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作成年月日:2015年6月8日

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海外情報−中国5月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸
分野タグ:人事・労務、異文化、その他

中国に属人的賃金を持込むな

上海郊外の特殊金属加工会社のT社は、操業開始して12年となるが、未だ累積損失を消せず、親会社への株式配当すらできない赤字体質である。そこから脱却する一つの手段が人事賃金制度の改訂・制定だとG社長がご相談に来られた。伺うと、現行の賃金体系は古い日本のそれを持ち込み、長く勤めれば勤めるほど優遇される仕組みとなっていた。このため、若手の優秀な社員には他社に逃げられ、何処にも転職できない古参社員が上位(高給取り)を占め、無駄といえる労務費が大半であった。 何故このような状態を長年放っていたのだろうか? 地元有力者の奥様を副社長に迎えての弊害がそこにあった。

12年間株式配当ゼロ

操業開始して12年となるが未だ株式配当をしていない。累損が消えてないため、中国政府の規制で日本へ送金できないのである。それでいながら社長や副社長など高級幹部と日本人出向者2名の給与は日本側がヤミで負担している。本来は現地法人が負担しなければ国税庁から「贈与」と見做されて大変なこととなるが体面を繕って大きな赤字にならないようにしているだけである。

どうしてそうなってしまったのだろうか?

年功序列型賃金制度の弊害が

現行の賃金体系(体系とは言えないが)は、古い親会社のそれを見よう見まねで初代社長が暫定的に作ったものを未だにそのまま使っている。学歴別勤続別にモデル賃金カーブを作り、それに対して人事考課で若干のプラスマイナスをしているだけ、基本は学歴別勤続給である。これでは、若手社員は永久に先輩社員を追い越せず、張り合いが出ない。日本でも現代では滅多に見ない古い賃金制度である。

もっと困ったことは10数種類の諸手当が無秩序に支払われていることである。毎年の法定最低賃金の高騰に対処すべく、10年前に作られたモデル賃金カーブによる基本給はいじらず、変な名前の諸手当を作ってお茶を濁していたのである。例えば、基本給が事実上の勤続給でありながら勤続手当という名称で勤続1年につき幾らという手当を払っているが、完全に二重祓いである。職位手当、職務手当、職場手当、環境手当、技能手当、住宅手当、・・・・とにかくありとあらゆる手当が支給されているがその支給根拠も基準も不明のものばかりである。

節約しか脳の無い副社長の弊害

何故このようになってしまったのだろうか?

初代社長は、日本式制度を暫定的であるが導入し、将来能力主義に変えようとしていた。

しかし、後継社長は一切人事制度のことは考えず中国人副社長に任せてしまった。中国の制度は中国人に任せるのがよいと判断したそうだが、本当は面倒だということ。何が面倒かというと、副社長を説得することが面倒だったのである。

中国人副社長は地元工業団地組合のお偉いさんの奥様であるため、当然、地元政府にコネが利く。これを期待して迎えたのである。

人事労務及び財務に関しては素人であることは承知していたが、それらを統括する副社長に迎えたのはそれらを軽視したことに他ならない。「ヒト・モノ・カネ」の内、ヒトとカネの2つを素人に任せてしまったのである。

素人経営者が、ヒトとカネに対しての工夫は次だけである。

 ・ 制度設計に金はかけない・・・制度や規定は殆ど無い。

 ・ 人材採用に金をかけない・・・人材会社を使うと手数料が発生するので使わず手近なところで採用している。結果的に能力の低い者を高く雇うということで高価についている。

 ・ 給料は抑えるが残業はし放題。・・・残業は本人からの申告制度で誰も拒否しないので残業代が月給よりも高い時すらあるが手をつけない。

 ・ 買うものは全て根拠もなく値切るだけ、支払いは極力先延ばし。・・・良きベンダーは逃げるのみ。

歴代社長が、人事賃金制度の導入や幹部研修、5S運動の指導などをコンサルタント会社に依頼しようと何度か試みたが、副社長の猛反対により取締役会以前に潰されてしまったそうだ。

制度改定前に職位のデノミ実施

結果は、12年間配当ゼロ。これでは何のための子会社なのか意味不明である。

さすがにこれではいけないとT社の親会社も悟り、G氏をスカウトし社長として送り込んできたのである。そのG社長がまず人事労務の改革に着手し、その第一番が年功序列型制度から能力重視の制度への転換であり、専門家に依頼し製作中である。

そして、新賃金制度実施の前に「全員職位を一ランク下げる」ことを決めた。会社の規模、幹部の実力から見て部長や工場長は不要であり、仮に必要であったとしてもその任務は勤まらないからである。経営補助職は管理職へ、管理職は監督職に、監督職はヒラ社員へと落とした。中には格下げ不要な者もいるが労働争議を防ぐために(一見公平に)全員格下げしたのである。これは大きなインパクトがあり、其の次の制度改革発表を、固唾を呑んで見守っているようだ。

来年の昇給時期には実力のある者のみ昇格し基に戻るがそれ以外は降格したままであり、昇給額も小さい。能力主義賃金体系に一歩近づくこととなった。 それが不満な者は去ってもらうことを歓迎しているのだが、努力して食いついて来ようとする者には手を差し伸べる手段を考えているところである。

G社長が最もご苦労されたことは、副社長の説得。地元政府へのコネを期待しての任命だったが思わぬ弊害を招いたものだ。

以 上