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インドネシア

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作成年月日:2019年11月
インドネシア共和国

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インドネシア国情報2019年10月

今月のテーマ

「最近のインドネシアの言語事情」


インドネシアには、多くの言語が存在することを知っている方も多いかもしれません。インドネシアは、その広大な領土に様々な民族がそれぞれの言語を使って生活している多民族・多言語の国です。その豊富な地方言語は、インドネシアの多様性を象徴しているのですが、最近、インドネシア語やインドネシアの地方言語の衰退が懸念されていると言います。そこで、今回はインドネシアで使用されている言語の事情について見ていきたいと思います。

 

まず、インドネシアで使用されている言語の分類には、主に次のものがあります。

・インドネシア語

・地方言語

・インドネシア語と地方言語の交差使用(2言語を混ぜて使うこと)

・外国語

 

インドネシア語は、オランダ植民地から独立の機運が高まるなかで1928年に起こった「青年の誓い」とよばれる出来事において、「1つの国民・1つの土地・1つの言語」というスローガンが掲げられ、当時もっとも話者数の多かったジャワ語ではなく、マレー語をもとにしたインドネシア語を、国の統一言語にすることをはじめて打ち出されました。独立した1945年に、インドネシア語が正式に国語として定められると、異なる言語を話す民族同士の媒介言語として普及し、「青年の誓い」から91年が経った現在では、インドネシアの至る地域で話されています。

 

地方言語は、教育文化省の記録によると、インドネシアに718言語があるとされています。パプア・西パプアに428言語、マルクに79言語、東ヌサトゥンガラに72言語、スラウェシに62言語、カリマンタンに58言語、スマトラに26言語、西トゥンガラ州に11言語、ジャワ・バリに10言語となっており、土地が広大で人口密度の少ない地域ほど多いと言えます。2017年の現地紙Koran Sindoによると、最も話者数が多い地方言語とそれぞれの話者数は次のとおりでした。

 

1. ジャワ語(ジャワ島):8,430万人

2. スンダ語(ジャワ島):3,400万人

3. マドゥラ語(マドゥラ島):1,360万人

4. ミナンカバウ語(スマトラ島):553万人

5. ムシ語(スマトラ島):393万人

 

3つ目のインドネシア語と地方言語の交差使用は、インドネシア語と地方言語を混ぜて使っているということです。インドネシア語は、マレー語をもとにして生まれましたが、オランダ語、英語、ヒンドゥー語、サンスクリット語、インドネシアの地方言語など、様々な言葉を取り入れています。地方言語の衰退の影響も相まって、相手に伝わりにくい言葉、あまり一般的ではない難しい言葉はインドネシア語に置き換えるなどして話されています。

 

最後に、インドネシアで話される外国語には、主には英語、中国語、アラビア語があげられます。いずれもインドネシアに滞在している外国人が話しているものを指しているのではありません。中国語は、インドネシアの中華系に人たちに話されており、アラビア語はイスラム教の教えのなかで広く学ばれています。その中でも英語は、私立学校や大学などの高等教育の教科書で使用されていることもあり、富裕層を中心に英語で教育を受けている人たちが多くいます。そのため、英語ができるということはひとつのステイタスとも捉えられ、インドネシア語や地方言語ではなく、英語で話す人たちが増えているのです。

 

このように、インドネシア語と地方言語の交差使用や英語の教育分野での使用が増えたことに加えて、自分たちの地方言語だけでコミュニケーションの取れない他民族との交流が増えたことや、地方言語の表記がパソコンやスマホに対応していないことも原因となって、地方言語の衰退が危惧されているのです。

 

2009年に国際連合の専門機関であるユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、世界に存在する6,000言語のうち、2,500言語が消滅の危機に直面しているという衝撃的な発表をしました。その消滅の危機に直面している言語のうち、インドネシアの地方言語から100言語が含まれていました。また、インドネシアの教育文化省が1991年から収集しているデータでは、72言語について言語状況を調査したところ、「安全である」から「消滅した」までの6段階の評価で、「安全である」または「安定している」と評価された言語は、たった35言語という結果になったといいます。

 

・安全である…子供を含め、民族のすべての人々に話されている(19言語)

・消滅の危機にはあるが安定している…子供やお年寄りが話しているが、話者の人数は減ってきている(16言語)

・衰退している…一部の子供やお年寄りが話さなくなっている(2言語)

・消滅の危機にある…話者が20歳以上に限られ、人数が少なく、お年寄りが子供やお年寄り同士で話さなくなっている(22言語)

・深刻である…話者が40歳以上に限られ、人数も限られる(4言語)

・消滅した…話者がいなくなってしまった(11言語)

 

このようなインドネシア語や地方言語の衰退が進まないように、インドネシア政府は2009年には「国旗、言語、国章、国歌に関する法律」を定め、国内取引に関する契約書は、インドネシア語を使用することなどを定め、直近では、2019年に「インドネシア語の使用に関する大統領令」を定め、今後、国内で建設する建物にはインドネシア語名をつけることなどを定めました。

 

また、地方では、スラウェシのブトン島ではインドネシア語で使われているアルファベットでは表現できない言語を残すため、韓国語のハングルを採用して学習を試みている民族もいます。

 

それぞれの言語には、ただコミュニケーションをするためのツールであるということだけでなく、言語やその表現に蓄積された考え方や文化があると言われます。インドネシアにある豊富な地方言語は、インドネシアが文化的に様々な価値を持つことの証であり、インドネシア語は建国以前からインドネシアの人々を一つにまとめてきたアイデンティティであると考えられています。英語が普及したからインドネシア語が衰退する、インドネシア語が普及したから地方言語が衰退するというのではなく、それぞれの言語の価値を大切にし、後世に残していくための議論が続けられています。

 

以 上

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