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タイ

作成年月日:2013年5月

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タイ国情報2013年5月

−自動車部品業界、IT業界、サービス業界における人材確保と育成−

2012年4月からタイ全土で最低賃金が30-40%上昇したことから、使用者側は様々な対策をとってきた。2012年の本タイ国情報ではその影響を都度取り上げて報告をしてきたが、使用者がとった大きな対策は次の通り。

1. 残業時間の削減。これによって労働者側は手取りの賃金が減少をした事例も多い。

2. 使用者側としては、受注減や原材料不足から工場の一時閉鎖を行い、労働法75条の規定で、従来の賃金の75%を法の定める期間だけを支払って補償をした。

最低賃金の上昇は、逆に労働者の手取り賃金を削減した場合がある。また、食料や家賃の上昇により、最低賃金水準で働く労働者の流動性を高めたという側面もある。使用者側は、解雇保証金を支払わずに従業員数を調整できたわけである。労働者の供給を人材派遣業の活用で対処するという方法をとる企業もある。

タイ労働省の2013年5月の報告では、2013年1月から3月までに187社(資本金の平均2048万バーツの中小企業)が閉鎖して10,000万人の労働者が解雇された。しかし、そのような事例があってもタイの雇用統計情報では失業率が1%以下であるという事実もある。

(注)タイの失業率統計では、失職しても田舎の農業に戻ったり、屋台など自営業になった場合は、失業者にはならないなど、日本の統計手法とは異なる。

さて、今月は、タイ政府投資委員会BOI主催の日系企業向けセミナーとして、自動車部品業界参入をテーマに5/17セミナーを企画運営した。また、日本から自動車部品、IT業界、設備業界のタイ進出に関しての市場調査などあって、その関連でタイ企業への訪問をした。

そこで、特に今月は次の3つの課題を紹介するとともに、タイでの日本語と中国語教育に関しての違いなども紹介したい。

1. タイの自動車部品業界参入の条件(5/17BOI日系企業セミナーから)

2. IT業界のタイ企業との提携可能性について

3. 設備業界のタイ進出について(単独ではなく、提携も)

4. (参考)タイにおける中国語教育と日本語教育の違い

1.タイの自動車部品業界参入の条件(5/17 BOI日系企業セミナーから)

5/17開催のBOI主催セミナーは、大きなテーマを「自動車産業の発展との自動車部品業界参入の条件」と題して、タイでの日系中堅中小企業がどうすれば自動車部品業界に市場を拡大し、新規参入ができるかが議論された。 以下簡単にセミナーの内容とおもな論点を紹介する。

1)タイ政府投資委員会BOIから新しい投資政策の実施時期が遅れる可能性について言及があった。その背景として、投資インセンテイブの対象が10業種に絞られ、多くの対象業種がBOI恩典から外れるという産業政策の転換時期である。

2)アセアンの自動車市場の動向について、鹿児島県立大学の山本講師(自動車専門予測会社、IHSAuto Motive 前Bangkok所長)から説明があった。特にタイ政府の自動車政策により、アセアンの一大生産拠点になっていることから、周辺国との生産規模の違いが大きい。今後の動向としては、エコカーに代表される小型化、経済性の追求と、ハイブリッド、電気自動車に代表されるように環境対策が自動車生産にどのような影響を与えるか、注目する必要がある。

3)大阪産業大学工学部の前川教授から、日本の自動車メーカーの海外進出によって国内企業は市場拡大が難しいことから、タイをはじめアセアンへの進出が増えている実情が紹介された。その際、中小企業は地場企業との提携を進めることで大きなメリットがあると説明された。同時に日系自動車メーカーの意向も紹介されて、次の2つの課題が重要だと説明された。
@セットメーカーの下請けから、セットメーカーへの提案企業になれるかどうか
Aセットメーカーの関連情報収集力の強化、の2点。

4)最後に自動車メーカーAuto Alliance(Thailand)(Fordとマツダの合弁会社)の購買責任者清水氏からマツダの現地での調達戦略を紹介された。

5)5/19に受講者と、前川教授、山本講師との懇談会もあって、当日のセミナーから今後の日系企業の課題についてより掘り下げた意見交換がなされた。
前川教授が提示された2つのポイントは、今までも日本国内でも議論された内容と同じであるが、今まで以上に現地政府の情報も入手する必要がある。

6)自動車部品業界の市場調査で、自動車の販売店における洗車サービスを数か所取材をしたが、現場ではタイ人ではなくミャンマー人が6名、洗車作業をしている場面に出会った。数年前から、自動車部品製造業では、外国人の労働者が勤務している現場を見てきたが、今や販売店レベルでも外国人のワーカーがいるのである。
販売店の責任者に聞くと、タイ人ワーカーが集まらないこと、単純作業は嫌がることから、小さな(とはいっても200名程度の従業員がいる)販売店では外国人を採用している、との説明があった。

7)そのような事実から日本から進出する自動車部品メーカーは、タイの失業率は1%以下という人材確保の難しさを理解することが重要である。また、タイ人だけではなく周辺国の外国人も労働者として活用し、教育するという人材確保、人材育成の課題もある。したがって、このような現状を理解し、将来の日系企業を担える問題意識を持った幹部人材を確保し、育成できるかどうか、によると思われる。

BOI日系企業セミナー 外国人が働く自動車販売会社

2. IT業界のタイ企業との提携可能性について

1)今回、日本のIT業者(中小企業)は、従来、中国、ベトナムと提携関係をつくってきたが、中国でのコストアップ、ITプログラミングの取り組み姿勢から、東南アジア、特にタイで提携先を探したい、という要請から動いたもの。

2)条件としては、日本語でコミュニケーションができることが第一の条件であった。自動車部品メーカーも同様、日本語のコミュニケーションができることが第一の条件であり、日本企業の海外進出を阻害する条件がコミュニケーション能力といわれる通りである。

3)幸いにも、タイのソフトウエアパークなど、科学技術省傘下の団体などの協力から推薦を受けたIT関連の中小企業、数社が候補に挙がった。しかし、タイの候補会社の課題は日本語であった。

4)結果として、日本留学生のタイで通訳をする方が中に入って、コミュニケーションは図れたが、細かな課題は残った。

5)日本から海外に進出を考えるIT企業の場合、PC言語は世界共通であっても、課題の説明、インプットのマニュアル作成などが日本語しかできない場合は、候補が限られる。もし、この点が英語も併用できれば、アセアンだけではなく、広く提携先を探せることになる。

6)この点は、タイ政府もPCの活用と英語の普及に力を入れているように、日本政府も同様の課題があると言える。

7)人材育成の基本が、言語を含む基礎教育だとすれば、タイと日本は同じ課題を抱えていることになる。

日本語でコミュニケートできるIT会社 通訳を使って打ち合わせをするIT会社

3.日系の設備業者がタイ進出の条件について

1)今月は設備工事業、メンテナンス整備業などサービス業の進出の相談案件があった。

2)タイの外国人事業法では、外資ができる事業を法律で規制された分野がある。最大の課題は卸売、小売など、サービス業の大半が外資規制の対象になっている。

3)それを迂回するため、名義貸し(ノミニー)を使った事例が多かったが、2010年1月に、当時の首相タクシン・シナワトラ一家が所有する携帯電話会社AISが、シンガポール政府系の投資会社、セマサクによって買収された際にもノミニーを使ったのではないか、と国民の多くが感じた事件がある。これは、2010年9月のクーデターにつながる事件であるが、それ以後、ノミニーに対する官民の目が厳しくなっている。

4)そこで、一部はタイ政府投資委員会BOIの投資恩典を取ることで、外資100%の会社を設立する動きがでてきた。

5)一方、合弁会社設立となると、日本から進出する企業は提携先探しが大きな課題となる。法律事務所や弊社のような市場調査会社により候補企業がないか、探すことが多い。しかし、合弁事業の難しさは、言い尽くせないほど世界各国で起こっている。

6)しかし、上記の制約条件があってもタイに進出したいという企業の多くは、国内市場の縮小から、成長する市場、特に東南アジアに拠点を持ちたい、というもの。その場合も、タイだけではなくAEC2015をにらんで、大きな市場をどう取り組むかが、最初の経営課題である。法律面と経営面で、大きな課題をかかえることになるが、一部でも軽減できれば海外進出は進むとみられる。

7)上で述べたように、日系企業のコミュニケーション能力の乏しさを打ち破るためにも、日本にいる留学生の活用、タイにいる日本語人材の活用など、設備業界においても、どのような人材を確保するか、進出の前から考えねばならない、労務・人事面での大きな課題である。

 

4.(参考)タイにおける中国語教育と日本語教育の違い(将来の日本語人材の確保)

1)タイのバンコク大学で日本語を指導される講師に最近、日本語人材の供給はどのような状況か伺った。

2)2010年を境に、中国語の普及が急速に広がっている。今では、タイの中国語を学ぶ教育機関では40万人もいるが、日本語は7万人程度である。

3)同大学でも、2010年に日本語学科設立の動きがあったが、それを押しのけて中国語学科が2コース出来た。その理由は、日本政府の海外での日本語教育普及予算が限られることに対して、中国政府の発展途上国向け中国語普及予算が、けた違いに大きいことである。

4)これは、タイだけでなく、カンボジアなど東南アジア各国を取材しても感じることである。

5)したがって、日系企業の海外進出を応援するのであれば、日本語教育の普及は忘れてはならない、基礎的な課題だと言える。

以 上