(金型技術の定着には従業員の定着を)

2016.5.11にBITECでアセアン自動車部品業界のセミナーがあった。講師の一人は金型製造業の伊藤製作所、伊藤社長である。日本金型工業会の国際委員長も歴任された名士でもある。同社は20数年前にタイナイロンの社長に招かれてタイで工場を建てる計画があったが、BOIの政策が地域別の優遇措置をとることになり、バンコク周辺は第1ゾーンで優遇措置が少なくなった。それでは、金型産業としてタイでは競争力がない、と断念。

そこで、従来から投資の誘致を受けていたフィリピンを検討することになった。日本金型工業会で、現地視察団を構成し、現地入りをした。当初は、タイでと考えていたためフィリピンは頭になかったが、考えを変えた。考えてみると、フィリピンでは英語が通じることから、三重県四日市の中小企業から海外に派遣する人選を考えると、英語圏がふさわしい。もう一つの理由があった。戦時中、現地で兵士として戦った叔父からフィリピンでは日本人だけではなくフィリピン人が相当亡くなったことも聞かされていた。

もしフィリピンに行くなら、戦争で迷惑をかけている分だけ、恩返しとして現地人の雇用と人材育成に力を入れたいという、思いがあった。

そこで、失敗すれば、経営者の自分が腹をくくればよい、として日本流の経営を行った。何も特別なことをしたのではない。日本でも同様に、社員を大事にすることである。

そのおかげで、フィリピン進出20年で、従業員はほとんど辞めなかった。金型技術の定着には従業員の定着をしてくれることが第一である。なによりもフィリピンに進出する日系企業の数が少ないため、他社に転職しないでくれたのである。

また、数年前のインドネシアとの合弁事業でも、日本人を一人の責任者として、残りはフィリピン人5名を派遣した。このフィリピン人が中心になってインドネシア人を、英語とタガログ語によって指導して、3年もたてばある程度の金型ができるようになったことである。インドネシアの合弁パートナーから、最初は日本人が1名しか派遣しないことから、心配されたが、1年もたてば、派遣したフィリピン人の滞在を延長してほしいと、要請を受けたほどである。

おそらく、日本人を数名派遣してもインドネシアでは技術の定着はなかった。英語とインドネシア語と近い言葉、タガログ語を使って、同じ目線でフィリピン人が指導してくれたことから技術の定着が進んだのだろう、と説明をされた。

 

(写真は、5/11にBITECで講演中の伊藤社長)

5.タイの農産物、食品業界について(世界の食生活をリードする仕組み)

タイの農水産業に従事する人口は1,300万人で、全就業人口3,800万人の1/3を占める。食品加工業、ホテル飲食業に従事する人口を推計すると300万人を超える。言いかえると、食に関係する産業に従事する人口は全就業人口の42%を占める。それだけに、低迷する農産物価格の引き上げ、輸出振興はタイ経済の課題でもある。

タイは世界の台所と言われる。食に関するアジア最大級の展示会Thai Fexが5月25日から29日までがバンコクの北隣のパトムタニ県IMPACTにて開催された。同時開催は、世界の海産物展、世界のコーヒーと紅茶展、世界の食品サービス展。

会場はIMPACTのChallenger館全館と、ホール1-4を使うという過去最大規模の食品展である。参加国はタイをはじめ、アジア、欧州、米国を含め40か国、1,800社を超える。(2015年は33か国1,675社) 日本の参加も過去最大級で70社を超えた。期間中の催しは、展示会を始め、優秀なシェフの表彰、各種食品に関するセミナー、会場内で随所に行う調理実演、コーヒーの演出など豊富である。タイの新聞、TVには毎日のように紹介され、延べで100紙以上に紹介された。主催者はタイ政府商務省国際貿易局など。初日だけで13,000名を超える来場者があった。2015年の場合、商談3日間で30,000名、一般来場日2日間で80,000名、合計11万人を2016年は昨年の総数を超えた。

今回のタイの食品展で注目したいのは世界の食生活の抱える課題、話題への対応をこの展示会から発信したいという戦略的な展開を考えていることである。

世界の食生活では、ハラル食品(イスラム主義に沿った認証制度)、添加物、オーガニック、グルテンフリー、おつまみ、前菜、清浄な食品、プライベートラベル、べーガン(完全菜食主義)など健康志向、高齢化対応、消費者が食べてダイエットする志向も注目される。今回のタイ食品展では、従来のテーマゾーン、各国のパビリオンなどの出展区分以外にも、このような食に関するテーマを持って商談をするバイヤーに興味のある紹介をされていた。

 

(写真は、5/26食に関するアジア最大級の展示会Thai Fex)

 

6.(付録)アフリカまで進出する繊維産業 (エチオピアの事例)

2015年10月21-23日にJETRO後援で、アフリカのエチオピアで縫製機械展に参加されたP社の代表から、現地事情を伺う機会があった。その後、5月になって、現地の写真なども拝受。別途、自動車専門調査機関のF社からも、ここ数年はどこも手を付けていないアフリカ市場の調査をされていると伺った。

そこで、いただいた資料の一部紹介と、現地の市場調査をされてきた方の声を紹介する。

GRIPS:「我々はアジアとアフリカの十数か国で産業政策を調査していますが、真に有益な情報を投資家に提供できている途上国はごくわずかです。エチオピアの進出国ではトルコとインドが1、2 位を争っており、3位は中国である。この3 ヶ国だけで投資認可は1,500 社を超えており、すでに操業している企業は500 社程度、その半数以上が製造業関連と思われる。」

筆者:「お話を伺ったエチオピア事情に深く感じりました。その後、日本からの現地レポートなどを読むと、首相以下は日本の改善など研究されて、海外からの企業誘致に熱心な様子、拝察した。」

P社:「現地の投資に関する、興味深い資料を有難うございました。お会いした際、申し上げたかとも存じますが、7月中を目処にアフリカのある国の首都に弊サービスセンターを設ける予定で準備を進めています。当初は、別の国でサービスセンターにて準備を進めてたのですが、駐在員事務所でも現地側のパートナーが必要な為、適当なパートナーがいない、と諦めた次第です。」

F社:「多くの調査機関があるが、アフリカ全土をカバーする調査会社がないため、われわれが先行すれば、他社に負けない調査が可能となる。そのための先行調査は、投資と同じ。」

GRIPS:「エチオピアでは状況も政策も刻々と変わっています。また法令の解釈・適用にあいまいさがないとはいえません。我々も情報の正確さを期するため政策担当者に照会を行っていますが、事業を検討される際には、最新情報を再確認いただくことをおすすめします。」  

 

ここまで、アフリカの市場に関して研究をする機関があると紹介したのは、今や探せば、大抵の国の投資環境情報が英語では入手できるからである。日本語だけに頼れば、確かに対象国は少ないが、世界銀行が調べる世界の投資の容易度ランキングが示すように、政治、法制度、法運用の透明性、労働事情、投資コストなど様々な情報が入る時代になっている。

OVTAのWebsiteで紹介してきたタイの労働市場の報告も変化しています。数年前にさかのぼると、政党政治の時代から、2014年5月22日から軍事政権になって、透明性が高まり、政治の安定性も高まりました。そのようなことからスイスの調査機関IMDの世界の競争力調査ではタイが2015年30位が2016年には28位までランクが上がっています。(参考:2016.5.31日経主催「アジアの未来」フォーラムでのソムキット副首相)  

言いかえると、タイを知るためにはなおさら周辺国などの投資環境、労働市場の概要を理解して初めてタイの労働市場なり、投資環境の優位さ、などが理解されるのでしょう。

 

(写真は、ソムキット副首相)

(以上)