各国・地域情報

中国

作成年月日:2018年8月16日

海外情報プラス

海外情報-中国7月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理

業務中の自動車事故について

従業員の運転機会の増加

中国のモータリゼーションの成熟化に伴い、日系企業の従業員が自動車を運転する機会も急速に増加しています。今日では従業員がマイカーで通勤することもごく普通のこととなりましたが、モータリゼーション初期においてはマイカーを所有できたのは幹部従業員だけで、日系企業における自動車の運転は職種としてのドライバーが専門に従事していた時期もありました。

現在、多くの日系企業では営業先への訪問や荷物の運搬、顧客の送迎や作業現場への移動など、従業員自身が業務の一環として社用車や借り上げマイカーを運転しています。営業マンをはじめ、その他の職種においても募集条件のひとつとして運転免許の所持が必須であるケースも増えています。また、中国の運転免許を取得し、業務内外で自動車を運転している日本人も多数おられます。

これらの状況はモータリゼーションによる必然の流れであり、業務の効率性や利便性、経済性等の面で日系企業に多くのメリットをもたらしていることは確かです。

他人事ではない業務中の自動車事故

一方、モータリゼーションが進めば、交通事故の発生率が高まることも避けられません。

つい先日、ある日系商社の社長から伺ったお話です。社長が従業員である営業マンの運転する社用車に同乗し、上海から100km圏内にある客先を訪問する途中の高速道路上で事故が発生してしまいました。

見晴らしの良い直線を時速100キロ前後で走行中、運転者である従業員が車線変更をしようとしたところ、後方を走行していた自動車に突然気付き、車線を戻すための急ハンドルでスピンしガードレールに衝突、車線上に横転して停車したという単独事故です。日本人社長は後部座席に座っており、シートベルトをしていたため事故の瞬間、座席に固定され、スピンや横転の際にも車外に投げ出されずにすみました。幸い、事故発生時に他の走行車もなく、運転者である従業員にも、同乗していた日本人社長にも奇跡的に怪我はありませんでした。しかしながら、一歩間違えば命に更に関わる重大な結果となる可能性もあった大きな事故であることに変わりはありません。

事故への対応と従業員への措置

警察検証での事故原因は100%運転者である従業員の運転ミスでした。事故への対応として、社長も従業員も当日中に病院で検査を行い、問題がないことが確認されました。半壊した車両の修理については、保険会社より保障対象外と認定され、日本円で約100万円がかかるとのことでした。

状況を重く見られた社長は本社とも協議し、事故を起こした従業員に対し半年間の社用車運転禁止を命じ、始末書と事故発生月を含む四半期のインセンティブ給をゼロとする措置を取りました。勿論、従業員に対する措置は就業規則の考え方に基づいたもので、業務で自動車を運転する他の従業員への影響も考慮したうえでの措置です。

運転禁止措置と業務への影響

同社では自動車の運転を前提に営業エリアと顧客の担当を割り振っているため、営業マンである当該従業員への運転禁止措置は会社全体の営業活動にも影響してしまいます。社長としては非常に苦しい判断だと思いますが、事故を起こした営業マンの担当エリアを自動車運転の必要のない地域(市内)にするか、或いは内勤業務への配置転換が必要となり、一般的な欠員補充とは異なる人事対応が課題となっています。

前述の通り、社長は今回の事故とその対応がもたらす他の従業員への影響を重視しています。社内には、先ず社長を同乗させて大きな事故を起こした営業マンへの強い批判があるようです。また、その影響で担当や業務分担を変更することを快く思っていない従業員もいるとのことでした。これまでにも自動車の安全運転について社内で講習を開催してきましたが、社長は今回の事故をきっかけに会社として安全運転に関するポリシーやルール、目標設定が絶対に必要だと考えられています。

安全運転目標とルール作り

これまで同社では、就業規則における車両管理規程で自動車の運用や安全運転の管理を行ってきました。車両管理規則には、安全運転教育の実施や運転前後の車両確認を含む安全運転のためのフローが含まれ、その管理表も作成しています。また、自動車の運転が必要な従業員については、入社時に労働契約書とともに「安全運転誓約書」を作成しています。車両管理については比較的充分な対応ができていると思われますが、事故や違反が発生した場合の具体的な措置が決められていない点が問題です。これまでにも、軽度の車両破損や各種の違反が起きていましたが、具体的な措置がないために始末書や警告等の対応しかしていなかったようです。従業員の安全運転に対する意識が薄れてしまうのも無理はありません。

先ずは会社として安全運転に取り組む姿勢を従業員に示すことが必要です。すぐに臨時董事会を開催し、「交通違反及び交通事故ゼロ」を全従業員共通の会社目標として決定し社内に掲示すること、同時に従業員から安全運転責任者を選任し、定期継続的に社内に安全運転に関する情報を掲示してもらうことを推奨しました。 また、就業規則における「処罰」中に、交通違反、交通違反や事故の具体的なレベル、責任の所在に応じた処罰を追加することが必要です。これにより、従業員がどんな状況でどんな処罰となるかを意識することができるようになるでしょう。他にも、私用ではなく会社の業務として自動車を運転しているという意識を強化するため、社用車に社名やロゴを付けたり、マイカーを業務で使用する場合には、マグネット式のステッカーで社名やロゴを付けることも有効でしょう。

総じて、事故の重大性を会社全体で共有するために、これらの措置を迅速に行うことが求められています。今回大事に至らなかったことは不幸中の幸いに過ぎず、中国における日系企業が会社として安全運転に取り組む時代が来ています。業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上