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インド

作成年月日:2011年12月4日

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「インドの分業制を理解して教育を」― 日系企業へのインタビューから

 

  M社は2000年に創業、紅茶葉の生産地として有名なインド北部地方ダージリンで生産した茶葉を販売している。茶園はインド人経営で国際基準も全て順守しており、生産は完全にインド人に委託している。
  M社はその茶葉の対日本への総代理店として、日本での販売や在印の日本人駐在員に対する営業などを一手に請け負っている。
インドのお土産と言えば紅茶が真っ先に思い浮かぶが、インド産紅茶の品質はピンからキリまで幅広い。インドは紅茶の生産量は世界第1位、国内消費量も世界第1位と紅茶大国だが、紅茶をストレートで飲む人口はごくわずか。ほとんどがミルクとスパイス、砂糖をたっぷり入れた「チャイ」を好んで飲むため、紅茶本来の味が分かるインド人は少ない。
  M社が提携している茶園はインドでも最高級クラスの茶葉を生産しているが、インド人の平均所得からすると割高なため、M社は日本人のみを対象に販売業務を行っている。
  茶園主のインド人がM社と販売代理店契約を結ぶ際、要求したことはM社の家族経営。インドでは、同族企業は小規模小売店舗から大手財閥グループまで数多く、多業界にわたり一般的だ。宗教や言語、カーストなどが異なる従業員を採用するよりも、勝手がわかる家族で経営する方が効率的だからだ。茶園も創業以来30年以上、インド人の同族で経営されており、M社とは家族ぐるみの交流が続いているという。
  M社のインド事務所の従業員は日本人1人だ。インドでの営業活動や会計など全ての業務を1人で取り仕切っている。
日本では1人でこなせる数の営業も、インドでは物理的に難しい。日系企業が集結している地域は未だ少なく、企業間の移動は車が基本だ。インドの交通事情は悪く、1日に訪問できる企業数は限られてくる。
  そのため、M社の日本人従業員は、個別の企業訪問ではなく、日本食材を取り扱う小売店での店頭販売や日本人向けの無料情報誌への記事掲載など、費用対効果の高いマーケティング手法での営業活動を行っている。より日本人の趣向に合うよう、創業当初のものからパッケージ内容や商品種類を刷新しており、在印日本人の間でのM社商品のブランド認知度は高い。
家族経営のため他人を採用しない方針だったが、業務拡大のため今後は人材の新規採用を前向きに検討中だという。
  M社では、品質管理を徹底している。茶葉の生産は茶園が、茶葉の包装や外装パッケージのチェックはM社が行っている。
各工程で発注先は数社あるが、特定の業者をひいきしないことが重要だという。インド人は総じて競争意識が高く、ライバルの存在でお互いが切磋琢磨し合い、業務内容の品質も改良されていく。しかし取引先が1社のみだと、他社との品質の差を比較することもできず、業者も唯一の取引先としての立場に甘えて仕事内容が雑になってくるのだ。M社も過去の経験から学び、要求通りの仕事をしなかった取引先には次回発注の期間を空けている。その間は他企業に同内容の発注をし、M社には複数の取引先があることを各業者に認識させる。ある工程を1企業に依存してしまうと、その企業が基準を満たさなかった場合、商品に影響が出てしまう。
  また、インドの企業は「低コスト」を売り込む業者が多いという。単純労働に対する人件費が安く、安かろう悪かろうの概念も未だ根強いためだ。
しかしM社は値段ではなく品質で業者を選ぶ方針を徹底している。業者の選定基準は、口コミだ。長年付き合いがあり、信頼関係を築けた業者の口コミが一番信用できるという。
  信頼できる業者からの紹介でも、最初から自分たちの要求を全て満たしてくれる業者はなく、M社は業者を教育するという姿勢で接している。
インドはカースト制度による完全分業制のため、企業内、部署内で各人の役割が事細かに決まっている。掃除ひとつとっても、机を拭く人、床を拭く人、ほうきで掃く人、はたき掃除をする人など、全工程に1人ずつの従業員がいる企業もあるほどだ。
  しかしM社や多くの日系企業は限られた日本人の数で会社全体を管理しなければならない。全工程の現場に自分が入り、自分の目でインド人の作業工程を実際に見て、修正すべき箇所があれば逐一自分で教えることが重要だ。
役割が固定されているインド社会では、自分の役割以外の仕事に関しては我関せずの人材が多い。特に上級職になればなるほど、その傾向は強くなる。最初は「自分の仕事ではない」と拒む場合も少なくないが、何度も繰り返し日本人が手本を見せ教育することで、理解を示すインド人も多い。
  最初から全ての要求を望むのではなく、分業制という文化を理解した上での根気強い教育姿勢が必要だと言えるだろう。(終)