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インドネシア

作成年月日:2012年6月
インドネシア共和国

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インドネシア国情報2012年5月

1.全体報告

 今年の大きな特徴として、この5月までに撤退/自主清算の相談が1件もないことが挙げられる。2001年以降、毎年10件ほど撤退の相談を受けてきたが、1月〜4月に3〜6件の相談が入るのが通例であった。それが1件の相談もないというのは、この12年間で初めてのことである。 (注:昨年12月に1件相談があったので、今年全く撤退がないということではない。)

 これは、ここ数年のインドネシア経済の堅調な伸びと政治的安定を日本も含めた諸外国が評価し、事業拡大/増資や新規進出を加速させていることと関係していることは勿論だが、一方で昨年から株主変更や合併/分社化の相談が増えているという事実も指摘しておきたい。

 株主変更や合併/分社化となれば、経営陣が変わり組織が変わることも多いので、従業員たちに不安が巻き起こり、退職金要求が出されてくることも少なくない。日系企業では、ほぼ全てのケースにおいて退職金要求が出されてきている。

 これは日本の常識に照らすと不可解な要求だと思われるだろうが、当地では、ほぼ慣習化していると言ってもいいような状況である。経営者側は「解雇は1人たりとも発生させない」と約束するのだが、従業員側/労働組合は「勤続年数をリセットして、退職金を支給してほしい」と要求してくる。

 その理由は下記のようなものである。 「経営者が変わると経営方針が変わり、労務管理がきつくなり、労働条件/待遇条件が悪くなることが予想される。最悪の場合、解雇/合理化が実行されるだろうが、その際にまともな退職金が支給されるかどうか不安である。従って、今、退職金を支給してほしい。(待遇条件が落ちても困らない様にしたい。また、いつ解雇されてもいいように準備したい。)」

  また、法律2003年第13号の中に下記のような退職金規定があり、この拡大解釈が彼らの要求を促す要因となっている。

■法律2003年第13号第163条
(1) 経営者は、会社のステータスの変更、合併、併合、或いは所有者の変更が発生し、労働者が労使関係の継続を望まない場合、労働者に対して解雇処分を科すことができ、この場合に労働者は、第156条第2項の規定の1倍の退職手当、第156条第3項の規定通りの功労金と、第156条第4項に述べる通りの損失補償金を受取る権利を持つ。
(2) 経営者は、会社のステータスの変更、合併、併合、或いは所有者の変更が発生し、その会社において労働者の雇用を望まない場合、労働者に対して解雇処分を科すことができ、この場合に労働者は、第156条第2項の規定の2倍の退職手当、第156条第3項の規定の1倍の功労金と、第156条第4項に述べる通りの損失補償金を受取る権利を持つ。 注:拡大解釈というのは、「自分たちは退職しないが、ステイタス変更/株主変更の際の退職金計算式があるのだから、退職金を支給してほしい」というものである。即ち、彼らの要求に法的根拠はないと言える。
注:第156条の退職金規定は、別紙参照のこと

2.カラワン大同盟(カラワンの県知事、県議会、警察、労組の合意書)

首都圏の東部に位置するカラワン県において、5月1日付で、下記の内容の合意書が県知事と労働組合関係者等の間で交わされた。

カラワン大同盟 FSPMI−FSPEK−PPMI
(注:FSPMI=金属労協、FSPEK=カラワン労働組合連合、PPMI=イスラム教の団体)
カラワン県知事、地方議会議長、及びカラワン警察庁長官、及びカラワン労働組合による共同合意
1. 地方自治体と司法当局は、出来る限り公平に、特に法律2000年第21号の刑事犯罪行為に関して、法律を強化すること
2. 労働の運営に関する県条例2011年第1号の内容に従い、県知事と司法当局は、60%以上カラワン住民を優先していない会社に対して法的措置を講じること。また、直ちに全ての会社に対して住民遵法作戦Operasi Yustitusi Kependudukanを実施すること
3. 最低賃金は、独身の労働者に対してのみ適用するもので、司法当局は2012年度の最低賃金規定に違反している経営者に対して直ちに措置を講じること
4. 地方自治体は、2013年度のカラワンエリアの最低賃金を2,000,000ルピア或いは県別最低賃金UMK=KHL(適切な生活の需要)の100%とする決定を下すこと、(或いは、県議会の決定に従うこと)
5. 司法当局は、地方条例、県知事通達及び法律に従わない人材派遣会社或いはアウトソーシング会社及び雇用契約違反に対して、直ちに法的措置と是正措置を実施すること。特に労働局で働いており、現行の規定に違反しているアウトソーシング会社を持つ公務員に対して。
6. 地方予算(APBD)条例2012年第1号の内容に従い、行政当局と立法府は、県知事通達の中で定められた労働組合/労働者団体の指導のため、地方予算の中で予算を組むこと
7. カラワン地方警察は5月1日の組織的活動を妨害しないこと、トラック陸運業者連盟(Organda)経営者が労働組合組織に対して貸し出すことを禁じて首都に向かってデモを行うという労働者層の希望をいかなる形でも妨害しないこと 8. 地方自治体は地方議会と協力し、カラワンに産業関係紛争裁判所を建てるため、関係当局に対して書状を発行すること

■問題解説:  下記のように、この合意書は憲法違反・法令違反の内容を含むものであり、これに基づく行政指導はカラワン地区に大きな混乱を引き起こすものと思われる。
(1)第2項 「カラワン住民を60%以上雇用しろ」という規制は、“国民の職業選択の自由を規制するものであり、企業の人事権を侵し外国投資活動を妨げるものである”という見解が、日本大使館から労働省経由で内務省に伝えられている。 注:「労働の運営に関する県条例2011年第1号」は、法律の規定を上回る規制を複数含んだ問題の条例で、内務省から年内に再検討/廃止の指示アが出る予定のものである。
(2)第3項 「最低賃金は独身の労働者に対してのみ適用するもの」という規定は、法令の中にはない。
(3)第4項  県別最低賃金と雖も県議会や県知事に決定権はなく、法令では州知事の権限とされている。

3. 労働監視委員会に関する大臣通達2012年第10号(別紙参照

(注:4月20日に公布(同時施行)となっているが、一般に知らされたのは5月中旬 である。広報の遅れは当地では普通のことである。)

  この通達により、新たに「労働監視委員会」という組織が設けられることになったが、目的が不明確で、どのような監視活動を行うのかはっきりしない。
 第3条には下記のように書かれており、一般企業や労働者に対する直接的な指導はしないと解釈されるが、今後の活動を注視したい。

 ■大臣通達2012年第10号第3条
 労働監視委員会は、労働監視の実施について監視し、大臣に対して、意見、提案、及び検討結果を伝える。

4. 金属労協(FSPMI)の分裂(別紙参照;じゃかるた新聞)

 金属労協の中核に位置するパナソニックグループ(14社+1財団)の内、7社と1財団(合計4200人)がこの4月までに金属労協を脱退し、新たにパナソニックゴーベル労働組合(SPPG)を立ち上げ たという。同労組のジョコ議長によれば「余りにも政治的な動きが強くなりすぎ、労組員の要望が反映されない」というのがその理由だ。
 しかし、今の所、金属労協の組織に動揺は見られず、脱退する労組はないようだ。今後の動向に注意していきたい。

以 上