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作成年月日:2015年6月

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インド情報 2015年5月

モディ首相 中国訪問
収穫は習主席との関係強化

モディ首相は14日から中国、モンゴル、韓国3カ国を訪問し、19日に帰国した。モディ氏の訪中は首相就任後初めて。昨年9月の習近平国家主席訪印に対する答礼訪問。習主席は訪印の第一歩をモディ首相の故郷、グジャラート州から始めたが、これはインドの外交慣例を無視した異例なものだった。今回のモディ氏の訪中も同じように中国の外交慣例を無視して、習主席の故郷、西安での習主席との会談から始めた。まずは首脳間の個人的な親密度を内外にアッピールすることで、両国合わせて人口25億人のアジア2大大国の関係改善を図るという両者の一致した思惑であったのであろう。

昨年9月の習主席の訪印は、モディ氏が従来のインド政治家と違って、首相就任早々に矢継ぎ早に訪日、訪米を発表し、実行に移し、行動実行派政治家の印象を内外に強く焼き付けたことで、習主席の方から出向いて来たものであった。習主席の訪印では経済的、外交的に実質的な成果は見るものが無かった。単にモディ氏の品定めに来ただけと評論する評論家もいた。

しかし、8カ月経って行われた今回のモディ首相訪中は、お互いに国家の指導者としての力量を認め合った上で、行われたものといえる。貴重な8カ月間であったようだ。アジア2大大国は過去に幾度か戦火を交えたこともあり、現在でも未解決の国境問題を抱えているが、両国民とも互いに深刻な敵対心、危機感は持っていないようだ。巷のインド人に聞いてみると、「中国はまだ遠い国」という印象を持っている。電化製品などは、韓国、日本、欧米製品が圧倒的であり、中国を身近に感じさせられるものが、まだ市場に浸透していないことが原因であろう。しかし、中国の存在の大きさは十分に理解しており、インドのメディアも今回の訪中は両首脳が本気で両国間の関係改善を話し合う絶好の機会と評価し、扱いは習主席訪印をはるかに上回るものであった。

経済協力に重点 国境問題棚上げ

印中間の最大懸案事項は国境問題であるが、今回の首脳会談でも「出来るだけ早い政治的解決を目指す。」ということに止めた。合意が難しい問題解決は棚上げし、経済分野を優先して協力を拡大することで、両首脳は実利を取った形だ。印中は再生エネルギー、電力、鉄鋼、中小企業分野で26件、総額220億米ドル(2兆6千4百億円)の協力事業に調印した。中国によるインドの高速鉄道建設協力、対印投資の増額によるインドの対中貿易赤字の是正、また中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)で連携することでも合意した。

モディ首相の韓国訪問

3カ国歴訪最後の地、韓国では18日、モディ首相はパク韓国大統領とソウルで会談し、7件、総額100億ドル(1兆2千億円)の経済支援を盛り込んだ共同声明を発表した。1985年の二重課税防止協定の改定も調印された。 支援事業では映画・アニメーション、電力、再生エネルギー、道路整備、青少年交流が盛り込まれている。特に目を引いたのは、映画・アニメーション分野での協力で、インドの映画産業「ボリウッド」とのコラボレーションが出来ると、面白いものが出て来ると期待する向きは多い。

(了)

モディ政権1周年
批判は政権内部からも出始めている

モディ政権は5月26日で就任1周年を迎えたが、そろそろ各方面から政治手腕に対し批判の声が出始めている。

就任1周年を迎えて、メディアにはモディ政策を批判するコラムが目に付きだした。一番多い批判は、モディ氏が昼夜分かたず国政に没頭していることは認めるが、「それは個人プレイであり、政府という大きな組織の長としては問題あり」というもの。コラムニストによれば、“政府内部”から、「モディ首相を取り囲む一部のお気に入り役人の壁が高く、厚くなり、矢継ぎ早に出される指示に付いていけないという。」という愚痴が日に日に多く寄せられているとのこと。「過去1年、ジャーナリストやビジネスマン、選挙区の人たちと接触することを意図的に避けている。外遊に忙しく、そんな時間的余裕はないという弁解もあろうが、それは間違いだ。変化を打ち出し、インドをより良い方向に持って行こうとしている情熱は評価できるとしても、12億の民の政治は一人では出来ない」とメディアもモディ首相の政治手腕に疑問符を投げかけ始めている。

外遊ばかり 内政で成果なしの批判

モディ首相は訪中先の上海で、4千人の在中インド人(学生1千9百人)の集会でスピーチを行った。訪米中にも同じような歓迎集会が行われたが、米国の場合、首相就任早々であり、モディ氏に対する期待感で在米インド人社会が自発的に開いた華やかなものであった。しかし上海の場合は首相就任1年で、いろいろと政治手腕について批判が出だした頃であり、また大使館主導で、雰囲気はかなり違ったものであったようだ。

モディ首相は52分間のスピーチの中で、強調したのは、「首相は外遊ばかりしていて、国内では成果が上がっていない。」との批判が高まっていることに対してのものだった。特に野党コングレス党の御曹司ラフル・ガンディーの批判も気になったようで、「私は首相就任以来、昼夜を問わず、1日たりとも休暇を取ったことが無い。それを過去30年間続けてきた。明日は日曜日、あなた方は休みを取れる。私は明日モンゴルに行かねばならない。勤勉が罪というならそれでも構わない。私は続ける。」とかなり感情的なスピーチを行った。また「訪中は習主席との個人的な親密度を深める為であり、これは人類にとってプラスになるものだ。我々は特別な責任を持っている。その責任を果たすために共に歩んでいかなければならない。」と語った。

モディ氏も国内で出始めている批判に神経を尖らせ始めたようだ。インド人、特に貧困層は、政権が変われば直ぐにでも自分自身の生活が豊かになる、と思っている。巷では、「自分だけ外遊して良い思いをしている。自分たちの生活は何ら変わらない。むしろ汚職を厳禁されたお役人からの嫌がらせが酷くなった。」との声が聴かれる。

モディ氏は浮いた存在になる危険性

ネルー社会主義政権時代の諸悪の根源は権力を官僚が握っていたことにあるとされていた。製造業から銀行、学校、病院、航空会社、ホテルに至るまであらゆる分野を官僚がコントロールしていた。そのため外国投資家も、悪名高き「レッドテープ」に出会い、インド進出を諦めるケースが多かった。

モディ氏は、紅茶売りからグジャラート州首相まで上り詰め、実行力のある政治家として、クリーン・イメージで汚職に飽き飽きしていた大衆の支持を受けてインド首相になった。期待感が大きければ大きいほど、失望感も大きくなる。ある評論家は「インド政治の恐ろしさは、民主主義が定着しており、選挙で容易に政権が代わることだ。選挙イコール最も有権者が多い貧困層の票。彼らは今まで自分たちと同レベルと親近感を持っていたモディ氏が外遊ばかりして、自分だけ良い思いをしていると思い始めている。一般大衆から浮いた存在になりつつある。危険な兆候だ。」と述べている。

これからは内政に重点を

モディ氏は、自身の理想とする政治を行うには、優秀な官僚機構を駆使しなければならない。インドで組織と呼べるものは、行政、警察、軍隊、税務など政府機関以外には無いと言っても過言ではない。民間企業で世界に通用する組織を持っている企業は非常に少ない。12億の民に政治の恩恵をもたらすには政府機関の能力を100%引き出す方向に向かわなければならない。

モディ首相の1年目は、諸外国からの高い評価の獲得、巨額の外資導入の道を開き、外交に特化した成功の1年と言えよう。2年目はそれを目に見える形で国民に示さなければならない。清廉潔白、実行派のモディ首相の真骨頂を問われるのは、これからの1年、2年だろう。まずは如何に巨大な中央官僚組織を掌握して、モディ氏が本物の政治家であることを国民に示さなければならない。具体的には職の創出の他に、教育と医療の改善に全力を注ぐべきであろう。この2分野は国民が最も身近に感じている問題だ。

(了)