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作成年月日:2015年3月6日

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海外情報−中国2月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸
分野タグ:人事・労務、異文化、法務・税務、危機管理、その他

法律先進国だが運用は?

OVTA本部から次(要約)の調査依頼がでた。

『女性の活躍推進や家事支援ニーズへの対応といった観点から、日本においても家事支援サービス業が注目されており、ユーザーが安心で安価な家事支援サービスの利活用できる環境を整備すべく、一定の品質を確保するためのスキル標準について、検討が行われているところ、諸外国においては既に同様の制度があることがわかった。中国においても「家政服務員国家職業基準」に関する法律があることが分っており、その運用実態の調査をお願いしたい。』

この調査をして分かったことは、この資格や法律があること自体を大多数の国民が知らないし、家政婦の多くも知らないということである。

法律そのものは近年になってしっかりと整備された中国だが、法律の運用は未だまだであることを実感できた。最近になって中国政府は法治国家にすると宣言しているが現状は人治国家であり、そうなるには相当な年月がかかることが予測される。しかし、そこに向かうと宣言したことは事実として厳粛に受け止めなければならないだろう。

WTO加盟時の約束で法律は完備

中国は2000年にWTO加盟が認められ2001年から正式に加盟している。その加盟時に、主に下記の条件が付けられた。

@不足の法律を整備し、法治国家となること。

A全ての基準は世界で通用する基準にすること。

B上記はWTO加盟後、原則として5年以内に達成すること。

したがって、2000年から2008年にかけて凄まじい勢いで各種法律が制定され、施行された。特に集中したのが2006年で、主なものだけでも次の法律が制定された。

・ 新会社法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・06年1月施行

・ 外国投資者による投資管理法・・06年1月施行

・ 新企業税法・・・・・・・・・・・・・・・・・06年4月施行

・ 自動車事故責任保険法・・・・・・・06年7月施行

・ 外国企業によるM&A規定・・・・・06年8月施行

・ 外国銀行管理条例・・・・・・・・・・・06年12月施行

・ 個人所得税自己納税規則・・・・・07年1月施行

・ 企業破産法・・・・・・・・・・・・・・・・・07年6月施行

・ 土地管理法・・・・・・・・・・・・・・・・・07年7月施行

・ 物権法(土地収用の規制)・・・・・08年1月施行

・ 独占禁止法・・・・・・・・・・・・・・・・・08年1月施行

・ 労働契約法・・・・・・・・・・・・・・・・・08年1月施行

その他、移転価格税制、特許法、不正競争防止法、商標法、企業所得税率改正など毎年数多くの法律が制定されている。

「家政服務員国家職業基準」は意外に早く、2000年に制定、2006年に一部改訂され施行されている。

全ての基準は先進国並み

中国で法律を新たに作ることは容易である。

それは、先進国で既に制定され運用されているものを見本とし、運用実態をつぶさに観察・調査し、「好いとこ取り」できるからである。

しかも、国会に相当する立法機関には野党がいないため、共産党の内部議論だけで決まってしまう。

ただし、社会主義精神からみて問題がある法律の制定は難航する。例えば労働者の権利擁護をするための労働契約法は、本来、労農国家である中国としては抵抗がある法律であり制定までに非常に時間がかかった。同様に個人の私有財産保護をうたった物権法も難航した。土地の使用権を私有財産として認め、国有財産並に保護を加えた。社会主義国家としては画期的な法律であるため難航するのは仕方が無いだろう。

しかし、市場経済という名の資本主義経済が一般化された現在においては、何れも必要な法律であり、WTO加盟も後戻りできない。

日本を含めた先進国のこれら法律は、数十年前に制定され時間をかけて運用を工夫してきている。したがって、現状にそぐわない面も相当出ているが、幅広い層で長期にわたって施行運用しており変更することの抵抗も大きい。

一方、中国においては大部分が新規制定であるため既得権との調整は少なく、制定から施行までの期間は長くて2年、大部分が数か月、短いものだと数週間で済む。

いずれにしても、法律の内容は先進国並み以上に近代的で優れたものである。「家政服務員国家職業基準」も同じく立派な法律である。

国民の多くはその法律があること自体を知らない

中国では「上有政策下有対策(上に政策あれば下に対策あり)」という気質から来ている面もあるが、大多数の国民は政治にも法律にも無関心である。例えば労働契約法など労働者にとって極めて重要な法律であっても見たことがない人が大半である。法律を運用する企業の管理者であっても同じである。しかし、自分が解雇されたりして不利益を被ると初めて読んで学習するのである。

したがって、「家政服務員国家職業基準」は誰も存在すら知らない。家政婦に聞いても知らないし、家政婦紹介会社に聞いても法律があることは知っているが中身は知らない。

なぜなら、その資格が無くても家政婦になれるし、現状では売り手市場だからである。また、資格よりも人物(能力と信用)本位の世界でもある。

法律は、自分がそれの適用当事者にならない限り無関係な存在なのが中国である。したがって、無意識のうちに法律違反を犯してしまう。 企業も同じである。しかし、企業は知らないということでは済まされない。

運用は役所次第、担当役人次第

中国では前記のごとく制定から施行まで期間が極めて短く、運用する役人への指導教育も不徹底なまま施行に入る法律が多い。

このため、地域によって運用開始時期や運用方法に大きな差が生じる。すべての企業において等しく運用されるはずの会社法や税法など、簡単に運用開始できないものであっても慣らし期間が短いため、当局や担当者によって運用や適用に大きな差が生じる。もっとも、これら企業相手の法律は、施行されたら大企業と外資系企業だけ適用して、慣ら運転してから一般企業に適用・運用しているようである。とにかく、管轄当局や窓口役人次第で解釈や運用の異なる法律は多い。

例えば、年次有給休暇は労働契約法で明確に定められているが、労働者に与えられる休暇日数は企業によってバラバラである。それは地域労働局担当者の解釈の相違が原因と言われている。

「家政服務員国家職業基準」は、前記のごとく立派な法律である。しかし、それによって国家資格を取得している人は稀である。資格が無くても困らない法律であるからであり、地方政府はそんな(軽い)法律の運用に構っていられないからである。だから何処の当局に尋ねても、資格取得数字は掴んでいないし、運用については質問すら受付けない。

しかし、この法律の恩典を受けている機関があった。

それは「民弁非職業技能訓練学校」いわゆる家政婦資格取得養成学校である。ここの授業料はほぼ無料。失業対策など福祉事業として国家からの補助金で成り立っている学校である。したがって、民間学校とはいいながら経営者の多くは天下りで儲けているようだ。

企業経営は役人を見習ってはいけない

例え中国でも、企業経営に「上有政策下有対策(上に政策あれば下に対策あり)」の精神を持ち込んだらお終いである。役人を相手にする場合、時にはそういう姿勢も必要かもしれないが、日系企業だけは、その法の立法精神をくみ取って正しく運用すべきである。

日系企業は、いつ何時当局から査察がされるか分からないし、新法の適用は最初にされる。

そして、法律の裏をかいて経営しているという自覚を、担当従業員に持たせることは極めて危険である。仮にその担当者は会社のためと思ってやっていても、会社との関係が崩れた場合は必ず当局にタレ込んでから辞めていく。それよりも、その担当者と同じような行動をする者が増えたら不正ばかり、しかもコンプライアンス無視のとんでもない会社になることは間違いない。

中国の中央政府がこれを叩きはじめていることを自覚すべきである。 例え些少な事でも「蟻の一穴」を見逃しては危険である。

 

以 上