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タイ

作成年月日:2013年11月

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タイ国情報2013年10月

技術移転、年末の賞与交渉開始、タイの法制度

今月は標記の3つの課題とともに、補足として日本から東南アジアに進出した日系企業が周辺国に技術移転を行う場合の課題の一例を紹介をします。

1.日本からタイへの技術移転について

2. タイの年末賞与交渉開始について

3. タイの法制度について

4. (参考)2011年の洪水の経験と2013年の洪水の違い

1.日本からタイへの技術移転について

技術移転については、様々な議論がなされてきた。繊維産業を例にとると、先進国の産業発展とともに、初期、成長期、成熟期、衰退期という産業のライフサイクルがあった、成熟期から、衰退期に産業が発展していない地域に進出する場合、後発国にとっては先進国の技術移転がなされていると言える。その場合、先進国企業から、後進国に直接投資をされる場合と、後進国が先進国から技術そのものを購入したり、技術者の派遣によって技術を高める場合がある。

今回、取材したタイのP電動機メーカーでは、日本をはじめ先進国の技術指導で、国内ではある程度の市場規模をもっているが、さらなる技術進歩のためには素材とともにコアである軸の金型技術の導入、巻き線の巻き方など学ぶ機会がある。

オーナーとしては、ある程度の市場規模を占拠している限り、さらなる技術の向上を望んでいない。しかし、先進国側から何らかの働きかけがあれば、検討する、という姿勢であった。

その場合の課題は、ノウハウ、知的所有権の評価の仕方がタイでは、まだ確立をしていない。特許や商標に関する制度面は十分整備されているとは言えない。

この点は、後半で述べる、タイの法律制度が先進国型になるためには、司法、行政面でも先進国の制度、仕組みの導入が必要である。

自社内での技術移転については、日本の企業でも、すでに技術者の本社採用など10年前から開始しているT電機のように、人材募集の段階から取り組んでいる事例もある。

 

写真は移民局も入居するタイ政府合同庁舎

(写真は、取材をしたP電動機メーカー)

 

2. 活況を呈する自動車業界の年末賞与と労働集約型産業の工場閉鎖

1)自動車業界

大手自動車メーカーのM自動車社では、9月末の労使交渉によって、年末賞与の支給は7か月分+55,000バーツという水準で妥結をした。 これ以外には、T自動車が10か月+20,000バーツ、I自動車が10か月+15,000バーツ、 H自動車が8か月+80,000バーツとなっている。これによって、同業他社のAAT(マツダ・フォード)が社の水準に追随するか、どうか注目されている。

一方、A自動車部品会社の労働組合では、組合員6か月+60000バーツ、非組合員には5か月+50,000バーツの要求を行っている。

2)繊維産業など

労働集約型産業 最低賃金が2012年1月から全国一律に300バーツに引き上げられて、最大で2年間に2倍近く引き上げられた県もでてきた。そのため、繊維産業を中心に国境付近の外国人労働者が使えた県でも、最低賃金の引き上げの影響を受けて、一部は周辺国に工場を進出している。しかし、サハパタナグループのフットウエアメーカー、シントン社の工場閉鎖による数千人の賃金未払い、サハファームのゴールデンラインが業績不振で6000人、サハパタネピブングループのパンパシフィック・フットウエアが2000人の従業員を解雇して工場の閉鎖を行った。このように、タイ国内の産業の動向によって、業績に応じた高い賞与が出せる業界と、後進国の追い上げなど食らった中進国入りをしたタイでの労働集約産業の閉鎖など、両極端な労働市場の事例が見ることができる。

これによって、労働者の移動が一層激しくるのか、と聞くと、家族があり、その地域に根差した労働者はたとえ、解雇されても、元の工場に近いところで、就労の機会があれば、再就職をするだけで、中国国内のように東北部から南部まで数千キロも離れた職場に移動する事例は少ない。

リサイクル業の工場

(写真は、M自動車のLMC工場、概観)

 

3. タイの法制度について

タイの法制度がゆがめられると、批判を受けている法案がある。

これは11/3に下院を通過した国民融和法案、言い換えると恩赦法案である。 この法案は現政権、与党のプアタイ党が選挙公約に掲げて、今までの2年間に議論を重ねて与党勢力が過半数を握る下院を通過、近く上院にて審議が開始される段階となった。

内容は2006年9月のクーデター以降2013年8月までに政治的な対立で、自由な示威行為、デモ集会に多くの規制をかかり、反政府運動を行うことを指導した指導者、指導を受けて逮捕された受刑者および上記のクーデター後の政府が組織した資産評価委員会、汚職追放委員会により資産凍結されたタクシン前首相など犯罪者が恩赦を受けることは、世界からタイでは汚職をしても恩赦があるという国際社会からも批判を受ける、ということで野党の民主党が主導になって、反法案の活動がなされている。

このような法案作成に至る過程がここ2年間続いたことから、国会解散も含めて、与党が上院議員にどのような働きをするのか注目されている。上院議員は半数が選挙によって選出されるが、半数は、裁判官、行政のOBなど勅令で任命された議員である。 3権分離の建前であるが、行政の意向を司法が判定しているのかどうか、不明な点も多い。司法の世界では、民法、刑法とも3審制となっているが、知財など特別事案は、高裁が初審で、最高裁が最終決定を行う。 ただし、行政内部の対立がおこると行政裁判所があって、民間同士の紛争とは異なった体制となっている。

 

タイの人口構成の変化

(タイの司法制度についての日泰共同の 主催で開催されたセミナー )

 

4.(参考)タイの洪水、2011年の経験と2013年の事例

2年前の洪水を体験されたT社の工場長のお話を伺った。直前まで、大丈夫と思って、会社の周囲を土嚢で囲ったり、セメントのブロックでカバーをしたが、現実に洪水にあった2011年11月1日は、思わぬところから水が噴き出して、あっという間に人間の胸までつかった。 工場が近所にいくつか分散していることから、最近の機械を設置した工場だけは何とか守らねばと、社員と一緒に20日余り会社に寝泊りをした。その期間中も、得意先から納品が遅いなどクレームがあったが、当事者にすれば、自分の責任でもない天災のために寝ずに守っている立場を理解してほしかった。 最初の2週間は、その代替策を考える余裕もなく、ある程度見えてきた段階で、同業他社に代替生産を頼んだ。

しかし、一番のお客の製品については、水が引き出した12月1日には機械を動き出して年末の納期までに納品ができた。これも、社員の協力のお蔭だと感謝している。 ご本人から、2013年の洪水の対策をお聞きしたところ、政府はあてにできない。自分の城は自分で守るしかない、とのことである。

T社は、海外ではフィリピンにも工場があって、こちらはここ3年、毎年洪水の被害にあっている。今年こそはないと思っていたのだが、被災して、タイからも応援を送っている、とのことである。 今年は、タイ中央部では洪水の被害が少なかったが、東部の工業団地では影響を受けた。 これはカンボジアからタイにかけて2回もの低気圧の襲来で、カンボジアでは、タイ側から少し低い地域を守るため、国境の内側に土嚢を築き、タイからの水の流れを押しとどめた。このため、逃げ場を失った水が、国境周辺のシーサケットやプラチンブリ県に逆流して、県庁所在地が1mもの冠水にあった。 同地では80歳になる高齢者が、。今まで始めてあった洪水だとの報道があったが、我々はここ20年間で、タイの地形が大きく変わったことを理解する必要がある。

今までは、貯水池、遊水池であった場所が、埋めたてられて工業団地や宅地になり、洪水の一時的な増水をカバーする場所がなくなっている。 日本からの洪水の対策も、タイでは役に立たない場合もある。地形的に1か所で1か月も水が引かない、という海抜の差がほとんどない地域に大規模な水の塊が押し寄せると、逃げようがない。この点の、災害への経験も派遣する駐在員が交代されるとともに、徐々に忘れられるのである。

 

カンボジアの休みで首都らバスで田舎に帰省する人々

(2011年の洪水のアユタヤ県ハイテック団地のゲートには船が配置されていた。)

 

以 上