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タイ

作成年月日:2012年8月

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タイ国情報2012年7月

−タイとその周辺国に進出予定の日系企業(その2)−

特集

今月は、6月に続き、タイの周辺国のベトナムとミャンマーを訪問。月末に日本出張がありました。この関係も含め4点ご報告をします。

第1は、タイに進出20周年を越える日系の繊維業界の1社が何を考えて、次の行動を取ろうとしているのか、です。今回はT社のカンボジア進出の準備状況について紹介します。第2は、7月末にタイやアセアンに進出する予定の日本企業を訪問する機会がありましたので、日本から見たアセアン進出の課題を紹介します。1985年当時の進出ラッシュと異なり、今の進出は、労働コスト削減よりも市場重視、顧客重視の戦略をとる意向が強くあります。 当方が取材した周辺国との比較からタイでの進出の理由、省力化、人材育成に関しての課題を紹介します。第3は、7/24にバンコク日本人商工会議所の労務委員会が実施した賃金調査を紹介します。第4はタイに工場を持っていたS電機の元副社長から、JVにおける労務管理を現地側に任せていたことから起因する労働争議のきっかけと、反省点を伺いました。

1. 労働集約産業(縫製部門)の事業継続策

T社

1)概要 : 1987年現地企業との合弁でタイに進出。現在、2工場、従業員2300名。テキスタイルと縫製部門を持つ。2年前から、縫製部門の地方分散を考えてきたが、2011年のタイの洪水により1つの工場が営業休止に追い込まれたことと、2012年4月から最低賃金が40%近く引き上げられて生産コストの上昇があっても顧客は他国との価格競争の影響で、いっそうのコストダウンが必要なことから、地方分散を国内だけではなく、周辺国も含めた一部移転を検討している。

2)課題 : 日系企業として、各部門の責任者が日本人であるため、同業のタイ企業と比べてコストが高い。そのため、如何に現地化、現地人の幹部を育成するかが課題となる。そこで、事業見直しの委員会は、タイ人が中心となり社長への提言をし、また今回の海外進出も、委員長は日本人であるが、タイ人とともに海外進出を考える委員会を設置した。既に、現地にも足を運び、工場の選定などF/S活動を行っている。

3)現地の教育 : タイに進出当初はJODCやOVTAの制度で技術移転を行っていたが、今後はそのような仕組みが周辺国に進出する場合も適用できないか、との課題もある。
従業員が2000名を越えると、中には周辺国の言葉も出来る従業員がいる。そこで、当面は提携企業の従業員の教育から始める予定であるが、いずれ自社工場が出来るならタイ人が幹部となる体制をとる予定である。

2.タイやアセアンに進出予定の日本企業の事例とその課題

T社

1)概要 : 本社は九州。電機、自動車業界向け金型製造業。日本の従業員は60名あまり。全員正社員。進出する予定地はタイの東部。既に、工場用地は購入して、現在は進出の準備のためオーナーの3男が責任者となり営業活動、採用活動を行っている。

2)主要な顧客からは、同社の技術を高く評価されているため工場の設備はほぼ日本の設備を持ち込む予定。タイ人の新規採用者も、日本で使用した機械が現地でもそのまま使用できるように準備をしている。

3)タイの最低賃金上昇も承知しており、高い技術力を維持するには、熟練した従業員を育成することも重要だが、同時に、設備や機械も日本同様に進める必要があるとの認識がある。

4)業容の拡大 : 同社の販売は、当面は電機業界が主体であるが、自動車業界の電子化が進めば進むほど、同社の技術が重要になる。

5)今後の傾向 : 同社のように、今までのタイ進出の企業からすれば、出遅れてはいるが、高い技術をもち、従来からの顧客の信頼が高い会社は、設備も日本並み、従業員の教育には時間がかかっても、日本での実習を経験させて育成すると、日本に近い製品が出来ると思われる。タイから見ても、技術力の高さが高く評価される会社である。

K社

1)概要 : 本社は大阪。自動車部品製造業。1959年創業。創業者が現在も社長。息子が副社長。工場は国内3工場。従業員は431名。無借金経営。

2)海外進出 : 顧客の自動車メーカーの要請で、中国では協力工場から出荷しているが、東南アジアについては同社自身が子会社を設立するように取引先からの要請がある。

3)コストダウンへの対応力 : 同社は、自動車部品だけではなく工場の建物建築から設備自体も自社で手がけるほどの技術力が高い会社である。(創業者の息子の一人は医者でもあって、将来は工場内に病院もある会社になる可能性もある)

4)進出先検討の課題 : 取引先への納入に便利な場所が第1であるが、第2に他社への納入も考える必要がある。第3は、原材料、部材の調達など、同社は日本では大手自動車部品メーカーと対等に付き合えるほどの高い購買力があるが、海外でもその力が、発揮できるかどうか。今までは、国内重視で、海外には余り目を向けていなかったのが事実であった。海外に進出しても、同社のもつ技術力、総合力が生かせる会社にできるかどうか、が課題となる。

5)現職の社長からは、海外進出の初期投資の回収は求めない。次へのステップと考えている、との言葉から、次世代が海外展開を任されているのである。海外進出によっても屋台骨が揺るがないほどの財務基盤が充実し、技術の高い会社であればこそ、今からの海外進出が求められているといえる。

3.バンコク商工会議所(JCC)、賃金調査

7/24にJCCの賃金委員会が実施した2012年賃金実態調査の発表があった。

JCCの会員を対象にした調査のため、日系企業の大半を反映しているといえるが、各社の給与算定に活用する場合は、調査の対象、職種と経験など詳細に報告書を見た上で、活用する必要がある。概要は以下の通り。

1)初任給 2012年の最低賃金の引き上げの影響もあって、学歴、経験の少ない層の初任給は2011年と比べて、40%近い引き上げがあった。

2)ただし、高学歴の技術者の初任給の引き上げは、それほどではない。

3)実在者給与の調査では、事業部長(Director)130,000バーツ、部長(General manager)80,000バーツ、課長クラス(manager)41,690バーツが中央値になっている。

4)各職種別の給与など、詳細は添付の通り。

4. タイの合弁会社の副社長時代にあった労働争議の原因と反省点

S社(日本の家電大手の子会社、現在は中国資本)

1)進出のいきさつ : 同社は、日本ではM電機と競争するほどの高い技術を持つ家電大手の1社であった。早くから、国内市場とっともに海外市場を重視して、展開を行っていた。東南アジアでは、シンガポールとタイに合弁会社を設立。

2)タイの合弁先は、以前から同社の代理店として同社の商品を販売していたことから、人事、経理、総務がタイ企業。営業と生産は日本企業が担当する形式を取っていた。従い、労務管理の直接の責任は、タイ側が担当するとの役割であった。

3)工場移転と労務管理の難しさ : バンコク周辺にある工場の周辺が宅地化、商業化が進展したため、工場を東部の工業団地に移転することになり、準備を始めていた。そのことから、従業員に人員整理の恐れが金属の再生工業を行っていたが、海外では原料調達に近い分野の進出をうわさが広がり、また年末の昇給、賞与の引き上げの要求に対して、会社側が断固拒否。団体交渉も暗礁に乗り上げていた。

4)12月の始めに数回の団体交渉があったが、進展せず、日本側が妥協を提示することも出来ないことから、労働者側が労働争議に入った。

5)そのため、ある日の団体交渉でも経営陣の安全を考えて、警察官の導入をはかり、従業員とのいざこざを起こさないように配慮をしていた。たまたま、交渉が終わり、日本人経営陣が裏から車で外にでるところ、表の労働者の集まるところから工場に火の手が上がった。警察隊も、なんら手出しをせず、暴徒となった労働者を静観したままであった。結局、工場は火災で大損害を受けたが、いまだに犯人の検挙にはいたっていない。

6)このため、バンコクの工場は閉鎖して、東部に作った工場に結果として移転したが、労務管理は製造部隊と一体となることから、日本側もタイ側と同様に関与すべきだった、と反省をしている。

7)これは、S本社のこれまでの海外工場管理、合弁企業のトラブルに対する経験が少なかったことから、パートナー任せに原因があると思われる。

8)残念ながら、日本の親会社も同業に買収され、海外の工場も大半は、中国系に売られたことから、日本の苦い経験は後に残っていない。

9)当時の現地の新聞などでは大きく報道された事件である。

 

以 上