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作成年月日:2016年8月5日

海外情報プラス

海外情報−中国7月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理、その他(企業経営)

駐在員の退職について

中国勤務中に退職する駐在員たち

先日、ある日系商社の本社社長より、総経理として派遣していた駐在員が退職することになったとのお話を伺いました。この駐在員は海外営業出身の20代後半の男性で、中国駐在中に他社からスカウトを受け、転職を決意するに至ったそうです。

駐在員の退職をリスクとして想定している企業は少ないと思いますが、実際のところ、駐在員が中国勤務中に退職することは珍しいことではありません。個々の事情は異なりますが、駐在員の退職により現地法人の運営に少しでも支障が生じれば、ステークホルダーにご迷惑が掛かり、本社を含めた企業の信用を失うことに繋がります。また、現地従業員のモチベーションにも影響を及ぼすはずです。駐在員の退職は、企業にとって想定しておくべき人事リスクのひとつです。

中国勤務がキャリアプランを見直すきっかけに

前述の20代後半の男性は、中国勤務中に他社からスカウトを受けての転職が退職理由でした。一般的に考えれば、スカウトによる転職で収入が増えることは確実でしょう。勿論、転職に際しては収入だけではなく、個人のキャリアプランやライフプランが大前提として存在していたはずですが、この20代後半の男性は中国勤務が自身のキャリアプランを見直すきっかけになっていた可能性が高く、タイミングよく他社からのスカウトが重なったのでしょう。

つまり、国内勤務では得られない経験を積むことにより、仕事観や人生観に大きな変化が生じたことが理由になったものと考えられます。駐在員として派遣した目的には、海外経験を積ませることも含まれていたと思われますが、皮肉な結果となってしまいました。

社長にとって期待していた若手社員の突然の退職となりましたが、退職願を受理する一方、駐在員の退職を業務とコストを見直す機会として捉え、ローカル化を進めてゆこうと考えられています。先ずは、ご自身と本社担当者の出張頻度を増やし、現地従業員とのコミュニケーションを充分に取ると同時に、可能な範囲でノンプロフィット業務を外注化することで、従来以上に利益の出る事業体制に整備してゆく計画です。

長引く駐在、退職が唯一の帰国手段に

転職を希望している40代男性のケースです。この男性はサービス業の現地法人立上げ責任者として家族帯同で駐在を開始し、そのまま十数年間駐在が続いています。

ある年から、お子様の進学のために家族が日本に帰国し、ご自身は単身で駐在を続けてきました。本社の規定で定められた駐在任期はとっくに過ぎており、人事申告では毎年のように帰任の希望を提出していますが、本社は全く無反応だそうです。因みに、数年前に事前説明もなく海外駐在規定が変更され、海外勤務手当が廃止となり、実質収入も減少したそうです。

このような状況が続き、この男性は社内でのキャリアプランも描けなくなり、何のために家族と離れて貴重な人生を過ごさなければいけないのかと、そればかりを考えるようになったそうです。ご本人は「自分の人生で後悔する時間があるとすれば、まさに現在。」とまで述べられています。

現在、この男性は中国に駐在しながら日本国内への転職活動を進めています。現職からの日本帰任をあきらめ、転職だけが日本で家族と一緒に生活できる唯一の方法だと考えています。もはやメンタルヘルス上のサポートが必要とも思われる状況ですが、本社はそれにすら気が付いていないでしょう。この男性の就職先が決まり、退職願が提出されてから対応に慌てふためくのが目に見えています。現地法人の運営にも大きな支障を来たすことになるでしょう。

今後、このケースのように駐在員の派遣元である本社側の人事施策の不備が原因で駐在期間が長期化し、結果的に貴重な人材が退社してゆく、或いはメンタルヘルス上の更に深刻な問題に発展してゆくというケースが増加してゆくと思われます。

重要な点は駐在員の退職は駐在員個人だけの問題ではなく、企業としての問題でもあるということです。

駐在員退職リスクの防止と対策

自社は大丈夫と思われるかもしれませんが、駐在員の退職リスクは全ての企業に存在しており、防止策や対応策を用意しておく必要があります。駐在候補者や現役駐在員に対しては、駐在期間の明文化や帰任後の社内キャリアプランの提示、定期的なメンタルヘルスケアの実施などが駐在中の退職防止に役立つはずです。また、次期駐在員の準備と育成を進めておくことが最大の対応策になることは言うまでもないでしょう。

また、多くの企業で駐在経験者が日本帰任後数年以内に退職するケースが発生しており、企業にとって新たな課題となっています。業界・会社によってケースは異なりますが、実例としてご参考にして頂ければと思います。

 

以 上