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作成年月日:2019年11月15日

海外情報プラス

海外情報-中国10月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、企業経営

人事労務実例(10月)

はじめに

中国では、第2回中国国際輸入博覧会の開催や、毎年恒例となった11月11日の独身の日のEC取扱高などの話題が盛り上がりを見せています。米中貿易摩擦は依然として一進一退の状況が続いており、貿易総額やPMIなどの経済指標への影響がより明らかに表れてきました。今回も10月に、日系企業からご相談頂いた人事労務関連の事例をご紹介したいと思います。


1. 人事管理の統一について

日系メーカーでの事例です。社長(総経理)のお話では、本社管理部主導により海外法人を含むグループ会社の「人事管理の統一化」を図る計画とのことでした。その準備として、現地法人の現行社内規定や賃金テーブル等の人事関連のルールの検証をスタートしています。本社管理部としては、先ずはコンプライアンスを確認し、その後にグループとして統一した考え方に基づき現行規定を改訂してゆく計画とのことですが、現行規定は現地法令に基づき作成され、既に長年の運用実績もあるため、コンプライアンス上の指摘を受ける可能性はないはずです。社長は同社の本社がメーカーではなく商社である点を懸念されているようです。社長自身は中国におけるメーカーでの勤務経験者で現地製造業の労働事情にも大変詳しい方です。また、従業員が働きやすい環境作りにも熱心で、本社も導入していないフレックス勤務制度を導入しています。同社本社の社長も中国ビジネスを経験されていることから、現地法人が現地の事情に基づき大胆に改革を進めることを奨励しているそうです。海外子会社を含む人事管理の統一化は異なる文化を背景としているため非常に難しい作業ですが、本社管理部の担当者が現地の実情や法令を深く理解したうえでグループ会社としての人事戦略を考えられるか否かがポイントです。このケースのように、本社と現地法人の事業性質が異なっている場合には、特に本社が自社及びグループ各社に求める共通の社員像を明確にしておく必要があるでしょう。

 

2.現地法人出資による会社設立について

日系メーカーの事例です。現地法人の出資により現地に新会社を設立しました。新会社設立や商流の整理は本社管理部門の方が出張ベースで担当されています。当然、成長戦略に基づき合法的に設立された会社ではありますが、実際の業務は親会社である現地法人の既存社員が兼任する部分もあるとのことで、人事面でのリスク管理が必要だと感じました。子会社とはいえ別法人の業務を兼任することを社員が無償労働と認識する可能性が高いためです。在職期間中はトラブルにはならないと思いますが、万一、退職する場合には、これを理由に規定以上の経済補償金の支払いを要求するリスクが考えられます。このように新会社設立に伴う兼任により、社員の業務が増加するケースにおいては、業務の兼任が合法的である前提で、兼任を理由とした昇給とジョブディスクリプションへの業務内容の追加を実施しておくことを推奨します。グループ会社の業務兼任に対する考え方についても、日本人とは異なる前提で考えておくべきだからです。

 

3.地方拠点での採用について

日系サービス業の事例です。広東省の拠点で管理職を採用したいとのことでした。地方拠点での採用については以前にも本欄で取り上げたことがありますが(http://www.ovta.or.jp/info/asia/china/chn_180910_1.html)、同社の採用ニーズは新規設立によるものではなく、業務の発展に伴う緊急性の高いものでした。共通する部分は「地方には市場があるが、人がいない」という点です。今回のケースでは業界における比較的新しいサービスを行う拠点での管理者が必要となっていますが、そもそも新しいサービスの実務経験を有する管理者は非常に希少で、且つ、地方拠点での勤務となるため、採用活動は長期化することが予想されます。また、管理職が採用できるまでは必要に応じて中国本社の日本人駐在員や現地社員が長期出張等で対応することになると考えられ、本社業務への影響にも配慮が必要になってきます。各業界とも、日系企業の地方拠点での採用活動が日常的に発生しており、採用ニーズの有無に関わらず、地方の人材情報の収集も人事の重要業務のひとつになっています。

 

4.偽造文書への社判捺印について

日系商社の事例です。ある社員が行政機関に提出する申請書類として収入証明書の発行を申請してきたそうです。書類は社員自身がPCで作成しており、収入金額が実際よりも多く記載されていたそうです。社長が直接本人に確認したところ、戸籍取得の申請に使用するため、実際よりも多く収入を記載する必要があるとのことでした。功績のある古株社員でもあり、心情的には社判を捺印してあげたいところですが、社長は虚偽文書への社判の捺印が会社の違法行為となることを理由に、実際の金額が記載された収入証明にしか捺印しない旨を伝えました。客観的には社員も虚偽文書への社判捺印が違法となることは承知のうえで、ダメもとで考えていたはずですが、それにしても、20年前に発生していた社判関連の問題が、現在もまだ発生していることに驚かずにはいられませんでした。また、社員自身も今回の件で自分の評価を落とす結果になってしまいました。今後、この社員の作成した文書への捺印申請は更に厳しくチェックしなければなりません。今年は、他の日系企業でも偽造文書で大きな問題が発生しており、コンプライアンス意識の浸透レベルが日本とは大きく乖離していることを実感しました。

 

 

異なるテーマにおいて、今月、発生した実例をご紹介させて頂きました。先月も、それぞれのケースの根底には共通する問題が存在するように感じることを記載しましたが、今月の事例でも同様の問題の存在を更に強く感じています。次月以降も日系企業の実例をもとに、問題の根源を考えてゆきたいと思います。業界、企業によって状況は異なると思いますが、実例として参考にして頂ければと思います。

 

以 上


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