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タイ

作成年月日:2011年9月

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タイ国情報−日系企業へのインタビューから−

1.タイ新政権の労働政策について  タイ労働省幹部の意見聴取

 Ms.Yingluck政権はタイの農民、庶民向けの政策を実行する政権である。5年前にクーデターで追われたタクシン政権時代に実施した30バーツ医療の再開、村落基金、麻薬撲滅など繰り返される政策がある。

 労働政策についてはタクシン政権時代、インフレが激しい場合は、1年に2回、最低賃金の引き上げを行ったことがあるように、今回の選挙公約で全国一律300THB(約750円/日)という労働者の票を集める公約として発表した。公務員の大卒初任給も15000THB(約37500円)という公約に掲げて、2012年1月から実施になる。

 8/2に労働省の幹部に取材を申し入れると、8月後半の労働大臣が決まり、新政策を労働省としてまとめないと、局長レベルでも外部では話せない、とのことであった。

 最低賃金だけではなく、外国人雇用の問題など、懸案の労働行政に関しても順次、公表される予定。

2.日系食品加工業(装置集約産業) N社の考え方、欧米の考え方

1)会社概要 : 1996年に販売会社設立 2006年製造会社設立

2)業種 : 冷凍食品用の原料加工供給

3)従業員 : 100名(スタッフ25名、オペレーター75名:全員男性)

4)取材内容 : タイ政府が最低賃金を300THBにする意向を示しているが、影響が無いか、と質問をすると、現状でも残業OTを加えて月10,000THB無いと退職する。そのため、1日あたり300THBになっても企業自体の人件費の高騰は影響が無い。現在の生産能力が年12000トンの加工であるが、2倍の24,000トンになっても社員の増員は25名程度に過ぎない。

 MDは1998-2004年まで米国の合弁会社JVに副社長として勤務した経験があり、米国式マネジメントと日本式マネジメントの違いが理解できる。タイでは米国式が理解しやすいようだが、後任者、また日本のマネジメントスタイルを考えると、米国式を導入すれば、次の社長の時代に困る。継続できるマネジメントスタイルを考えると、日本式をとらざるを得ない。

 タイと日本との違いを、タイならではの面と、終身雇用という側面を切り離して考えると、理解ができるのではないか。日本の終身雇用制、またその考えを強制すれば、会社への忠誠心、会社との付き合い方はタイ人には理解できない。タイ人にロイヤルテイを求める前に、当社としては会社の業績の安定性を強調して求人をしている。

 基本は、雇用維持ができる体制を考えている。

3.日系農産物関係会社 K社 農民を通してタイ人の気質を

1)会社概要 : タイとのつながりは20年以上になる代表者が、頼まれて日本米のタイ生産に踏み切ったのが最初。現在、日本の会社の代表も兼ね(KFood)タイの会社は(K Rice)としてタイ人が社長、日本人は役員にだけ入る形にしている。

2)創業 : 2009.6 資本金 500万バーツ 役員4名のうち、1名が日本人

3)従業員 : 10名。内2名は、委託生産をするタイ北部に駐在。

4)最大収穫 : 1400kg/Rai 最小 700kg/Rai

5)取材概要 : 現在、管理する田畑はどの程度かと聞くと、300-400Rai(1Raiは1600u、48万-64万u)を約50軒の農家に日本米の委託生産。タイ米と日本米との生産方法、管理方法がことなるので、なるべくタイの植え付け時期に合わせるようにしている。

 同じ方式を導入しているが、農家の性格により、きちんとした管理をする農家と、タイ式で鷹揚な農家では収穫量がことなる。

 日本人は、小学生から田植えの実態を学んでいるので、細かな管理方法もわかるが、タイ式で考えると、日本米は栽培できない。そのため、タイ人スタッフにしっかりと日本米の栽培育成方法を教育し、農家にも指導をするが、常駐して、絶えず、指導をしないと、ともすればタイ式になる。そうすると、上記のような収穫量の差が生ずる。

 工場管理でも同じことが起こるのではないか、との指摘もあって、同じタイ人をどのように指導するか、農家も工員も似ていると感じる。

4.労働者不足を2ヶ月で解消したT社、要は募集する賃金を8THB上げた

1)所在地 :チョンブリ県(S工業団地)

2)事業内容 : テーブルタップ等家庭用配線器具の製造、輸出(BOI輸出奨励企業)

3)取材内容 :2006年に次のような日本人の求人募集をしたが、適任者があつまらず、やむなく現社長1名で、あとはタイ人スタッフと一緒に事業を運営している。

 フラット式組織から、ピラミッド社会に変えたいが、管理者が育っていないのが悩み。

*募集内容職種: 生産管理者(成形、組立)

*年齢:45歳位迄経験: 製造実務経験者ベター

*資格: 工業系バックグラウンドベター

*語学: タイ語(又は英語)

*勤務: 週6日勤務(一定期間後長期休暇可)

*給与: 35,000〜(経験による)その他:ワークパーミット可

2011年6月に取材をした際は、ワーカーが集まらないので困っている、との状況説明があった。

今回、8/8に再度、取材をすると、従業員が定着しだした、とのことである。

 現在、従業員110名。一時は70名まで縮小して、顧客の注文すら答えられない状況であったが、当地の最低賃金196THBを8THB上回って募集をしたところ、現状まで戻ってきた。

 ただし、近くで韓国系のS電機メーカーが264THBで募集を開始したので、影響が出ないか、懸念をもっている。

 ワーカークラスは5-8THBの差があれば移動する典型である。

5.日本式マネジメントを定着できるか A社

 大手機械メーカーのグループ会社として、数年前にある工作機械メーカー傘下の販売会社がグループに参入。今後も、日系企業として、日本国内で合併や吸収された場合の海外の子会社がどのように展開するか、その一例として、取材。

1)会社概要 : 大手機械メーカーのグループ会社、タイ法人

2)事業内容 : 切削機械器具、工作機械器具の販売・サービス

3)従業員 : 26名

4)取材内容 : 社員はすべて、従来のまま。同社では、営業部隊が今までは取引先がタイの日系企業が中心であったため、日本人営業マンが中心。タイ人は1名、他の部門から配属を変えて営業にまわしたが、機械の知識は奥深いため、なかなか溶け込めない。

 同じグループの外の会社からは、一日も早く日本企業対象の営業からタイ企業中心に展開すべきだとの意見も受けているが、なかなか変更ができない。

 社長は、日本の親会社からの赴任で日本式のマネジメントで押し切ろうとするが、タイ人の転職の多いことの背景が理解できていない。給与だけの問題ではなく、上に立つ経営者の姿勢が課題。 多くの企業ではタイ人社員との融和をはかるためのいろいろな方法を研究中。取材した中堅幹部は、社長に他社の事例など意見具申をしている。

6.日本式で海外の子会社を統括できるか F社

1)会社概要 : 創業は戦前で、事業再編により本社はいったん純粋持株会社制にしたものを廃止し、子会社2社を吸収合併。このため、従業員を1200名抱える。海外の子会社も再配置。1969年にタイ法人設立。マレーシア、インドネシア、シンガポールはタイ法人の子会社という形になっている。

2)事業内容 : エネルギー、環境、半導体など重電機を中心に展開をしている。

3)労務問題、人事問題 : 上記のように日本本社の都合で、関連会社も本社に吸収したため、余剰人員が増えた。このため、海外でもその受け入れを求められている。

 本社からは、1名あたり年1000万円を越す人件費を負担するように言われているが、日本人1名を抱えるなら、タイ人10名程度採用ができる。エンジニアリングの分野では、現場の仕事は英語、タイ語であるが、日本から来た社員は基本的なコミュニケーションすらできない。そのため、本社には、せめて派遣する前にはコミュニケーションの教育をできるように要請をしている。

 海外の子会社は、地場のエンジニアリング会社と競争する以上、固定経費を下げることが経営上の大きな課題であるが、本社の要請には逆らえない。欧米企業並みに、現地人がマネジメントできるような体制にするには本社の考え方そのものを変える必要がある。

7.自社工場を持つまでになった自動車部品製造業J社 技術の定着には時間が

1)会社概要 : 2005年1月タイ法人の操業開始(貸し工場)。2009年自社工場建設し、移転。工業団地の外。大きな国道から5km入りこんだところに単独の工場を建設した。2011年8月現在、従業員60名内、日本人4名。

2)事業内容 : 自動車、二輪用のプレス部品加工

3)労働、教育政策 : 設立当初からISO取得に熱心で、マニュアル化による技術の指導、定着化を図ってきた。

 しかし、同社のプレスの金型は単にプレスによる金属打ち抜きではなく、精密塑性の技術でもあり、日本でもまだまだ新しい金属加工技術だといえる。それだけに、顧客である自動車部品加工業界にも、技術の普及、認知が必要である。部品の製品開発の段階から関与しないと代替できる技術ではなく、複数の加工工程を短縮できる技術でもある。このため、金型製造についての知識は数年程度の経験では学べるのもではなく、日本の本社で一環管理をする必要があると考えている。

 ちなみにタイでも同様のプレス金型を自社生産できるのは数社しかない。それも大半は、日本の親会社で最初作成した金型の2番型が多い。

4)技術定着上の課題 : ISOなどのマニュアル化で限界があるのは技術の伝承。とくに新しい自動車部品を顧客と開発するには、今までにない塑性品を作り上げる必要がある。

 タイ語も日本語も同じような意味だと思われるが、技術的にはまったく異なった理解が必要で、会社設立の最初から採用したタイ人にもこの理論、技術的な理解をした上での翻訳、通訳ができない。このため、新政権が求める最低賃金引き上げには、生産性向上が欠かせないし、また技術の定着が求められるが、金型生産など技術定着にはまだまだ先が長い。