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インド

作成年月日:2011年11月2日

海外情報プラス

「ストレスを抱える日本人インド赴任者」
― 日系企業へのインタビューから

 

 日系企業A社は、2011年初めにインド・デリーの某ホテル内に日本人向け整体サロンをオープンした。

 1日あたりの対応可能人数は10人で、顧客人数はオープンから10カ月で350人を突破、リピーター率が高いため延べ施術人数は1千人を超えているという。日ごろの仕事や生活で、さまざまなストレスを抱える日本人にとって、日本の整体やマッサージは貴重な“癒しの手段”になっているようだ。

 この整体サロンでは顧客を日本人に設定している。というのも、日本人のインド赴任者のほとんどが食習慣の違いや運動不足、長時間に及ぶ残業などのストレスに悩まされているからだ。

 インドの食事は油を多量に使うため、カロリー過多になりやすい。近年インドでも肥満や生活習慣病が問題視されており、スポーツジムなどの運動施設も増えてきたが、日本人にとって使い勝手はあまりよくないようだ。

 インド赴任者は日常、会社の車を利用するので、移動や通勤は毎日、車。慢性的な運動不足だ。運動しようと外に出ても、ホコリが多く大気汚染が深刻なため、長時間のウォーキングなどには不適切な環境となっている。定期的な運動といえば週末の休みにゴルフのみという赴任者がほとんど。

 整体院に通う顧客の共通点は、長時間のパソコン作業による目の疲れが引き起こす肩こり、歩かないことによる筋力、脚力低下による腰痛で、凝り方が似ているという。

 生活環境が過酷な新興国では、自分の体調管理も仕事の一環なのだが、赴任地ではどうしても仕事優先となってしまうため、なかなか改善が難しい。激務に追われて体調管理に対する知識も認識も不足してしまう。

 整体サロンでは顧客に、自宅で可能なストレッチ方法や筋力トレーニングのやり方を教えている。ほとんどの顧客は体の不調を訴えるだけで、自分でできる改善策をほとんど知らない。問題解決には整体のみに頼らず生活習慣を変えることが必要だ。整体サロンのようなサービス施設の重要性は高い。

 しかし、この整体院でも多くの日本企業と同様、インド人の扱いに苦労し、人手不足に悩んでいる。当初、日本人スタッフ2人、インド人スタッフ1人の計3人で運営していたが、インド人スタッフが今年9月に辞職し、現在は日本人スタッフ2人で運営している。整体は1人あたりの施術可能人数が限られているため、スタッフの人数が多ければ多いほど顧客を多く獲得できる。オープン当初も日本人スタッフがインド人スタッフを教育し、一人前に施術が行えるレベルの技術を習得させた。

 しかし研修中からインド人らしさが現れた。まず、日本人が重要視する「報告、連絡、相談」をしない。何か疑問点があっても質問せず、自己流の解釈で物事を進めてしまう。研修途中での数回のテストでも、日本人スタッフが教えた内容との隔離が多くあったという。インド人の口癖は「ノープロブレム(問題ない)」だ。

 一方で、技術を習得したいという熱意は強く、ハングリー精神は旺盛だった。整体は解剖学をベースに行われる行為で、施術技術と共に専門知識が必要とされる。インドにも解剖学は存在するが、伝統的かつ認知度の高い「アーユルヴェーダ」はオイルマッサージを主流としており、整体とは異なる手法だ。インド人の整体への認知度はそれほど高くない。しかしインド人はキャリアを重視するため、新しいスキル習得に対する意識は日本人よりも高い傾向にある。

 ただ、数少ない日本人スタッフがいる施設ではどうしても日本人に需要が集中してしまい、せっかくインド人スタッフに技術を教えても活躍の機会が与えられないこともジレンマだ。インド人だけでなく、日本人スタッフの身体的、精神的ケアも必要不可欠だが、十分な設備、制度が未だにない。

 インドといえば高い経済成長率が注目され、日系企業の進出は加速する一方だ。近年、インドの病院も近代化しており、米国以上の治療も受けられる医療チェーンも増加している。世界中から医療目的でインドを訪れる医療ツアーへの参加者が増えており、2010年度の訪問者数は80万人だった。今後23年で130万人までに増加、市場総額は15年には30億米ドルを突破する見込みだ。

 ただ、インドの医療が発展しても、仕事に忙しいインド赴任者は、なかなか利用する時間がないのが現状だ。また、途上国の病院を利用するのに抵抗がある人も少なくない。

 まず、赴任者は自身の体調管理や健康に対する最低限の知識を渡航前に身につけることが必要だ。赴任させる企業も同様の研修制度を確立すべきだ。病院にかかるまでもない軽度の体調不良の原因の把握や、回復方法、日々のストレスの発散方法などを赴任者は最低限身につけていることが望ましい。本人のため以上に、企業活動にもプラスの結果となるのは間違いないだろう。

 

インドではスポーツジムが増えている。外国人の他にもインド人の客も増加傾向だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

交通渋滞の一コマ。自家用車利用が増え、交通渋滞や大気汚染が深刻化している。