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作成年月日:2019年12月16日

海外情報プラス

海外情報-中国11月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、企業経営

人事労務実例(11月)

はじめに

早いもので今年も師走に入っています。本レポート執筆時点で、米中貿易協議における「第一段階」の合意が確定的になりました。様々な見方があり、経済への実質的な影響が出るまでには一定の時間が必要だと思いますが、年末年始に際し、当事国だけではなく世界中の人心をも少し明るくさせる話題ではないでしょうか。さて、今回も11月に日系企業からご相談いただいた人事労務関連、その他の事例をご紹介したいと思います。


1.ヒューマンエラーによる就業規則の誤運用について

日系商社の事例です。欠員補充のため新規採用した従業員より、同社の有給休暇付与日数の算出基準についての質問が出されました。有給休暇の付与日数については「職工帯薪年休暇条例」(中華人民共和国国務院令514号2008年1月1日施行)第三条において「累計勤続年数」を基準として算出することが定められています。

2008年1月といえば「労働契約法」が施行された時期でもあります。 多くの日系企業が労働契約法への対応の一環として就業規則の有給休暇規程も改訂していました。同社の就業規則における有給休暇の算出基準も上記の条例文に基づく内容を記載していましたが、有給休暇の管理を担当する従業員の思い込みにより、累計勤続年数を誤解したまま運用していたのです。条例における「累計勤続年数」とは、初めて就職してから入社時点までの全ての勤務年数の累計を指していますが、人事担当者は同社における勤続年数だと認識していました。幸い、同社は条例よりも多く有給休暇日数を設定していたため有給休暇が基準に不足している従業員はいませんでした。法令に基づき作成された就業規則が10年以上誤って運用されていたことが特筆に値します。 また、他社では改訂された就業規則の内容がいつの間にか改訂前の運用に戻っていたというケースも発生しています。いずれもヒューマンエラーですが、誰かが疑問を感じて質問を出さなければ見過ごされたまま大きなトラブルの原因になっていた可能性もありました。

 

2.現地法人出資による会社設立について(続報)

先月のレポートでも紹介した日系メーカーの事例です。現地法人の出資により新規設立した貿易会社の業務を親会社である現地法人の従業員が兼任する場合の人件費の負担について相談がありました。人件費の負担については、実際に親会社の従業員が兼務する子会社の業務内容と取引先との契約内容がポイントとなり、商流を整理することが重要になります。子会社業務の兼任を想定していた職種は財務と営業です。

このうち、財務については、親会社として子会社の財務管理を行うことは妥当であり、親会社における現在の担当業務に子会社の財務管理を追加することにより、子会社が人件費を負担する必要はありません。

一方、営業については、取引先との契約主体が親会社なのか子会社なのかによって人件費の発生先が決まります。契約の主体が子会社である場合、親会社とはいえ無償で子会社に労働力を提供することはできません。

この場合、転籍や出向等により子会社が人件費を負担する必要が出てきます。幸い、商流を整理した結果、取引先との契約は親会社名義で締結することが確認でき、これにより子会社の営業人件費が発生しないスキームとなりました。前回のレポートと重複する部分もありますが、このようなケースにおいては子会社設立に伴い業務負荷が増加する従業員に対し、昇給を実施することが非常に大切です。仕事が増えれば給与が増えて当然というのが中国における常識です。業務が増えても給与は変わらないという日本の慣例は現地従業員には通用せず、将来的に更に大きなトラブルの要因になるでしょう。(詳細は10月レポートをご参照下さい。)

 

3.日系企業の商標対策について

先日、日本の有名企業が中国において商標訴訟に敗訴したという報道がありました。日本の企業が中国で商標訴訟に敗訴したという結果のみが強調されていますが、ご存知の通り、商標訴訟に敗訴したのは同社が取り扱う一部の商品カテゴリーのみであり、それ以外の商品カテゴリーにおいては同社の商標は合法的に保護されています。決して、同社が中国で商標を使用できなくなったわけではありません。

同じ商標関連について、日系サービス企業の事例です。同社は2018年3月に商標局から「登録商標使用根拠提出通知」を受け取りました。同社が全く面識のない人物が同社と同じ商標の登録申請を行い、受理されなかったため、それを不服とし商標法第49条を根拠として、商標が3年間使用されていないことを理由に同社の商標登録取消しを求めたため、同社に商標局が指定する3年間における商標使用の証拠提出を期限付きで求めるという内容でした。同社は商標局の要求に基づき、該当期間における商標使用の証拠を提出し、商標局の審査結果を待っている状況です。同社では審査結果が自社に不利であった場合に対するリスク対策として、法律事務所の助言に基づき、現有の商標権について更に詳細な商品・サービスカテゴリーでの追加申請を行い、商標局に受理されています。

つまり、自社商標として合法的に使用しているからこそ、同じ商標をカテゴリー別に追加申請しておくという理論武装です。ある商品・サービスカテゴリーで商標トラブルが発生しても、その他のカテゴリーで商標権を有していれば実際の業務への影響を最小限に抑えることが可能になります。 前述の日本の有名企業と近い状況だと言えるでしょう。日系企業の商標リスクへの意識と対策が更に重要になっています。

 

 

今月も異なるテーマにおいて、最新の事例をご紹介させていただきました。あらためて、日系企業は様々な問題を抱えており、問題が尽きることはないと感じています。新たな問題はもちろん、経営者や前任者が生み出し、残していった問題も少なくないでしょう。日系企業は現地での問題への対応に右往左往するばかりでなく、問題の根源を追究し、明確化しなければならない時代を迎えていると感じます。業界、企業によって状況は異なると思いますが、実例として参考にしていただければと思います。

 

以 上


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