各国・地域情報

インドネシア

<次の記事へ
作成年月日:2019年9月
インドネシア共和国

海外情報プラス

インドネシア国情報2019年8月

今月のテーマ

「ジャカルタからの首都移転」


ジョコウィ大統領の2期目の再選から間もなく、ジョコウィ大統領は首都移転の計画があることを発表しました。そして、短期間のうちに新首都の候補地を視察調査すると、8月26日に、新首都をカリマンタン(ボルネオ)島の東カリマンタン州に移転することを決定したのです。ジャカルタは1964年に正式にインドネシアの首都になり、今年で55年目を迎えました。現在では首都圏で3,000万人もの人々が生活する、東京に次いで世界で最も人口過密度の高いエリアとなっています。一方で交通インフラが十分に整備されていないため、渋滞による経済損失は100兆ルピアに上ると試算されているほか、洪水被害や大気汚染に脅かされてること、国内の他島との経済格差が年々拡大していることが問題視されてきました。

 

実は、首都をジャカルタから移転するという話があがったのは、今回が初めてではありません。これまで、初代スカルノ大統領は1957年に中央カリマンタン州のパランカラヤ市への移転を検討したことがありましたし、スハルト大統領も1997年に西ジャワ州のジョンゴルへの移転を検討していました。比較的最近では、候補地はあげられませんでしたが、ユドヨノ大統領が2009年に首都移転チームを結成して検討を重ねていました。首都移転は歴代の大統領が幾度と試みましたが、実現できなかったインドネシアの長年の課題だったのです。そのため、ジョコウィ大統領としては、必ず首都移転を成し遂げたいという想いがあるのです。

 

ですが、今回の首都移転によって経済やビジネスの中心地をジャカルタから新首都に移すというわけではありません。ジョコウィ大統領は、新首都を置く東カリマンタン州には政府機能を集中させ、ジャカルタには金融庁やインドネシア銀行を残し、経済と金融の国際的都市として、発展させる計画を立てています。他国でも、同様の試みはたくさん見ることができ、例えば、アメリカではニューヨークからワシントンDCに、ブラジルではリオデジャネイロからブラジリアに、オーストラリアではシドニーからキャンベラに、トルコではイスタンブールからアンカラに、比較的最近ではミャンマーもヤンゴンからネピドーに首都を移しています。どの国でも政治と経済の中心地を分けています。

 

新首都は、東カリマンタン州のクタイカルタネガラ県とパセルウタラ県にまたがる一帯で、東カリマンタン州の州都であるサマリンダと大都市バリックパパンの近く、ちょうど赤道上に位置します。クタイカルタネガラ県は人口およそ15万9,000人、パセルウタラ県はおよそ65万5,000人という規模の地域です。広大なインドネシアにおいて、東カリマンタンのこのエリアが新首都に選ばれたのは以下の4つの理由からです。


1.災害リスクが少ない
2.国の中央に位置する
3.比較的インフラが整っている(空港・港湾・高速道路など)
4.18万ヘクタールの政府所有地がある

 

移転が実現すれば、この地域の人口は558万人まで増加する見込みで、またマレーシアとの国境と新首都との距離はおよそ350キロと現在より大幅に近くなります。

 

新首都は「フォレストシティ」をコンセプトに、緑が豊かな環境に優しい街づくりを目指していますが、移転準備や都市設計はこれからです。100年後の需要にもこたえられるよう、デジタルに基づいたクリエィティブ産業を誘致し、シリコンバレーを目指します。国家開発企画庁は、首都移転にかかる費用として466兆ルピア(およそ3兆5,000万円)を見込み、そのうち19%を国家予算から拠出、残りは資産運用や民間出資で賄うとしています。新首都の開発では国内の民間・国営企業を優先する方針で、外国投資家は世界中から広く募集するものの、国内企業と合弁会社を設立して投資を行うよう求めるという発言もされています。

 

インドネシアが黄金時代を迎える2045年に首都移転を完了させるため、現在のところ、3段階に分けた首都移転計画が立てられています。ジョコウィ大統領が2期目を務める第1期(2021−24年)では、国会の議決を経た上で、首都移転に関わる法律の策定や改定、道路・ダム、浄水・電力設備、モスク、大統領宮殿や国民議会を含めた官公庁(立法、行政、司法)の建設を予定しています。インドネシアでは大統領は2期までしか務められないため、ジョコウィ大統領が任期を終える2024年までに軌道に乗せられるかが一番の焦点になります。第2期(2025−29年)は、国家公務員、国軍、警察の住宅エリア、軍隊の教育設備や駐屯地を整備し、およそ100万人の国家公務員をカリマンタンに移住させる考えです。移転計画の最終段階である第3期(2030−45年)には、国立公園、オランウータン保護施設、国家公務員以外の住宅クラスターや首都周辺地域の開発が行われる計画です。

 

すでに大手財閥は新首都エリアでの不動産開発に取り組んでおり、今年に入って地価が高騰してるほか、カリマンタンの主産業である鉱業の下火で不況に陥っていたホテル業界や、建設に伴うコンクリート・セメント業界などの関連産業の活況に期待がされるなど、早くも経済効果は現れてきています。しかし、一方で、短期間での大規模な開発により談合や汚職の温床になること、また、土地の高騰に関連した土地の権利関係の複雑化、広大な森林を切り開く中で近隣住民の反発が起こる可能性があることなどが懸念されています。さらに、首都を移転することで首都周辺地域の経済は活発化されても、カリマンタン全域、パプア、バリ、マルクなど他の地域の経済も同様に活性化するとは限りません。また、首都を移転したからとってジャカルタの問題が解決されるわけではありません。ジャカルタやインドネシア全域が抱える問題はこれからも考え続けなければなりません。

 

以 上

<次の記事へ