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作成年月日:2018年6月11日

海外情報プラス

海外情報-中国5月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、異文化、その他(企業経営)

日本語教育について

今なぜ日本語教育なのか

先般、ある日系メーカーの日本人社長より、従業員の日本語教育の計画についてご相談を頂きました。10~15年程前までは従業員の日本語教育に取り組む日系企業も多く、一部の企業では現在も継続しているかもしれません。しかし、近年では新たに日本語教育に取り組むという企業のお話はほとんど聞いたことがありませんでしたので、今回のご相談は新鮮に感じました。

社員旅行でプチ日本ブーム

同社は設立10年以上の加工メーカーで、管理や営業部門のほとんどの従業員は日本語人材です。今回は製造部門の管理職を対象とした日本語教育を計画していますが、そのほとんどが日本語未学者です。これまで対象者の業務においては、日本語使用の必要性は高くありませんでした。歴代の日本人製造責任者が中国語を習得していたためです。日本語教育の計画において製造部門の管理職を対象に考えられているとしている理由が気になります。

同社は昨年(2017年)から「働き方改革」に取り組んでおり、社長主導で従業員が長期安定的に就業したいと思える会社作りを目指しています。特に製造部門の従業員の確保と定着率の向上を課題としています。先ずは、製造部門の労務派遣社員の直接雇用化と任意商業医療保険への加入を実施しました。また、従来は中国国内だった社員旅行の行き先を初めて海外(日本)にしました。このように、先ず従業員の福利厚生を充実させたことで、過去一年間の製造部門の離職率は明らかに低下したとのことでした。そこで、社長が考えた次の一手が日本語教育です。ほとんどの従業員は社員旅行で初めて日本を訪れましたが、これにより社内でちょっとした日本ブームが起きたそうです。「おはようございます」、「おつかれさまでした」などの挨拶は以前より日本語が使われていましたが、日本を訪れてからは従業員の発音が格段に上達したそうです。

教育対象の選定と意図

管理者層に対しては、啓発効果と実務への応用が期待できるマネジメント系の教育を実施する企業が多いのが一般的です。しかしながら、効果が見えにくい、教育内容が必ずしも自社に応用できない、といったケースが多いのも現実です。実際、同社でも数年前に製造部門での外部コンサルティングによる製造管理関連の教育を実施しましたが、諸事情により計画の半分で終了してしまったそうです。

これに対し日本語教育は、全ての職層を対象とすることができ、教育成果の測定や習得度の可視化が可能な教育内容です。また、初学者の基礎習得は本人の学習態度が左右すると言っても過言ではありません。社員旅行をきっかけに社内に日本ブームが起きるほどの同社では「会社が日本語教育を実施する」だけで、従業員のモチベーションを刺激するきっかけになるはずです。

社長の意図としても、先ず管理職層を対象にしたのは業務の必要性からではなく、従業員の福利厚生の一環として位置付けたいためです。つまり、同社における日本語教育は管理職層のステイタスであり、従業員が管理職層を目指すモチベーション材料のひとつとして、製造部門の定着率を更に安定化させることが目的なのです。これが「今なぜ日本語教育なのか」の動機です。

人事制度とのリンク

勿論、時間とコストをかけて日本語教育を行うからには、教育成果を現行の評価制度ともリンクさせる計画です。先立って実施された福利厚生面の充実は従業員に安心感を与えることができますが、これと同時に従業員のモチベーションを刺激するためには、会社主導の事施策が常に動いており、従業員に会社に評価されていると感じさせることが重要です。社長は日本語教育の成果測定と記録、本人へのフィードバックを通じて、従業員に評価されているという意識を強めるとともに、これを主管する人事担当者が日本語教育の運営を通じて成長することも期待しています。

働き方改革は柔軟な発想で

「もし昨年の社員旅行先が日本でなかったら」または「もし社内にプチ日本ブームが起きなければ」、このような日本語教育の計画は発想できなかったかもしれません。社長自身が常に働き方改革のヒントを探しながら現地法人を経営され、従業員の動向にアンテナを張り、タイミングを見極めているからこその発想だと感心させられます。簡単なことのようですが、日々の多忙を極める現地法人の社長が、このような発想を持ち、計画を立て、実行してゆくことは実際には非常に難しいことだからです。昨年の5月と8月に働き方改革をテーマにレポートしましたが、中国の労働関連の法律では明らかに労働者の保護に重点が置かれています。だからこそ、より柔軟な発想で働き方改革を考えることが求められ、発想次第で日本語教育を福利厚生化することもできるのです。今後も同社の日本語教育計画に注目してゆきたいと思います。業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上


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