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タイ

作成年月日:2014年6月

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タイ国情報2014年5月

2014.5.20タイ陸軍が戒厳令を発令。その時点では、クーデターではない、内閣は存続といったが、2日後に無血でクーデターを実行。5/28に国王の勅令を得たことからクーデターが承認された。

先月から、2015.12.31にアセアンの共同市場が形成されることから、日系企業の今後の経営戦略を追ってきたが、今後のタイを活用したアジア展開がどう変わるのか、労働者の移動も含めて考えてみたい。

1. AEC2015とタイの日系企業の経営戦略

2. タイの自動車金型企業の人材育成と人材流出への対策

3. タイに地域統括会社を持つ日系企業のアジア各国の人材の課題と対応

4. タイのクーデターと現地進出日系企業の影響について

5. その他、2011年の最低賃金の引き上げで生産性は上がったのか?

 

1. AEC2015とタイの日系企業の経営戦略

日本にいると、アセアン経済共同体(AEC)の動きについて情報収集をする機会が少ない。たまたま、JETROでも6月に入り、AEC2015をテーマにセミナーが開催されるが、TPPほど理解が無いのではないか、と懸念をしている。

では、AEC2015によって何が変わるのか、というと、今までアセアン各国での資本、投資、貿易の障壁を低くするということである。ECという単一の通貨による経済圏ではないが、世界の成長する経済圏の一つが生まれるのである。当初6か国でスタートしたアセアンであるが、後発の4か国も入れて2018年には域内の関税がゼロになる。そのため、中国以上にアセアンに拠点を多く持つ日系企業にとっては、6億人の市場をどのように活用するかが課題である。人口の高齢化、減少をする日本市場だけにしがみつくのではなく、若い世代の人口の多いアセアンに拠点を持とうとする日系企業は多い。

2014.5.15にタイ政府投資委員会(BOI)が主催した「日系自動車業界経営セミナー」では、この日系企業の形成戦略をタイ+1の戦略として紹介した。

主催者のBOI長官は、基調講演ではアセアンのHUBとしてタイが活用できると力説された。事例としては、ホンダ自動車のアジア・太平洋地域での金型調達のあり方を紹介されたが、従来のように日本での金型調達ではなく、品質の向上と価格の妥当性からアジア域内での調達比率が高まっていることが紹介された。

当日は、ベトナムから招かれた講師が、国内市場は小さいが輸出基地としてベトナムも活用できることを紹介された。

参加者は、今までのBOIセミナーがタイ市場を中心に取り上げたが、今後は成長するアセアン市場全体を見据え戦略を構築するヒントを得たセミナーであった。

BOIセミナー

(写真は、BOIセミナーの模様)

 

2.タイの自動車金型企業の人材育成と人材流出への対策

5/19にタイの自動車金型を生産するA社の役員を取材した。同社は、日本が本社。海外ではカナダ、韓国にも関連会社がある。タイは2000年に設立。日系の自動車メーカーなどや、タイ及びASIA域内の自動車メーカー・自動車部品メーカーにも金型を提供している。お蔭様で、受注が多く2年近く先の注文を受けるほどの実力になっている。

人材育成では、AOTSなど経済産業省のスキームを使い、技術者を育ててきて、今では日系の顧客にも日本人ではなくタイ人の営業が直接、商談ができている。

創業して10年余りでCAD図面製作から、金型製作までできる技術者が育ったが、悩みは外部のメーカーから金型技術者をスカウトされることである。従来の給与水準の2倍の高給を提示されると、タイ人でなくても流出するであろう。

そこで、タイ人だけではなく、ラオス、カンボジア、ミャンマーの人材を育て、日本語のできる技術者を育成し、A社の技術が学べた人材のいる国に、CAD技術の会社を設立することを考えている。タイ人ができることをアセアン各国の人材でもできるなら、その人材がいる国とタイと協働しながらお客様の受注をこなすという構想である。

ラヨン県のA工業団地

(写真は、同社が立地するラヨン県のA工業団地の風景)

 

3.タイに地域統括会社を持つ日系企業のアジア各国の人材の課題と対応

5/3にタイに地域統括会社を持つN社の代表にアジア各国の子会社の課題を取材した。同社は、アジア域内で原料である農産物を調達し、現地で加工して、一部は日本の親会社に送るとともに、残りはタイをはじめ周辺国に販売する。

ネパールにも子会社があって、現地の運営はパートナー会社に任せているが、収益が中々改善しない。たとえば、売り上げ拡大を目標に取り組んだのは良いが、無理な販売がたたったのか、代金回収が追い付かない。また、その代金回収の遅れている報告が、現地のMDを兼ねているタイの統括責任者に上がってこない。

現地に入り、滞在している1-2週間の会議では、「わかった」と回答するネパール人であるが、タイに戻って、遠隔操作すると、元の木阿弥になっている。

タイ国内の販売会社は、販売拠点を増やしたことで売り上げは伸びているが、同業他社の進出もあって収益の向上には限界がある。そのため、取扱い商材を増やしたり、日本をはじめ高額な商材も受け入れられる市場向けの原料調達に努力をしてきた。

次の課題としては、運営に苦慮するネパールに日本人を送り込むか、タイのマネジャーを送り込むか、どうすれば、グループとしての力が発揮できるか、考えている。

ネパール

(写真は、N社の子会社があるネパールの風景)

 

4.タイのクーデターと現地進出日系企業の対応について

戦車

戒厳令からクーデター発生まで、日本でも大きく報道をされたので、今回はその影響について触れる。

まず、クーデターの発生までは、原因がある。

2013年の当時のYingluck政権では、米価買い上げ、大規模インフラの整備、小学生の生徒へ無償でタブレットの配布など、庶民受けの政策を実施してきたことから、バンコクの納税者を中心に反政府運動が起こった。主導者は、野党、民主党の幹事長を務め、民主党政権時代の副首相であったMr.Sutheep。2010年の赤シャツのデモ騒ぎでは治安対策の責任者でもあり、当時から軍部との関係が深かったと思われる。

半年近く、反政府運動が継続し、当時の政権が総選挙で国民の信を問う、2013.2.2に行われた総選挙が28選挙区で立候補が受け付けなかったことなど、全国一斉の選挙が実施できなかったことから裁判所は、総選挙が無効と判定。再度、振出しに戻っていた。2015.5.9には、2011年の高級官僚の人事異動に、首相他政権の恣意的な利益を求める背景があったと裁判所が認めて、その当時のYingluck首相、ほか9大臣の辞任騒ぎがあった。

これで、反政府運動の思惑通りになったのであるが、治まらないのは政府支持者である。タクシン元首相時代から支持する赤シャツ隊などが、バンコク郊外で大規模な集会を開催していた。

反政府運動の拠点に手榴弾が投下されて死者が発生したり、軍のクーデターにより徹底抗戦するといった、赤シャツ隊の支援者の倉庫などで大量の兵器が発見されたことから、5/20タイ陸軍が戒厳令を発令。その時点では、クーデターではない、内閣は存続といったが2日後に無血でクーデターを実行。5/28に国王の勅令を得たことからクーデターが承認された。

5/20の戒厳令では、同時に夜間外出禁止令が発令されてことから、日系の工場経営者は対応に苦慮をしたのである。

現在のタイ企業にはいくつかの課題がある

1) 長期の課題、タイの政治リスクと投資・貿易の障害

クーデター実施をした軍部は,国家兵亜秩序評議会(NCPO、団長は陸軍司令官)を設置し、タイ人だけではなく、外国人の投資家、観光客には危害を及ぼさない、と明言。 タイ中央銀行の総裁発言を待つまでもなく、諸外国はタイの現国王統治下で12回もクーデターがあったことから、タイ国民は冷静であり、また諸外国の信頼回復を急ぐとみられる。

2) インフラ整備、リスク削減

タイ国内の生産コストの中で、物流コストの重みが課題になってきた。このため、陸上交通の一部を担う鉄道の再活用が議論されて、複数線路による鉄道の高速化も課題の一つである。NCPOでは、6/3の新聞報道では、複合線路のプロジェクトは従来どり進めると発表。 同時に2011年に起こった洪水対策も実施が遅れている部分もあるが、通常予算の範囲であれば2013-2014年予算は執行される。

3) 短期の課題

夜間外出禁止令のように、日常の企業活動に影響がでるとみられる措置は、各社ごとに対応してゆかねばならない。5/31に面談したF日系工場の社長も、夜間勤務者への対応、夜間に帰宅できない社員の宿舎の手配など、非常事態の対応に追われた、とのことである。F社の社長は2006年のクーデターも経験されており、今回もその時の経験が生きたとのことであった。

陸軍

(写真上は動かない戦車と陸軍の第2部隊正面)

 

5.その他、2011年の最低賃金の引き上げで、生産性は上がったのか?

タイでは2012年の4月から全国一斉に最低賃金が、バンコク並の300THB/日に上がった。当時の労働事務次官(賃金委員会会長)が、国民の給与を引き上げることで、タイ人の働く環境が改善され、生産性向上に取り組む意欲がわく、と説明をされてきたが、日系企業の多くは、この措置でタイ人が働かなくなった、と説明をされる場合もある。

(事例).自動車部品メーカーS社 同社の多くはタイ政府投資委員会BOI認定企業として、恩典を受けてきたが、新しく2012年に設立した工場はBOIの恩典を受けなかった。その理由は、外国人のワーカーの採用がBOI企業では実質上不可能だということから、恩典対象外の工場にされた。

現在、ミャンマー人、カンボジア人、ラオス人、タイ人が働いているが、幹部は、ミャンマー人を100とすると、カンボジア人80、ラオス人60で、タイ人は50とタイ人には厳しい評価をされている。

これは、支払う賃金とその労働の成果であるが、ミャンマー人が我慢強い一方、タイ人は飽きっぽくてすぐ仕事を辞める。このため、タイの自動車市場は、2014.1-3は前年比30%以下の販売ダウンで、生産現場でホンダが60%の稼働まで下げている。この影響で、同社の工場も生産調整をするが、ミャンマー人は削減しないが、タイ人の削減は第一にするという。

その理由は、2012年の最低賃金の引き上げである。企業経営者としては能率や生産性が向上するか、同じ製品を製造するタクトタイムが短縮できれば、それに応じた、成果配分をワーカーにも与えるが、それを無しに最低賃金を引き上げたことはタイ人には悪い影響を与えたのではないか、とのことである。

現在、アフリカのケニア、カンボジアをはじめ世界各国でも政府が最低賃金の引き上げをして、財政負担の無い、庶民の人気を得る政策を取り入れているが、上記の意見も参考にすべきであろう。最終的には、投資家がその国から逃げ出す要因にもなりかねないのである。

労働事務次官

(写真は2012年のOVTAセミナーで説明された当時の労働事務次官)

以 上