各国・地域情報

中国

<次の記事へ
作成年月日:2019年8月15日

海外情報プラス

海外情報-中国7月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務

産休取得者の考課と昇給について

はじめに

各種報道の通り、ここ数ヶ月で米中貿易摩擦の影響が中国経済指標に顕著にあらわれています。先般も日本大手企業の経営者による「中国経済の先行きは誰にもわからない」という趣旨のコメントが報道されていましたが、まさに正論だと感じます。このようにマクロ環境が急激に変化するなかでも、日系企業では相変わらず人事労務に関する問題の発生が絶えません。中国現地法人の社長(総経理)の皆様は、この誰にもわからない先行きの中で経営の舵取りと日々発生する問題に対応しなければならず、その苦心は大変なものであるはずです。

以前のレポートでも触れたことがありますが、中国の出生率は伝統的な干支による影響を受けていると言えます。今年は亥年(イノシシ年)ですが、中国では亥年はイノシシ年ではなくブタ年となります。「金猪」とも呼ばれ、豊かなイメージの縁起の良い干支のひとつですので、今年は例年よりも産休取得者が多く発生しているのではないでしょうか。先日も、ある日系メーカーの社長より、産休取得者の人事考課と昇給に関する問題のご相談がありましたので実例としてご紹介したいと思います。


産休取得者の考課について

同社では労働契約期間を統一していません。個別従業員ごとに実際の入社日を基準に労働契約の更新と人事考課に基づく昇給を実施しており、毎月数名の労働契約更新者が発生している状況です。ご相談内容は産休取得中の従業員2名の昇給についてでした。ご存知の通り、産休取得を人事考課に直接反映することはできません。この2名については、産休中の考課に基づく昇給が小幅或いは据え置きとなるため、トラブルに発展するリスクを考慮しているとのことでした。かなり慎重ですが、同社では過去にも昇給に対する不満から労働契約終了に至り、労働調停にまで発展したケースを経験しているためです。更にお話を伺うと、この2名の産休取得者に特殊な状況が発生していることがわかりました。

妊娠中の在宅勤務

従業員の一名は妊娠前期の体調不良により、会社との協議一致と覚書の締結を経て、産休取得前の時期から在宅勤務を行っていました。従業員の健康と安全を考慮した処置ですが、問題は法に基づく産休期間に入ってからも、在宅勤務で一部の業務を継続していたことです。組織上、産休中の業務を引き継ぐ従業員がおらず、業務量もそれほど多くなかったため、会社側は産休取得前の覚書に基づく在宅勤務の延長として捉えていたようです。本人としては産休中にも関わらず在宅勤務を継続し、業務への影響を最小限に留めたという自負があり、労働契約更新に伴う昇給に対してもある程度の期待を抱いているはずです。但し、会社としては、産休中も在宅で業務を継続したことは評価しているものの、規律面や業務レベルの面での評価は低く、全体として高い評価を与えることはできないそうです。

無事に出産が終わり、母子ともに健康であるからこそ、考課結果や昇給の問題で済んでいますが、万一の場合には100%会社側に責任が発生するケースであったことは間違いありません。法律で厚く保護されている妊娠中の従業員への対応としては、故意であるか否かに関わらず、大きなリスクを冒していたことになります。この従業員の昇給額は前年を大きく下回るものの、従業員全体の平均昇給率を若干上回っており、本人のモチベーションの向上を図るような昇給額の伝え方をすることが重要だと感じます。

給与据え置きの驚くべき理由

もう一名の従業員には昇給を行わず、給与額を据え置きたいとのことでした。法的には問題ありませんが、従業員が納得しない場合には、産休取得者ということもありトラブルの原因となります。社長に給与据え置きの理由を質問したところ、産休取得以前に懲戒対象ともなり得る重大な不正を行っていたことが、産休中に発覚したそうです。会社に実質的且つ多大な損害を与えた従業員であることがわかりました。不正の程度は刑法にも抵触する重大なもので、常識的には絶対あり得ないような内容でした。社長としては、産休中であることから、本人の体調を最優先に考慮し、先ずは給与額を据え置いて労働契約を更新し、本人の復帰後に協議を経て、経済補償金を支払ってでも労働契約を終了させるご意向とのことでした。恐らく本人も会社の対応を受け入れるはすです。労働契約や就業規則、関連法令に依れば、法律で保護されている妊娠中の従業員であっても懲戒解雇の対象となる不正を行い、会社が本人に損害賠償を請求できるほどの大きなトラブルを起こした従業員ですが、会社としては温情的な対処により、本人の健康を最優先しています。

 

総じて、産休取得者の考課については、法律で定められた労働者の権利であるものの、産休により実際の勤務期間が少なく、産休取得以前から業務への影響が多少なりとも発生するため大変難しいものです。実際、会社によっては、産休取得者の考課を不文律により一律化しているケースも存在しています。 尚、実例で紹介したケースのように、産休期間中に業務を行わせることは大きなリスクとなりますので、細心の注意が必要です。産休期間中に業務を行うことについて本人と覚書等を締結することもリスクとなります。万一の際には会社が産休期間中の従業員に業務を行わせたことの根拠となるためです。 また、産休取得者の考課と昇給に際しては、産休から復職し、すぐに退職するケースも想定しておくことも重要でしょう。出産により生活環境が変わるケースや、人生観或いは仕事観が大きく変化する場合も多いためです。 勿論、産休後、元気に復職してまた頑張って欲しいという対応姿勢が基本であることは変わりません。業界や企業によって状況は異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上


<次の記事へ