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中国

作成年月日:2019年7月12日

海外情報プラス

海外情報-中国6月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、異文化、その他(企業経営)

販売員の教育について

消費は成長、小売店舗は減少

ご存知の通り、消費が中国の経済成長を牽引する状況が続いています。個人消費レベルで見ると、やはりネットショッピングと電子マネーの成熟化が大きな役割を担っていると言えるでしょう。店舗に足を運ばなくても、スマホ上で欲しい商品がすぐに見つかり、最も合理的な値段で安心して正規の商品が買えるようになりました。これに伴い、長年消費の主要な舞台であった小売店舗が深刻な販売不振に陥っています。

上海の主要商業地区にあるショッピングセンターなどでも、テナントの空きが目立つようになって久しく、新しく入居するテナントは小売店舗ではなく、外食やスポーツジム、学習塾といったケースがほとんどと言っても過言ではありません。また、大規模なフロア改装を図り、小売店舗面積を縮小し、集客効果の高い大型外食専用フロアとしてリニューアルしているケースもよく見られます。このように、消費は堅調に成長していますが、小売店舗数は大幅に減少しているのが中国の現状です。


ネット販売と変わらぬ店舗販売員

先日、ある日系企業の日本人駐在員より販売員の教育についてご相談がありました。具体的な商品は控えますが、販売員の教育を検討するきっかけは、ある店舗を巡回した際に偶然目撃した販売員の顧客対応とのことでした。

同社は機能や質感に応じた価格帯で比較的豊富な商品をラインナップしています。

顧客の年齢層は広く、特定の性別に向けた商品ではありません。低~中価格帯の商品はネット販売により売上を順調に伸ばしています。自ずと、店舗まで足を運び商品を見に来るのは高価格帯商品の購入を検討している顧客となっています。 日本人駐在員はある販売員が高価格帯商品の購入を検討している顧客に対し、開口一番で購入予算を聞いていたことに愕然としたそうです。ネット販売が難しい高価格帯商品は店舗での販売がメインになるため、販売員の接客対応が顧客の購買意欲に大きく影響します。販売員の接客対応が原因となり、顧客がライバル会社の商品を購入してしまうケースも十分に考えられます。当然、商品の販売方法は商品の性質や価格帯等によって異なるものですが、同社の商品は少なくとも開口一番で顧客に購買予算を聞くという接客対応は相応しくありません。

 

顧客の購買意欲を低下させる接客対応

一般的な日本の小売店舗では顧客の主体的な購買意欲を尊重する接客対応が主流になっていると言えるでしょう。社会の変化とともに、顧客の購買意欲を高めるために研究し尽くされた販売方法で、様々なタイプの顧客にも対応できるよう顧客本位になっています。

筆者が約30年前に初めて中国を訪れた際、小売店舗における販売員の接客対応が日本とあまりにも異なることに驚いた記憶があります。当時の店舗レイアウトや会計方法が現在と異なることも関係していると思いますが、何よりも衝撃的だったのは販売員と顧客の関係性でした。現在の接客対応は大きく変化しましたが、一般的な日本人の感性では顧客の購買意欲を低下させていると感じる点も多数存在します。

販売を達成するために接客対応が過剰或いは偏向的になり、販売員の販売意欲が顧客の購買意欲を上回っているように感じる接客対応です。 過剰と感じる接客対応の例としては、顧客の入店後にすぐに販売員がやってきて、何を買いたいかを質問し、店内を見て回る顧客から片時も離れず、ある商品の前で立ち止まると、質問もしていないのにすぐに説明を始めるようなケースです。販売員自身は顧客への優良なサービスと信じて行っている対応ですが、このような接客対応に好感を抱けず、逆に購買意欲を削がれている顧客は多いはずです。考えられる理由として、この接客は短時間で販売という目的を達成するための店舗或いは従業員本位の対応だからです。顧客としては購買を催促されているように感じ、購買意欲は減少してしまいます。商品の購買を真剣に考えている顧客からすれば、商品を見るよりも、早くこの状況から抜け出したいという心理になっているでしょう。このような接客対応がなされている店舗では、顧客が購買をせずに店舗を出た時に販売員の捨て台詞をよく耳にします。「買う気がないなら来るな」と。買う気を無くさせているのが自分の接客対応だという意識は皆無で、接客対応が自分本位になっていることが表れています。 偏向的と感じる接客対応の最たるものとしては、価格が顧客の購買を決定するという前提での対応です。ネット販売が普及した現在だからこそ、価格が顧客の購買意欲を左右する重要な要因になっていることも確かですが、ネット販売が難しい商品の店舗での販売に同じ価格至上主義は必ずしも当てはまりません。 良い商品を安く購買したいというのは普遍的な顧客のニーズであり、商品の購買を考える顧客は価格に対して事前に一定の理解や情報を持っているものですが、店舗販売において顧客に購入予算を聞く場合、そのたタイミングが最も重要となります。購買予算を聞くことにより、顧客が購買をより現実的に感じ、購買を決断するためのステップとなるからです。特に高価格帯の商品については、機能や質感といった付加価値が価格に反映されており、顧客にとっては商品に興味を持った理由と価格との関連を理解することが購買決定に必要なプロセスとなります。そして、そのプロセスには一定の時間が必要なケースがほとんどです。接客対応のプロセスにおいて購買予算を聞くタイミングが早すぎれば、顧客の商品に対する理解が深まっていない段階で購買意欲を確認することに繋がり、顧客を購買というゴールから遠ざけてしまっているのです。また、前述のように、購買を催促されているように感じる顧客や購買予算により顧客としてランク付けされているように感じる顧客もいるはずです。

販売員教育は何から始めるべきか

販売員への接客販売教育をゼロからスタートする場合、最初に教育の目的を明確にすることが重要です。販売員向けの接客教育には様々な目的とそれに応じた教育内容がありますが、最終的な目的は販売=売上であることを忘れてはなりません。また、ほとんどのケースではインセンティブ制度等により、販売と販売員の収入は既にリンクしているはずですので、販売員にとっても重要な動機付けになっています。 販売業務を経験した人材からのヒアリングでは、多くの人材が「販売とは顧客に商品を購買させること」という認識を持っています。それぞれに課された販売目標(ノルマ)や収入とのリンクがこのような認識を形成していると思われますが、販売において販売員である自分を主体として認識していることが大きな特徴であり、日本との根本的な相違になっています。従って、接客販売教育では、販売における主体を自分から顧客に置き換えることからスタートする必要があるのです。中国の小売販売が転換の過渡期にある現在、販売員にとっては頭では理解できていても、実際に店舗で自ら実践することは非常に難しいはずです。 総じて、店舗販売の強化には販売員へのノウハウ伝授やマニュアル教育だけでは本当の意味での効果は得られません。それは過去に中国に進出した日系小売企業の実例からも明確です。販売員の意識改革やそのために行うべき販売員の位置付けや教育面での投資、評価制度の構築、合理的な給与体系等、日系企業としての課題はまだまだ山積しているのではないでしょうか。業界、商品によって状況は異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上