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作成年月日:2018年9月20日

海外情報プラス

海外情報-中国8月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理

支社での採用について

現地法人の拠点展開

日系企業の中国国内における拠点展開がトレンドになっています。現地法人の新規設立ではなく、現地法人の支社(分公司)設立による拠点の拡大です。

重要市場への拠点設置はビジネスにおける定石ですが、地方市場をカバーするための支店設立が活発化しています。背景には、中国経済の成熟に伴う地方市場の成長があることはご存知の通りです。個別企業によりますが、従来は現地法人からの出張で対応していたビジネスが大きく成長した、或いは地方の重要顧客と長期的ビジネスが見込めるなどの理由で支社を設立する日系企業は着実に増加しています。

地方には市場があるが、人がいない

中国国内におけるビジネスを効率的に拡大してゆくことが支社設立の目的ですが、多くのケースでは支社における人材確保がネックとなり、立ち上げ段階でつまずくことが多いのも事実です。

当然、支社設立計画には人事計画が含まれ、事前調査を経て人件費予算も組まれているはずですが、実際に募集を開始すると条件に適う人材は非常に少なく、採用が難航するケースが多いものです。これにより、支社の事業計画の推進に遅れが生じ、ひいては本社である現地法人の事業計画にも影響が及ぶこととなります。

支社で人材が採用できるまで、現地法人の既存従業員や駐在員が出張で対応するというケースが多く、これが長期化すれば現地法人における業務レベル或いは売上能力の低下を招くこととなります。 勿論、地方には人材がいないということではありません。これまで支社設立に伴う多数の地方拠点での採用をサポートさせて頂きましたが、地方での人材確保の成否は人材の有無だけではなく、募集企業の工夫と努力が不可欠であると感じています。

支社の採用が難航する原因

支社とは言え、新規設立であることに変わりはなく、オフィスの準備や従業員の採用等の準備は現地法人設立時と同様です。いずれの場合も最初に採用する従業員には複数業務の兼任を期待することが多く、募集条件のハードルは高くなりがちです。実際、最初に優秀な従業員を採用できた企業は、往々にしてスムーズな立ち上げができているケースが多いはずです。逆に最初の従業員の採用に失敗してしまった場合には、ゼロからではなくマイナスからスタートしなければならず、立ち上げが遅れてしまいます。

支社で最初に採用する従業員の職種は、支社の設立目的により決まりますが、近年最も多い職種はやはり営業系職種です(自社データ)。支社の事業が軌道に乗り、一定の規模に成長するまでは、管理系業務は本社である現地法人がサポートできるためです。

日系企業の求人市場全体を見ても、営業系職種が求人総数に占める割合は常に全体の50%以上を占めており、採用条件では取扱ってきた製品や業界でのキャリアが重視されています(自社データ)。製品や業界の経験が採否を決定すると言っても過言ではなく、営業系職種の採用が年々難しくなってきています。

また、支社で最初に採用する従業員に対しては、管理者的な役割を求めるケースが多く、募集条件には管理職としての経験や能力も追加されます。

「小さく生んで、大きく育てる」というセオリーにも通じますが、支社の設立に際しては多くの企業がプロフィット業務を優先し小数先鋭の体制を前提としており、採用活動が難航する原因になっています。

支社の賃金設定

先日、ある日系商社の日本人副社長から、地方に設立したばかりの支社で従業員を採用したいとのご相談がありました。重要な既存顧客があり、今後の取引拡大と対応スピードの向上のために支社を設立したとのことでした。

現在は副社長自身がこの顧客の営業を担当されていますが、支社設立に伴い現地で営業マンを採用する計画です。

募集要項は事前に細かく設定していましたが、肝心な賃金設定は空白のままで、助言を求められました。

副社長自身が担当してきた既存の重要顧客の担当を引き継ぎ、また、支社は暫く一名体制での運営になるとのことでしたので、支店における営業マネージャーを想定した賃金レンジを説明しました。しかし、副社長はこの数字に大変驚いた様子でした。地方の支社であるため、上海本社の既存従業員よりも低い賃金を想定していたようです。しかも、説明した賃金レンジの下限の数字でも、既存従業員中最も高い賃金を上回るとのことでした。 副社長の驚いた反応から、同社の賃金テーブルが現在の市場にマッチしておらず、採用活動が難航することを直感しました。副社長は賃金レベルに驚かれたようですが、これまで副社長自身が担当してきた重要顧客の担当を地方の平均賃金レベルで採用する人材に引き継ごうとしていることに逆にこちらが驚かされました。

通常は支社設立に伴い就業規則及び付帯規程を変更し、本社と支社の運営ルールの整合性を図ります。賃金テーブルについても、支社を持つ多くの日系企業が本社と基本的な内容を統一の基準で設定しています。

また、一部の日系企業では支社での人材確保が難しいことを理解しており、賃金設定の工夫により応募者数の増加を図ることに成功しています。特に現在は上海で勤務しており、故郷へのUターン転職を検討している地方出身人材からの応募増加が期待できます。

支社での日本人採用

ある日系サービス業の副社長からは、地方支社での日本人経験者採用を検討しているとのご相談がありました。同社は一昨年より地方都市にある支社で業界経験者を募集してきましたが、応募者は皆無で採用活動が長期化しています。

支社のある地方でも同サービス業の市場ニーズは拡大しており、ローカル系企業での経験者は多数存在していますが、募集職種の特性上、日系企業での業務経験を必要としているため、応募できる人材の条件が非常に限られているのです。

募集範囲を日本人経験者に拡大することは理解できます。実際に数年前までは同業界の経験を持つ日本人求職者は比較的多く見られ、ローカル系企業が日本人経験者を採用するケースもありました。しかし、現在では中国での就業を希望する日本人求職者が年々減少しており、特定の業界経験という条件で日本人を採用できる可能性は非常に低い状況です(自社データ)。

支店での採用に限らず採用活動全般の基本ですが、応募状況に応じて募集条件を変更しなければ採用活動は停滞したままです。日系企業での業務経験という条件は再検討により間口を広げられる可能性が残されていると感じます。因みに、現地法人本社の従業員の支店の異動は一般的に非常に難しく、異動命令を理由に退職するケースも多発しています。

同社の採用活動の袋小路に入ったまま時間が経過しており、最終的には駐在員の異動や新たな駐在員の派遣により支店の体制を整えることになると思われる事例でした。

 

総じて、支社の設立に伴う従業員の採用は現地法人本社よりも難しいことは確かです。また、支社の地理的要因により採用サイクルはどうしても長期化してします。募集条件の設定のほか、面接の方法や回数の点でも企業の工夫が必要です。業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上