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タイ

作成年月日:2015年7月

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タイ国情報 2015年6月

発展途上国は外国との貿易によって、労使関係の環境整備を求められる場合もある

今月ご紹介する内容は次の通りです。

  1. タイの最低賃金改定の動きについて
  2. 作業効率改善と労働者の安全のための設備更新
  3. タイのロボット活用工場について - 労働コスト引上げに対応できる事前準備
  4. EU輸出の特恵関税(GSP)の延長について - 雇用関係の整備も課題

参考:ミャンマーの産業政策について - 新しい雇用が生み出せるか

1.タイの最低賃金改定の動きについて

6/6のバンコクポストでは、2015年12月末で、現在の全国一律の最低賃金300THB/日が、2016年から従来の県別の生活コストを基準に決める方式に戻る可能性が報道された。 労働団体は、現在の300THBを360THBに要求をしている。


Minimum Wage
Nation  (THB)
Singapore 2,000
Brunei 1,800
Thailand 300
Philippine 300
Malaysia 270
Indonesia 230
Myanmar 110
Vietnam 95
Laos 80
Cambodia 75

(資料出所)
http://www.bangkokpost.com/news/general/584289/b300-wage-to-be-scrapped-next-year

これに対して、経済界、労働界からは次のような意見が出ている。

1) タイ商工会議所(Thai Cmamber of Commerce & Industry,TCC) 6/1-6/20に主要会員228社質問。218社の回答(95.4%)内訳としてサービス、尿業、製造業、商社を含む。 「最低賃金が引き上げられるとタイ経済に大きな打撃を受ける。」

2) タイ貿易・産業経営者協議会(Employer’s Confederation of Thai Trade & Industry) 「現在の世界経済の活力は弱く、最低賃金の引上げには対応できない。特に、中小企業や繊維、電気、農業などの労働集約産業は大きな影響を受ける。もしそうなれば、雇用調整やひいては商品の価格を上げざるを得ない。」

3)これに対して、労働界からも最低賃金引き上げの必要性を訴えて、プラユット首  相に要求をしている。「電気ガスなどの公共料金の引上げ、交通費、食糧費の引上げで、労働者は対応できない。」

4)プラユット首相は、この労働側の要求を拒否をして、タイは必要な措置をとるだけだ、との発言も出ている。

http://www.bangkokpost.com/business/news/608940/minimum-wage-rise-would-hurt-businesses

 

このような動きに対して、日系企業の動きについて尋ねた。

1) 繊維産業 欧州向けのセーターを生産、加工していたタイ東北部の工場を閉鎖して、ラオスのビエンチャンに移す準備をしてきた。現地の最低賃金はタイよりは安いが、優秀な工員は上記のような最低賃金では集まらない。サムットプラカン県の工場は技能経験者が多く、閉鎖することはできない。最低賃金の引上げは大きなコストアップとなる。

2) バンコク日本人商工会議所・労働委員会のアドバイザーでもある日本大使館の坪井書記官からは、7月に開催される委員会で議論をすることになるだろうとの返事をいただいた。

なお、最終決定は2016年10月に開催される中央賃金委員会(労働側、経営者、政府の3者で構成されている。委員長は労働事務次官)にて決定される。

(写真は、2011年の最低賃金を引き上げた当時のタイ労働省のSomkiat事務次官)

2.作業効率改善と労働者の安全のための設備更新

水産業界では、漁船の船員が奴隷のように休みなしに就労させられている状態が報道され、EUなどから条件が改善されないと水産加工品の輸入を禁止すべきだ、という意見が出ている。(以下の4にて関連情報を説明)

ある冷凍食品の加工メーカーでの事例を紹介する。

同社では、商品の加工した後で、出荷までの期間は冷凍倉庫で保存をしている。そのドアが重いため、工場から冷凍倉庫まで搬入する際に、ドアが閉まらないようにドアにかましを置いて、常時ドアが開いている状態が恒常化していた。

そのため、床に解けた水分がアイススケート場のような状態になり、荷物の搬入時に滑るなど些細な怪我が後をたたない。

2015年4月に着任した新しいMDは、社内の改善運動を展開するとともに、冷凍倉庫内の事故絶滅のため、ドアの開閉を容易にして、庫内がアイススケートにならないようにドアの改善を担当部門に指示を出された。

安全対策は、作業効率を妨げる場合もあるが、今回は作業効率の改善と同時にできる手法を検討しているのである。

(写真は、冷凍食品の輸送車)

3.タイのロボット活用工場について―労働コスト引き上げへの事前準備

6月中旬に訪問したタイの大手建設資材グループの一員で、日系企業との合弁会社の事例である。

タイ中央部で、従業員の確保が難しいこともあり、将来の労働コスト上昇に対応するには徹底的な効率化を図る必要がある、と決断し、日本国内でもすべての工場では取り組んでいなかったロボット化の導入に踏み切った。本格稼働は2013年で、工場建設に2ケ年かけた。

現在、年間150戸から250戸程度の組み立て住宅の生産が、いずれ1,500から2,500戸まで拡大しても、従業員の増加はそれほど必要が無い、ということである。

(写真は、ロボット活用工場)

4.EU輸出の特恵関税(GSP)の延長について
  ―雇用関係の整備など課題も

2014年7月のJETROの報告では、EUの一般特恵関税制度(GSP)の新規則の運用に伴い、2015年1月からタイはその適用対象から除外される、と予告された。   https://www.jetro.go.jp/world/reports/2014/07001794.html

従来、在タイ日系企業の中でも、欧州向けの輸出でGSPの恩典を受けている企業は多く、適用除外による欧州市場でのコスト競争力の低下が懸念された。そこで、GSPに代わる関税減免手段として、EUとの自由貿易協定(FTA)交渉の早期妥結への期待が高まっていた。

しかし、タイ・EU間のFTAについては、2013年に交渉入りしたものの、タイ側の政治混乱が交渉スケジュールに影響を及ぼした。また、EU側の手続きにより、交渉妥結から関税減免の恩典が開始されるまでに、少なくとも1年程度を見ておく必要がある。GSPの適用が受けられなくなる2015年1月から、FTA発効までの間に一定の空白期間が生じるのは避けられない見通しだったが、双方の交渉によりGSPの適用が延長された。

課題は、これからである。水産加工業界の不法就労や、漁船員の奴隷的な勤務体制(24時間休みなしに勤務)、海外の領海内における不法漁獲などが海外に報道された。EUの指摘で、もし漁船の就労者が奴隷のような状態であれば、EUに水産物の輸入を禁止するというものである。それから2015年7月からタイの水産業者の船舶の登録と、漁船員の就労状態が不法ではないか、という登録が義務付けられた。上記のように水産加工物は冷凍保管が大量になされているため、数か月の鮮魚の入荷が遅れても市場への提供は維持されるが、輸出で成り立っている水産物加工業者は、輸入禁止措置が実際に起これば、大きな打撃となる。

一方、EU向けの他の業界でも特に繊維業界では0%の特恵関税が無くなり、5%も課税される場合は、周辺国のGPS対象国と競争上、難しい状況に追い込まれる可能性があった。そのため、労働集約産業では、周辺国に工場の分散がなされようとしているのである。 タイを取り巻く産業政策は、諸外国との取引関係によって、労使関係、労働市場の環境整備を求められる場合もあるのである。

(写真は、EU向けの輸出もある縫製工場)

5.(参考)ミャンマーの産業政策について−新しい雇用が生み出せるか−

7/4に開催されたGMS諸国と日本との首脳会議で、日本側はDAWEI経済特区の開発支援を始めGMS諸国向けに大きな援助を約束をした。

ミャンマーでは、各産業ごとの政策策定に海外からの助言を求めている。自動車産業の将来ビジョンを描くために、日本側を始め諸外国の意見を求めている。日本側では、JETROやミャンマー日本人商工会議所が、ミャンマー側の工業省とともに連邦商工会議所傘下のミャンマーのMyanmar Automobile Manufacturer & Distributor Association(MAMDA,業界団体)およびミャンマーエンジニリング協会(MSE)の参加を得て。自動車政策の立案の議論をしている。

そこで、現在議論中のミャンマー工業省の自動車政策委員会の答申とりまとめの状況、取材したところ、以下のような動きはわかった。

@ 元、工業省副大臣U Myint Peが自動車政策委員会の取りまとめ部会の会長。政策の起草はU Khen Maung Kgaw(元、工業省副大臣)が担当をしている。

A 6/30も、日本商工会議所からの提案があった。Phase1、Phase2、Phase3と段階を追って取り組む提案(ミャンマー語に翻訳)であった。

B 今までも日系ではニッサンからも提案をうけている。

C 韓国の起亜、インドのタタ、ドイツのBMWからも提案を受けている。

D ミャンマー国内の自動車業界は、中古車の輸入業者が多く、日本メーカーが指摘するように中古車の輸入を一気に禁止することはできない。

E ただし、CKD(ノックダウン)の定義が日本と韓国では異なるように、大半を海外から持ち込んで組み立てメーカーというには疑問がある。

F 2015年から始まって、2020年、2030年にどうするのかビジョンがいる。

G 単に自動車業界だけではなく、環境、エネルギー政策とも関係をする。

H 中国向けに天然ガスを90%以上輸出しているが、自動車の利用者が増えた場合はどうするのか?第2鉱区のガスはミャンマー国内で使用する、など段階を追って国内使用にシフトするなど、エネルギー政策とも関係する。

上記の議論でもわかるように、国内産業保護と海外からの投資の促進はどの国でも議論になる。特に、自動車産業は、裾野産業が無いと現地生産は難しい。周辺国からの部材供給で組み立てとなると、ベトナムのように自国で生産する自動車メーカーはCKD(完全な組立)か、部分的な組み立てになる。この点は、韓国や中国車のCKDと日本の定義であるCKDでは相当な意味が違う。現在、スズキ自動車が現地生産を準備しているが、国内で輸入車が大量に入っている状態では、新車との差別化が難しいのも事実である。

新しい産業を呼び込み、雇用を拡大したいミャンマーの希望はわかるが、いざ、投資を呼び込む条件整備となると難しいものがある。

(写真は、ミャンマー市内を走る中古車)

以 上