各国・地域情報

タイ

作成年月日:2013年12月

海外情報プラス

タイ国情報2013年11月

タイの反政府運動の余波、省力化、労働力確保

今月は標記の3つの課題とともに、補足としてラオスで労働法が施行される動きについてその一端を紹介をします。

1.タイの反政府運動の余波と危機管理体制

2. 労働力コスト上昇と機械化の導入について

3. 労働力確保と工場の地方分散、国外展開

4. (参考)ラオスの労働法施行への動き

1.タイの反政府運動の余波と企業の危機管理体制

先月は議論を呼んだ「恩赦法案」が11/3に下院を通過してから、上院で否決されるまでご紹介をしたが、それをきっかけに11月後半になって反政府運動がバンコク都内を中心に大きな動きとなってきた。

本稿では、政治の動きを紹介する目的ではなく、それによって日系企業など一部余波を受けている実情を紹介するとともに、日系企業がとっている危機管理体制の一部を紹介する。

反政府運動の目的は、現政権の背景にいるタクシン前首相などタクシン派の一掃を狙い、政府機関をデモ隊によって占拠し、政府機関の機能を麻痺させるゼネストに近い活動である。主導者は元副首相、元民主党の幹事長を務めたステープ氏で、彼の活動を民主党が支持するのかどうか、党内でも意見が分かれている。しかし、現政権に対する反発から、民主党のアビシット党首は都内の街頭で行う示威運動にも賛同の演説をするなど、実質的には容認、応援をしているとみられる。

このような活動によって、11月中旬から財務省、広報局、首相府、エネルギー省、首都圏警察本部およびチェーンワタナに移転したタイ政府合同庁舎がデモ隊の占拠によって一部の機能はマヒしたり、12月上旬も行政機能の一部は分散をして、行政サービスが遅れ気味で行われているのが実情である。たとえば、政府の農民のお米の買い上げは収穫期が終わって、政府の倉庫に納入されたものの、農民への支払が遅延している、との報道もある。

デモ隊の参加者は、今までの赤シャツタイのように地方からの農民ではなく、都内に住む学生、サラリーマン、労働組合員、公務員が多いと言われる。民主党の支持基盤である南部出身者が多い。

デモ隊の直接的な攻撃対象とならないが、対象となった政府官庁の周辺に立地するF社の実情を伺った。同社では、デモ隊が活発に動くと予測された当日は休日とし、翌日も時間外の残業を禁止した。その後、反政府運動も対象を同社のあるSビルから他に移ったため、通常の企業活動に戻ったとのことである。その影響で、以後の数日は全員の残業が続いた。

同社では、2006年の無血クーデターや2008年の黄色シャツの反政府運動などでは直接影響を受けず、2011年のタイの洪水では大きな被害を受けた経験がある。そのため、企業の危機管理体制については、その後、計画を立案して、従業員にも教育を行ってきた。今回のように、政府活動の機能の低下で、タイ政府投資委員会BOIとの連絡などが遅延して、自社努力では対応できない事態への対策に頭を痛めているのが実情である。

警察本部の周辺に位置するセントラクワールドにある伊勢丹に構えるS店に取材をすると、大規模なデモが起こった日には、午後から建物館内の全員が退去して、午後は臨時休業になった。その後も、歳末商戦であるが、来店客の数が例年よりも少ない、との状況である。飲食店や小売店は大きな影響をあるようだ。

 

写真は移民局も入居するタイ政府合同庁舎

(写真は、市内の中心部を行進しているデモ隊の様子)

 

2. 労働力コスト上昇と機械化の導入について(印刷業界、縫製業界)

1)印刷業界

印刷業界の検査工程に活用する機器に導入に関して2社から意見を伺った。T社では、2011年の洪水で大半の機械が水没して、洗い直し、泥を抜き、再度調整して生き返ったものと、電子部品が水によって故障をしたため、取り替えたなど双方の設備更新費用が必要になった。ほとんどは保険によって更新ができたが、最新機器の導入は保険の対象外であって、検査機器の設置には至らなかった。

一方、I社では日本で使っていたある会社の検査機器を導入している。その理由は、客先が検査工程に機械を導入しているかどうかで、発注の差が出るため、やむなく導入をしている。では、客先から、検査機器を導入したからと言って、印刷単価を引き上げてくれるのか、というとそうではない。顧客の理解を得て、機器の設置ができないと、中小企業では自動化、省力化は難しいのが現実である。

2)繊維産業など労働集約型産業でも機械化に熱心な会社が

最低賃金が2012年1月から全国一律に300バーツに引き上げられて、今まで以上に生産性の向上を求められている。タイの縫製業界にあって、中国との価格競争力、生産性向上で負けない工場がある。バンコクの隣にあるS県のG工場を訪問した。欧米の有名ブランドを顧客に持つ同社では、5年ごとにミシンなど機械の更新を行い、顧客が工場を訪問した際は日本製のミシンの導入、ドイツ製のアイロンの導入など、世界で最新の機器を導入している。そのためには、顧客には世界の著名企業を得て、高い工賃でも高い品質、高い生産性で製品の加工を行っている。中国製との競争に負けないのか、と質問をしたところ、系幹部が商品を見せて、これが中国向けの製品で、中国国内でもコストと生産性に負けないため、中国の顧客から発注を受けているのだ、との説明であった。同社では、関連会社もあって、生地、染色、仕上げなどグループで繊維加工が行えるのが特色である。 都心近くで従業員が2500名も確保できている実情をみると、高い生産性によって従業員にも良い待遇を与え、工場内は冷房完備で夏でも快適な作業環境を提供しているのが背景にあった。労働組合などは組織されていない。

リサイクル業の工場

(写真は、G社の工場に掲げてある標語。「15%の賃上げも20%の生産性向上で確保))

 

3. 労働力確保と工場の地方分散、国外展開

ラオスの計画投資省の専門家に取材をすると、タイにある工場でも特に労働集約的な作業がある工場は、タイの工場が拡張できず、工場をラオスにも分散をしている。

たとえば、カメラのN社は、タイのアユタヤ県にあった工場が洪水で罹災をしたこともあり、現場での復旧をしたものの、リスク回避の点で、労働集約的な作業はサバナケットに工場を移転をしてきた。 また、着物の加工をするA社も、当初はタイ国内で工場を設立する予定であったが、タイの地方もバンコクも最低賃金になったことから、最低賃金が1/3以下のラオスの南部に工場を開設した。また、タイの東北部で人工かつらを製造するL社も、ラオスの南部に工場を増設して、東北部の工場は徐々に縮小の方向である。

従来、労働集約的な縫製産業などでは、東北部や国境近くの最低賃金が低いところで第2工場をつくってきたが、今では海外の労働者を雇う場合でも、タイ人と同様の最低賃金を支給する必要があるため、辺境に工場をつくるメリットが無くなった。このため、縫製業界でもJ社,T社が海外にも工場を新設し、F社では労働者確保が難しい都心近くの工場の製品を、今の時点では比較的労働者確保が容易な北部のR県に第2工場を開設している。

 

タイの人口構成の変化

(写真は、労働集約的な工場の写真 )

 

4.(参考)ラオスの労働法施行の動き

12/6にラオス政府と日本大使館が毎年主催して開催される官民政策会議に参加してきた。席上で、ラオス国立商工会議所の代表からラオスで労働法が施行される動きについての報告があった。

たとえば、2013年に最低賃金が決まられたが、社会主義国であっても政府が一方的に決めるのではなく、使用者代表の商工会議所、労働組合、および政府の代表の3者構成の会議があり決定されると報告がなされた。

これ以外にも2015年にアセアン経済共同体が構成されると、域内の熟練労働者の移動が自由になる可能性もあり、ラオス国内で労働者が海外に出稼ぎをせずとも最低の生活が保証される労働者の賃金や福利厚生が確保できるような仕組み作りを考えた法律案が検討されている。商工会議所としても、他国に労働者が出なくても良いように教育面などの充実を教育省や工業省とも検討をしているとの報告がなされた。

 労働法は12月に開催中の国会で審議をされ、2014年には施行される動きである。

 

カンボジアの休みで首都らバスで田舎に帰省する人々

(写真は?/6に開催されたラオス-日本政策会議の様子)

 

以 上