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作成年月日:2015年2月7日

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海外情報−中国1月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸
分野タグ:人事・労務、その他(企業経営)

社員と共有できない経営理念は意味無し

蘇州郊外のS社は、自動車用精密部品を製造販売する会社であり、15年前に進出した。

本年1月、社長(総経理)のK氏からご相談を受けた。昨今の円安・元高状態で日本向けの製品はますます原価が厳しくなった。一層の改善活動を推進し、歩留りの向上と能率の改善をしたいので社員の意識改革をはかるべく社員教育をしたいが何からどうすべきか、という内容である。

S社は、現在K社長を含めて5人の日本人が出向し、社長・副社長および工場長を勤め、各部長は全て日本人が就任している。管理部長は社長兼務、営業部長は副社長兼務、製造部長は工場長が兼務、生産技術部長・品質管理部はその他の日本人が部長という布陣である。

生産性は日本よりも大幅に低い

S社の製品は精密部品であるため、製造工程は複雑であり作業者の熟練や質に頼る部分も多くある。さらに問題は、工場立地の関係上作業者を採用することが困難でありながら作業者の退職率が高く、毎月数%の補充が必要である。作業者の採用困難な事情は立地だけでなく、典型的な3Kの仕事であるためである。

作業者の交代が多いせいか、生産性は日本の親会社に比べて大幅に低い。元々安価で豊富な労働力を求めて進出したという背景もあって進出当初は、生産性は軽視してきたという経緯があり、中国人管理監督者は生産性を追及する姿勢に欠けているようである。

しかし、毎週のように改善会議を行なっており、生産性と品質向上のテーマを継続して行なっている。その成果として、生産性は少しは向上しているように見えるが、品質向上の傾向は全く見えない。

日本へ輸出した製品は全て親会社で検査

S社の主な取引先は日本であるが親会社経由でしか発送できない。何故なら、顧客からの信頼が未だ得られず、すべての製品を親会社で受入れ検査をして合格しなければ納入できない仕組みとなっているからである。親会社の受入れ検査で不合格となった場合は納期に余裕が無い場合は親会社のスタッフを動員して選別し、その費用をS社へ請求している。

このことは、中国人社員にも知れ渡っており「どうせ親会社が検査して保障してくれているのだから大丈夫」、「一生懸命よいものを作って出荷しても、親会社は難癖付けて再検査し、その費用を我々に押し付けてくる」と、逆効果現象を産んでいるようである。

親会社に比べて、生産性が低く、品質が悪いのであれば当然原価も高くなる。S社は、創業以来利益が出たことが無く、これではわざわざ中国に進出した意味が無く、K氏も危機感を抱いている。

中国人幹部が成長せず任せられない

上記の問題を改善するためには社員の協力無しでは不可能であるが、その牽引車である幹部に次の問題を感じており、これを何とか改善したいとのことである。

・ 決めたことが守れない

・ 目的達成意識・改善意識が低い

・言われたことしかできない

・直ぐに言い訳を言う

・報告・連絡・相談ができない

・自己啓発の意識がない

・自己主張が少ない

・他部門と連携できない

K社長は日本人が5人も駐在し、上位ポストを握っていることに疑問を感じており、中国人社員に向かって「社長の地位も含めて君らにいつでも渡す、頑張って我々がいなくてもよい会社に早くしてくれ」と度々言っているとのこと。

しかし、実態は上記のごとく典型的な(出来たばかりの)中国系企業の特徴を持っており、到底任せられる状態ではない。

この状態から脱するには、幹部の入れ替えを行なう? それは無理であり意味が無い。何故ななら幹部をそのようにしたのはS社だからである。

まず変わるべきは日本人高級幹部

会社が変わるためには幹部が変わらなければ駄目である。しかし、幹部が変わるためには会社が変わらなければならない。どっちが先か? 会社が先である。会社すなわち経営者が先に変わらなければ幹部も社員も変わりようが無い。

S社の経営をしているのは、事実上5人の日本人高級幹部である。社長、副社長、工場長を占め、全部門の部長職を5人が兼務している。

この5人自身に、前項の問題点が無いだろうか?

そして「自分はお飾りの部長であり、実務は中国人の副部長や各課長に任せている。だから部門運営で問題があったら中国人幹部の責任である。」と、誤解していないだろうか?

それは誤解というよりは職責を放棄しているのである。

幹部の最大の職責は部門のベクトル合わせ

幹部が負っている職責で最大のものは「部下とのベクトル合わせ」である。上位になればなるほどベクトルを合わせるべき部下の範囲が広くなる。S社の5人の高級幹部は全社員とのベクトルを合わせる職責を負っている。

部門を持っている幹部は、会社方針とすり合わせた部門方針を作り、それに部下を合わせるのである。 会社の進むべき将来像、そこへの進む道筋、方向、姿勢などを示した経営理念と経営方針を明確にして、それに向かって全社員を引っ張るのである。

会社の進むべき将来像、そこへの進む道筋、方向、姿勢などを示した経営理念と経営方針を明確にして、それに向かって全社員を引っ張るのである。

共有できる経営理念・方針が無い

S社の最大の問題は全社員と共有できる経営理念や経営方針が無いことである。

会社構内を見回ると各所に経営理念や経営方針のポスターが貼ってあるし、社員のポケットにはそれを記載された小冊子が入っている。しかし、K社長からいただいた日本語のそれと、各所に掲示してある中国語のそれとは意味が違っていた。

そのことは社員に経営理念や方針を詳細に解説し、共有化すべく努力をしていれば気が付いたはずである。K社長にこれを質し、どうするか伺ったところ「この理念や方針は、先代社長時代に作ったものだが、自分もよく理解できない内容もあってどうすべきか悩んでいた、だから説明どころではない」とのこと。

当然、5人の日本人(経営者・高級幹部)の間でも共有化できていないのである。

経営理念や経営方針は、見せるためのものではなく皆がそれに共感し、一緒に走り行動するものである。しかし、S社は壁に掲示するだけ、胸ポケットにしまうだけで終わっていた。すなわち「命令した、指示した」というだけで結果を求めるのと同じ行動をしていたのである。人は、世界の何処でも一方的な命令だけでは動くものではないことは皆さんご承知のこと。最も避けるべきことは、権限に対する「面従腹背」である。

S社は、品質や生産性を向上させるため、各種規定やマニュアルの充実を図っているが、その真意を理解して行動している社員は少ないのではと思われる。言われたとおりに行動をしている「ふり」をしているだけであろう。

経営理念や経営方針すら守らなくてもよい会社では、就業規則も諸規定も、指示命令も守る必要の無い会社と思われても仕方ないだろう。

S社の教育は、まず経営理念や経営方針を固め、日本人も含めた全員の幹部研修により意思統一、ベクトル合わせをしながら職責の理解から始めるべきであろう。

以 上