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作成年月日:2020年1月17日

海外情報プラス

海外情報-中国12月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、その他(企業経営)

総経理について

はじめに

海外情報レポートの最終回にあたり、これまでご愛読、ご指導頂きました皆様に心より感謝申し上げます。 2016年4月より、前任の佐藤忠幸先生から引き継がせて頂き、現地の人事問題や課題について、実例を中心にレポートして参りました。この4年間においても現地の人事・労務事情はく変化し続けており、情報をタイムリーに皆様と共有させて頂くことで、筆者自身も成長させて頂いたと実感しております。 最終回となる今回は総経理(現地法人社長)について書かせて頂きます。


1.総経理の法的定義と実際について

総経理とは董事会が任免する経営全般の責任者です。よって、総経理とは何かを理解するためには董事会を理解する必要があります。董事会とは出資者が任免するメンバーにより構成される会議体で最高意思決定権を持つ機関で、経営方針、事業計画、中期・年度計画、資金計画、予算、賃金、年度決算、配当(利益分配)、総経理、副総経理、監事の任免等の重要事項及び企業に関する全ての事項に対する決議権を有しています。一般的には董事会は年度或いは半期ごとに開催されます。

 

董事会では董事長、副董事長、董事を設置、董事長が法人代表者となります。董事長が総経理を兼任するケースは非常に少なく、董事長以外の董事メンバーが総経理を兼任するケースはよく見られます。因みに、法人とは法律上で人格化された組織のこと、つまり会社を指しています。日本的な理解では株主総会と取締役会の両方の権限と機能を併せ持つと言われますが、どちらの性質に近いかは企業や構成メンバーによって異なっています。

 

董事会は出資者の考え方に基づく決議を行います。例えば、独資企業における総経理の任免なども含まれます。外資合弁企業では出資比率(51%:49%)によりメンバー構成(割合)が決定しますが、往々にして出資双方の利害関係や思惑が董事会の運営と決議に影響することとなり、これが独資企業との最大の違いのひとつになっています。

 

董事会を理解したうえで、あらためて総経理とは董事会の決議に基づく経営方針及び目標を実行、実現する責任を負う職務であることがわかると思います。総経理は経営全般の責任者であり、日本的に「社長」と認識されて所以ですが、英語表記は「General Manager」となり「President」ではありません。

 

実際には、前述の董事会決議の事項中、総経理任免を除くほとんどの事項は、董事会の 考え方に基づいて総経理が作成し、董事会に対し提議し、承認(決議)を得るかたちとなります。言い換えれば、董事会が最高意思決定機関であるのに対し、総経理は経営管理(責任)機関であると言えるでしょう。実務においても董事会の開催手配や資料の準備等、総経理自身が行っているケースがほとんどです。

 

また、総経理は出資者、董事会の考え方に基づき経営実務に責任を負う一方、董事会に 対し経営実務における各種情報や問題の報告及び提案を行い、経営方針等に反映する責任も有しています。

 

尚、出資者により株主会(股東会)が設置されることもあります。株主会は会社の最高権力機関(機構)として、董事会メンバー及び監事の任免権を持ち、対外的には会社の代表権はなく、内部的に経営業務に直接関与することもありません。独資企業の場合、通常は本社が株主会に相当する権力と機能を持っていると言えるでしょう。

 

2.総経理の法的責任と業務責任について

外国独資企業の総経理も中国の会社法(公司法)の規定に基づく責任と権利を有しています。責任とは、董事会及び董事会決議に対する経営責任を指し、権利とは、責任を負うために必要な権利を指します。具体的には次の内容が法文に記載されています。(意訳)

 

① 会社の経営管理、董事会決議の実行

② 会社の年度経営計画と投資計画の立案と作成

③ 会社内部管理機関の設置計画の立案と作成

④ 会社の基本管理制度の立案と作成

⑤ 会社の具体的規則の制定

⑥ 副総経理、財務責任者の採用或いは解雇の提案

⑦ 董事会が採用を決定した責任者以外の責任者の採用或いは解雇の決定

⑧ 董事会に授与されたその他の職権

 

総経理の法的責任といえるのは上記の内容に限られます。但し、会社として違法を防止する経営管理業務の責任は総経理が負うため、中国の民法上、違法行為等により会社が起訴された場合(第三者に損害を与えた場合)、法定代表者がその結果に対する責任を負うこととなります。(訴訟代表者を定めていない場合)

 

一般的には董事長が法定代表者となっているケースがほとんどです。 ここで言えることは、企業のコンプライアンスは総経理のコンプライアンス管理業務に依存しているという点です。コンプライアンス管理体制の整備と従業員のコンプライアンス徹底が総経理の業務責任であり、経営全般に関する法律(会社、人事労務、財務、税務、特許、商標、契約、関税、製品品質、消費者保護、広告、不当競争防止、独占禁止、インターネット、電子商取引等)を把握しておくことも総経理の責任だからです。依然として、コンプライアンスよりも利益やコストを優先する企業も多数存在しており、総経理のリスク管理能力が問われます。

 

総経理の会社経営全般に対する責任とは、個々の業務全てに対し責任を負うということですが、対外的な契約及び支払承認、行政・民間手続き等、ほとんど全てに総経理の「署名」か「公章」が必要です。社内的にも従業員の労働契約書には公章捺印と総経理署名が必要です。他にも、稟議書、費用精算、支払い承認等、ほとんど全ての業務に総経理の署名や捺印、電子承認が必要となります。社内の全ての文書、帳票が総経理に集まり、署名や捺印をもって承認、公的なものとなるため、その量も膨大なものになり、内容の確認が非常に重要です。理解して納得するまでは絶対に捺印、署名しないという姿勢が求められます。

 

因みに、公章とは会社が使用する印鑑で通常は総経理の責任において保管・管理します (法務・内部統制部門が管理するケースもあります。)。公章は法律で製作と管理が厳しく規定されており、公章が捺印された文書の信用は非常に強大です。公章が捺印されていれば、偽造文書でも本物として扱われてしまうため、公章があれば何でもできてしまうと言えます。遺失した場合、遺失証明や再製作には非常に煩雑で厳格な手続きが必要となり、保管や捺印だけでなく、捺印申請や捺印記録を残しておくことが必要です。

 

公章は行政手続き等の必要上、社外に持ち出さなくてはならないことがあり、その際に紛失が最も多くなっています。その他にも、分公司章(支社印)、合同章(契約専用印)、財務章、総経理印等があり、保管・管理の重要性は公章同様です。会社によっては人事印等の部門印を使用するケースもあります。公章の管理・保管を任せていた従業員の退職時に、公章と引き換えに莫大な補償金を要求された事例も発生しています。

 

総じて、中国では会社経営の全責任を総経理が負うシステムとなっており、董事会から経営を請け負うという理解です。

 

3.総経理の醍醐味と難しさについて

総経理(社長)には数多くの醍醐味があると思います。実際に総経理を経験された方の多くが様々な醍醐味を感じられたはずです。醍醐味が大きいほど難しさも大きく、経験者は日本国内のあらゆる職位とは比較できない難しさがあると語られています。日本国内のグループ会社社長と同等或いはそれ以上の責任の仕事を海外で行うのですから当然だと言えます。

 

4. 総経理としての行動特性について(失敗)

私自身、20年間の中国滞在で、様々な総経理と交流させて頂きました。総経理としての行動特性には成功、失敗それぞれの共通点が感じられます。先ずは、失敗する行動特性としては、日本基準(日本式)だけで考えるという点です。これには、方法、時間、効率、商習慣、常識等が含まれ、中国の日系企業において日本基準がベストという時代は過去のものになっており、ケースによっては、現地従業員の意見のほうが、企業にとって価値が高くなっています。例として、日本基準は現地従業員と顧客から敬遠されるケースです。ビジネスのゴールまでの距離が遠く、手間と時間がかかるためです。また、本社の日本基準をそのまま現地で運用しようとすることも同様です。本社に現地の状況を説明しない、説明できないケースも含まれます。例えば、プロフィット部門のKPI管理を日本基準に変更し、データの細分化により仕事(入力作業)が激増したにも関わらず成果が得られなかった場合などです。また、業務フローを日本基準に変更した結果業績が悪化し、従業員が退職するケースもあります。

 

また、現地従業員は総経理の言動、行動に非常に敏感です。現地従業員から総経理は本社・上司を向いて仕事をしていると評価されれば、総経理としての信頼は得られません。現地業務、従業員への理解が不足しており、ビジョンを描けない場合や任期を前提に仕事をしている場合も同様です。総経理が本社への業務報告や資料作り等に業務時間のほとんどを費やしているというのはよくあるケースです。

 

判断しない(できない)、何でも本社にお伺いを立ててから判断するというのも、従業員を不安にさせる行動です。現地従業員は経営責任者である総経理がなぜ判断しない(できない)のかが理解できないため、責任を回避している或いは判断能力がないと評価されています。事例としては、現地の採用活動に本社を関与させるケースです。現地従業員の採用は本来、経営責任者である総経理の責任で判断すべきことです。責任回避でもあり、総経理の存在意義と法人としての主権を喪失しています。統計的にも、本社の関与は採用活動を長期化させ、優秀な人材の採用チャンスを失うことが多くなっています。業務の推進に必要な従業員が採用できないことは総経理の責任です。

 

現地(人)に対し否定的な意見が多いことも行動として失敗です。意識の有無に関わらず、自国(人)に対する否定的な意見を聞かされれば、誰しも嬉しい気持ちはしないでしょう。従業員は、自分たちのこともそのように見ているのだと感じ、信頼関係は構築できなくなります。事例として、普段から現地(人)に対する否定的な意見が多い総経理が朝礼の訓示で歴史問題に触れ、問題になったことがあります。万一、SNSで拡散された場合、本社を巻き込む大きな問題になるリスクもあったでしょう。

 

意識の有無に関わらず、従業員によって接し方や頻度が異なっており、公平な評価ができていないケースも失敗です。コミュニケーション頻度の低い従業員ほど自分への評価に対して不満を感じています。全ての従業員に対し平等に接し、評価するという企業文化を醸成することも総経理の責任であり、率先して実行しなければならないはずですが、実際には、外国語能力の高い従業員とのコミュニケーション頻度が増え、評価が甘くなったり、外国語のできる従業員としかコミュニケーションしていない総経理もいます。従業員からの不満に留まらず、聞こえの悪いうわさ話となるケースも発生しています。

 

また、総経理としての責任を本社、顧客、取引先、従業員、その他に転嫁することもよくありません。総経理として署名、捺印した事項、総経理として判断、発言した(しなかった)事項の結果責任は誰にも転嫁できません。よくある事例としては、既に署名、捺印している書類の不備で発生した問題の責任を書類作成者である従業員に転嫁するケースです。

 

リスクを想定しておらず、対策を講じていないことも総経理としては失敗です。経営全般において、問題が発生してから潜在していたリスクに気付き、対策を講じていないため、対応に余計な時間・コスト・労力がかかっています。但し、日本とは文化や国情が大きく異なる場合、日本人が想定できるリスクにも限界があることも現実です。事例としては、個人所得税法改正により従来のシステムで従業員の給与計算ができず、従業員への給与支給が遅れた企業がありました。人事担当者からは早期に相談を受けていましたが、対応指示が遅れたため、給与支給が間に合いませんでした。人事担当者には政府からの細則発表が遅れたことが理由と従業員に説明させましたが、人事担当者の立場では判断が遅れた総経理の責任です。

 

基本的なことですが、時間や健康において自己管理ができていないことも行動特性として失敗です。遅刻、早退、病欠が多い総経理は従業員から信頼されません。そもそも、私生活の乱れが仕事に影響しているケースがほとんどです。

 

5. 総経理としての行動特性(成功)

総経理として成功している場合、大前提として現地の基準で物事を考えられ、現地にある企業として現地の国情、法律、習慣等を基準に考え判断できるという行動特性が挙げられます。また、現地の国情、法律、習慣等を本社に説明し、理解を得ることができることも重要です。日本ではあり得ないようなことも、現地では発生し得る可能性を否定せずに対応を想定します。例えば、現地で発生し得る不正を防止するための組織作りと規則整備を実施することで、従業員に対し会社の姿勢を強調し、牽制効果となっているようなケースです。

 

総経理として現地法人の業務や従業員を熟知し、具体的なビジョンを描き、従業員に説明できて、はじめて理解と共感を得らます。これには従業員の意見、提案を傾聴し、経営に積極的に取り込む姿勢と行動が必要です。つまり、従業員が意見、提案しやすい風土を醸成する行動です。従業員からは駐在員ではなく、総経理だと認められます。また、社内の人間関係を把握しておくことも欠かせません。

 

総経理として常に自信を持って判断することも挙げられます。このような総経理は承認や問 題点の指摘が早く、次に判断すべきことを読みながら行動しています。万一、判断に誤りがあ った場合でも誤り(責任)を認め、すぐに次の判断と行動ができています。また、必要に応じて 本社への確認が必要な場合も、本社の理解と信頼が得られているためスピーディーです。こ れは多くの方が実践していますが、従業員からの相談や承認依頼には手元の仕事を止めて 対応しています。判断、承認作業が早ければ手元の仕事にも影響しないという考え方です。

 

現地の歴史、政治、行政、文化(人)等を含む敏感な話題に注意することも大変重要です。仮に話題が及んだ場合にも、相手に批判だと受け取られないように注意を払った表現をしています。

 

次に、従業員を熟知し、常にバランスよく従業員と接することを意識して行動することです。これができる総経理は特定の従業員と接する機会が突出することはリスクだと認識しています。当然、従業員の評価はルールと根拠に基づいて公正に実施しており、利益部門、非利益部門を公平に評価できます。ある総経理は毎日、各部署を巡回し、従業員とのコミュニケーション機会を作っています。挨拶だけの場合もありますが、従業員は総経理が毎日巡回に来ることを意識しながら仕事をしています。

 

総経理としての責任を負う覚悟で日々の判断、署名、捺印、発言をすることも重要な行動特性です。総経理としての責任は絶対に回避、転嫁しなければ、本社、顧客、取引先、従業員、その他関係者から責任を負う総経理と評価されます。責任を負う覚悟の有無が総経理としての全ての仕事に影響すると言っても過言ではありません。常にリスクを想定し、対策案を持っていることも重要です。リスク想定のための情報収集を怠らず、必要に応じて外部専門家の意見を聞き、参考にしています。リスクを含めた外注化を行っているケースもあるでしょう。社内の情報管理をリスクとして認識し、情報漏洩によるトラブルを防止する行動です。

 

自己管理ができていることは、もはや基本だと考えるべきでしょう。従業員の模範となる時間概念で行動していること、健康管理ができており、病欠がないこと、仕事外においても自己管理ができていることが全てできており、病院、警察、公安、裁判所等の世話にはならないことが総経理の大前提です。日系企業全般における従業員の傾向として、仕事における師匠のような総経理のもとで働きたいという欲求が存在していますが、残念ながら、総経理がこれを裏切る行動や言動により従業員の信頼を失い、総経理の存在価値が低下しているケースも少なくありません。総経理の行動、言動は常に従業員に見られており、自分がどのように見られているかを常に意識する必要があると言えるでしょう。

 

6.総経理の醍醐味と難しさについて

外国人が中国で就業するためには外国人就業(工作)許可と居住許可が必要です。外国人就業(工作)許可申請時に、中国にとっての必要性、中国国内で支給される年間給与、学歴または職業資格、実務経験年数、年間勤務時間、中国語能力、勤務地、年齢、ハイレベル学歴、グローバル500企業就業経験、特許保持等を点数化し、A、B、Cの3種類に分別されます。外国人が中国にもたらし得るメリット(先進的な技術や管理、所得税納税額)による分別であると同時に中国労働者の就業機会の保護を意図した制度と考えられます。

外国人就業(工作)許可を取得すれば、居住許可の取得も可能になります。(一対で就業ビ ザと呼ばれこともあります。) 2017年4月に現制度に移行。特に上海は他地域よりも審査が厳格と言われており、取得審査に非常に時間がかかるケースもあります。(取得に時間を要し、業務や人事異動に影響するケースもあるようです。) 何か問題が発生時には、就業先や役職を含む個人情報がすぐに判明するシステムになっています。

外資企業の総経理は中国において社会的立場を有する「公人」としての自覚が求められま す。社内外において常に身辺をきれいに保持する意識と行動が必要です。因みに、総経理が従業員に弱みを握られたら終わりとも言われ、従業員が総経理の弱みを作ろうとするケースもあったようです。

 

7.総経理のモチベーションと学習について

現地法人の成否は総経理のモチベーション次第と言っても過言ではなく、モチベーション維持が大変重要です。実際にはチベーションが落ちる出来事のほうが多いかもしれませんが、モチベーションが落ちる出来事こそ、総経理として成長できる機会となっていることも事実です。総経理として、自分のモチベーションの状態を客観的に意識し、社内に影響を与えないような意識が必要です。

 

業界や企業によって一概には言えない内容もあるかもしれませんが、今後、中国で総経理となる機会がある方、または総経理を選任する立場におられる方に参考にして頂ければ幸いです。

 

以 上