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インドネシア

作成年月日:2017年12月
インドネシア共和国

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インドネシア国情報2017年11月

今月のテーマ

「汚職撲滅委員会(KPK)」


スハルト政権のもと30年以上の長期にわたり独裁体制が続いたインドネシアでは、「殺人事件の裁判でさえ金銭に左右される」と言われるほど汚職が蔓延しました。スハルト政権が1998年に崩壊すると民主主義が始まりますが、汚職は減るどころか民主化とともに始まった地方分権により地方にも広がり、報道の自由によりメディアでも積極的に取り上げられるようになりました。スハルト以降の大統領は、みな同じように汚職・談合・縁故主義の脱却を政策として掲げてきましたが、長年、染み付いた悪習を断ち切ることはできませんでした。そんな状況をなんとかしようと、2002年に大統領直轄の汚職捜査機関として汚職撲滅委員会(KPK)を設立する法案が制定され、2003年にメガワティ大統領のもと正式に発足されたのです。

汚職撲滅委員会とは、汚職の撲滅を目的に設立された政府を監視するための独立機関で、国家警察や検察はおろか、政党とも一切の関わりを持たない中立の存在です。汚職撲滅委員会には1名の委員長と4名の副委員長が選ばれますが、その条件には政党に属さないこと、任期中は他の役職から離れることが規定されています。汚職撲滅委員会の主な役割は、政府高官、ハイレベルの国家公務員、国会議員などが関連する汚職事件の内偵捜査、捜査、起訴、訴追のほかに、反汚職の教育、キャンペーン、他の捜査機関との協力、政府の反汚職政策の監視などがあります。

 

汚職撲滅委員会の任務
1. 汚職を撲滅する権限を有する機関との調整
2. 汚職を撲滅する権限を有する機関に対する監督
3. 汚職に対する捜査・取り調べ・起訴
4. 汚職案件の防止
5. 政府の政策に対する監視

 

これまで、国家警察や検察にしか汚職捜査の権限はありませんでしたが、汚職撲滅委員会には汚職を捜査・起訴するために盗聴、被疑者の海外渡航禁止命令、停職命令、金融機関に対する情報開示請求権・口座凍結命令や、財産・税務情報の収集権などの強い権限が与えられています。これは既存の国家警察や検察からその権限を奪うものではなく、刺激を与えてその働きを高めるものとされています。告発があったにも関わらず捜査が行われていない案件、明確な理由もなく捜査が延期されている案件、汚職の真犯人を庇うような捜査がされている案件、汚職捜査に汚職が関わっている案件、立法・行政・司法の機関が関与し捜査が妨げられている案件などについては、本来、検察が行う捜査・起訴を汚職撲滅委員会が独自に行うことができ、国家警察や検察が手掛けている汚職案件を強制的に引き継ぐことができます。

 

汚職撲滅委員会が捜査・取調べ・起訴を行う権限を持つ汚職案件

a) 政府高官や法執行機関の職員が関与する汚職案件

b) 社会不安を煽る可能性がある汚職案件

c) 10億ルピア以上の国家損失に関わる汚職案件 。

 

汚職撲滅委員会は発足からの10年間で国会議員74人、判事10人、検事2人、大臣または大臣レベル17人、州知事10人、市・県知事40人、委員(選挙管理委員会、事業競争監視委員会、憲法裁判所を含む)7人、大使4人、総領事4人、中央銀行総裁1人、副総裁4人、政府高官115人、民間および国営企業の役員・職員100人を逮捕するなど、汚職を厳しく取り締まってきたという実績を残しています。この実績から汚職撲滅委員会は汚職撲滅のシンボルとして国民から高い評価を受けています。

 

こうした国民からも告発が得られるように汚職撲滅委員会は、国民が匿名で告発ができるようにしています。以下の基準を満たす告発に汚職撲滅委員会は捜査をすることになっています。

 

1. 告発内容が下記の規定を満たす場合

a) 国家警察または検察が行った汚職行為に国家警察、検察または関連する第三者が関与する場合

b) 社会不安を煽る可能性がある場合 c) 10億ルピア以上の国家損失に関わる場合

 

2. 誰が、いつ、どこで、なぜ、どのように、何を行ったか説明があること

3. 汚職行為を説明する初期証拠(データ、文書、写真、録音)があること

4. 捜査のための情報源データがあること

 

また、汚職撲滅委員会は汚職のイメージの強い税関とも協力して汚職撲滅に向けた取り組みを進めています。通関手続きの電子化、銀行送金による費用支払いなどで贈収賄の機会をなくすほか、税関内に監視カメラを設置し不正の抑制と同時に贈収賄があった場合の証拠としています。贈収賄が発覚した場合に関与した職員を厳格に処罰し、贈賄を行った企業との間で汚職防止のための覚書を締結する、贈賄要求の拒絶・記録・報告(Tolak、Catat、Laporkan)のアルファベットの頭文字をとったTCLプログラムを推進しています。

 

汚職撲滅委員会は国家警察、検察、国会議員や政府高官からすると厄介な存在であり、汚職撲滅委員会の活動に対する妨害や嫌がらせもあります。汚職撲滅委員会の捜査官が2人組の男に液体を顔にかけられて負傷を負うという事件もありました。また、2015年には、当時の新任の国家警察長官に指名された人物の汚職疑惑を汚職撲滅委員会が指摘した結果、逆に国家警察が汚職撲滅委員会の副委員長を汚職容疑で逮捕する事態も発生しています。その後も国家警察は強引に汚職撲滅委員会の幹部を逮捕しています。国会もまた露骨に汚職撲滅委員会の権限縮小を試み、容疑認定後に限って盗聴を認めることで賄賂の現行犯逮捕を妨げ、汚職撲滅委員会の捜査を中断させる権限を与えることで、捜査から提訴への過程で圧力をかけて不起訴処分に持ち込むことなどを想定した条項が盛り込まれる改正案が問題になりました。最終的にはジョコ・ウィドド大統領が改正案の審議を延期させることで終結しています。

 

依然、汚職撲滅委員会と国家警察、検察、国会議員や政府高官との間には深い溝が残されています。こういった公権力からの妨害があっても汚職撲滅委員会がその強大な権限を維持し、その任務を果たすためには大統領や国民からの支持だけでなく、権力に決して屈さない汚職撲滅委員会の人選も欠かせない重要な問題です。

 

以 上