各国・地域情報

タイ

作成年月日:2015年8月

海外情報プラス

タイ国情報 2015年7月

今月ご紹介する内容は次の通りです。

1. タイ人運転手、活用の仕方

2. タイの最低賃金改定の動きと労働意欲引き上げ

3. タイ人実習生の帰国後の再就職

4. タイの公的年金制度と民間の制度

5. アセアンのハブを目指すタイ政府と人材供給

1.タイ人運転手、活用の仕方

タイに進出する日系企業が採用する最初の職種は、総務・人事・経理系と運転手が多い。

この運転手の採用に関しては、おおむね3つのタイプがある。

  1. 外国人労働者がタイで労働許可をとる場合、給与水準とともにタイ人の雇用機会を与えることが求められる。外国人1名に対して4名のタイ人を採用することが条件づけられている。また、現実にタイ国内を運転すると、標識はタイ語が基本で、主要幹線は確かに英語と併用であるが、一歩、地方に入るとタイ語だけとなる。また、事故の場合、日本人駐在員がその対応に殴殺されると本来の仕事ができない、ということで現地人の運転手の採用を基本とする会社もある。そのため、タイ人の運転手を採用するのであるが、悩ましいのは労務管理面である。M社の事例では、労働条件は次の通り。
    基本給11,500THB、食事手当400THB、電話手当300THB、残業代は法令通り、ボーナス2か月
  2. これに対して、運転手の管理が難しいとして、業務委託として外注する動きもある。K社の事例では次の通り。基本給12,000THB 食事手当40THB/日 管理手数料35%となり、月々の支払は30,000THBになることもある。
  3. ただし、最近はタイでもナビゲーションも発達し、事故の場合は日系の保険会社、車の故障も各県にデイーラーの販売店があって、故障は少ないことから、煩わしい運転手とのやり取りよりは自分で車を運転するという経営者もある。

タイ人運転手1名を上手に活用できると、確かにタイでの業務、人事管理の要諦を学ぶことになるが、基本は人間重視、コミュニケーションの重要さを学ぶことになる。できれば、企業が運転手を採用することであるが、場合によれば業務委託も考えられる。米国のように、運転手を1名採用すると人件費が高い場合は、上記の会社も駐在員が自ら運転することを認めているが、発展途上国であれば運転手を採用して、運転中も業務に集中できることも重要かもしれない。

 

(地方行きの乗り合いタクシー)

2 .タイの最低賃金改定の動きと労働意欲引き上げ

7/22タイの労務専門家Mr.Supachaiと最低賃金制度やタイの投資政策、労働運動などに関して意見交換を行った。

主な話題は次の通り。

  1. 最近の最低賃金の改定の動き:全国一律の最低賃金制度は2016.1から廃止。バンコク周辺およびChonburi県、Rayon県およびPhucket県は引上げられる見通し。300THB―>320THBになる。その背景には、労働組合から3年間の生計費の向上があげられており、政府もこの面は理解する意見はあります。
  2. 政府の新しい投資政策で国境付近に経済特区SEZを設けて、周辺国の労働者を採用する制度を導入。ただし、国境を隔ててタイ国内は300THB/日とその1/3の隣国がある。労働者がタイ側に来るだろうが、企業としてはタイ国の周辺に進出するのではないか?
  3. アメリカの労働組合のタイ国内での影響は? かつては、CIAにも支援をされてアセアンをソビエト共産圏から守るという意図で労働組合も支援したが、今ではCIAの支援も無くなった。ILOに関しても米国はその活動が米国の趣旨に反するとして、支援をしていない、など。


    (左がMr.Supachai)

一方、日系企業の中には、最低賃金の引上げよりは生産性向上を先に考えるべきだという意見もある。このため、労働省の幹部との意見交換を行った際に、各県の職業訓練校には職業別能力給を導入するためのPR活動を行っている、との説明もあった。しかし、日系企業ではなかなかその仕組みを企業内の人事、教育の体制に組み入れている事例が少ない。今後、能力が向上すればそれに従った給与を引き上げるという仕組みの導入により、社員の労働意欲向上に役立てる動きが出るかもしれない。

(労働省幹部と能力給の導入について意見交換)

3. タイ人実習生の帰国後の再就職

7/22に国際人材育成機構(IM Japan)の制度を利用して日本で3年間の実習を終えたタイ人の再就職面接会を視察した。2か月に1回開催されていて、今回は40名近い実習生がタイにある日系企業に再就職したいとして面接に臨んでいた。20社余りの採用する企業は、同制度の利用企業で日本での業界、職種などの情報を事前に入手。当日までに面接希望者を通知して本番の面接に臨んでいた。企業によっては、人事採用者が1名の場合もあり、初めて参加する企業は役員以下、人事担当者など数名が面接官となっている場合もあった。

実習生の出身は、北部、東北部タイの出身が多く、学歴は高卒、高専卒を中心にタイ労働省が募集し、パトムタニ県の職業訓練校で3か月程度の日本語学習を終えてから日本に送り3年間実習するという仕組みである。

日本での実習先によって3年間の経験内容は異なる。一部は、単純作業を3年間実施した場合もあり、期間を定めて各職場を経験させる企業もまれにはある。多くは単純労働者の不足をタイ人の実習生で対応する場合が多い。

日本語の語学能力は4N(4級)から3Nが主で、中には2Nを取得する努力家もいる。1年に6回開催される面接会で、合計200-300名の面接があるらしいが、中にはIN(1級)という実習生もあるらしい。2Nでも簡単な通訳(給与3-4万バーツ)をできるレベルであるが、H社では、2Nでも通訳を希望せず、給与は安くても技術者として採用してほしいとして採用した事例も。

では、一般的な給与水準は、学歴と経験がほぼ同じの同年齢の一般社員と同じレベルに位置付けて、これに語学力、食事手当など加味しているという。ただし、どうしても採用したい会社は25,000バーツを提示して、10名以上の応募者を採用した事例もある。

応募者の年齢は若くて23歳から30歳代前半で、これから企業の戦力になる人材である。

成功している事例では、2年前に進出したToyoda Seikoがある。20名あまりのタイ人のすべてが実習生を採用したため、社長以下、日本語しか話せないというにも関わらず、タイでの業務開始後順調な事業展開を行っている。S社では、毎年10名の実習生を日本に送り出しているが、3年後の帰国までのつなぎとして他社で実習経験をしたタイ人が職場の中心となっている。

IMM Japan以外にも、日本での研修、実習制度を経験者の再就職を支援する仕組みがあるが、労働省と提携していることから採用上での問題が少ないようだ。

 

4.タイの公的年金制度と民間の制度

タイも少子高齢化社会に向けて、日本を後追いしている。タイに駐在されている日系企業の駐在員から、社会保険金、特に年金積立について質問を受けた。そこで、社会保険制度に詳しいタイ人のNさんに尋ねた。

現在の社会保険料は、企業側5%、個人負担が5%で上限が給与15,000THBとされている。社会保険は、健康保険制度と連携して、指定された病院で治療を受けると社会保険からカバーをされる仕組みである。

さて、年金の支給に関しては、要件として180か月の積み立てが必要。支給開始は55歳以上である。ただし、年金の支給を受けると当時に、社会保険から脱退することになる。そのため、片方の医療制度を利用できなくなるとして年金支給を遅らせる方も多い。積立金は15,000THBに対して1.5%(225THB)で毎年20%引きあげられる。6年目に9%(1,350THB)になる。これが徐々に引き上げられる。35年積み立てられると、支給額は最終の給与の60-70%となる。ただし、最高額の据え置きが15,000THB  だから最高だとしても11,250THBである。

では、駐在員として5-7年で帰国する場合はどうなるか? 35年未満の場合は、退職金としての支給となる。しかし、退職後1年以内に請求しないと支給されない。駐在員で、35年も勤続する方は少ないと思われるので、もし帰国命令が出ると人事や経理のスタッフに社会保険制度上の脱退、つまり退職一時金の請求も忘れないことである。米国の駐在員のように高い社会保険料を払う国は、10年も米国に駐在すると、米国政府から日本に帰国しても一定の年齢になると年金支給の通知が来るらしいが、タイではまだそこまでは行き届いていない。

Nさんから、タイはまだまだ社会保障制度は行き届いていないので、タイで老後のことを考えるなら民間の制度を利用すべきだという助言も受けたのである。

 

(米系の生命保険会社)

5.アセアンのハブを目指すタイ政府と人材供給

7/27に投資委員会(BOI)、JETRO、バンコク日本人商工会議所主催の、地域統括本部(IHQ)、国際貿易センター(ITC)解説セミナーがあった。アセアンのハブを目指すタイ政府が2015.1から投資奨励策として導入した制度である。

従来からある地域統括会社ROHとの違いは何か?

  1. 事業統括が一体化できる。従来のROHは独立した会社にすべきだとされて、事業会社とは別の組織であった。
  2. 物流統括機能:従来はサービス業としての機能を求められて、同じグループ内でもサービス料の請求が必要であった。部材、材料の集中調達を考えていたため、最終製品の販売は不可であったが、今回から可能となった。
  3. 金融機能:リインボイスができないため、外国通貨のネッチングができなかった。今回からは、リインボイスも可能となり、外貨でのネッチングができるため、手持ちの外貨は少なくできる。

では、どのような企業で、IHQ/ITCが利用できるのか? 条件としては、タイの隣接国に1か国、またはアセアン域内で2か国の関連会社が必要となる。大手企業を中心に従来のシンガポールで金融の統括機能を持たせたものを、タイにおくことで事業、物流、金融の3つの機能が統括できる。

セミナーでは、説明役としてBOIを始め、歳入局(国税庁)、タイ中央銀行などからこられたように、制度の利用にはこれらの官庁の仕組みを理解する必要がある。しかも、これによって、税制面の恩典もある。法人税は、従来の20%が半減され、10%になる。

また、経営幹部の給与として毎月20万バーツ以上の給与を受け取る方が、従来の所得税の最高税率30数%が15%まで引き下げられる。

ただし取引面では、外々の取引(国外取引)が免税されるだけで、タイとの貿易、タイ国内の取引は従前通りの課税対象となるのである。

では、これを担う人材をタイ国内で探せるのであろうか? ある会計事務所に公認会計士CPAの有資格者を探すにはどうされているか、と聞くと、まず月10万バーツ以上の給与を提示する必要がある。また、給与以外に、各種の待遇が必要となる。

これらの要件を考えた上で、IHQやITCに求められる機能、収益がこれらのコストを賄えるものでなければならないのである。

最初に、最低賃金に関して、タイの労働集約産業では大きな影響を受けると説明をしたが、今後タイ政府はシンガポール型の産業構造を目指したいという意向は理解できるが、6,900万人もの国民が居て、しかも農業生産に従事する人口が40%近い就業構造を10-15年で変更することができるのであろうか? 農業の高度化や、水産資源は捕獲ではなく、養殖など、従来の技術、知識の高度化が求められているのである。教育制度を始め、社会の意識そのものを変えてゆくには指導者の改革の意欲が無くては産業構造を変革させるのは難しいと思われる。(2015.8.2)

(了)