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作成年月日:2017年5月8日

海外情報プラス

海外情報−中国4月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、異文化、危機管理、その他(企業経営)

現地従業員の退職と総経理・駐在員について

 

現地従業員が全員離職!?

先日、非常に稀なケースに遭遇しましたので、ご参考までにご報告させて頂きたいと思います。

ある日系企業で全ての現地従業員が辞職するというケースが発生しました。もともと10名前後の規模の会社ですが、プロフィット系、ノンプロフィット系全ての従業員が短期間で次々と辞職し、現在、会社に残っているのは駐在員である日本人総経理1名です。この状況を見かねた知人の紹介で、この総経理とお会いすることになりました。

全従業員が辞職した理由とは

とにかく欠員補充を急いでおられるとのことで、面談では採用に関するご相談を受けました。

採用をお手伝いさせて頂く立場としては、退職に伴う欠員補充のご依頼の際には、打合せで前任者の退職理由を教えて頂き、将来同じ理由による退職が発生しないように注意して候補者のマッチングを進めたいのですが、同席の知人も含め、面談では全従業員の辞職という重大な問題に全く言及がありませんでした。

確定はできませんが、後述の理由により、全従業員が辞職した原因がこの日本人総経理にあり、これが会社にとって最も深刻な問題であることを察知しました。

その後、募集職種のスペックをヒアリングさせて頂き、この日の打合せは終了しました。会社を出た後、知人に全従業員退職の原因について聞いてみましたが、知人はただ苦笑するだけで、面談で私が察知したことを肯定しているようでした。

経済補償金の放棄が意味するもの

一般的に従業員が退職を考える場合、現行労働契約の終了を以って退職するのがベストのタイミングです。勤務年数に応じた経済補償金の支払い対象となる退職事由となるためです。

一方、会社側に労働契約法で定められた状況がない場合において、従業員が労働契約期間中に主体的に退職(=辞職)する場合は経済補償金の支払い対象にはなりません。

従業員にとって経済補償金の存在は非常に大きなものがあり、なかには経済補償金を得るため辞職はせずに故意に業務のパフォーマンスを落とし、会社側から辞職勧告を引き出そうとするケースも発生しています。

つまり、今回のケースでは全従業員が経済補償金を放棄してまでも会社を離れたいと考えていたことになり、その原因は通常レベルを大きく超えていたと考えられます。恐らくはこの総経理に関係する何らかの要因が全従業員共通の辞職の原因になっていたと考えられます。

本社の任命責任と管理責任

規模の大小を問わず、現地法人の従業員が短期間で全員辞職した場合、本社としても当然看過できない問題です。売上や利益を論ずる以前に海外法人が通常に運営されていないというのは非常事態ですので、本社は総経理に対し、早急に原因究明の報告と対応策の実施を命じるはずです。状況によっては、報告の真偽を確認するため、本社の担当者が現地に出張したり、信頼できる第三者に依頼して退職者から直接ヒアリング調査を行う必要もあるでしょう。  更に重要な問題はこの総経理を任命した本社或いは董事会の任命責任です。社内では当然聞こえてこない話ですが、現地従業員には「本社はなぜこんな駐在員を派遣してくるのか」という本社に対する不満を抱いている場合もあり、モチベーション低下や退職に繋がっているケースも少なくありません(求職者ヒアリングより)。 仮に、全従業員に共通した辞職の原因が総経理に関連していた場合、本社或いは董事会としては早急に総経理と面談し、その結果により総経理交代等の人事施策を講ずる必要があります。既に退職した従業員に対するヒアリングは実施が困難です。今回のケースにおいて真の原因が究明できないことは本社の対応が遅れたためでもあり、本社の管理責任も問われます。

総経理・駐在員に対する不満

今回のケースでは原因が明確になっていませんが、一般的に現地従業員が駐在員或いは総経理のどのような点に不満を感じているか、転職希望者等からのヒアリングをもとに共通項目をご紹介したいと思います。

 

「日本の方式を押し付ける」

現地従業員は、日本の方式しか知らない人、現地の方式を受け入れない人と見ています。せっかく現地従業員が提案をしても、日本式以外は全て否定されるため、徐々に提案しても無駄という意識が広まり、現地従業員とのコミュニケーション自体も減少していきます。また、過去の日本での成功経験談が逆に現地従業員のモチベーションを低下させているケースもあります。

 

「本社ばかり気にしている」

現地従業員は、本社の自分に対する評価ばかりを気にしている駐在員を敏感に察知しています。現地従業員は「本社がどう思うか」という駐在員の判断基準がビジネスの足かせになっていると感じており、モチベーション低下の要因にもなっています。自分の評価しか考えていない上司に部下がついてこないのは万国共通でしょう。また、類似する内容として、責任を取ろうとしない、或いは責任から逃れる駐在員も現地従業員の不評を招いています。

 

「現地従業員と平等に接していない」

現地従業員は、日本語能力の高い従業員と日本語でしかコミュニケーションを取らない駐在員に対し不満を感じており、評価も不公平であると考えています。今後、外国人就業許可証の取得要件にも中国語(HSK)が必要になりましたが、駐在員が日本語しかできないことも根底の原因にあります。日本語ができない現地従業員とのコミュニケーション能力も駐在員に求められる重要な能力のひとつです 。

 

現地従業員の総経理や駐在員への不満の多くは日本国内と同様です。今回のケースのように、人選を誤れば貴重な現地従業員の流出にも直結する重要な要素です。特に総経理・駐在員の交代直後に、後任に失望し退職する現地従業員は多く、現地法人が順調に運営されている企業こそ、本社における後任の人選時に注意すべきです。また、上記のほか、細かい部分では職場で不適切な話をする、清潔感がない、ヘビースモーカーであるといった点もよく挙げられており、現地従業員が駐在員や総経理を客観的に観察し、評価していることがわかります。業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上