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作成年月日:2014年6月

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インド情報2014年5月

10年ぶりの政権交代 実行型モディ首相誕生

変革・改革 国内外の期待感大きい

有権者8億人超の世界最大の民主国家インドの総選挙が終わった。後進国に見られる選挙妨害や政党支持者間の暴力衝突も無く平穏に終わった。インドは全世界に民主主義が定着している国であることを示したと言える。 

結果は野党第1党のインド人民党(BJP)が543議席の内282を勝利し、単独で過半数を制する圧勝であった。開票前からBJPの優勢は予測されていたが、単独で過半数を勝ち取ると予測したメディアはなかった。投票率は66.38%で過去最高。国民の今回の選挙に示した関心の高さが分る。結果を見る限りは、BJPの首相候補、紅茶売りの息子で、低カーストの実行型政治家、ナレンドラ・モディ氏にかける国民のインド変革・改革の期待度がいかに強かったが分るようだ。10年間政権を握っていた国民会議派は、三代に渡って首相を輩出した“ネール・ガンディー王朝”の御曹司、ラフル・ガンディー氏を首相候補に立て、世代交代を前面に出して戦ったが、国民は、はっきりと“ノー”を示した。 国民会議派は44議席を獲得したに過ぎなかった。

第15代首相にナレンドラ・モディ氏(63)が就任した。就任宣誓式には、長年関係が悪化しているパキスタンからも、シャリフ首相がパキスタン首相として初めて出席し、変革インドが国内のみならず、海外からも期待されていることを示す新政権の発足であった。

最小の内閣 女性大臣が25%

モディ新内閣の構成は、閣内大臣23人、閣外大臣(所管を持つ)10人、閣外大臣12人の計45人で、モディ政権は過去15年で最も小型な内閣として発足した。モディは“最小政府による最大統治”というスローガンで選挙戦を戦ったが、公約通りの最小内閣を組織した。1999年発足の、同じ党(BJP)のバジパイ政権の大臣数は71人であったので、約4割減。次の第1次国民会議派シン政権では67人。第2次シン政権では78人であった。大臣数を見るだけでも、モディ首相が今回BJP単独で過半数を得たため、連立他党や党内の長老連中に遠慮することなく、思い通りの組閣を行い、効率的な政府を有権者にアピールしている。45人の内、選挙協力をした他党からの入閣は4人に過ぎない。平均年齢60才。閣内大臣・閣外(所管)大臣33人の内訳は、上層カースト12人、OBC(その他後進諸階級)6人、指定部族・指定カースト8人、他宗教7人となっている。 

この構成を見る限り、BJPはヒンドゥ政党であるが、政治は上層カーストだけのものでなく、12億人口の大半を占める下層とされる国民からの信頼に応えたいとする、モディ首相の意気込みが感じられるようだ。

もう一つ、注目すべきは閣内大臣23人の内、女性が25%、6人占めたことだ。下院の女性議員が占める割合は11%であるので、女性閣僚の重用は、モディ政権が従来型のインド政治から脱皮して、変革・改革路線を本気で推し進める覚悟があることを内外に示したと言えるのではないか。目玉はバジパイ政権時代に閣僚経験があるベテラン女性議員、スシュマ・スワラジ氏の外務大臣起用であろう。

行政手腕に長けたモディ首相

モディ首相はカーストの紅茶売りの息子であり、エリート教育を受けて順調に階段を上ってきた政治家ではない。10代からBJPの支持母体であるヒンドゥ思想文化の復興を目指す民族義勇団(RSS)に参加。雑用係から次第に頭角を現し、BJPに入党し、2001年にグジャラート州首相に就任、今回インド首相にまで上り詰めた“今太閤”だ。“自分の頭と手”だけで、ここまで到達した政治家であり、「指示すれども、手は汚さない」という、今までのインド政治を取り仕切ってきた高カーストのサラブレッド体質の政治家とは全く違う体質と経歴を持っている。

グジャラート州首相時代、電力供給網を整備し、停電の無い州を実現、GMやスズキなど自動車大手の誘致に成功し、雇用創出など州の経済活性化に実績を残し、行政手腕があることを内外に示した。インドには珍しい実行型、決断型政治家として評価が高まり、高カーストが支配するBJPの中でも、モディの存在を無視できず、“勝利出来る首相候補”として選挙戦に臨んだ。結果は予想以上の上出来で、当初からモディに難色を示していた党内の高カースト・長老グループも今では沈黙を守る以外にないようだ。

実行型政権発足1週間の動き

組閣後一週間で、モディ首相は矢継ぎ早に具体的な動きを示し、実行型政権を内外に印象付けている。@閣僚に対し効率的な統治、政策導入実行に焦点を合わせた具体的な10項目の政府方針を示し、それぞれ担当省庁の100日間実行プランの作成を命じた。A首相の実務機関となる首相府幹部との会合で、連邦制の維持の重要性を強調し、州からの要望・提案は最優先で対処することを指示した。B前シン政権時代に存在した政策案件の閣内調整機関であった関係閣僚グループ(GoM)を廃止した。 特にGoMの存在は、屋上屋を架けるものとして前政権の政策決定実行の遅さの元凶と批判されていた。シン政権時代に、多いときは80のGoMがあった。 廃止により迅速な政策決定と実行が期待される。全ての政策案件は所管省庁から首相府、或いは所管大臣から首相へと流れ、責任の所在が明確になる。

今後の注目点 地域政党との連携

モディ政権が安定・長期政権を目指すにはクリアーしなければならない懸案事項が二つある。一つは、モディBJP政権は下院では過半数を制しているが、上院では前政権のUPA連立が優勢で、日本と同じようなねじれ国会になっている。その上院対策。二つはBJPの影響力が弱いとされている東部沿岸州対策だ。今回の選挙でBJPはインド東部、中央部のヒンドゥが強いとされている州では圧勝したが、インド沿岸諸州では地域政党に大きく離された結果に終わっている。タミル・ナドゥ、アンドラ・プラデシュ、オディシャ、西ベンガル、ケララの沿岸5州で計164議席のうち、BJPはわずか7議席しか獲得していない。ケララを除く4州はいずれも東部に位置し、アジアに近い州だ。4州のうち、アンドラ・プラデシュ州の政権地域党からは入閣者を出し、モディ首相支持を明らかにしているが、残り3州の政権党、AIADMK(全インド・アンナー・ドラーヴィダ進歩党)、BJD(ビジェ・ジャナタ・ダル)、TMC(タミル州国民会議)の3党 は未だモディ支持を明確にしていない。3党併せて91人の下院議員、上院議員28人(定数250人)を擁している。この二つの懸案に対す対策が今後の長期安定政権の焦点になってくる。

モディ首相は政局的にも、又インフラ・経済開発の観点からもアジアに近い3州の存在を重視しており、「連邦制の維持は重要であり、州の要望は最優先で対処せよ」という指示になったと思われる。

日系企業にとって大市場参入の好機

モディ首相は外遊先第1号にブータンを選んだが、次の訪問国は日本が有力視されている。タミル・ナドゥの州都はチェンナイで、日系企業がハリヤナ州のグルガオンに次いで多く進出している州だ。自身の出身州グジャラートは西部に位置しており、すでにジェトロとのタイアップで日系企業の進出が本格化し始めている。日本企業誘致を経験しているので、反対側の東部のチェンナイや西ベンガルのコルカタへの日系企業の進出を応援することで、地域政党3党を味方につけ、政治的にも、また経済的・開発的にも目に見える実績を挙げるという一石二鳥を狙っているのではなかろうか。

日系企業にとっても12億人の大市場に参入する好機だろう。

 

(了)