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中国

作成年月日:2018年12月18日

海外情報プラス

海外情報-中国11月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、法務・税務

不定時労働制について

不定時労働制とは

先日、ある日系企業の本社管理部門の方より「不定時労働制」の導入に関するご相談がありました。同社は日本人駐在員を置かず、本社からの出張ベースで現地法人を運営しています。従来は本社出張者が中国国内での営業活動を行ってきましたが、事業の展開に伴い、現地法人で初めて営業職を採用する計画です。営業職の賃金については、日本国内の営業職の状況を鑑み、見込み残業を考慮した設定を検討しており、不定時労働制を導入したいとのことでした。 不定時労働制とは、企業の生産の特徴や業務の特殊性により、労働法に定められた標準労働時間制(1日8時間、週40時間)の実施が難しい場合(労働者の勤務時間を固定することが難しい場合)において、労働行政機関の認可を経て適用できる労働時間設定の制度です。

適用職種の法的根拠

不定時労働制は、1995年1月1日施行の「企業の不定時労働制と労働時間総合計算勤務制の実施に関する審査弁法(労部発[1994]503号)」で定められ、現在に至っています。

同法では企業において不定時労働制が適用できる労働職種を次のように定めています。

① 高級管理者、外勤、営業、当直人員及びその他の標準労働時間に基づくことができない労働者

② 長距離輸送人員、タクシードライバー、鉄道、港湾、倉庫積載人員及びその他の業務性質上機動性が必要な労働者

③ その他の生産の特徴上、業務の特質性、職責の範囲により不適時労働制が適用される労働者

同社が計画中の「営業職」ですが、法的には「標準労働時間に基づくことができない職種」となっており、不定時労働制の対象となり得ることがわかります。「法的には~」としたのは、不定時労働制の適用は労働行政機関の認可が必要であるためです。申請に対し必ず認可が得られるわけではありません。認可を得ずに導入する場合、コンプライアンスにおいて非常に大きなリスクとなります。

導入根拠と応募者モチベーションへの影響

今回、同社では初めて営業職の現地従業員を採用する計画です。日本国内の営業職の勤務状況を参考にしていることはわかりますが、中国における現地法人の営業職の残業がどの程度発生するかが不明な段階で、不定時労働制を導入することは時期尚早と言えるでしょう。

同社が優先して行うべきことは、現地法人営業職の業務目標やジョブディスクリプション、業務フロー等を作成し、営業活動を効率的に推進してゆく準備を整えることです。これらの準備がない状況で営業職を採用しても、業務を効率化するための業務が増加し、残業が発生することは明白です。従来は本社からの出張ベースでも営業活動が行えており、既存業務の負荷はそれほど高くないため、プラスアルファの業務が加わらなければ残業も発生しないはずだからです。

同社のケースでは、入社後に一定期間の観察期間を設け、業務パフォーマンスや残業発生の実績を分析してから不定時労働制の要否を検討すべきです。

応募者の立場からは、新設職種に不定時労働制が導入されていることに不安や疑問を感じざるを得ないはずです。平均残業時間の実績もなく、ましてや残業の対象となる業務も不明確な状況で入社を決意することは難しいでしょう。採用活動への影響が懸念されます。

不定時労働制の賃金設定

不定時労働制が適用される場合、法的には残業時間に基づく残業手当を支給する必要はなくなりますが、いわゆる見込み残業手当に相当する金額を、代替的に他の名目による手当として賃金テーブルに設定し、固定的に支給することとなります。(但し、法定休日における時間外労働については労働法の定めに基づく残業手当の支給の対象となります。)

賃金テーブルの内容には法的制限がなく、各社が任意に設定することができるため、営業職が対象の場合は「営業手当」、「外勤手当」、「業務手当」等の名目で支給しているケースが多いようです。また、管理職が対象の場合は「管理職手当」或いは「役職手当」等の名目となります。

一般的な賃金テーブルでは、これらの手当は等級、職位とリンクしており、一定の等級或いは役職への昇進と同時に不定時労働制の対象となるよう就業規則に定められています。新たに不定時労働制を導入する場合には、就業規則、賃金テーブル(賃金規則)、労働契約書の整合性を図るための改定が必要となります。

不定時労働制導入のメリット

不定時労働制を導入している別の日系企業の事例です。現地従業員の約4割が営業職という構成です、当初は営業職の残業が非常に多く、副次的に従業員の約3割を占める営業アシスタント職の残業も多かったそうです。数年前に就業規則と賃金テーブルを改定し、一定等級以上の営業職及び管理職を不定時労働制の対象としました。同社の日本人副社長から伺ったお話しから、不定時労働制導入のメリットを理解することができます。

先ず挙げられるのは営業職の業務が年々効率化していることです。就業規則中にも残業の対象となる業務を明記しており、個々の営業職が残業の対象にならない業務の時間を計画的に管理するようになり、業務全体の効率化が進んだとのことです。副次的に営業アシスタント職の残業時間も減少しました。

また、不定時労働制の導入により、対象者の給与計算における残業手当の計算が不要となったことで労務管理面の業務負荷も減少しました。

従来の残業手当に相当する部分は営業手当名目で固定支給しており、金額の設定は過去一定期間の平均残業時間を基準に算出した金額から若干の上乗せを行い、対象となる従業員に有利になるように設定しています。これにより対象者は、会社が「残業手当削減のために不定時労働制を導入する」という一般的なマイナスイメージを抱くことはなく、更に業務の効率化を図ろうというモチベーションにも繋がったようです。

 

総じて、現時点では不定時労働制には残業手当削減を目的としたマイナスイメージのほうが強く、導入に際しては従業員への説明と理解が必要です。労働行政機関の認可が必要なこともマイナスイメージの形成に影響していると考えられます。

しかしながら、会社の努力と従業員の理解によって、事例のような大きなメリットが期待できる人事施策のひとつとなります。業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上