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タイ

作成年月日:2012年5月

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タイ国情報2012年4月−最低賃金300バーツ時代への対応−

 特集

  今月は、4月から40%近い引き上げが決まった最低賃金の引き上げに対して日系企業はどのような対策を取っているのか、先月に続き食品、繊維業界なども対応を取材した。また、バンコク日本人商工会議所(JCC)でキティラット・ナ・ラノン副首相 兼財務大臣の「今後のタイの経済政策と治水対策」講演を伺う機会があったのでタイ政府の政策の一部もあわせて紹介する。

1.今、タイ政府首脳は国民の所得引き上げをどう考えているのか?

 4/26開催のJCC総会でキティラット・ナ・ラノン副首相の記念講演「今後のタイの経済政策と治水対策」の概要を以下簡単に紹介する。

1)今までのタイ経済の歩み:ほんの35年前にはタイは農業国であった。当時は失業率も高く、就業する機会が少なかった。その後、タイ政府は外国からの投資を招くため投資委員会を設置して海外の企業を誘致してきた。まず、軽工業を誘致して、産業化への歩みを始めた。しかし、当時は農業と観光が主体の産業構造であった。
2)35年後には、輸出と輸入が拡大して、タイの通貨の変動が経済に大きな影響を与えるようになった。1994年から1996年にかけては、外貨不足で大変な状況であった。同時に、その当時の課題は、富めるものはそのままで、大半の貧しいものはいつまでも貧しい、という状況であった。(注:ここに現政権の農民、労働者の所得を引き上げる政策の原点があると思われる)
3)しかし、1997年7月にタイバーツとUS Dallarとの交換比率は変動性を迎えて、タイバーツの切り下げが行われた。1997年にはバンコクの高架鉄道BTSが無く、市内は各所で渋滞が続いたが、経済危機後は一時減少したほどである。建設中の建物など一斉に休止して、労働者が地方に帰ったのである。
4)わずか、5年後の間に、日本からの投資が復興し、外国から資本が入ってきた。当時は、タイ証券取引所の理事長をしていたので、香港、東京、上海、ロンドンに出かけてタイへの投資を呼び込んだ。お陰で、2001年から2006年は海外投資が多くなったので、貿易収支の差額をカバーすることもできた。
5)2006年には政治上の事件、クーデターが起こり、貿易や投資に影響が出ると懸念をされたが、経済には影響が無く外貨準備高も増加をしたほどである。
6)しかし、2011年は順調に経済発展をしたタイも洪水によって大きな影響を受けた。 自分は、自然災害の対策など経験が無いので、日本からの専門家などの協力により政策判断の一本化、道路、鉄道、港湾などの整備とともに治水対策にも力を入れることになった。
7)今は、日本を始め各国はタイの周辺国への投資に関心が高い。ミャンマー、カンボジア、ラオス、ヴィエトナムなど。たとえば、タイはミャンマーのダウイーなど深海港の開発では、大きな協力が要請されている。
8)4月から、最低賃金の引き上げがあったことは承知の通りである。254バーツが300バーツになり、地方では約40%もの最低賃金の引き上げがあった。254バーツから300バーツなって大変だといわれるが、その水準で生活する労働者のことを考えてほしい。毎日の生活、住居費、米の価格など上がっている状態で5バーツの引き上げでも労働者が影響を受ける。
9)周辺国の経済向上の場合、タイ人が現地の労働者を指導する機会が増えるだろう。また、最低賃金の引き上げをしないと未熟練労働者の労働意欲が上がらない。もちろん、労働生産性の向上が必要なことは言うまでもない。たとえば、先進国では受付に行くと、1名の受付か、場合によれば誰もいなくて、電話だけ置いてある会社もある。タイでは、数名の受付がいて、電話の対応、荷物の受け渡し、来客の応対など個別に対応をしている。これは人件費が安いから、だといえる。
10)タイ人の労働者といえども高い賃金で質の高い暮らしを望んでいる。
11)資本家には、法人税の引き下げで報いたい。今までの30-32%だった法人税は2012年23%になり、2013年には20%を想定している。一方、付加価値税は引き上げの予定は無い。先月訪問した英国のロンドンでは156%から20%に引き上げる案がでていた。

(補足)
講演の後半は、質疑応答を予定されていたが、時間の関係で、これで打ち切りとなった。洪水対策など、小生は今までもタイ政府の基本計画を伺う機会が合ったが、参加者としてはこの機会に話を聞きたかったのではないか。ちなみに、タイ政府投資委員会主催で洪水の被害が大きかったアユタヤ県にて5-6月に開催される計画があり、このレポートでも紹介をする予定である。

2. 日系企業の最低賃金300バーツまたは40%引き上げへの対策、洪水対策

1) 自動車部品製造業S社 :最低賃金300バーツの対象になったサムットプラカン県。

従業員300名。労働組合有り。納入先、二輪メーカー各社。
@最低賃金の引き上げ :
 労働省の政策で、労働組合から要求するものではないと考えていたが、労働組合から上位者への格差はそのまま維持してほしい、との要望があったので、最低賃金の引き上げをするとともに各クラス5THB刻みで、引き上げた。労働者の意識としては、勤続や能力の違いを正当に評価してほしいとの、要望がある。たとえ、5バーツでも違いがあれば納得するが、同一の扱いだと、抵抗が大きい。
A洪水の影響 :
 わが社が、洪水保険の最初の支払いを受けた会社ではないか。取引先の四輪メーカーが冠水したので、その取引によって影響が受ける7万バーツ分は支払いを受けた。しかし、2輪メーカーは、従業員の安全と、部品業者の洪水による欠品で、自主的に2011.10-12月は休業をされた。保険会社の説明では、洪水保険は冠水した被害者向けの保険で、自主的に対応した費用は対象外だ、との説明だった。そもそも間接被害は対象になると思っていなかったので、2012年以降、日系の保険会社は洪水保険を抱える場合は、被害額の2-3%の保険料では済まない恐れがある。これをどう考えるか、タイ政府が自主的に洪水保険を作る動きもあるが、詳細は承知していない。

2)食材加工メーカーU社 :最低賃金300バーツの対象になったサムットサコン県。 従業員150名。第2工場はサムットプラカン県にもあり。

@最低賃金300バーツの対応:
 従業員は日給制30%、月給制70%である。4月から日給制は従来の230バーツはそのまま300バーツに引き上げた。月給制については、1日30バーツ引き上げて、30日分として900バーツの引き上げで済ませた。第2工場も、永年勤続が多かったので、この引き上げで納得をしてくれた。
A実は、昇給とともに7月から昇格をする。これには、現場の従業員の上司が1年の勤務振り、貢献度を評価して、上司の査定、最終は社長の査定で、昇給昇格を行っている。わが社としては、最低賃金の引き上げよりも、この昇給昇格により従業員の格差が大きく変わる仕組みを取っている。
B会社の貢献の一つは、国内販売の拡大である。従来は、納入先の食品メーカーから日本など海外に輸出される場合が多かったが、今ではタイ国内販売も増えてきた。そのため、国内販売の拡大にも力を入れて、この分野でも貢献する社員を評価している。 労働生産性の向上というよりも、営業の拡大に力をいれている。

3)繊維・縫製業界T社 :最低賃金300バーツの対象になったナコンパトム県。 従業員2300名。

@最低賃金引き上げ:従業員が多いため、勤続1年により60バーツ、最大は10年勤続まで600バーツの底上げを行った。それ以上、勤続が長い場合でも600バーツの引き上げのみ。
A永年勤続従業員の表彰:たまたま今年は創業25周年を迎えるため、永年勤続者を表彰する。同時に、親子で勤続する場合も、表彰をすることになった。
B創業20周年などの行事の内容:物故者の供養(僧侶9名ほどお招きする)、記念式典、表彰、今まで行ってきた奨学金制度の生徒選定と発表。会食といった単純なセレモニーとなった。これ以外には、25周年記念として時計を全員に支給することになった。顧客向けには、例年開催するゴルフコンペを25周年記念として開催。記念誌は発刊しないが、websiteなどに25周年事業の概要など、報告をする。
C洪水保険:同社から保険会社への請求は、被害を受けた工場の、機械設備、従業員の給与、被害軽減の経費(土嚢など)を含めて4200万バーツを請求したが、実際に受け取った金額は700万バーツである。このため、保険ブローカーを通じて、再度、納得できる数値を出してほしいと要求をしているが、説明がない。納得できるまで、交渉を続ける予定である、との説明があった。
D政府の失業補填:同社は、従業員の給与を洪水の期間中も支払ったため、政府から@2000バーツx2ヶ月x800名=320万バーツの補填があった。実際の給与支払額の1/4が補填されたことになる。

以 上