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作成年月日:2016年10月11日

海外情報プラス

海外情報−中国9月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理、その他(企業経営)

賃金テーブル改定が増加

この時期、来年度の事業計画と予算を組み始めている企業も多いかと思います。人件費予算については、年末に目標管理制度の評価を実施し、評価結果に基づき昇給額が確定し、社会保険や福利厚生の費用を算出してゆきますが、現時点では前年の平均昇給率をもとに仮予算を組まれている段階ではないでしょうか。

今年は賃金テーブルの改定に取り組む企業が増えています。背景として賃金水準高騰への対応や優秀な人材の確保と流出防止があり、企業によっては来年度からの運用を目指し、第1四半期から賃金テーブル改定に取り組んでいます。

限界に近づく賃金設定

賃金水準高騰への対応については、過去に制定した賃金テーブルと実際の賃金に整合性が取れなくなっているケースが増えています。言い換えれば、賃金テーブルの設定に限界が近づいている状況です。

ある日系販社の事例です。

ここ数年、右肩上がりで業績が推移しており、毎年、独自の評価制度に基づく昇給を実施してきました。その結果、実際の賃金と職務、職責にミスマッチが生じるようになりました。一般従業員の賃金が賃金テーブルにおける管理者のレンジに接近しており、過去の昇給率実績からの試算では、今後数年において、組織や個々の職務に大きな変更計画がないにも関わらず、管理者の数が急増してゆく状況が推測されます。

同社では賃金テーブルのレンジ拡大と並行し、評価制度の変更にも取り組んでいます。

また、若干異なるケースですが、別の日系商社ではここ数年間で営業職と業務職の賃金に大きなギャップが生じています。同社副総経理は、売上拡大を優先し、営業職のモチベーション向上を重視して昇給を行ってきた結果、業務職との賃金ギャップが拡がり、従業員の不満を招くことになったと自省されています。

今年は業務職において、常に退職と欠員補充が繰り返されているとのことでした。また、従業員の賃金情報が社内に漏えいしていることも大きな問題です。社内の雰囲気も険悪になり、緊急に従業員ヒアリングを実施した結果、既に社内には営業部VSその他の部署という空気が醸成されていることが浮かび上がりました。企業として大変危険な状況です。

副総経理は賃金テーブルの改定はレンジの拡大に留め、新たなインセンティブ制度の構築により営業部と業務部のチームワークで売上を拡大してゆくことを考えられています。また、業務職の業務フローにおける営業職との協業項目を抽出し、目標設定におけるKPI((key performance indicator、重要業績評価指標)に落とし込み、業務職の評価と昇給に反映してゆく方針です。

根拠がなければ人材が流出

従来から賃金テーブルが存在しなかった企業においても賃金テーブル作成の必要性が急速に高まっています。意外に感じられるかもしれませんが、賃金テーブルのない日系企業がまだ多数存在しています。コンプライアンス上も賃金テーブルがないことはリスク要因になり得ます。最大の問題は評価と昇給を関連付けるための根拠が存在せず、従業員の流出や採用難に繋がることです。

設立10年以上のある日系販社では、これまで賃金テーブルを制定したことがありませんでした。今年、賃金に対する不満から社歴の長いベテラン従業員が退職し、後任の採用も難航していることから、初めて賃金テーブルの制定を検討しています。

因みに同社では、総経理自身が個々の従業員の昇給額を決定していたそうで、総経理は毎年昇給の時期が近づくと頭が痛いとのことでした。伺ってみると、評価制度を実施していないため評価根拠も存在せず、完全に総経理の心象で昇給額を決定していたそうです。

同社では労務トラブルによる退職者との裁判や労働災害の問題も発生しており、賃金テーブルだけではなく、各種の社内制度を整備してゆく必要があります。今後、更に大きな問題を発生させぬよう、先ずは就業規則、労働契約書の再確認と賃金テーブル作成を助言しています。

なぜ賃金テーブルがないのか

賃金テーブルのない会社に共通しているのは、就業規則に社員等級や職階級に関する内容が盛り込まれていない点です。多くの場合、就業規則における給与に関する記述では「別途給与規程に準ずる」とされていますが、実際には給与規程を制定していません。

このようなケースは、会社設立時に就業規則及び労働契約書の作成を外部委託しており、賃金テーブル制定がオプション契約となっていた場合に多く見られます。賃金テーブルは本来、就業規則・労働契約書とセットで作成する必要があるとお考え下さい。

賃金テーブルの制定・改定方法

会社設立後、一定期間が過ぎ、実際に従業員を雇用し、その賃金も発生している場合、新たに賃金テーブルを制定したり、既存の賃金テーブルを改定するためには非常に複雑な作業を要します。現行の賃金、職務及び職責を分析し、逆算方式で賃金テーブルに組み込んでゆかざるを得ないためです。

なお、会社設立時であれば、最初に雇用した従業員の賃金、職務、職責を基準として、事業・組織計画やる労働市場の相場を参考に、比較的スムーズに賃金テーブルを構築してゆくことができます。尚、インターネットで同業、同職種の求人情報を調べれば、比較的簡単に賃金相場を把握することができます。

いずれの場合においても、等級や職階級ごとの昇給レンジを広めに設定し、将来、頻繁に賃金テーブルを改定する必要がないように考慮されることをお勧めします。

業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上