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タイ

作成年月日:2012年2月

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タイ国情報2012年1月−洪水の克服と新しい動き−

 今月は、昨年の洪水を経てタイの水資源管理政策、日系企業として洪水克服のその後の状況、一部撤退企業に伴う従業員解雇とタイ労働省の動き、洪水被災者へ政府の支援策など3つの課題を報告します。

1.タイ政府の水資源管理政策を含む投資条件整備の現状と課題

1/14にタイ政府の戦略的治水管理委員会とJICA共催のチャオプラヤ川治水管理セミナーがあった。講師は、タイ政府のKittiratt Na-Rong副首相とDr.Chuliat委員会の小委員会委員長。日本からは同委員会の顧問をされている竹谷顧問、国土交通省から河川管理部門の責任者、気象庁の計画の責任者、日本の水資源機構の土木技術専門家、東大生産技術研究所の沖教授など、治水管理の専門家を招いてのセミナーであった。

1)竹谷顧問の基調講演では、ハード面で治水管理をしても、想定以上の災害から国民と国土を守るには、ソフト面の治水管理、教育が必要だと強調をされた。

2)国土交通省の専門家から、利根川水域の治水管理は江戸時代からの懸案で、明治、大正時代を通じて、河口を東京湾に流さず、直接、太平洋に流す、大工事をしてきた歴史的な経緯を説明された。

3)気象庁からは、降雨量の予測、水資源機構から多目的ダムの水管理のノウハウと、実際の災害時の事例紹介。

4)工業団地のえん堤強化への具体的な提案。

5)東大生産技術研究所から、将来の洪水を避けるためのダム管理への提言など、多方面にわたる課題と対策が紹介された。

6)後半、タイ政府の水管理の専門家Dr.Chukiat Sapphaisaiを招いてチャオプラヤ川の治水管理の長期計画と2012年の雨季に向けての短期の課題について報告があった。

 <内容> *上流では森林地帯の保水管理、国土管理、国土の活用が課題 *中流では、地方の中核都市の災害防止、雨季のピーク時の保水管理と農業生産とのバランス、土地利用と土地開発計画の課題 *下流では、主要な経済地域を洪水から守ること、洪水の排水経路の確保、土地利用と開発計画など 同じチャオプラヤ川の治水管理といっても、上中下の地域によって目的が異なる。また、1999年JICAの提言にもあったように、一つの組織で、総合管理が出来る仕組みが出来ていないことが大きな課題として挙げられた。

7)Kittiratt Na-Rong副首相は、2011-2012年の予算で、緊急対策として120億バーツ、2013年予算で500億バーツの予算を年度予算から捻出できる、との説明があった。 しかし、長期計画としてチャオプラヤ川流域の治水管理として3000億バーツ、その他の地域の治水管理として500億バーツを想定していること。すべて、政府予算で行うのではなく、一部は官民協調の事業を行えないか、と検討を重ねているとの説明もあった。 今のタイ政府の財政は健全で、公的債務の比率はGDPの42%程度で、一応の目処と言われる60%まではまだ余裕があるとの説明だった。 

8)今回のセミナーからは、計画面での取り組みが紹介されたが、どの国も同じで、総論賛成、各論反対がある。まして、農業団体の利益、エネルギー業界の利益、産業界の利益は相反する場合が多い。その場合の、補償問題など、上記のインフラ対策予算だけではすまない課題もある。政治家のリーダーシップが問われる。 なお、各国のタイ大使館からも上記のようにタイ政府は洪水対策として相当規模のインフラ整備を行うことを説明して、投資家への正確な情報の提供をすべく努力をしているが、マスメヂアにて流された洪水情報のインパクトは相当強いものがある。

2. 洪水克服の過程で生じる労務面の課題、代替生産、サプライチェーンへの影響

1)A社:アユタヤ県の食品関連企業 冠水した工場で一番大きな課題は従業員の生活維持

@1997年設立。タイのアユタヤ県に進出。飲料製造業。
A従業員数 : 当時は250名。(契約社員も含む)
B冠水が一番早い団地であったので、事前の対策が取れなかった。
C一番困ったのが、被災した従業員の生活支援である。正社員100名のうち、90名が被災した。
D契約社員は、契約期間が終わると打ち切り。
E問題 *政府が休業期間中の補償(1名あたり@3000x3ヶ月)をしてくれると聞いたがいくつか条件があった。たとえば、試用期間中の従業員は119日以内に解雇できるとあって、仕事が無いため解雇したところ、休業補償の対象外として結局、補償を受けなかった。 *工場の機械設備は、入れ替えねばならないため、お客様への商品供給について、代替生産をお願いすることになった。いよいよ洪水が近いため、臨時に借り上げた倉庫に機械設備を移転することにして移転日も決めた。
F他に、同グループではハイテク工業団地にある工場も被災して、同様の悩みがあった。

2)T社(繊維原料製造業。従業員900名)
@現地に生産拠点の移管を: T社は1967年現地生産を始めて45年になる。T社の日本本社で2010年6月に、タイを繊維事業の基幹生産拠点にする計画を発表した。日本国内にある事業部の一部の生産を中止し、2011年度末までにタイの現地法人2社などに生産を移管。コスト削減を図り、2011年度の黒字化を目指してきた。 国内の事業所は研究開発(R&D)拠点とする。 タイの現地法人T社で生産技術力、開発力を強化し、基幹拠点とする計画。後工程の加工を担う中国、東南アジアの各拠点と連携させる。生産移管に備え、2009年から国内の事業所でのタイ人の教育などに取り組んできた。
A洪水中の代替生産: 被災に伴い、繊維製品の供給について、顧客・銘柄ごとに、国内事業所、インドネシアの関連会社、および台湾メーカーなどによるバックアップ生産を行い、影響の最小化を図った。
B復旧体制: 従業員の住居も浸水などの被害を受けたが、人的被害はなかった。また、安全確保のために一時帰国していた日本人出向者は、既に全員がタイに戻り、復旧作業に当たっている。現在、日本からの技術者の応援派遣を増員し、設備洗浄および分解整備の上、稼働可能な設備から順次立ち上げ、早期復旧を目指している。
Cタイ人のすばらしさ: 同社の技術担当のGMによると、安全確保のため、日本人が帰国した間もタイ人のスタッフが工場の管理を行ってくれて、設備の保全に当たってくれた。同社の進出の歴史が長い、ということもあるが、タイ人の愛社精神が遺憾なく発揮された、ということでタイ人を見直した、との感想があった。

3)D社(HDDスピンドルモータ用部品製造業)
@1990年創業。1994年タイ進出。
Aマグネット生産工場として操業開始し、世界中の約40%のHDDにて使用
Bロジャナ工業団地に進出した1994年の翌年、1995年の洪水でも団地の堤防が防いでくれたので、今回も期待をしたが、冠水。
C周囲には、タイ進出の歴史の長い会社が多く、海外の工場とは思えないほど日系企業の経営環境面では良かった。
D現在の顧客への納入実績から、現在の団地から脱出は考えていない。
Eただし、今後の洪水対策として考えられるのは、まず2階での生産。1階には、重量物などおかざるを得ないが、組立作業は1回で作業をする必要が無いため、まず取れる対策を考えたい。
F洪水保険の対象外となる恐れもあり、保険制度は検討の必要がある。

4)JETRO BANGKOKでは、1/11に2011年10月に発生したタイの洪水被害を受けた 日系企業関係者192人に調査し、95社の状況を調べた。
  調査では、95社のうち工場浸水など直接的な被害を受けたのは50社で、45社は調達先が被災するなどした。50社のうち、39社は同じ場所での事業継続を希望し、撤退すると回答した企業はなかった。3月末までに半数以上の28社が事業再開を見込み、製造業4社は再開のめどが立っていないが、「再開断念」とは回答していない。JETROは「国外での新たな設備投資には時間もコストもかかるためではないか」と分析している。

3. 大洪水による従業員解雇とタイ労働省、洪水被災者と政府の支援策

 解雇者の再就職支援:2011年12月末からメディア報道等によると、今般のバンコク北部を襲った大洪水によりアユタヤ県等での事業再開を断念する企業が散見される。それに伴い整理解雇が相当規模で実施される可能性が出てきた。(たとえば、CANON HI―TECH工場は閉鎖して従来の従業員は新工場に転勤するか、解雇と通告した。Nakorn-Rachashima県の工場拡張と新規にPrachinburi県の工業団地に新規工場を建設予定がある)
  そこで、盤谷日本人商工会議所(JCC)、ジェトロ、タイ労働省では、アユタヤ県等での解雇されたタイ人従業員の再就職の斡旋をするため、在タイ日系企業によるタイ経済復興支援の一環として、下記のとおり「タイ人失業者再就職斡旋セミナー及びジョブ・フェア」が開催されることになった。

1.日 時: 2012年2月16日(木)終日 ※08:00〜17:00を予定
2.会 場: アユタヤ・パーク・ショッピング・コンプレックス・駐車場エリア
3.参加企業:全体の参加企業数は100社前後の予定。

以 上