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タイ

作成年月日:2011年12月

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タイ国情報 2011年11月−洪水と日系企業の状況−

1. 1. タイ政府の首脳は洪水の現状やその後の対策をどのように考えているのか?
―11/24の外国人特派員クラブでのキアッテイ副首相の講演から

1)洪水の原因 
タイ政府の公式見解は、70年ぶりの大洪水であり、人災ではなく、自然災害だ、との認識。確かに、今年は洪水への準備が不足していたことは事実である。

2) タイの経済構造と現政権の課題
  米国の資産は1%の富裕層が70%もの資産を保有すると言われるが、タイでも所得配分に課題がある。このため、現政権は、国民所得のバランスを考えて貧しい労働者や農民に所得配分を変える政策を打ち出している。たとえば、米作農家に1トン当たり15,000THBで買い上げる制度や、労働者の最低賃金を全国一律に300THBにする政策などはそのひとつである。

3) 周辺国との関係
  ミャンマー国内の経済開発をタイ政府が支援するのはなぜか。タイ国内には公式な滞在許可があるミャンマー人が1.5百万人もいて、非公式には5百万人もの滞在があると言われる。そのため、国境周辺の経済開発を支援することは、総合的に見てもタイのためにもなる。

4) 東西冷戦で、東欧の経済政策は失敗したと言われる。
それは、農業と工業のバランスある発展が出来なかったからである。

5) 財政金融面
現在は、洪水の影響で2011年の経済見通しは4.5%から2.5-3.0%に下方修正をしている。しかし、2012年は復興需要とインフラ投資により経済は大きく伸びると見ている。一方、洪水にもかかわらず、インフレーションの影響は小さい。公的債務もGDPの42%程度で、欧州の経済不安を起こした国と比べても健全。従い、中央銀行の政策金利は抑えるべきだと考えている。

6) 2015年のAEC(ASEAN共同市場)の達成を目指して
国境を越えるモノの動きが活発化している。周辺国との交流を深めることが重要である。ミャンマーなど周辺国に対するタイ政府の姿勢はオープンである。

7) 日本との関係 
洪水に対して日本政府はいち早く、専門家を派遣して、復興への提案をしてくれている。海外投資を歓迎するとともに、復興へのインフラ整備にも支援を要請するために日本へ出張する(11/28に日本へ)

8) TPPなどに対して
日本の姿勢を注目している。その理由は、農業などへの影響が見えないため、ASEANの中でもTPPに参加するのはタイが最終になる。

9)感想 
副首相はシナワトラ大学の元学長。新政権から請われて学識経験者、エコノミストとして副首相に就任されただけに、明快な説明であった。災害を悲観するよりも、災害から立ち上がる政策を立案する政府の姿勢が明確であれば、時間と資金の制約があってもタイ経済は立ち直る可能性が高いと思われる。

2.洪水被災企業の実情、4社のヒアリングから

1)K社(自動車部品製造業。150名程度)
@自動車部品の安全装置の一部を製造する会社。
工場がアユタヤ県にあるR団地に立地して、最高3mの水に冠水。団地から、大丈夫だと言い続けられたので、持ち出すべき重要書類が持ち出せなかった。
A現状 
取材した数日前に、工場の現状確認のため、ボートで現地を見てきた。機械設備はすべて冠水して、どれだけの被害か、不明。
B従業員対策 
全員に、10月11月分の給与は全額支給。労働法上には75%でよい、と言う意見もあるが、困ったときには会社として出来るだけ社員を応援したい。

2)D社(化学業界。従業員98名)
@パトムタニ県にあるナワナコン工業団地に立地。
過去、洪水で道路などまで冠水した経験はあるが、建屋すべてが冠水したことは無い。
A従業員
永年勤続がおおく、会社に貢献してくれているので、全員解雇はしない。ただし、派遣社員は契約が完了次第、更新をしない。
B今回の損害
日系の保険会社がカバーしてくれるが、来年度から保険が無理だとの、意見もある。
そのため、当分の復興は現地で行ったとしても、2度と洪水被害に会わないため、別の地区に移転、または一部を分散する考えもある。

3)T社(繊維産業、従業員2,300名)
@ナコンパトム県の工場のうち、本社、工場は冠水をしていないが、プタモントンのSP工場で通勤の道路が冠水した。通勤用の車が走れないほど道路が冠水して、従業員の安全確保の観点からも、休業した。
A工場の製造工程の内、労働集約的な分野は、周辺国に外部委託する考えがある。
B労務上の課題
上記のように洪水にもかかわらず2012年春から最低賃金が引き上げられること。
C労働者不足への対応
タイの国境周辺に委託先を見つけて、委託生産をすることで対応したい。

4)S社(機械製造販売業、従業員11名。取材は臨時事務所)
@本社は富山県。2003.8にHi-Tech 工業団地(Ayuttaya県)に設立。
A本社などで製造した機械の輸入販売と、アフターサービスを主体で活動。
海外の拠点は、ドイツ、米国、シンガポールとタイ。次の拠点をインドネシアかインドか、検討をしている。
B700-800社もの顧客を持ち、顧客の大半の工場は洪水からの被害を免れたが、1割程度の工場が何らかの被害を受けている。1社に1台の機会が入っているのではなく、ある工場では、同社の機械が30台も設置されているので、メンテナンスが1―2名のエンジニアでは対応できない。また、補修がすぐに出来ない関係で、冠水した時点で、ある工場からは50台のまとめた発注もあったが、実際の納入は2012年の1月以降になる。
C機械メーカーとしては、整備メンテナンスの責任上、日本からエンジニアを呼んで対応をしているが、中でも自動車部品工場で二輪メーカーの1次協力工場は二輪メーカー本体の設備関係者も応援に駆けつけている。同じHi-Tech工業団地の工場では同社が10名、二輪メーカーの応援が10名といった体制である。
その背景には、生産の復旧が至上命令で、時間が限られた中での復旧作業のため、
全社を上げての応援体制を組んでいる。
D工業団地のインフラ状況は11/30現在で水が引いた。しかし、電気関係は地方電力公社PEAの引っ込み線からの受電設備が部品不足で完全には対応できない。このため、自家発電などの設備を持ち込んで、修理機械などの整備をしている。
Eタイ政府が緊急措置として、外国人の短期労働許可の取得を早めたのは当然の措置だと思う。また、日本政府の援助で、JODCのスキームで日本人技術者が復旧のための技術者派遣を応援する仕組みが利用できないか、検討をしている。

3. 被災をしていないが、間接的な影響を受けた自動車部品製造業 S社

1)会社概要  : 1989年創業。親会社は静岡県。

2)業種    : 金型部品製造業。

3)従業員   : 50名、内日本人2名。

4)取材内容
@設立のいきさつ 
当時の社長(現、会長)は自動車部品産業の生産拠点が海外に進出する中で、タイに企業視察。たまたま、パートナーとなったタイの企業に誘われJVにて会社設立(日本80:タイ20)
A金型の消耗品を主に日系金型企業に提供しているため、洪水で被災されたお客もあるが、大半は無事。
Bただし、10月以降は受注が減少しており、影響が無い、とは言えない。
Cオーナーと現社長MDとの出会いは、かって大手企業の駐在員としてタイに駐在し、定年後もある会社に勤務。そこを退職する際に、登録しておいた人材紹介業からの紹介で、前のMDに面接。オーナーの了解を得て、4-5年の契約期間としてMDを勤めている。
D親会社の社長、会長は子会社の役員も兼務しているため、3-4ヶ月に1回の役員会議には来訪をしてもらっている。
E日常的には、パートナーのタイ人と相談をしながら、本社へは報告程度。
F進出20年もなって、次の社長にふさわしいタイ人がいるのかどうか?
この点は、MD自身も外部から招かれたように、社内で育成するのは難しい。

4.タイ労働省の職業訓練施設

 11/22にタイ政府労働省管轄のラヨン県の職業訓練施設とチョンブリ県にある独立した職業訓練センターを訪問した。両所長から取材
1)ラヨン県の施設
マプタプット工業団地にあり、労働者の再教育などに活用されている。週末や夜間の研修コースもあって、低価格で研修を受け、技能を高めることが出来る。

2)チョンブリ県の施設
@30年以上前に政府が東部に職業訓練施設として広大な土地を手当てした。研修内容は、日本を始め欧米のメーカーの協力も得て、電気関係の技能を高める内容。
A自動車業界の技能向上にも役立つように2012年には自動車整備などの研修コースも開設する。
BIM Japanの研修生が、日本語の研修とともに集団生活を体験している。たまたま、10月にアユタヤ県が洪水に冠水したことから、この施設の一部が被災者向けの避難所に提供されていた。

3)課題
@トレーナーのモチベーションを如何に高めるか、が第1の課題。
A日系企業の応援があるとしても、どうしても古い機械しか使用できないため、新しい機械設備の活用が出来ない。この点が、2つ目の課題である。

以 上