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タイ

作成年月日:2011年9月

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タイ国情報−日系企業へのインタビューから−

1.タイの労働組合運動について
ILO東南アジア担当、上席専門家の意見聴取)

 元国労出身。現職時代から、東南アジアの政府関係の労働組合の連合体を組織して、その事務局的な役割を果たしてきたので、退職後ILOから請われて東南アジアの労働行政に関与することになった、との説明。ILOには政府、経営者団体とともに労働組合出身の専門家もいて、各国の労働行政に関しての調査、質問があれば助言をする立場にある。

 

1)国労時代の労働問題で裁判になった案件が最近ようやく解決されたという報道があったが、労働裁判は短期で終わるのではなく、最高裁まで行くと10年もかかる場合がある。

2)タイの港湾、鉄道、航空など交通関係も労働組合があって、時には現場で問題が発生した場合の解決のため、上部組織が関与することもある。

3)タイの労働組合は政府に、ILO憲章の批准を求めているが、まだ、(ILO条約)結社の自由及び団体交渉権は批准していない。98号(団結権及び団体交渉権)なお、87号(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)は批准済み。

 

2.日系自動車部品加工業 A社の考え方

会社概要:

 2002年、日本の親会社が主たる取引先であるタイのT社向けに自動車部品を製造すべく、工場建設に着手。2009年には第2工場を建設開始。

業種:

 A社はこれまで、T社向け手動変速機をタイで生産してきた。新たに第2工場を作り20117月から、T自動車から生産を委託された中容量トランスファを生産するようになった。ちなみに、トランスファーは、四輪駆動車用部品で、エンジンから出力されトランスミッションを経た動力を前・後輪へ分配・伝達する重要な部品である。

従業員:1工場1500名。第2工場800

取材内容:

 今までは、同一商品の加工から組立までを1ブロックに集結させることで生産性向上、管理の徹底など、あらゆる面から高効率化を図ることにあった。また、ある程度の事業規模の会社になれば、別法人にすることが同社の管理スタイルであった。ところが、第2工場は、第1工場と同じ県内にありながら、20KMほど離れた団地にあるものの、別法人とはしなかった。このため、当初は、第1工場の要員を第2工場に配置転換する場合、インセンテイブを与えるなど苦労をされた。

2工場開設後1-2年を経過したこの機会に、人事労務面の責任者に採用の難しさ、労務管理の苦労を取材した。

 

@タイ政府の最低賃金300THB政策になればどうなるか については、影響が大きい。すでに、日本国内では、生産性向上のさまざまな手法を取り入れて、機械化を進めている分野もあり、順次、導入することは可能である。

A労働者の供出する地域であるタイ東北部に近い点から、労働者の採用は第1工場と、第2工場とで違いがあるのか? と聞くと、労働環境など近いせいか、あまり労働者の採用に苦労はしていない。

 

3.日系自動車部品会社 S2交代制から3交代制にするかどうか

1)会社概要:20055月タイ国内で設立。アジアではインドネシア、中国についで3番目。今年度中に、アジア域内でも1工場建設予定。

2)業種:自動車用駆動部品製造業

3)従業員:2007年現在500名の従業員が2011年には3500名までになった。

4)取材内容:

 数年前に、労働組合ができてトヨタ系列の労働組合の一組合で、労務管理上の苦労を取材した。

 現在、同社は自動車の重要部品の製造を行なっており、製造現場は3班2交代勤務。定時間8時間15分+残業2時間30分を2交代制で、残業ありきで成り立っている生産体制である。ところが、残業は従業員の意志によるものであり、強制することができない。同社には労働組合があり、現在の勤務体制だと残業拒否をされると生産に影響が出る。

 したがって残業でつなぐのではなく、全て定時間でつなぐ4班3交代制を検討したいが可能かどうか、との質問を受けた。

 

これに対して、検討する課題は次の通りと指摘した。

●労働者の手取りを減らさないで、実施できるのか?

●深夜勤務を男性だけに組めるのか?無理ではないか?

60%を占める女子従業員の寮を近く、または安全な場所に確保できるのか?

●就業規則では、どのように規定しているのか?

●労働省への届出はどうなっているのか?

●労働協約を代行するのが就業規則であれば、労働者側の100%の同意が無いと改定ができない(労働局が受け付けない)恐れもある。

●残業拒否は、別途対策が講じられるべきだと指摘した。

●代替供給体制の確保(スト、災害時の復旧作業の優先順位を定めた
BCPのような対策があるのか?)

●日常の労使関係の維持、向上に腐心しているのか

●在庫の確保(1ヶ月以上)もしくは、いつでもタイ工場の代替品が作れる体制を作ってあるのか?

●どの程度の期間、残業拒否が続くと見るのか?労働者側が音を上げないか?2週間程度、対応すれば収まるか?たとえ、残業拒否が1ヶ月やっても大丈夫との姿勢が無いと、労働組合の言うままになる。したがって、同社は労務管理の基本は、出退勤務の管理から福利厚生を含む賃金管理など、タイ人と日本人のコミュニケーションが重要だと考えている。

 

4.景気変動の調節に使った業務委託契約 光学機器製造業N

会社概要:199010月設立、工場稼動は9111

業種:光学機器製造業

従業員20098,000名 201112,000(業務委託先も含む)

取材内容:

 2009年のリーマンショック後に、海外市場の需要が一挙に落ち込んだため、20103月に2000名の契約社員、業務委託の契約を解除した。その際に、タイ政府の規定により、業務委託先であれ、契約社員であれ、正規従業員と同等の規定で解雇手当を支払った。

 しかし、労働組合から不当な解雇が行われている、として県知事公舎前で抗議行動の一環として行われた示威行為がTV新聞などに報じられたことから、当時は日系企業叩きの代表になった。そこで、その後の、同社の業績の回復の状況と労働組合対策について取材をした。

 

現状:同社は、光学機器メーカーC社および電気メーカー系のP社、S社と激烈な競争を行っている。そのため、高級な機器は日本生産であるが、低価格品についてはタイへの移管が進み、業務委託も含め従業員の確保に苦しんでいるほどである。

 

労務管理:20103月の労働組合の示威活動が大きく報道され、同じ工業団地内の日系各社には迷惑をかけた。そのため、以後は労務管理にはTOP以下、十分心しており、定期的な労使対等な委員会などで率直な意見交換を行っているところである。

 

 現在は、受注も好調なことから、急激な人員の削減は行わないようにしている。

 

.従業員確保と労働コスト上昇に悩む 縫製業界F

会社概要:19837月創業

業種:雑貨、キャラクター商品の縫製

従業員:94

取材内容:

 工場がバンコク都の北隣の県にあり、新政権が公約に謳う最低賃金300THBには直接影響を受ける業種である。そのため、今後の労働者不足、賃金上昇にどのように対処する予定か、取材したところ、以下の回答があった。

 

●最低賃金の上昇は止むを得ない面があるが、同時に労働者確保に苦労をしている。特に自動車製造業のように付加価値の中で人件費比率が低い場合はともかく、同社では労働コストの占める割合が高い。

●このことから、周辺国への移転も含めて検討をしている。

●具体的には、カンボジアのプノンペンを始め、ラオス、ビエンチャンとサバナケット地区、ベトナムのフエ、ダナン地区など。

●ところが、各国特有の労働法制など、特に社会主義国での労務管理の難しさから、再度、タイの僻地も含めて立地の見直しを行っている。

 

6.労働者不足に悩む物流管理行L

会社概要:19974月設立、19985月操業開始。
      日系自動車メーカーのタイ進出に伴い進出

業種:自動車組み立て業関連の包装、物流管理業

従業員:2011年 951

取材内容:

 東部臨海工業団地に立地する自動車関連産業で、特に労働者不足に悩む企業の実情を取材した。

 

以下は、主な対策として取り上げているものを説明された。

 @ 業務委託先の多角化

 A 機械化のさらなる導入

 B 現在はタイ政府投資委員会BOIの恩典が付与されているため、
    未熟練工としてタイ人以外の雇用は禁止されている。

 C このため、子会社をつくり,BOIの制約がない事業も
    できるように研究中である。
具体的には、子会社として、
    タイ周辺の外国から労働者を受け入れる準備を始めた。

 D一部コンテナを扱う部署は、熟練を要するスタッフも
   必要なことから、シニアの技術者を日本から招聘する計画もある。

 

7.技術力で最低賃金引き上げに対応するO

会社概要:20024月設立

業種:自動車、自動2輪の部品製造業

従業員:201078名 

      2011940(30名、女10名、平均年齢28)

過去の労務管理の課題:

 2010年秋に労働組合が結成されストライキ、会社側のロックアウトにより対抗し、当時60名全員を解雇。再スタートしてから現在40

 

取材内容:

 上記にあるように、昨年秋に自動車部品業界の労働組合結成が静かに進んでいてストライキにあった。会社側は、本社と協議の上、部品供給は日本および周辺国から対応するという条件から、ロックアウトを決行。最終的には、ストを実行した従業員など全員解雇。新規に新しい従業員を採用した結果、労働組合は実質なくなった。

 そこで、今後の労働者採用の方向や、労務管理のあり方を同社の工場長に取材した。

 

●現在のタイ人はオペレーターレベルでは、中学、高校卒が多い。

●しかし、20-30歳のタイ人の過半数が大学に進学する時代になり、製造業の現場オペレーターの採用はますます難しい時代になっている。

●そのため、同社のもつ特許技術、製品開発能力をタイでも高めて、賃金上昇にも十分対応できる体制に持ってゆきたい。

●そのためには、従業員の急速な拡大をせず、最新式の機械を導入して省力化、高能率の体制で作業ができるように考えている。

●本社では労働者の供給がまだまだ可能なインドネシア、バングラデシュへの進出も検討をしている。

 

8.都市型立地から抜け出せない縫製業の課題 K

会社概要:1988年創業
     
(別途、祖父が創業したファッション小売業もあり)

業種:縫製業

従業員:140

取材内容:

 縫製業として、労務コスト上昇に悩む業界。ただし顧客が都心にあるファッション店で、小回りの効く、小規模な生産対応をするためには、どうしても都心から近いところに工場を持つ必要がある。

 今回取材したのは、生産部隊の管理者に、どのように生産性を高め、新政権が政策として掲げる最低賃金300THB引き上げに対応しようとしているのか、などである。

 

●賃金引上げと生産性の向上が比例すれば、特にコスト上昇には影響がない。そこで、縫製業界の生産性を引き上げるには、どうするか、研究をするといろいろと無駄が多いことに気づく。

●たとえば、縫製途中の次の部材を探す時間、部材を次の縫製工に送る時間、動き回る無駄、製造過多による部材と時間の無駄、前の工程から部材が届かない無駄な待ち時間、未完全な仕上げでやり直す無駄、仕上げを済ませてからの再仕上げの無駄など作業分析をすれば多くの無駄が見つかる。

●そのため、従業員の個々の作業そのものからどの様な無駄が多いのか、工程全体としてどの部分の無駄が多いのか、研究をして改善を行っている。このような細かな無駄、ムラを無くすことで、海外の低賃金とも十分対抗できる生産性の高い工場として生き残る、予定である。

●なお、当社の給与支払いの基準を、当初から出来高払いにしている。このため、都心であっても生き延びることができているのではないか。

 

9.労働者確保に最適な場所に立地した自動車部品製造会社 N

会社概要:本社は創業昭和8年の業界の老舗。タイは1996年進出。

業種:高分子素材加工、自動車部品加工

従業員:900名(平均年齢30歳、男800名 女100名、正社員)

取材内容:

@自動車業界の活況の中で、労働者不足を悩む会社が多いが、同社はどうか、と伺ったが、幸いにも工場の立地が人口の一番多い東北部の入り口にあることから、工場に掲示すれば社員はあつまる。また、全員工場と同じ県内からバイク、乗り合いバスで通勤をしている、とのこと。

A新政権が、最低賃金を引き上げる方針で政策を打ち出しているが、まだ労務コスト上昇には耐えうる、とのこと。

Bちなみに同じ事業を日本で実施してきたが、国内では経費30%、人件費30%、材料費40%であるが、タイでは材料費50%、人件費15%、経費35%の割合だとのこと。

C生産性向上には、小集団活動QCを実施して、最優秀チームは日本行きを毎年実施。全世界から集まるチームと合同発表会を開催して、そこでも世界のQCの良い知恵を学んで帰る。

 

感想:過去3年間で、工場が拡大している。1年前に立てた工場が満杯になり、別に倉庫を立てて、一部の部品は、工場の敷地から数百メートル離れている倉庫の管理をしている。タイ自動車業界の集積度から、いっそうの拡張が見込まれる。

 

10.生産余力が出ない3交代制を2交代制の勤務体制に T

会社概要:1995.3設立。

業種:自動車の制御部品製造業

従業員:890名 

取材内容: 

@自動車業界活況の中で、工場の拡張工事中。理由を伺うと、次の通り。A)現在、従業員800名の内、工場関係は700名で3交代制を実施。土曜日、日曜日もないため、工場設備を拡張して2交代、週末休みを実施したい。その理由としては、設備のメンテナンスも十分できない。従業員の健康管理の上からも土日の休養は必要だと考えている。

A そうすると、今以上に従業員の確保が困難だと思われるが、対策はあるのか?A)1工場単位で考えるのではなく、周辺国にある工場との連携を考えている。インドおよびインドネシアにも工場があるので、品種の整理をして、対応できるものを生産する。タイでは、賃金コスト上昇に対応するため組み立て前の工程を補強し、また今まで外注したものを内製化することでコストの上昇は吸収する。

 ただし、脅威はある。同じ県内に電気業界の大手C社が5000名規模の工場を建設して、従業員を募集している。また、工業団地の外に大型スーパーが建設され、同じ賃金レベルだと、職場環境の良い、冷房の効いたスーパーに働きたい、と言う従業員がでてくる。

B 同社が作る製品が、自動車の重要な制御部品であり、仕事のやりがいを持たせることが重要だと考えている。

 

感想:No.3S社とは正反対の勤務交代性を取ろうとしているが、3交代制の難しさも経験されているように感じた。つまり、深夜の操業では生産性が上がらない、不良が多いなどの問題があるのかもしれない。