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インド

作成年月日:2012年10月

海外情報プラス

海外情報(特別版) インド

インドにての事業展開上の問題―低い従業員定着率(3)

Nakajima Consultancy Services LLP
会長 中島敬二

第三回目:定着率を挙げるための対応策

第一回目「インド企業の従業員定着性問題への対応の基本観点」、第二回目「なぜ転職するのか?転職者する人のタイプ」について述べてきたので、今回はその対応策について以下述べてみたい。

(1) 報酬面での配慮
  • より多く報酬を払えばよいという問題ではない。定着性を高める意図で過剰に支払うと従業員は一時的には満足するが、しばらくするとさらに一層の報酬増を期待するようになり、これが叶えられないと高所得者であっても不満感を持つようになる。
  • また、安易に報酬を挙げると、従業員は自己の価値や会社での重要度に関し過剰自己評価をしがちである。
  • 日本と異なり、インドでは各個人の報酬額は他の従業員は知っているという前提で対応を考えるべきである。インド人同士は報酬情報交換するのは普通である。

(a) 報酬最低レベルは業務内容・業務のレベル・労働市場環境(特に周辺企業との比較)等を考慮した他社に遜色のないものにすべきである。

  • そのためにはインド産業全体の報酬や拠点地域の報酬に関する情報をできる限り集めておかなければならない。定期的に業界の報酬の動向を知り、業界での競争できる報酬レベルであるかを調べる。
  • 同時に入手した情報は常にアップデイトすることも肝要である。なぜならば、現在のインドはインフレ率が高くなっており、報酬上昇率は年間10〜15%(時には20%)と高率である故、十分な報酬を与えていると思っても、実態は変わってくることもあり得るからである。

(b) だが、基本は能力給・成果給

  • 横並びの報酬は能力の低い従業員には満足感を与えるが、有能な従業員には不満足感を 与えてしまう。
  • 定着率の向上化は絶対必要であるが、少数と言えども、能力のある人材、実績を出している人材の喪失は会社経営上もっともっと大きな問題となる。
  • 従い、能力・実績に基づく報酬形態こそ真の公平と考え、社内の報酬格差は当然必要であると考える。このためには、インドの労務コンサルタントや人事・労務の専門家よりの意見も良く聞き、適正な報酬方針・体系を構築する。
  • 出身コミュニティや学歴に左右されない機会平等を基本とする。また、採用したときの職責に拘らないこと。インドでは、たとえば、Assistant Managerで採用すれば、長期間この職位に就かせる傾向がある。能力があり、会社に貢献している人材を適正評価して昇進・昇給させるべきだが、これを軽視して彼らの上司を外部に求めることが多い。この中途入社の上司が部下から見ても能力・人物両面で優れており、この上司も部下の存在価値を認めれば、部下も納得する場合もあるであろうが、通常は上司を好ましく思わず上司を支えるという気持ちは少なくなる。それどころか逆に足を引っ張ることもありえる。
(2) 福利厚生の充実
  • 本給だけでなく、年金、保険、住宅手当等の福利厚生の充実化
  • 医療保険への補助上限の引き上げ、住宅取得時の借入金金利の一部補助などの対応
(3) 客観的に従業員が納得できる評価システムを構築する
  • インド人は自己中心的および自己の能力に過信している人が多い。自己の良いところや自分の会社への貢献度に焦点を当てて、一方ライバルの弱点・悪い面に比較しがちであるので、周囲の客観的評価を否定し、自分の方が優れていて会社にもっと貢献していると主張するインド人が多い。
  • このためには客観的に納得できる評価システムを作る必要があるが、せっかく公平と思われるシステムを作っても、このシステムを使うのは雇用側も非雇用側も感情と偏見を持った人間であるのでシステムが優れているからと言って効果が出るとは限らない。
  • インドでは敵・味方、好ましい人物・好ましくない人物、自分にとって好都合な人間・不都合な人間を分ける人が多い。自分に敵対する人物や好ましくない部下に対してはマイナス面に、より多くの焦点を当てて、そして逆に自分の味方、好ましいと思っている部下に対してはプラス面に焦点を当てて評価する。従い、評価者が正しい評価をしているかの評価も大事である。
  • システムの採用は柔軟に行われなければならない。職種・職種内のレベルを勘案して会社にとってはどうやれば、最大効果が出てくるか、またどうしたらマイナスを最小にできるかを考えなければならない。
  • 授業員を納得させるだけの各従業員の仕事ぶりに対する情報を常日頃から蓄積しておくことが大事である。〈ファクトのモニタリングが大事〉
  • 社員が達成した成果を正しく評価・管理する。人事考課の結果を従業員に伝えることも 大事。また、彼らの主張に対抗できる説得性のある公正な評価理由を用意しておくことも必要である。
(4) 従業員のモチベーションを維持・向上する工夫
  • モチベーション向上に対する適切かつ明確な方針・要領を会社はもたねばならない。
  • そのためには会社の経営方針・ビジョンの従業員との共有化に努力を怠ってはならない。従業員が会社の一員として必要な人材であることを明確にし、自分も会社に必要な人材で会社に貢献しているとの考え・気持ちを持たせることが大切である。
  • これ以前の問題として、タタ企業の多くの従業員のごとく、自分たちが働いている会社は社会よりも尊敬・評価されている誇りえる立派な企業であると従業員に思ってもらえるような会社作りが前提となる。社会的に信頼性の低い会社には誰でも勤務したくはない。
  • 従業員のスキルアップのためのしっかりした持続性のある育成体制の構築
  • *インドでは法的に授業員の育成プランを実行する義務があるが、法的義務上建前だけの育成プランであってはならない。従業員の能力向上を真の目的としたきめ細やかなそして従業員が納得し、効果が出てくるような育成プランの構築が必須である。
  • 会社への参加意識作り。改善提案を積極的に採用し、自分たちの職場という意識を持たせる。自分も会社の意思決定に関わっていると意識を持たせ、少しでも会社に対する愛着心(但し多くの場合、忠誠心は期待できないが)を引き出すよう努力する。
  • たとえば、品質・生産性の向上のための提案制度を積極的に活用し、またそれに対する報奨制度を積極的に採用する。
  • 従業員のモチベーションを上げるため、従業員持ち株制度を採用している企業もある。
(5) 従業員との好人間関係の構築・維持・改善
  • 言うまでもないが、従業員との良好な関係作りが事業成功の最重要な鍵となる。
  • そのためには、経営陣と社員とのコミュニケーションの場を積極的に設け、定期的に実践する。年1回の社内パーティーの実施、家族の工場見学の実施、従業員の誕生日祝、提案表彰や永年勤続表彰などを通じてできるだけ従業員とのスキンシップの機会を多く持つようにする。
  • 定期的に(年一度程度)会社幹部が業績や今後の重点方針について、社員に直接説明の 場を設ける。
  • インド従業員は日本人出向者から褒めてほしいと思っている。タイミングよく褒めることはやる気を引き出す有効な手段である。ただし、過ぎるのは逆効果である。従業員は、このことで自分は高く評価されていると思い込み、昇給・昇格を期待してしまう。また、特定な従業員だけ褒めるのではなく、従業員すべて公平に褒めることが言うまでもない。

 

以 上