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タイ

作成年月日:2009年10月31日

職業能力開発の政策とその実施状況

3.1 職業能力開発の背景

 タイでの職業教育は1898年に国の教育制度として導入された。当初の教育訓練は、その当時関心の高かった工芸分野等の特定の職業に必要とされる技能及び知識を習得するための、かなり特化した内容だった。1909年、タイの教育制度が「正規」及び「非正規」の2つに分けられ、正規学校では普通科教育を、非正規教育では職業に特化した分野、例えば医学、助産術、英語、商業などを実施した。1932年に国家の教育計画の中で、職業教育の重要性が強調され、認識されるに至り、1936年には「非正規」教育が「職業教育」という言葉となって初めて国の教育制度の1つとして公式に発表された。
 タイで最初の職業教育機関は1910年にPruektaram寺院とRatchaburana寺院に設立され、その後、工芸分野と農業分野の基礎レベルの教育者育成学校が1913年と1917年に設立された。1936年からは基礎、中級、上級という3つのレベルに分けられ、正規学校からはどのレベルへの入学もできた。
 1938年、教育省改革の中で教育局と学術研究局が設立され、教育局が正規教育を、学術研究局が職業教育を監督することとなった。学術研究局の組織構成は、官房、学術部、試験評価部及び職業教育部の4部門があり、職業教育学校は、職業教育部の下に置かれた。1941年8月18日の官僚行政法制定(同年8月19日に施行)により宗教関連省が再度教育省に編成替えされ、同年、学術研究局が職業教育局に置き換えられた。職業教育局は、1941年8月19日に正式に設立された。
 職業教育局は、官房、学校部及び学術部の3部門に分けられた。東南アジア戦争の間、職業教育局は、教師を含む学習及び教育物資の不足の影響を受けた。この戦争の影響で学生数は確実に減少した。戦後、政府は、この状況の回復を助けるために職業教育局により多くの予算を割り当てた。後に、1951年の国家教育計画では、中学校、高等学校及び高等職業学校の3レベルの職業教育を提供した。いずれのレベルの職業教育も3年間の教育プログラムであった。
 1965年、職業教育局及びドイツ政府がKhonkean技術短期大学の設立に協力した。これを受け1967年に職業教育局は世界銀行融資事務所を開設し、産業と農業分野の教育開発プロジェクトに関与する25の教育研究機関との協力関係に責任を持たせるようにした。1969年、オーストリア政府の協力でChonburiにタイ−オーストリア技術短期大学を設立した。この時、多くの職業教育校が昇格して短期大学と改称し、修了証書が付与できるレベルの教育校として認可された。職業教育局の最初の短期大学は、Phanakorn商業短期大学である。1979年までに、職業教育局の傘下にある159職業教育校のうち、90校が短期大学になった。職業教育の修了証書(Certificate)及び職業教育の卒業証書(Diploma)それぞれ1981年と1984年に始まった。さらに、1984年には上級技術卒業証書が取り入れられた。ドイツ政府との協力により1988年には、デュアル職業訓練が開発され強化された。
 1989年から1990年の間、国連開発計画(UNDP)の協力の下、技術師範大学が完成した。1990年には、職業技術教育は、政府間交渉による国際機関からの協力支援における重大な展開を迎えた。これらの国際機関は、UNDP、ILO(国際労働機関)及びUNESCO(国連教育科学文化機関)を含むデンマーク、ドイツ、アーストリア、日本、カナダ、イタリアである。1993年から2000年の間、職業教育局は、メカトロニクス分野の開発のために日本のOECF(海外経済協力基金)からの補助で予算を組んでいた。1999年、職業教育局は農業開発のための資金貸与をデンマーク政府から受けた。この協力プロジェクトは、地方からの要求に応えるための学習及び指導教材を含む教員の能力開発を目的としていた。
 職業教育及び外国からの支援に対する関心が世間や政府内で高まってくると、正規の職業教育機関が次第に設立されるようになった。また2003年、官報により職業教育局は職業教育委員会へと昇格した。その責任範囲は、計画立案及び職業教育制度の開発の監督業務である。現在では委員会に認められた404もの職業教育機関があり、内訳は次のようになっている。

  • 技術短期大学:109校
  • 職業教育短期大学:36校
  • 農業技術短期大学:44校
  • 職人養成短期大学:54校
  • 職業短期大学:144校
  • 商業短期大学:5校
  • 工業造船技術短期大学:3校
  • 工芸技術短期大学:2校
  • 経営及び観光短期大学:3校
  • 漁業短期大学:3校
  • 真鍮職人公開短期大学:1校

 政策計画局は、2008年前期の時点で何らかの職業認定プログラムに登録した学生が68万1,434人であったと報告した。詳細は表3‐1のとおりである。

表3-1 職業訓練プログラムに登録した学生数(2008年前期) (単位:人)
教育機関/学年 1年生 2年生 3年生 合 計
職業高校 184,022 147,109 140,426 471,557
短期大学 103,888 101,594 3,842 209,324
技術師範大学 126 427 0 553
合 計 288,036 249,130 144,268 681,434
※出典:
The Bureau of Policy and Planning, Department of Information and Statistics.

3.2 職業能力開発を進めるための国の政策

 1999年の国家教育法では、「教育こそが人々の能力を最大限に発揮させる手段であり、互いが調和して暮らしていくための望ましい方法である」としている。同法ではまた、すべてのタイ国民への生涯教育、すべての社会階層への教育の機会、一連の知識及び学習過程の継続的開発に教育の基礎を置くとしている。さらに同法では、非正規教育では目的設定に柔軟性があり、修了のための様式、管理過程、期間、査定及び評価は融通性に富むとした。同法は、職業教育の中身とカリキュラムが適切で法の要求に沿っており、学習者個人の要求に合致するものだと見ている。同法によれば職業教育や職場での訓練は、法に基づいて設立された国営、民営、あるいは企業の教育機関で提供されるべきものとしている。
 タイの職業教育法では、職業教育の質、基準、効率を明記している。学習者に平等な機会、生涯教育、多様性、明瞭な表現を保証している。同法では近代化、技術先進性、国際化というものを最大限活用するよう、公的及び民間機関と一般地域間の協力関係と責任分担を強調している。実務経験を伴う学習能力重視の訓練、起業家的スキル、労働倫理意識といったものは、国の経済と社会的あり方を意識し、タイの職業教育の基礎になるものである。同法の原則は、職業教育に関心を持ち、履修するだけの能力を持ついかなる者にも教育の機会を与えること、適切な知識、態度、技能開発のための基礎教育レベルの職業教育を教え込むこと、学習者のニーズを優先すること、個人が上級課程まで進むことを認めること、職業資格制度を確立し、教育と労働の間に架け橋を構築すること、それにより働く1人1人が仕事の現場復帰、教育及び訓練の場に戻ることができるようにすることにある。
 職業教育法はまた、政府指針の統一性と管理の多様性、例えば公的及び民間機関、多くの産業界の教育機関間の交流を奨励する行政制度の必要性を明記している。同法では職業教育管理制度は、国家レベルでは技術・職業教育委員会が設置されているもの、教育機関レベルで職業教育機関の間の交流があるものの2層に分かれている。教育について法では、職業教育が必要な対象範囲を「国の学童人口を網羅する層、職業知識及び技能を向上させる意欲のある層」とした。教育では、理論と実践のバランスをうまくとること、タイ社会で暗黙的に知られている知識の習得、学習者それぞれのレベルにとっての能力基準を確認することが必須である。
 学習評価には理論の理解よりも知識の応用能力を問うことに力点を置かなければならない。研究開発では、職業教育から職業の世界への移行を奨励する必要がある。法は地域といろいろな産業界との協力関係も強調している。職業教育では、計画から実行まで全段階で地域の参加が不可欠である。そこでは優遇税制、職業教育の優待券といったものを効果的に組み合わせて参加者のやる気を引き出す。質や基準のレベルを保つには、職業教育を行う教員への免許が必要であり、教員への継続的な内部研修制度が求められる。また、基金を設置して、職業教育を行う教員の能力開発及び職業教育資格の枠組みを構築する必要がある。資金と資源の移動に関して、職業教育法は公的あるいは民間部門からの資源の移動について記載しており、義務教育以降については、希望すれば社会に出る前に1年ほど職業教育を受けられるだけの資金援助を行う。
 国家教育法と職業教育法に加え、職業能力開発に関係する法が2つある。2002年の技能開発促進法、2003年のタイ労働基準の範囲・手順に関する規則である。1994年の職業訓練促進法は2002年の技能開発促進法に置き換えられ、労働市場の要求に応じて雇用された労働者の技能を向上させるための職業訓練を促進すること、民間企業と教育機関の間の協力関係を推進することを目的としている。この法は、従業員に職業訓練を提供する企業に特典を与え、民間部門が個人の技能開発へ関与することを奨励している。さらに技能開発基金を設立し、技能開発促進活動の流動資金を供与している。
 職業能力評価制度の下には2種類の評価制度がある。

  1. 技能開発促進法で、労働者個人に対し技能開発局がアレンジした労働基準試験を受けるよう推奨するものである。試験合格者には認定書が発給される。
  2. 雇用主に対するものであり、2003年のタイ労働基準の範囲及び手順に関する規則に従い執行される。

 この法は労働基準を監督する労働省により制定され、タイ社会に向けての説明、タイ産業界の機会の増大、タイの労働者の生活レベル向上を目的としている。労働保護福祉局は労働基準の管理運営責任を持ち、労働基準認定を要望する企業の評価認定を担当する。評価者は企業の業績評価を行うよう任命され、企業が労働基準を満たしていれば合格点を与える。評価に合格した企業には認定証が授与される。
 アピシット首相が国会に提出した、2008年12月30日職業教育政策の一部である教育政策では、「各校の能力に応じて教育機関をグループ分けすることにより、職業及び第3の教育基準を優秀なレベルにまで引き上げる」とあり、そのために職業教育修了生の給与や手当を増額し、公共機関が率先して職業能力を手当や専門職の昇進を決める基準に用いるよう書かれている。

3.3 政府及び関係団体の制度、組織、機能

 タイの職業教育制度は、教育省の下さまざまな組織が関与している。国家教育法(1999年)、改定法(2002年)、省庁・政府機関再編法(2003年)により、教育に関与する3つの省庁である、教育省、大学庁、国家教育委員会が、教育省という1つの組織となり、新しい管理構造ができあがった。2003年の教育省の管理組織は、上院・下院の合同常任委員会で承認された。この新しい教育省は図3‐1のように5つの主要な室と1つの機関で構成されている。5つの室とは、事務次官室、教育評議員室、基礎教育委員会室、高等教育委員会室、職業教育委員会室である。これら5つの室は直接教育相に報告する義務があり、以前のような事務次官経由での指揮命令系統ではなくなっている。公的機関には国家教育基準と品質評価事務所、Mahidol Wittayanusorn学校、国家教育試験機構、国際貿易開発機構、国家技術教育機構がある。教育省の管轄範囲には、タイ教員評議会、教員と教育従事者の福利厚生促進委員会、教授法と技術の推進機構、語学機構、大学、その他自治を認められた高等教育機関がある。

表3‐2 国、地方組織、民間部門の職務及び責任範囲
担当 職務と責任範囲
すべての教育、宗教、芸術、文化に関する監督
教育政策、計画、基準の制定
教育、宗教、芸術、文化資源の流通、監視及び評価
国家教育評議会 国の教育方針、計画、基準の提言
宗教、芸術、文化に関する政策及び計画の提言
必要な資源の流通
教育条項の評価
宗教、芸術、文化に関する管理の評価
国家教育法に明記された各種法及び省令の精査
基礎教育委員会 教育、宗教、芸術、文化に関する国の枠組みに沿った基礎教育の政策、
計画、開発計画、基準、必修科目(コア・カリキュラム)の提言
資源の流通
基礎教育の条項の監視、検査、評価
高等教育委員会 高等教育標準及び開発計画、高等教育の国際協力に関する計画策定
資源配分の範囲や指針、高等教育機関や地域短大の設立考案及び財務支援
身体障害者を含む人材開発及び学生の能力開発の調整と奨励、国家の開発支援を行える新しい一連の知識の研究活動の調整及び奨励
高等教育機関や地域短大の開設、解体、統合、廃止に関する提言
委員会によって決められた高等教育管理体制の監視、検査、評価及び高等教育のデータ、情報の割り振り
教育省あるいは大臣評議会で定められたその他職務の実施、あるいは割り振られた課題の実行
職業教育委員会 社会一般のための職業人材の開発
職業教育及び管理の設定と標準化
職業ガイダンスと能力開発の研究、改革、技術移転
国家経済社会開発計画及び国家教育基本構想で特定されたニーズに合致する全レベルの職業教育の政策、開発計画、基準と必修科目の提言
国あるいは民間部門による職業教育の提供の調整促進、資源の流通
高品質の職業人たるべき職業教育の提供の監視、検査、評価





地域の事情に合った教育の提供
教育省の規定により準備が整ったと判断された教育の提供
政策や標準に沿った教育の提供を教育省と調整、推奨及び実施
教育の提供における予算配分を教育省と実施すること



国の教育機関と同じ教育品質と標準の評価規則に基づいた教育の提供法人として存在し、経営部門、公認された代表者、保護者の代表、地域組織の代表、教員及び同窓生の代表で構成される意思決定機関を有する
国の方針に則って定められた法令に記載された全種類の教育の提供

 上記の表3‐2から、タイの教育制度には、民間部門と同様に国、地方組織の参画が含まれていることが分かる。最終的には国が教育制度の健全性及び開発への責任を持つ。また、図3‐1に示すのは、教育省の組織図である。各室は、さらにそれぞれが責任や機能を持ついくつかの課や局に分かれている。職業教育委員会については、図3‐2を参照。

図3-1 教育省組織図概略・図3-2 職業教育委員会組織図概略
※画像をクリックすると拡大表示されます

  1. 総務管理局
     管理、調整、案内提供、アドバイス及び管理、法、政策事項の推奨に責任を負う。ほかにもマニュアル、指針、基準手順の作成、委員会の傘下にある職業教育機関及び他組織に関係する情報の普及活動に責任を負う。
  2. 政策計画局
     国の職業教育制度の政策、戦略提言、職業教育人材の創造及び開発のための目的設定に責任を持つ。また、職業教育の受講者の能力及び事後評価も含み、制度の予算を準備、配分、監視している。加えて、委員会の情報システムの開発及び保守、職業教育の管理に役立つIT技術を合体させることに責任を負う。ほかにも、広報関連、政策関連情報の宣伝、国の職業教育提供と開発のための国際機関との連携交流強化に責任を負う。
  3. 協力局
     開発制度、構造、基準手順、職業教育の提供における民間機関との連携交流の戦略作りに責任を負う。さまざまな職業教育実施機関の業績についてフォローアップ及び評価を行う。民間部門や機関に職業教育の提供のための基準及び要望事項に従うよう支援・推奨を行う。さらに、予算の配分と監視の責任を持ち、職業教育機関、職業団体、職業組合の促進、支援、開発を行うほか、職業教育に関係する他部門との協力や支援に責任を持つ。
  4. 職業教育基準資格評価局
     職業教育の教育課程や資格認定の評価、開発、基準設定に責任を負う。職業教育の方法論、対象範囲、評価手順の確立や設定に責任を持ち、品質保証や資格認定の責任も負う。さらに、職業教育を提供する民間機関の質の将来持続性や開発に責任を持ち、教授法及び多くの機関の学習環境に関しても担当する。
  5. 教員能力開発局
     職業教育に携わる教員及び教育従事者の評価に責任を持ち、そうした教員の能力開発を担当する。このことを通じ、教員及び教育従事者の能力開発の状況を追い、進歩の状況を評価する。国と民間機関の間を取り持ち、教員及び教育従事者の能力開発にも責任を負う。そのほか、職業教育に使われる技術の研究教育と技術分野での訓練提供、教員及び教育従事者に技能を修得・育成させるための技術制度の開発に責任を負う。
  6. 研究開発局
     職業教育における研究活動を管轄し、職業教育制度をさらに発展させることに関連する実践的な政策、戦略、制度を提言する役目を負う。さらに、教授法、学習法、多様な職業教育実施機関の管理手法について新たな方法を開発することに責任を負う。学生の質や職業教育で使用される技術を広げるために職業教育の成果を推奨、開発、流通させることに責任を負う。局は職業教育に関連するさまざまな研究開発活動に携わっている。
  7. 評価勧告局
     職業教育の現場をモニターして評価勧告を行う職務である。また職業教育のモニター及び評価から支援、研究、提案、出版を行う。
  8. 短期大学局
    全国の404の職業校の基準に関する職務を行う。

 このように、タイの職業教育制度には、教育省のさまざまな機関が関与しており、政府の機関も同様に関与している。各機関はそれぞれ責任範囲と職務を負っており、国家の職業教育の枠組みの中で互いに関連している。

3.4 予算と財源

 2009年のタイ教育省国家予算は、3,322億9,861万6,000バーツ※1に上る。そのうち職業教育予算は170億4,467万7,000バーツである。この予算は職業教育の発展のために4つの個別プロジェクトに配分される。

※1
1バーツ=約2.7018円(2009年11月2日現在)

表3‐3 職業教育関連予算内訳(2009年)
プロジェクト 予算配分(単位:千バーツ) 全体比(単位:%)
職業教育の環境整備 450,000 2.64
職業教育の機会拡大 16,404,338 96.24
科学技術研究改革の支援 90,339 0.53
南部地区職業教育開発対策 100,000 0.58
総合計 17,044,677 100
※出典:
Budget Bureau of Thailand.

 職業教育の機会拡大にタイ国職業教育予算のうち最も多く配分されており全体の96.24%が使われている。続いて職業教育の環境整備が2.64%、その他の合計が1.12%である。こうした対象への予算配分が多いということは、タイが国を挙げて職業教育の奨励と開発を政府のさまざまな機関を通じて行っていることの証でもある。

3.5 外国・国際機関からの援助

 タイは、外国及び国際機関から職業教育プログラムを希望する学生向け財務支援や奨学金といった支援を受けている。タイの教育分野に大いに貢献のあった国際機関の一例として、アジア開発銀行(Asian Development Bank:ADB)がある。1999年にADBはタイの高等教育開発プロジェクト向けに5,900万米ドル※2の融資を承認し、このプロジェクトは2006年まで続いた。2000年にADBは教育分野改革に関するプロジェクトを技術支援という形で承認し、約70万米ドルの予算がついた。1998年、ADBはタイの職業技能開発プロジェクトに8,000万米ドルの予算を認め、タイの労働市場での職業能力開発向上を目指した。これは機器、訓練教材、コンサルティング、研究奨励制度、専門家育成、運営及び保守その他諸々の形で実行された。1996年、ADBは非正規中学校向けに40万米ドルの予算を供出した。こうした実績から、ADBは長年にわたりタイの教育開発と職業教育開発に多大なる貢献をしてきた機関といえる。
 このほかにも特筆すべき貢献をしてきた国際機関が、ILO、UNESCO、UNDP等である。今まで述べた国際機関のみならず、タイはオーストラリア、カナダ、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、ニュージーランド、ポルトガル、日本、英国といった諸外国からもさまざまな形の支援を受けてきた。人的資源開発において、外国の支援者は毎年400件もの研究奨励をタイに提示してくる。その内容は、短期訓練、視察旅行から修士及び博士課程院生、あるいは経験のある知的職業者向けに職業技能や知識をさらに向上させるものまである。受益者の大半は政府公務員である。
 こうした外国からの研究奨励のタイ側窓口はタイ国際開発協力局(Thailand International Development Cooperation Agency:TICA)である。TICAは研究奨励をタイ国内では割り振り、外国側にはタイが必要としている教育内容について提言を行う。ほとんどの研究奨励は英語で行われるため、支援側はTICAに候補者の英語力の試験を求めている。TICAは必要な者には英語の訓練コースも提供している。研究奨励はその期間は無償で供与され、授業料、渡航費、生活費、書籍費及び健康保険等は支援側負担である。人的資源開発支援は、研究奨励、訓練、機器、コンサルティング、訓練物品等いろいろな方法で行われてきた。TICA発表による、2007年にタイが人的資源開発関連で外国から受けた支援額の詳細は、表3‐4のとおりである。

※2
1米ドル=約90.3506円(2009年11月2日現在)

表3‐4 外国及び国際機関からタイへの支援額(2008年)
支援元 支援額(単位:千米ドル) 割合(単位:%)
日本 6,539.1 16.7
NGO 12,999.7 33.3
フランス 6,830.6 17.5
米国 2,742.2 7.0
国際連合 3,025.0 7.7
ボランティア 3,934.3 10.1
ドイツ 1,191.4 3.0
デンマーク 26.7 0.1
オーストラリア 6.0 0.0
EU 1,530.3 3.9
スウェーデン 24.3 0.1
アジア諸国 120.4 0.3
オランダ 52.8 0.1
エジプト 8.9 0.0
東南アジア文部閣僚機構 53.6 0.1
コロンボ計画事務局 7.7 0.0
合 計 39,093.0 100.0
※出典:
Thailand International Development Cooperation Agency Statistics Department (2009).

 外国及び国際機関からの職業能力開発への支援には、次のようなものがある。

  • 2008〜09年度学位取得を目指す学生向けのシンガポール政府奨学金
  • 広島大学の修士課程奨学金
  • ASEAN諸国における商業及び生産計画の伸長法のためのマレーシア奨学金(JICA共同)
  • ローハンプトン大学(イギリス)修士課程奨学金
  • 質と環境を考慮した持続可能な観光開発のためのスペイン奨学金
  • コロンボ計画のTCSにおける器具操作と液化と石油処理作業におけるデータ獲得システムのためのインド政府奨学金
  • 産業電気工学及び器械工学のためのインド政府奨学金
  • 2008年度フルブライトタイ派遣及びフルブライトタイ研究奨学金制度

 これらは、人材開発、特に職業能力開発が重要視されており、タイ政府から国内労働市場への支援だけでなく、外国及び国際機関からも多額の支援がタイ労働力の能力開発に費やされている。支援は、奨学金、研究奨励、訓練コース、技術支援、コンサルティング、訓練機器、訓練手法、訓練技術、訓練施設といったさまざまな方法で提供されている。

3.6 職業能力開発の政策評価

 国家教育法(1999年)では、すべての教育レベルに対して教育基準及び品質を保証しなければならないと規定している。この制度は内部及び外部の品質保証制度で成り立っており、品質保証のための制度、基準、方法は省令で決められる。法では、ほかに品質保証制度の構築に関しても規定している。上位機関が法的拘束を教育機関又は機関そのものにかけるものである。年次報告書を作成し、上位機関及び関係機関に提出しなければならず、公的に閲覧ができるようにして教育品質と基準の向上を図り、外部品質評価の基礎情報を提供する。
 国家教育基準・品質評価室を公的機関として設立することで、すべての教育機関は少なくとも5年に1度は外部品質評価を受け、その評価結果は関係省庁と一般に対し閲覧される。教育機関は関連する情報や書類をまとめることが求められている。また、職員や機関の幹部、上位機関及び情報提供をした組織に、品質室の要求に応じて機関の職務に焦点を当てて見せなければならない。もしある機関の品質が基準に達していない場合には、品質室はその機関の上位機関に命じて期限付きで職務の改善を命じることになる。改善されなかった場合には、基礎教育委員会、職業教育委員会あるいは高等教育委員会に必要な改善行動を取らせることになる。
 国王令に規定されている国家教育基準・品質評価室のミッションは次のとおりである。

  • 外部評価制度の開発、枠組みの設定、教育機関や局の品質保証制度に同調した効率的外部評価の方向と方法
  • 外部評価者による外部品質評価のための基準開発
  • 外部評価者の資格証明
  • 外部評価の基準設定と監督は、基準証明と同じように外部評価者が行う。ただし、外部評価制度に関する研究開発の必要に応じて、あるいは便益のために、国家教育基準・品質評価室は外部評価を実施できる
  • 外部評価者の育成訓練、訓練コースの準備において、より効果を上げるため民間教育機関、専門教育機関、学術機関の参加を奨励する

 教育品質と基準評価に関する年次報告書は大臣評議会、教育大臣、政策立案と予算配分に関連する機関に提出する。報告書はほかの機関や社会一般にも広報する。これらのミッションを達成するため、品質室に6つの戦略がある。

  • 教育機関が学習者の質を上げ、教育機関が外部品質評価の準備をできるよう、内部品質保証体制の導入を奨励すること
  • 関係各位に情報を広報し、教育品質保証の重要性の認知度向上と教育機関が提供するサービスの承認を受けること
  • 教育機関の品質で外部評価が効率的に行う制度を構築し、学習者に高品質の教育が提供できるようにすること
  • 教育品質保証の一連の知識を構築し、教育品質開発、評価体制の監視を行うこと
  • 品質評価に携わる人材の育成強化を行い、品質評価者の専門性を向上させること
  • タイの国内外の組織及び個人とのネットワークを構築すること

 さらには、教育機関の評価については品質室が自ら定めた「友好的評価モデル」に従って、最高の品質と効率を目指し、プロ意識を持って評価を行うことで、教育の質と基準を全国に広めている。この「友好的評価モデル」とは次の4つの段階から成る。
【第1段階:奨励と開発】
 この段階は、教育評価、特に外部評価を理解する姿勢を教えること、教育機関の質と評価を拡大強化させること、室による外部評価への準備を強化させることである。
【第2段階:「学校改革者」への信頼醸成】
 友好的外部評価者の選定段階で、外部評価者と相互友好信頼関係を築き上げて、関係教育機関の質と基準を向上していく。
【第3段階:友好的評価における忍耐】
 教育機関が達成した内部品質保証の結果を確認するために、信頼のおける評価を実施する段階である。したがって評価は、自己評価、信頼のおける評価、強化に関する評価、品質の評価、基準の計測に関する評価を統合したものである。
【第4段階:指針と支援の提供】
 ニュートラルな評価に基づいた最終報告書の作成に関する段階である。上位機関の協力が品質と基準の持続的発展に必要である。国家教育基準・品質評価室の指針と監督により、職業教育委員会は職業教育標準認証局に監督された内部品質評価体制を有し、政策計画局、内部監査局、公的部門開発部に支援を受け、その他職業教育制度に関連する部門からの協力を得る。

3.7 職業能力開発の実施概況

 タイの職業教育は、機械及び電気技術、工学関係、農業、流通及び貿易、芸術及び工芸、IT技術、観光、漁業、産業と建築、その他の分野を、次の4つの大きなグループに分けることができる。

  1. サーティフィケイト(Certificate)課程
     3年間のコースであり、小学校卒業程度以上で、職業心得、社会、自分と社会に合った職業を模索する者を対象に提供される。課程を修了した学生は、正規教育課程の中学卒業程度の認定書(サーティフィケイト)を受け取る。
  2. ディプロマ(Diploma)課程
     3年間のコースであり、中学卒業程度の学力もしくは3年以上の就労経験がある者を対象に提供される。課程を修了した者には正規教育課程の高等学校卒業程度の修了書(ディプロマ)が授与される。
  3. 大学(職業教育)課程(Bachelor Degree)
     4年間のコースであり、(1)の修了者あるいは高等学校卒業程度の者に提供される。また、2年間のコースもあり、(2)の修了者を対象に提供される。プログラムの目的は、すでに就業しているかあるいは基本的な職業技能を有する者がその技能を向上させることである。課程を修了した者は、大学職業教育課程卒業証書(Bachelor Degree)を受け取る。
  4. その他のプログラム
     地方から上げられる特定の職業技能及びニーズに合わせて、内容を決めるプログラム。
    1. 短期職業コース
       このコースは、この分野の講座に関心を持つ者であれば誰でも、必要な教材の最小の費用を負担すれば講義を受けられる。訓練の大半が地区の職業教育機関等で行われる。225時間のコース、6時間以上のコース、“9+1”コース(中学卒業(9年生修了)程度プラス就労経験のある者が対象)、“12+1”コース(高校卒業(12年生修了)程度プラス就労経験のある者が対象)がある。
    2. 地域開発プロジェクトのための職業教育プログラム
       この農業従事者向けの特別プログラムは、教育レベルの向上と効果をもたらすであろう。このプログラムは、農業に従事する者に柔軟に対応している。このプログラムは、農業技術短大だけで開講されており、現在は2コースある。
      • 職業中等学校コース(農業)
        小学校卒業程度以上で、農業分野での就労経験がある者を対象に提供される。課程を修了した生徒は、中学卒業程度(農業)の認定書を受ける。
      • 職業証明書コース(農業)
        中学校卒業程度以上で、農業分野での就労経験がある者を対象に提供される。課程を修了した生徒は、職業証明書(農業)の認定書を受け取る。
    3. 高等職業認定コース
       このコースは、職業認定コース修了の職業教育の教員を対象に提供される。2年間の課程を修了した者は、高等職業認定課程の卒業程度の認定書を受ける。

      表3‐5 2008年に実施された職業教育プログラムのコース数
      コース名 前期 結果 後期 結果
      225時間コース 2,025 1,660 1,745 908
      多彩なコース 247,412 213,365 247,953 243,420
      職業教育予科コース 98,373 79,827 101,177 92,416
      短期コース(農業) 29,375 24,110 22,340 20,244
      108種の職別訓練コース 210,832 277,769 192,458 265,249
      9+1コース、12+1コース 11,136 6,728 9,890 5,764
      短期コース(他機関と共催) 48,334 31,558 37,329 57,046
      その他特別コース 37,150 35,671 26,682 22,519
      職業センター 0 70 0 238
      合計 684,637 670,758 639,574 707,804
      ※出典:
      Vocational Education Commission.

      表3‐6 2008年の分野別の高等職業認定コースの学生数
      学習分野 1年 2年 3年 合計
      農業 23 291 0 314
      商業・経営 5 4 0 9
      芸術 0 1 0 1
      産業・貿易 98 131 0 229
      合計 126 427 0 553
      ※出典:
      Vocational Education Commission.

      表3‐7 2008年の職業証明書コースの学生数
      学習分野 1年 2年 3年 合計
      産業・貿易 100,684 77,598 76,047 254,329
      商業・経営 60,955 51,387 48,312 160,654
      農業 7,213 6,404 5,683 19,300
      家計 5,499 4,529 4,256 14,284
      芸術 4,569 3,223 2,949 10,741
      観光産業 4,338 3,304 2,843 10,485
      漁業 625 537 239 1,401
      繊維産業 139 127 97 363
      合計 184,022 147,109 140,426 471,557
      ※出典:
      Vocational Education Commission.

      表3‐8 2008年の職業認定カリキュラムの学生数
      学習分野 1年 2年 3年 合計
      産業貿易 4,025 5,541 60 9,626
      商業・経営 1,586 1,824 3 3,413
      農業 1,855 1,554 10 3,419
      家計 534 614 1 1,149
      芸術 41,125 39,552 1,053 81,730
      観光産業 722 731 0 1,453
      漁業 51,933 49,835 2,706 104,474
      繊維産業 2,026 1,847 9 3,882
      その他貿易 82 96 0 178
      合計 103,888 101,594 3,842 209,324
      ※出典:
      Vocational Education Commission.

3.8 公共職業能力開発実施機関

3.8.1 目的、組織、施設など

【タイ・ドイツ職業訓練学校(Thai-German Institute:TGI)の事例】
 TGIは、タイ、ドイツ両国政府により、工業分野の技術移転に特化した組織を目指して設立された。TGIは、教育省所管の独立した組織で、工業開発基金の支援を受けて非正規教育機構として役立っている。1995年から工業あるいは教育サービスを提供しており、内閣の設立認可から3年で発足した。

  1. 理念
     国際レベルの生産技術及び知識移転の分野で、優位性を持つ機構であることを目指す。
  2. 使命
    • 生産技術の移転と工業分野の管理・中心基地としてのサービス
    • 人材の能力開発と将来の工業の変化に備えた能力開発支援
    • 情報分析、産業の将来予測のための知的情報センターの設立、国や民間部門への産業政策の提言
    • 国の産業開発方針に沿った業務関連のサービス
    • 産業界の学習センターとしての役割
  3. 目的
     TGIは10年以上の活動実績があり、産業、コンサルティング、訓練といったサービスを多くの産業界の顧客に提供し、産業界とよい関係を維持する一方で、新規顧客候補との交流も深めてきた。顧客との関係にあたり、彼らの主な目的は次のとおりである。
    • 既存顧客との良好な関係を維持し、顧客の幅を広げること
    • 活動内容を広報すること
    • 上顧客へ優遇制度を提供すること

 優遇制度には、基礎課程の授業料割引及びセミナー室の利用料割引、事務機器の使用、図書館サービス、ほかにも、最新情報や研修・セミナー情報の定期的配信がある。研修コースには、オートメーション技術、金型技術及び生産技術開発がある。工場オートメーション技術分野のサービスを提供し、工場オートメーションシステムの設計から保守管理や保守実績の監査方法に至るまでのコースを取り揃えている。

3.8.2 主要教材、予算と財源、訓練コース、訓練方法

【タイ・フランス イノベーションセンター(Thai-French Innovation Centre:TFIC)の事例】
 TFICは、キングモンクット工科大学(King Mongkut’s Institute of Technology North Bangkok:KMITNB)、フランス機械工学連合(la Fédération des Industries Mécaniques:FIM)、フランスDIDAC及び13のフランス企業との連携で設立された。TFICは1990年10月2日、マハー・チャックリー・シリントーン内親王殿下によって創設され、殿下は1992年6月5日のセンターの公式開所でも指揮を執られた。設立以来TFICは、両国の科学技術の架け橋として重要な役割を果たしてきた。
 TFICは、研究、研修、コンサルティング、試験サービスを産業界及びタイ、東南アジアの大学や工科短大の教員、学生に提供している。その専門領域は、自動生産システム、腐食、電気・電子、エネルギー、測定、溶接といった分野に及んでいる。
 TFICは、フランス及びアジアの学術、研究機関、産業界とパートナー関係を結んでいる。アジアの学術、研究機関のパートナーとは、タイ工業連盟、カンボジア工科大学、ラオス国立大学、ハノイ土木大学、ハノイポリテクニック※3、ホーチミン市ポリテクニック及びダナン工科大学である。産業界のパートナーとは、Air Liquide、Petroleum Authority of Thailand Exploration and Production、Electrcite de France、Ecodime、Corys TESS、Total、Schneider Electric、Thainox Steel、MGE UPS Systems、Dosatronである。TFICは、表3‐9の分野において、訓練、コンサルティング、研究サービスを提供している。

※3
ポリテクニック(Polytechnic)とは、職業に深く関連した技術や知識を習得できる高等教育機関をいう。

表3‐9 TFICによる訓練、コンサルティング、研究サービス内容
分野 訓練 コンサルティング 研究
電気・
電子
  • 直流・交流・サーボモーター
  • 産業発電
  • 自動制御システム技術
  • メカトロニクス
  • ロボット工学
  • 発電保守
  • 高調波発電システム
  • 電気工学及び産業向けエネルギー
  • 工業用電気駆動
  • DSP技術による電気駆動
  • 非高調波発電システム
  • 電気駆動実験板
自動生産システム
  • コンピュータ数値制御プログラム
  • 機器変数調整
  • SCADAによる生産システム管理
  • ARENAによる自動生産システムのシミュレーション
  • Solid Works、Cimatron Eによる製品設計
  • Solid Works APIプログラム
  • 先端数値制御プログラム
  • 生産性向上
  • コンピュータ数値制御機器保守
  • 自動生産システム
腐食技術
  • 腐食実験での電気化学法
  • 腐食及び腐食制御
  • 陰極保護
  • ステンレス鋼治金、選定、加工及び保守
  • 腐食問題
  • ステンレス鋼の大気中腐食
  • 電気科学技術を利用した腐敗反応
  • 錫缶有機塗料の腐食
  • アルミ缶ラッカー塗料の腐食耐性
エネルギー
  • 省エネ周知
  • 工場・建物の省エネ
  • 訓練士の訓練
  • エネルギー損失問題
  • 制御用途
  • エネルギー経済
  • 知的制御システム
  • ロボティクス
測定
  • 寸法と圧力
  • 寸法と圧力
  • 寸法と圧力
溶接
  • 品質管理システム
  • 溶接金属学
  • 溶接工程
  • MIG/MAG、SMAW及びTIGの実演
  • 溶接と試験
  • 品質管理システム
  • 溶接の工程、貴金属学、設計、用途
※出典:
Thai-French Innovation Centre.

3.8.3 代表的なカリキュラムとその開発方法、教材とその開発方法、指導員、訓練生の募集、訓練生に対する優遇措置

【Nakornluangポリテク短大の事例】
 Nakornluangポリテク短大は、短期コースと共にサーティフィケイト、ディプロマレベルの職業教育を提供する公立の職業教育機関である。短大は、学生のためのさまざまな施設を有しており、図書館やコンピュータ室が充実している。キャンパスには、4つの主要な建物があり、約40の教室、6つのコンピュータ室(約90台のコンピュータ)がある。短大の主な目的は、学生に多様な技術分野の職業教育を提供し、学生が堅実な職業選択をするのに必要な知識及び技能を構築できるようにすることである。コースには、自動車技術、電気・電子技術、コンピュータ、販売及びマーケティング、ホスピタリティ・ビジネス、農業分野がある。学生はその教育背景に応じてプログラムを受けることができ、学習や試験の成績で評価される。卒業後学生は、異業種への就職、さらに高度の教育を受けることもできる。

3.9 民間企業が行う職業訓練への支援体制

 タイ及び外資系のさまざまな企業が、自社の従業員の能力開発のために、地域の教育機関や大学と連携して、多様な教育プログラムを提供している。自社内部での研修、海外での研修、国内の職業教育機関での研修にかかわらず、企業が自社の従業員の技能向上や知識開発を重要視していることは明らかである。

(例1) トヨタ
 トヨタは1973年に教育支援及び技術移転を開始した。以後、継続してタイ全国の子供たちに学習ツールの提供支援を続けている。さらに、トヨタはChulalongkorn大学の工学部に自動車工学科を共同で創設し、自動車技術の実験室を大学に寄付した。1998年には、トヨタ自動車技術学校を設立し、教育省と提携して自動車工学、車体修理、スプレイ塗装に関する技術や知識を移転するためのT-TEP(TOYOTA Technical Education Program)、B&P T-TEP(Body and Paint TOYOTA Technical Education Program)プログラム及び学習用の資材やエンジンも提供した。トヨタの職業教育の1つに、創造性、技術革新、地域や社会に有用な改革力を養うことを目的とする「純正職業」プログラムがある。Chulaporn工科大学の自動車工学科のワークショップ改革にも貢献し、また、学習資材やエンジンを寄贈した。加えて、Pradobos基金の下にKrikangwon職業短大とPradobos学校に自動車技術ワークショップ講座を寄贈した。また衛星財団を通して衛星による遠隔教育の支援も行い、「トヨタ日本研究基金」をChulalongkorn大学の芸術学部に設立した。これらのすべての活動は、トヨタの社会活動方針によるものであり、国の国際競争力の源泉は教育にあるという信念から生じている。
 タイのトヨタ自動車技術学校は、自動車業界での就労を希望する者に訓練を提供する職業教育機関として活動している。その理念は、自動車業界が求める卒業証書及び認定レベルを満たすために、職業教育を通じて国の人材基準に合う職業人を送り出す学校にすることである。そのために学生には、職業生活に求められる健全な職業倫理観、規範、公正さ及び高い質の技能や知識を教えている。学校の職業訓練の目的には、自動車業界に質の高い教育を施すことと、国際的に通用する訓練や教授法を活用した継続的な職業能力開発制度を構築することがある。また、この学校を活用して、タイ自動車業界に先端技術の移転を行うことが望まれている。トヨタは、学生への職業教育を通じて、チームのメンバー及び他の従業員の手本になるリーダーになれるような高度技術者を育成することを望んでいる。職業教育プログラムは、自動車技術グループと自動車技術管理グループに分けられている。プログラムに参加することで、学生達は自動車業界で働くのに必要な技術と知識を身につけることができるようになる。プログラムの主な目的は、学生が各分野でのスペシャリストになり、さらに効果的かつ効率的に問題解決ができ、戦略的な計画が立てられるマネージャーになるようにすることである。また学生は、良いマネージャーやリーダーになれるように、コミュニケーション及び対人スキルも教育される。卒業後、学生達はスペシャリストあるいはマネージャーの立場で自動車業界に進むことができる。
(例2) メルセデスベンツ
 職業訓練のひとつの形態に、民間企業が職業訓練機関と連携して従業員に研修を行うデュアル職業訓練制度がある。研修はサーティフィケイト課程で行われる。期間は通常3年間で、そのうち半分以上をOJTに費やす。企業と研修生の間で契約を交わし、研修手当として給与が支給される。研修生は技術あるいは職業短大に入学し、職業に関係した科目を理論と実務の両面から学ぶ。企業は、従業員を通常週2日、短大のコースに通わせる。修了証書(Certificate)は、熟練労働者レベルあるいは技術者・認定レベルが授与される。
 デュアル職業訓練制度の一例としてはタイのメルセデスベンツ社が挙げられる。同社は、Samutprakan工科短大と連携してメルセデスベンツの電気系統や自動車機械部分の上級卒業証書レベルの学生を受け入れている。コースは修了まで約2年半の期間である。学生は会社の専門家により同社の工場で訓練される。実施訓練のほかに、学生はSamutprakan工科短大の講義を受講する。学生は訓練の間は日給約200バーツの賃金を受け、特に優れた学生は認定販売店から奨学金をもらい、金銭面と住居の支援を受けることができる。卒業後、学生は自動的にメルセデスベンツ認定販売店のアフターサービス部門で働くことになる。
(例3) ホンダ
 ますます複雑化する自動車産業界を支える高度な技術を持つ人材を育成する取り組みとして、ホンダが教育省職業局と共同で、1999年にアユタヤに自動車工業技術短大(Automobile Industry Technical College:AITC)を設立、タイのホンダグループは1億バーツの予算で、敷地、建物及び設備の支援を行った。AITCは、この地方における最初の自動車訓練施設である。その2年間のカリキュラムの内容は、メカトロニクス、自動製造、溶接、工業技術、製造技術及びエレクトロニクスなどである。
(例4) CP All Public社
 Panyapiwatテクノビジネス学校は、CP All Public社によって設立されたビジネス分野を含む職業教育学校である。Panyapiwatテクノビジネス学校は、CP All Public社の技術や知識が取り入れられた特殊な学校である。同校の職業教育コースは、卒業証書レベルと認定レベル及びほかの参加者のための短期コースがある。同校の学習は、‘実務研究’、特に販売ビジネス、ロジスティック、フードビジネス及び情報技術に力を入れている。CP All Public社は、タイ国の職業教育を発展させようと試みている。

 以上の4事例から、いかに企業が自社の従業員の職業訓練や教育に関与しているかが分かる。タイの企業が、多様な手法や職業訓練を通した自社の人材開発に非常な関心を払っており、教育が産業界における従業員の技能や知識の開発に役立つツールである、ということがますます明確になってきた。デュアル職業訓練制度のような政府と民間企業の連携によるメリットと同様な政府の支援があれば、地元企業や国際的企業にとって自社従業員に対する職業訓練や教育が、より低コストで、より容易に行えるようになる。


参考文献

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    http://www.adb.org/
  2. Automobile Industry Technical College.
    http://www.aitc.ac.th/
  3. Budget Bureau of Thailand.
    http://www.bb.go.th/
  4. Bureau of Cooperation, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://boc.vec.go.th/
  5. Bureau of General Administration, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://www.boga.go.th/boga/
  6. Bureau of Monitoring and Evaluation of Vocational Education, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://bme.vec.go.th/
  7. Bureau of Personnel Competency Development, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://www.bpcd.net/
  8. Bureau of Policy and Planning, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://bpp2.vec.go.th/
  9. Bureau of Vocational Education Research and Development, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://www.ver.go.th/
  10. Bureau of Vocational Education Standards and Qualifications, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://bsq.vec.go.th/
  11. Commission on Higher Education Thailand.
    http://www.mua.go.th/
  12. Internal Audit Unit, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://iau.vec.go.th/
  13. International Labor Organization.
    http://www.ilo.org/
  14. Mercedes-Benz Thailand.
    http://www.mercedes-benz.co.th/
  15. Ministry of Education Thailand.
    http://www.moe.go.th/moe/th/home/home.php
  16. Ministry of Foreign Affairs Thailand.
    http://www.mfa.go.th/
  17. Nakhon Luang Polytechnic College.
    http://www.nlpoly.org/index_1.html
  18. Office for National Education Standards and Quality Assessment.
    http://www.onesqa.or.th/
  19. Office of the Basic Education Commission.
    http://www.obec.go.th/
  20. Office of the Education Council.
    http://www.onec.go.th/
  21. Public Sector Development Group, Vocational Education Commission of Thailand.
    http://psdg.vec.go.th/
  22. Southeast Asian Ministers of Education Organization.
    http://www.seameo.org/
  23. Thai-French Innovation Institute.
    http://www.tfic.kmutnb.ac.th/indexEnglish.htm
  24. Thai-German Institute.
    http://www.tgi.or.th/
  25. Thailand International Development Cooperation Agency.
    http://www.tica.thaigov.net/
  26. Toyota Motor Thailand.
    http://www.toyota.co.th/
  27. UNESCO-UNEVOC.
    http://www.unevoc.unesco.org/
  28. Vocational Education Commission.
    http://www.vec.go.th/

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