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中国

作成年月日:2016年9月5日

海外情報プラス

海外情報−中国8月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、法務・税務、危機管理、その他(企業経営)

従業員の妊娠に関する相談が増加中

最近、従業員の妊娠や出産育児に伴う人事労務上の対応に関する相談が相次いでいます。最も多い相談内容は、従業員が出産育児休暇以前に、定期検査以外で妊娠に伴う体調不良により病院の診断書に基づき病気休暇を取得し、業務に影響しているケースです。 多くの企業は就業規則中に、従業員が妊娠した場合、診断書とともに会社への報告を義務付けています。これにより出産育児休暇の時期を想定し、業務状況に応じた対応を検討することになります。 但し、妊娠した従業員が出産育児休暇までの期間、従来通りに勤務できるとは限りません。実際には非常に高い比率で出産育児休暇以前に数日〜数週間の「体調不良」による病気休暇を取得しています。数日間の出勤を挟み、繰り返し病気休暇を取得するケースも少なくありません。 病院の診断書さえあれば病気休暇を取得できるシステムの中国においては、従業員の妊娠に際し、出産育児休暇に加え、それ以前の病気休暇取得を想定しておく必要があります。

法律面での保護

妊娠した従業員の労働契約の解除についての相談もありますが、妊娠した労働者は《労働法》、《労働契約法》、《女職工労働保護規定》、《女職工労働保護特別規定》、《婦女保障法》等の法律により一般の労働者よりも手厚く保護されており、妊娠、出産育児(出産後1年間の授乳期間を含む)を理由とした企業による労働契約の解除は禁止されています。

因みに《労働契約法》中では、企業による労働契約が解除できる状況(懲戒解雇)について定められており、それぞれの状況において、妊娠した労働者は除外されていません。

業務引継ぎと在宅勤務による対応

ある日系商社の事例です。営業サポート部門のリーダーが妊娠後、体調不良による病気休暇を取得することとなりました。実はこの従業員は過去に流産を経験しています。会社も個別の状況を把握しており、今回は従業員の健康を第一に考え対応を進めました。実際の対応としては病気休暇に入る前に可能な範囲で他の従業員に業務を引継ぎ、引継ぎが難しい業務については、在宅勤務でメールやクラウドシステムを利用して処理できるようにしました。これにより従業員の健康に配慮しつつ、業務への影響も最小限に抑えることができました。メールやシステム上で勤務した事実が確認でき、勤怠管理上も在宅勤務を行った日は出勤として取り扱っています。

病気休暇の常態化

ある日系メーカーでは、製造部門と管理部門の従業員がほぼ同時期に妊娠し、2名がともに体調不良による病気休暇を取得しました。製造部門では勤務シフトの調整で予定外の残業が発生し、営業部門でも顧客対応上のトラブルが発生しました。社内には2名が示し合わせて病気休暇を取得したという憶測もあり、会社としては将来妊娠する可能性のある従業員たちが「自分たちも妊娠したら病気休暇を取得できる」と安易に考え、常態化することを防止したいと考えています。 当初、董事長は本人たちとの協議一致により、妊娠、出産育児以外の理由で労働契約を解除したい意向でしたが、最終的には上述の法的根拠により労働争議が発生するリスクが非常に高いと判断しました。 因みに、同社では退職に伴う労働争議が頻繁に発生しているとのことでした。現在、妊娠後の体調不良による病気休暇を減少させるための福利厚生面での施策を検討中です。

チャンス・ロスの防止

また、別の日系商社でも営業担当が妊娠後に、体調不良による病気休暇を取得しました。もともと評価の低かった営業担当ですが、総経理は従業員の妊娠に伴う労務管理リスクを理解し、妊娠、出産育児期間における労働契約の解除は行わない方針です。但し、期間中のチャンス・ロスを防止するため、早速、営業担当の増員を決定しました。出産育児期間中に新たに採用する営業担当を育成し、最終的には法的にリスクや問題のない方法で評価の低い営業担当との入れ替えを行う施策です。

出産育児休暇後の退職も多い

実際に多くの企業において、妊娠した従業員の体調不良による病気休暇が発生していると思います。従業員にとっては、法律に基づく権利の行使にすぎませんが、上述の事例の通り、企業としては日頃の従業員の勤務評価を参考に対応を検討している点がポイントです。 往々にして、出産は従業員の人生観や仕事観に影響を与えます。出産育児休暇の終了後(社会保険における手当支給期間の満了後)、育児への専念を理由に辞職するケースも少なくありません。 今年は一人っ子政策が廃止され、また、今後数年は中国で縁起が良いとされる十二支(酉年、戌年、亥年、子年、丑年)が続くことから、従業員の妊娠、出産育児に関連して企業の対応が増加することが予想されます。 業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

以 上