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タイ

作成年月日:2015年1月

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タイ国情報 2014年12月

今月は12月初めにある工業団地で起こった労働争議の様子を紹介します。次に、タイの新しい投資政策によって求められる産業と産業人材育成の現状、タイのある大学の法律学部を修了された方から大学の法律学部の設置されている目的と学習方法を紹介します。

参考として、11/27から12/10、ニュージーランドおよびオーストラリアを回ってきました。現地で取材した労働力の少ないオーストラリアの移民受け入れ制度や農村などで活用されているワーキングホリデー制度の一端を紹介します。

1. 全国組織の労働団体に指導されて起きた日系企業の労働争議について

2. タイの新しい投資政策によって求められる産業と産業人材育成の現状について

3. タイの大学法律学部で学ぶ法律学習の目的と手法について

4. (参考)労働力不足とオーストラリアの移民制度、ワーキングホリデー制度

1.全国組織の労働団体に指導されて起きた日系企業の労働争議について

タイでは1,500の労働組合があり、400,000人の労働組合員がいるといわれる。

主要な産業では、自動車業界に15組合があり、次いで、電気、ホテル、銀行、運輸関係である。また、これらの上部に14のコングレスなど全国的な組織がある。これには全米自動車労連UAWや日本の全日本金属産業労働組合協議会JCMがこれらを外部から応援をしている。

さて、問題は12月10日にプラチンブリ県で起こった。しかも、労働組合幹部はマスコミ関係者を招待して労働争議を放映する準備までしていた。プラチンブリ県にある工業団地幹部に取材をすると、日系では事務用機器の大手C社、家電のH社などニースバリューのある所ばかりを狙われた。

今までは外部に扇動された労働組合は無かったが、たまたま、ソールネットワークなどで社内の不満分子を探して彼らを巻き込んで労働組合が組織されたらしい。外部から来た労働運動家は今年のボーナス交渉に関与してきた。現実には、他の中小企業と比べて労働条件が優れたところばかりを狙ったもの。C社の事例では5名の労働組合代表とボーナス交渉をして4名の社員代表はほぼ合意しても、外部から来た役員が承知しない。いったん、組合が持ち帰ったが、結局、外部の指導者に扇動された組合員の合意を得ることができず、わずかだが上乗せして妥結した。外部役員の成果だとして使われたのではないか。工業団地の幹部によるとタイの労働法では労働組合の組織化を阻止することは不当労働行為になりできないが、従前は県庁幹部とも恒常的に情報交換をして、この県では労働組合が無くても友好的な労使関係があったらしい。その意味で、県内の問題は県内で解決する方向にもって行けるようにしたい、とのことである。

(写真はプラチンブリ県のR工業団地)

2.タイの新しい投資政策によって求められる産業と産業人材育成の現状について

2015年からスタートする新しい投資奨励策に関して、12/22タイ政府投資委員会BOI事務局のマーケテイング部長のボンゴット女史から最初に説明があった。概要は以下の通り。

1. 新投資奨励策の変更点 (旧政策)である、地域分散、ゾーン制による恩典、あるいは、重要業種、戦略的分野は、地域にかかわらず最大限の恩典から、 (新政策)の基本恩典は、業種別による恩典+追加恩典としてのメリットによる恩典へ変更になった。

2.では、新投資奨励策の目的は何か?

1)国の競争力を向上させるための投資を奨励

2)持続的成長のため省エネ、代替エネルギーを使用する環境にやさしい事業を奨励

3)サプライチェーンを強化するため地域の可能性に一致する投資クラスターの創出

4)地域内の安定につながるため、南部国境県での投資を奨励

5)近隣国との経済連携およびAEC2015の準備のため、SEZ、国境域での投資を奨励

6)タイの競争力を高めるためタイからの対外投資を奨励する、の6点があげられた。

「中進国」の罠に陥らずに、先進国を目指している、という理念はわかるが、課題も多い。 現実には、タイ国内企業がこのような産業を興すことは想定せず、外資による新しい産業誘致政策である。

では、日系企業から見たタイの産業人材の実態はどうか? 「アセアンにおける産業人材育成ビジネスの実態と可能性」(JETRO,2012.8)によると次のような課題が紹介されている。

アセアン進出の日系企業は、現地で高度人材のニース、実践的な熟練ワーカーのニーズが高い。しかし、現地の教育界では、高学歴志向が高く、モノづくりへの関心は低下している。技術やマメネジメント人材が不足している、など指摘されている。

次に、外務省が委託調査した「タイ王国、インドネシア連邦共和国のアセアン高等教育機関と日系企業が連携した産業人材育成基盤の案件化調査」(2014.3)を見ると、次のような課題が提起されている。

1.大学のカリキュラムは産業界のニーズに沿っていないと認識をしている。そのため、インターンシップによって産業界の実態を学ぶようにしている。

2.教育研究機材はtopの大学ではある程度そろっている。

3.学術面の知識はあるが、研究能力は不足している。

4.クリテイカルシンキングやソフトスキル、リサーチスキルを伸ばす機会は少ない。

5.英語力は低い、など。

バンコク日本人商工会議所など現地日系企業が奨学金制度などで応援している泰日工科大学の場合でも、実験設備は日系企業からの寄贈と、日系企業での実習によってカバーをしているのが現実である。

では、現実としてタイに研究開発拠点を設置した日系企業がどのようにして人材を確保し、育成するか。基本は自前の人材育成方法を考えることになる。ある日系の冷間鍛造エンジニア会社では、タイのキングモンクット工科大学と共同で、冠講座を開設し、修士課程を修了した人材を日本の会社において育成している。かれらが日本で現場の学習をした上で、タイの子会社に戻してあとは実践を通じて育成をしようと考えているのである。

(写真は、タイのキングモンクット工科大学バンコク校)

3.タイの大学法律学部で学ぶ法律学習の目的と手法について

日本の国立の法学部を卒業し、定年まで鉄鋼企業に勤めて、定年後、タイに移住してラムカムヘン大の法学部を卒業したMさんにタイの法学部で学ぶ目的なり、学習方法について取材した。

以下は、その概要である。

「@私の周囲でそれなりにまじめに法律を学習している学生たちの殆どが、法律関係の職に就くことを希望していました。ここで法律関係の職とは、裁判官、検事、警察・裁判所書記官等の公務員や弁護士(タイではこの弁護士になるのは、法学部さえ卒業すれば比較的簡単)など、広く法律学をバックグラウンドにしている職業を指します。特に女子学生にはこの傾向が強い。タイでは、公務員志向が強く、企業などの求める法務の実務家なども、まず(比較的簡単に取れる)弁護士資格を取ってからの方が多いと思います。

Aこのことは、ラムカムヘン大の法学部カリキュラムを見ても明らかです。指摘された科目(憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、会社法)は、すべて必須科目です。例えば日本の司法試験では、民訴と刑訴はいずれか一つを選択できますが、ここでは二科目とも必須です。それ以外の必修科目には、裁判所設置法(各裁判所や裁判官の権限法)、破産法、労働法(保護法、関係調整法など含む)、行政法、証拠法、所得税法、法曹家倫理法(弁護士法や裁判官倫理法等)、土地法、知的財産法(著作権法、意匠法含む)に加えて、裁判資料作成科目(告訴状、嘆願書等各フェーズで必要とされる法律文書などで、日本では司法研修所で教える。)も必須です。これらを見ても、タイの法学士に求められる素養は何かが明白だと思います。それ以外にも法哲学や国際公法・私法、国際貨物運送法なども必須です。勿論、各科目を広く浅くとなっているのは、止むを得ないと思います。

Bタイ法は、解釈の余地を極力排するために、条文に構成要件を書き込むため、その長さが半端ではないのです。そしてそれらが使えるかを試すのが、法律科目の試験ですので、試験問題は、常にケーススタディーです。即ち、現実事象の中で、条文をどう現実的に適用して法的に正しい結果を導き出せるか を試験するのです。例えば、甲、乙、丙がこれこれして、こうなった。それぞれの罪状を論ぜよ。それぞれ、結論は何罪、理由は、どのような根拠があってどの条文をどう適用したからとか。そして該当条文を書かせます。だから、大事な条文は暗記が必要。 従って、タイ人は法学部の学生は長い条文を暗記しないといけないから、大変だといって敬遠する傾向にあると思う。」

このことから、タイ国において大学で法律学部を学んだといっても、日本の大学とは内容が異なっている、という事実を考えるべきである。 現実に、弊社でも今までも法学部の卒業生を採用してきたが、法律の条文は良く知っているが、いざ、現実の適応を聞くと、法律事務所に聞いてほしいなど、常識的な判断は難しいこともあった。また、2.で紹介した産業人材の現状でも、クリテイカルシンキングが難しい、という現実から企業としての社内教育では何を取り組まねばならないか、見えてくるのである。

(写真は、ラムカムヘン大学のwebsiteから)

4.(参考)労働力不足とオーストラリアの移民制度、ワーキングホリデー制度

日本では今までも労働力不足を見込んで移民(永住権取得者)政策が議論された時期もあったが、最近ではその議論も落ち着いて、単純に労働者不足が即、移民受け入れではなくなった。2014.11-12に、タイからニュージーランドとオーストラリアに出張する機会があり、多くのアジア人が移住している実態を見てオーストラリアの移民受け入れ制度を紹介します。

オーストラリアは多文化主義国家である。JETROシドニーなどの情報では、2013.9現在、2,323万人を超えるオーストラリアの居住人口のほぼ4人に1人が外国生まれである。過去40年の間に、オーストラリアに移住した人たちの出身国には大きな変化があった。1960年代は、新しい移民の45パーセントがイギリスかアイルランド生まれであった。2006-07年度には、この数字は17パーセントに減り、アジア太平洋地域やアフリカ、中東諸国からの移民や長期滞在者が増えた。2006-07年度に入国した移民の10パーセント以上は中国からで、1995年以来、アフリカと中東からの移民も20万人を超えた。2012年の移民ではインドと中国からの移民が増えている。

オーストラリアでは移民政策と、難民の人道的入れ入れ政策を区別して運営をされている。現在の移民政策は、人種、文化、宗教などの理由で差別をしていない。また、オーストラリアは、毎年12万人を超える移民を受け入れ、人道上の計画でおよそ13,000人が再定住している。2006-07年度に移住したのはおよそ19万3,000人で、人道計画によるビザで入国したのは1万4,000人弱であった。

オーストラリアの移民は労働者不足や高齢化に対応するという面だけでなく、オーストラリアの経済発展にも貢献するという高技能者の受け入れを優先されている。移民により、労働市場に労働者が供給されるという一面だけではなく、移民により、住宅や教育の需要も拡大することでオーストラリアの経済面にも貢献するとみられる。

一方、一時滞在ビザは留学とワーキングホリデーが主たる目的である。オーストラリアの主要な政策の一つは留学生の受け入れである。留学生は、中国のほか、アジアからの留学生が多い。

留学を終えてから1年半程度の就労ビザを与える制度もあり、彼らが将来の移民になる可能性もある。一時就労ビザはインドがNO.1で英国を抜いた。上位6か国の内、中国を除くと、英語が公用語国からが多い。

労働者不足から農村でワーキングホリデーを使って働く青年は滞在期間が通常の期間よりも延長されている。農業経営者からは政府に対してワーキングホリデーの受け入れを増やしてほしいという要請もあるほどである。日本の3K職場が多い産業からも実習制度の3年を伸ばしてほしい、という要請と類似している悩みである。

最後に、タイ人も海外で働く数が多い。タイから海外で働く労働者を斡旋するM会社のwebsiteを見ると、建設、農園、クルーズ船サービス要員、石油化学などで働くタイ人が多い。例えば、エジプトとリビアの民主化騒動で、現地の治安状況が悪化した際も、タイ政府が帰国のための飛行機を現地に送った事例もある。イスラエルとパレスチナで事件があった際も、イスラエルの農園で働くタイ人が帰国したニュースもある。これらの経費は、タイ人を海外で斡旋する会社がタイ政府に保証金として預けている中から支出されたと推察される。タイの労働行政は、タイ国内の労働者の保護だけではなく、海外で働くタイ人労働者の安全と保護も対象としているのである。従い、今や、労働条件が良ければ、世界のどこでも働ける時代になったため、タイの日系企業は就労の機会を与えるという一面だけだは無く、良い環境、長く継続して働いてもらうためには何をすべきか、考えねばならない時代になった、といえる。 (資料)オーストラリア大使館,JETRO SUDNEY

(写真、シドニーのオフィス街)

以 上