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タイ

作成年月日:2016年4月

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タイ国情報 2016年3月

2016年3月にタイ企業、日本企業の取材を踏まえてタイの労働事情、各産業の後継者育成事例をご紹介します。

1. ミャンマー人労働者が多い企業の労務管理

2. 自動車業界の課題とタイの日系自動車部品業

3. タイの伝統工芸産業の革新性と国際化

4. 腎臓病の現状と医療従事者の育成

5. 高齢化が進む中で若手従業員の採用と定着率を高めるために

 

1.ミャンマー人労働者が多い企業の労務管理

タイのT繊維会社を訪問すると、縫製部門だけではなく生地の編立、染色部門など、工場全体で2,000名を超える中で130名程度のミャンマー人が働いている。労働省からは200名までの許可を得ていることから、タイ人の労働者の採用が難しい中で、ミャンマー人の比率が増えてきた。

そこで、課題になるのは作業手順書が従来はタイ語だけであったが、いまでは社内の掲示物は、日本語、タイ語に加えてミャンマー語も増えてきた。

現在は、人事部門にミャンマー人のスタッフがいないが、いずれミャンマー人の採用も必要になる可能性もある。現状は、工場内のタイ語、ミャンマー語のよくできる労働者に、あまりタイ語のできないミャンマー人の指導を依頼したり、困った場合の通訳を依頼している程度である。

他方、ミャンマー人を活用している事例もある。昨年、タイ企業のB社を訪問した際に、QC部門に働くミャンマー人がタイ人同様、むしろ、タイ人以上によく働くことからQCの責任者に任命した事例があった。タイが高齢化社会を迎える中で、周辺国の労働者を受け入れる場合、労務管理上、ミャンマー人のスタッフも採用する動きがある事例である。

(写真:T社の工場の一角にあるショールーム)

2.自動車業界の課題とタイの日系自動車部品業

タイの自動車産業は2011-2012年の年間生産200万台を突破してから、2013・2014・2015年とも低下気味である。その原因は、2011-2012年の国内販売は、初めての新車購入者には、支払った税額の10万バーツ控除というインセンテイブがあったことから、新車需要の前食いをしたといわれる。このような勢いから、自動車メーカーは次の目標を年間300万台体制に持ってゆく目標を掲げて、日系の自動車部品業者には、生産設備の拡大を要請したところが多かった。ところが、その後の生産の低迷は、国内市場の低迷に加えて、輸出市場、中でもタイから主に輸出してきた中近東諸国が、原油価格低迷で大きな市場の広がりにならなかった。

もちろん、その中でも日系ではマツダ、三菱自動車などは新車効果で、ベンツ、BMWは景気に左右されない高額所得者、資産家の需要に支えられて、2015-2016年とも売り上げを伸ばしている。

3/9に日系のTeir1会社のC幹部と現状の自動車市場について意見交換を行った。C氏は、AEC2015によって、国内市場からアセアン市場に販売網の拡大が見込めることと同時に、従来はタイ国内からだけの調達から、アセアン域内から最適調達が行えるという変化を指摘された。同時に従来の系列についても言及されて、今までは日系ということから部品の多くを調達できたが、今後は日系、地場企業の垣根を払って、優秀な技術、独自の技術や提案力を持った企業から調達するようになる、との指摘があった。

技術力を高めるには一朝一夕でできるものではない。それだけに、将来の自動車、将来の自動車業界の変革を見据えて、人材を育成することが求められるのである。

 

(写真は、3/16のJCC自動車部会の様子)

 

3.タイの伝統工芸産業の革新性と国際化

2016.3.10-3.16までバンコクのBITEC国際展示場にて国際革新的工芸展International Innovative Craft Fair 2016が開催された。

主催者は、タイの美術、工芸支援国際機関(公的機関)である。出展者は、タイの伝統工芸関係者だけではなく、周辺国からも出展があった。チェコ、アゼルバイジャン、イラン、ネパール、インド、ラオス、カンボジア、中国、台湾、ベトナム、インドネシアなどである。

出展者も、工芸作家、政府機関、工芸品で、タイの場合は、北部、チェンマイ、チェンダオから南部のナコンシータマラートまである。また、革新的な工芸品としてのコーナーもあって優秀な作品も展示されていた。教育関係ではチュラロンコン、シスパコーンなど工芸関係の大学、元教育大学など20校から工芸、美術学部の出展があった。たまたま、日本のG デザインを受賞した作家も出展をされていた。

伝統工芸の振興といっても、短期で終わるのではなく、若手工芸家の育成など息の長い振興策があるのかどうか、である。英国政府、また、スコットランド地方政府が、海外の工芸家、芸術家を受け入れている仕組みが長く続き、このような展示会も英国政府(British Counsel)の支援があったのである。日本の伝統工芸と海外の伝統工芸との長い付き合いができるとともに、若手工芸家同士の交流もできないか。特に、上記のような大学同士の交流から産業の育成まで考える人材が育ってほしい。

(写真は、業界の若手育成のためのコンテスト)

4.腎臓病の現状と医療従事者の育成

2016.3.18にタイ腎臓病基金を訪問した。

タイ腎臓病基金(The Kidney Foundation of Thailand)は1978年に設立され、初代理事長は国王の姉上に当たるガラヤニー王女で、2000年から現在は、シリントーン王女が就任さられている。

Dr.Supat事務総長の説明では、以下の通り。

1. 腎臓は、人体の廃棄物の精製、水分のバランスの調整、赤血球の増加、たんぱく質分解酵素の生成など人体の重要な機能を果たしている。

2. 腎臓病には急性と慢性があって、慢性の場合もいくつかの段階がある。

3. 最悪の場合は、死に至るが、その前の段階では腎臓の取り換えるという外科手術が有効な場合がある。腎臓手術で新しく腎臓を取り換えた患者は1997年が30事例しかなかったが、2013年現在では1,000事例を超えた。腎臓の提供者は半数が親族であるが、残りは脳死状態のドナーからの提供によるものである。

4. 1978年までは、人口透析に関しては、国家公務員は国が負担をするか、一般人は自己負担しかなかった。それ以後は人工透析器の導入、腎臓病専門医の育成、腎臓病の手当てに詳しい看護師の育成など、機器と、人材の育成に国も予算措置を施してきた。

5. 中でも、当財団が果たした役割は大きい。1978年当時、人工透析を設置した病院が全国で34しかなかったが、そのうち6か所は財団が支援をしたもの。

6. 人材面では、看護師の育成で1,276名、医者の育成では286名で、海外に派遣研修は31名を支援してきた。これに加えて、ラオス人の医師の育成も行ってきた。

7. 財団に設置された人工透析器の大半は日本製であった。大手3社の機器が設置されていた。しかも、機器を扱える専門医、看護師の育成が重要である。財団の関係者に聞くと、薬剤は日本から輸入に頼るのではなく、国内で供給できるまでになった。

8. では、タイを起点に周辺国の場合はどうか、と聞くと、当財団では、ラオスの腎臓専門医、看護師の育成を手伝っているとのことである。また、ラオスに近いタイ東北部のノンカイや、カンボジアに近い国境のタイの病院にはカンボジアからの患者もいるとのことであった。なお、日本から透析患者が、タイに旅行をした場合でも、あらかじめ連絡を受けておれば対応は可能とのことである。

(写真は、タイ腎臓病財団のバンコク本部)

5.高齢化が進む中で若手従業員の採用と定着率を高めるために

2016年3月のニュースによると、タイの公務員の定年が60歳から65歳に引き上げられるという。財務省公的債務管理庁が3月に発表した公的債務は5兆9,806億バーツ(約19兆1,379億円、1バーツ=約3.2円)。この金額はタイのGDP(国内総生産)の44%にとどまり、当分は正常な状態だが、今後10年から15年先を考えると課題はある。

同省財政政策局の調べでは、全人口の14%が退職年齢に近づいている。この数字が、2020年に17.5%、30年には25.2%に上昇し、4人に1人が退職年齢を迎える。2014年現在、GDPの2.1%に当たる2,700億バーツの巨大な予算が老後の生活保障に使われており、そのうち半分は公務員の退職年金、残りは高齢者の生活手当てに充てられている。  

3/23にバンコク郊外で金属加工をする日系の工場を訪問した。重い鋼板をカットし、自動車や電機業界の工場向けに基礎材料を納入する企業である。タイでは、労働者に一定以上の重量物を搬送させる場合、何らかの機械・器具の設置が求められる。

この企業でも、クレーンや搬送機を設置していた。経営者に聞くと、同社が30歳までの若いワーカーを主に採用するのは、同社の製品が重いため、高齢者にとっては肉体的な負担がより大きく、長期間勤務してくれないのではないかと懸念しているからだという。

また、同社の仕事をこなすには1-2年の体験では無理がある。そのためには、家族とともに過ごせる環境を作る必要がある。その意味で、工場設置の場所として、バンコク市内ではなく、少し郊外にでて、従業員が家族とともに過ごせる環境を求めてバンコクの北隣になるPathumtani県に定めたという。ちなみに、大学などの教育環境もあり、マーケット、ワーカーレベルの住居、アパートなど従業員が快適に家族生活ができる場所が必要であると考えた。  

大半の企業でも高齢化が進み、効率化を目指し平均年齢の引き下げに取り組むが、技術水準の維持・向上のためにはある程度の経験者が求められる。同社のような平均年齢の若い企業も今後10年、20年たった後も、若い世代の採用が可能なのだろうか。高齢化社会が新たな段階に達すれば、一段と機械の導入による自動化、ロボット化が避けられない、のではないか、とも考えられる。

 

(写真は、日系金属加工、販売の入る貸工場)