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作成年月日:2015年9月7日

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海外情報−中国8月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸
分野:人事・労務、その他(企業経営)

営業部員の士気高揚は歩合給では無理

上海郊外の日系特殊化学品T社の中国人副社長(中国では副総経理という)J氏から「5S運動をしたいのでご指導を願いたい」と、私の知り合いのK社を通してご相談があった。

早速伺い、社長のS氏その他と面談したところ、「5S運動よりも営業部員のヤル気を出す賃金制度は如何にすべきか」というのが喫緊の課題であった。4人いる営業部員の士気が極端に下がっているのを何とか歩合給制度で解決したいということである。

しかし、詳しく事情を伺うと制度改定だけでは解決できないということが分かった。

営業部長兼務の副社長は創業時からの功労者

J副社長はT社創業時に通訳として御苦労なさった功労者である。そして、単なる通訳から社長室長に抜擢され各方面で活躍した。

特に化学品工場の操業規制が厳しい対中国および地方政府交渉は抜群の働きであり創設功労者として尊敬を集め、後に営業部長兼副社長として重用されたのである。

営業部員に関しては日本人ノータッチ

T社の創業時の顧客は全てが日系企業であり、日本の親会社どうしで取引が決まっていた。したがって営業部の仕事は顧客サービスのみであり、営業部長は部員の管理だけで済んだ。ところが、日系企業だけでは販売が頭打ちとなった現在では中国系企業への売り込みをしない限りジリ貧である。

今こそ、中国人営業部長および営業部員の活躍の場面であるが、拡販活動はしたことが無いので何もできない。この現状に対してどう改革すべきか、営業部員に対してどう教育すべきか? 日本人は社長を含めて営業部には口出ししない。というよりも出来ない。

J副社長は、営業部員には「歩合給」を導入し拡販意欲を掻き立てるべきだと訴えるのみである。

S社長は、歩合給の導入だけで解決できるかどうか疑問を持ち、私に相談をしたかったのだが、窓口を勤めるJ副社長にそのことを言いたくなかったので「5S運動でご相談」と言わせたのである。

営業の歩合給は長続きしない

製造業の営業部員の歩合給を導入した企業の大半が失敗している。歩合給導入当初の数カ月は、営業部員も張り切って拡販をするが、直ぐにその効力がなくなる。

理由の第一は、何をもってその営業部員の成果とするのか、すなわち何をもって歩合にするのか明確に出来ないことである。

特に、企業相手の製造業の営業成績は営業部員の頑張りによって受注を左右されることは極めて稀なこと。それよりも、製品の「価格、品質、技術特性、納期管理能力」および企業の信用力によって受注が決定される要因が大きいのである。

それを営業部員の歩合給にどうやって公平に反映するのか、極めて困難なことである。 最悪の場合は、受注獲得競争ではなく、受注した製品を誰の成果にするのかの仲間内の分捕あいになるだけである。

人事賃金制度は社内公平性が最重要

賃金は、世間相場並には支払う必要性はあるものの、それ以上に重要なことは社内公平性を保つことである。すなわち能力が高い者は低い者よりも高賃金であり、頑張った者成果の高い者が低い者よりも高賃金でなければ公平とは言えない。それでなければ、能力の高い者、頑張った者は他社へ流れることは必至であろう。逆に言えば社内に残った者は他社へ移れない低能力者ばかりとなってしまう。

営業部員の意欲をかきたて、拡販させるためには、受注競争の前に次のことをすべきである。

1、会社目標と営業目標の確定

2、営業活動のあるべき姿と拡販姿勢・方法の確立

3、営業部員の職責の明確化

4、各部門間の位置づけ明確化

5、職能・職責に対する人事評価制度の確立

6、人事評価にリンクした賃金制度の確立

人事賃金制度を変える前に社員の意識改革を

T社は、創業以来人事賃金制度は変えてなく、曖昧なまま13年経ってしまった。

曖昧なままで済ますには、年功序列に代表される属人的な賃金制度が中心となる。

属人とは学歴、年齢、勤続年数、性別、家族構成、出身(国、都市、民俗など)等々個人個人が属する歴史を表すものである。属人的制度とは、それを評価基準とするものであり、それによって職責・職位が決まり、賃金が決まる制度である。

T社は属人給のカタマリである。 管理者は、勤続10年以上の者ばかり、営業部員を優遇したくても管理監督者にしない限りは高給にできない。しかも、優秀だからといっても賃金に大きな差を付ける根拠がない。

永年勤続者であり、役職に就かない限りは賃金が上がらないのである。

これでは、営業部員でなくてもヤル気が起こらない。

管理者は管理能力が高いから任命されているのではない、勤続が永いため高給にするために役職に就いているだけである。逆にいうと永年勤続者は高給であり管理者である。

この属人的制度を、社内公平性の高い実力主義の人事・賃金制度に変えようとした場合、属人的制度によって恩典を受けている高級幹部は必ず抵抗する。組織を牽引する彼らが先頭に立って抵抗されたら制度改革は絶対にできない。

そのためには、事前に会社改革のための管理監督者研修を行うことが必須事項である。

この研修でこれからも発展成長するためには会社のあらゆる部分の改革が必要であることを理解していただく。

それを主体的に行うのは中国人幹部であり若い人の豊かな発想であり、それらを高く評価すべきであることを認識していただくのである。そうすれば必然的に人事賃金制度の改革をすべきだという意識が管理監督者から出てくるものである。

そうなれば、古い制度によって恩典を受けている抵抗族は少数派となり発言しなくなるだろう。

T社は、早速、臨時予算を組み研修を10月から開始し、人事・賃金新制度を来年4月から導入することとした。

以 上