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インド

作成年月日:2010年10月4日

海外情報プラス

飲食業界における現地スタッフの採用について

世界32カ国で事業を展開する日系食品飲料メーカーY社は、インド・デリーで2007年12月に外資系食品メーカーD社と合弁で現地法人を設立、2008年1月に事業を開始した。多額の投資をして1日に100万本生産可能な工場を建設したが、2010年9月現在の日産本数は10万本にも満たない。操業開始から2年半が経過、インド人の国民的スター女優をイメージキャラクターに起用し、広告戦略を展開するなど知名度も上がってはきているが、販売実績が伸びない。
理由の一つに、現地人の販売スタッフの定着率の低さが挙げられる。Y社は女性の販売スタッフを現地採用している。世界的なブランド戦略で、世界各国で8万人の女性販売スタッフが活躍しており、現在インドでは150人の女性が働いている。このうち、経験2年以上のスタッフは12〜13人しかいない。

Y社の商品は健康食品であるため、専門知識がないと販売が難しい。販売にはスクーターを使用するので、商品知識のほかにスクーターの乗り方、セールストークなど、教えることが多くある。一人前の販売スタッフになるまでには、最短でも半年はかかるという。半年かけて教育したスタッフが定着しないとなれば、販売実績が伸びないのは明らかである。
インドの国営5つ星ホテル内に、韓国系レストランKがある。インドでの事業歴は10年にも及ぶが、Y社と同様、従業員の定着率の低さが悩みだという。インドでは「外国料理」である韓国料理は、盛り付け、給仕する順序、メニューの発音など、インド料理とは異なる部分が多くある。また、「お客様サービス」、「顧客満足」という概念がまだまだ浸透していないインドでは、挨拶から接客態度まで、一から教育しなければいけない。時間をかけて研修したスタッフが、突然の辞職を申し立てる事例が少なくなく、マネージャーは憤りを隠さない。

上記2社の事例から考察すると、インドでの事業成功の鍵は、優秀な人材をいかに確保できるかということだ。日本の社会では、同じ企業に勤め、昇進していくのがよしとされる文化があるが、インド人は多くの職種を経験することでキャリア形成を図ることが出来ると考えており、2〜3年で会社を変えることが多い。彼らを「責任感がない」と責めるのは簡単だが、そもそも働き方に対する考え方が根本から異なるのだから、仕方がないともいえる。育成した人材の全員が残ることを望まず、高い離職率を覚悟の上で採用に臨むといいだろう。

では、どうしても残しておきたい優秀な人材は、どうやったらつなぎとめることができるのか。答えは、本人が望む福利厚生をそのまま与えることだ。インドには現地スタッフの給与の統計データがあり、職種によって相場は大体決まっているが、優秀な人材はさらに高い給与や、住居や移動手段、休日などの福利厚生の希望を出す。会社側がそれに応えられれば職場に残るし、拒否すればほかの会社に移る。愛社精神よりも自分の希望が通るか通らないかで職を決める。彼らの希望を受け入れることで、人材確保は可能になる。昇給を何度も繰り返すと、要求がどんどん高くなっていくので、見極めが難しいが、優秀な人材には相応の費用がかかるのは仕方がない。実際、相場の3倍の給与を払って雇用しているシェフもいるという。

経済成長著しいインドには、事業の発展を期待する、世界中の目が注がれている。中国に次ぐ人口を誇る大国なので、一見人材の確保は容易に見える。しかし、実際はそうではない。特に外国飲食業の台頭は著しく、売り手市場であるのが現状だ。高い期待をもって事業を開始しても、スタッフの確保に悩む企業も多くあるだろう。そのような場面に直面した時、インド人に嫌悪感を抱くのではなく、こちらから理解しようとする態度も必要だ。インド人は人情味のある人たちだ。仕事上の関係を超えた接し方、付き合い方をすれば、雇用する側とされる側という立場ではなく、より深い信頼関係を築けるだろう。