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作成年月日:2014年8月7日

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海外情報−中国7月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸

儲からない現地法人の悲劇

上海郊外のS社は日系部品製造会社。Y社長(総経理)より依頼があり、工場視察をして改善点を指導して欲しいとのこと。この会社は創立20年の会社だが現在は殆ど利益が出ない。

当初は日本向けの下請け仕事であり、現在は日本と中国市場向け下請けが半分ずつだが、このままではじり貧になることは明確である。顧客を増やし多角経営にするための意見を求めてきたもの。

当初は親会社へ利益を移管していた

S社は創立後20年も経ったが未だ累計損失を消せず、日本の親会社へ配当金を送金できない。中国の法律では累計損失を消さない限り、株主配当金として外国へ送金することができないからである。

1990年代後半は利益を出せる企業体質であったが、実質的に日本の親会社専属下請け会社であった。日本の親会社は子会社に利益を出させても意味が無いという理由で、S社の加工単価を調整してS社にほとんど利益を出させなかった。したがって、歴代S社社長が努力して利益を出すようにしても、累計損失は消せなかった。つまり、当初の経営は、子会社の利益を親会社に移管していたことになる。

この手法は「移転価格税制」で引っかかり、中国の国税局から査察を受ければ高額な税金を納めさせられることになる。親子や親戚筋に当たる企業同士の取引は、正常な原価計算に基づいた、また、公平な市場価格に基づいた取引価格である必要があり、税務当局からその証明を求められたら20日以内に証明書を提出しなければ移転価格税制違反となる。

このことは逆の問題もある。

 

親会社との価格低下と取引減少

S社の損失を防ぐため、あるいはS社に利益を出させるため、日本の親会社が故意に高い輸入価格設定をすれば、日本にもたらすべき利益を中国子会社に移したということで日本の国税局から睨まれ、やはり移転価格税制違反となる。

最近は日中双方の税務当局が目を光らせており、どちらのやり方もできなくなった。

また、日本の景気停滞により親会社の力も減衰し故意に高く仕入れる力もなくなった。それどころか、親会社の販売そのものが落ちこみS社からの輸入量自体が減少してきた。

このため、S社独自の力で利益を出す努力を求められたのが最近であり、Y社長が赴任したのである。

モノづくりを知らない社長が赴任

S社再建を期待されて、3年前に赴任したY社長は、日本では営業部門の部長職。製造系統の仕事は一切したことがなく、関わったことも勉強もしたことがない。57歳の現在、今更勉強する気力もない。

したがって、工場関係の経営管理は全て中国人に任せ、自分は販路の開拓に専念した。このため、中国にある日系企業からの受注をある程度確保でき、わずかながら利益を出すことができるようにはなったが、累損を消すまでには至らない。しかもわずかな為替変動でも利益の圧迫が大きく、何時まで経っても配当が出来ない会社からの脱皮は困難となってきた。このままではS社の存在価値が危ぶまれる。

さらに販売品目を増やし顧客を増やすには生産体制を近代化させるべきだと思うが、何が悪いのか、何が遅れているのかも見えない。

親会社に応援を求めても、日本の工場部門は縮小しており日本から送り出せる人材もいない。ということで、指導の依頼がなされたのである。

「目で見る管理」と「5S運動」を知らない

Y社長と中国人の生産統括部長の案内で会社を見学させていただき、品質関係責任者を含めて数人の中国人幹部との面談結果、大胆な改革を必要とする会社だとわかった。

どうみても10年以上昔の管理手法とノウハウで製造をする典型的な労働集約型の会社。労働集約型企業、すなわち人が中心の会社で絶対に欠かせられない「目で見る管理」と「5S運動」をやられていないことは致命傷である。昔はそれでも儲かったであろうが現段階では改善しなければ倒産するだけ。

会社を見学すると、「自ら整理整頓をやろう」という標語が随所に掲示されているが、ずいぶん陽に焼けている。整理整頓とは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の5S運動中、最初の二項目である。標語が焼けていることと、どの職場も整理整頓が全くなされていないので「いつから開始し、いつ止めたの?」と聞いたところ、「2006年に、前社長の時代に開始し、2008年のリーマンショック時代に前社長が帰任され、操業も減ったのでいつの間にか止めた」とのこと。「止めて6年も経ったのに、何故標語を貼りっぱなしなのか」と聞いても誰からも返事は無い。類似の古い標語やポスター、数年前のカレンダー等、当然掲示有効期限を過ぎたものが随所に貼られている。

これらの現象は、5S運動や目で見る管理の目的や手法を知らず、「貼れと言われたから貼った」、「貼ったのだから私の責任は果たした、見ない、あるいは守らないお前らが悪い」という典型的な中国式責任転嫁経営である。

古い賃金制度(年功序列)の弊害

S社社員の半数以上が10年以上の永年勤続者であり、会社からの解雇(契約解除)を待っている者が多い。それは会社から解雇通知を受けた場合は経済補償金(退職金に相当する)を受け取れるからである。それらの者は、会社をよくしようという考えはなく、会社に支払能力がある内に人員整理を実施させ多額の退職金をもらうことしか考えていない。

しかし、定年まで数年の者も多く、安易には解雇できない。定年まで5年以内の者は事情が無い限り解雇するなと、法律で縛られているからである。

もちろん、生活上の問題から解雇反対の声もあることは確実であり、労働者側は一つには纏まっていない。

管理監督者も、優秀な永年勤続作業者から選ばれており、管理能力がかわれての登用では無いし、管理監督者としての教育は一切していない。

昔の日系企業、特に労働集約型企業の場合は、永く勤めることが美徳であり、会社のよき資産でもあった。しかし、適当に新しい血を入れて新陳代謝もすべきである。高度成長を継続できた時代はまだしも、成長が止まった現在では新陳代謝を図れる能力主義的人事制度を導入すべきである。

教育をしない限り会社改革はできない

前号と同じ結論となったが、このような現状で、会社を近代的な生産システムと手法を導入し、人事賃金制度を能力主義に変えようとすれば、既得権を得ている永年勤続者の猛反発を受けることは間違いなく、下手をすると解雇を要求するストライキが起こる恐れもある。

まず、管理監督者の大部分が会社をあるべき姿に変えることに積極的に賛成し、行動に移ってくれる研修からスタートすべきである。

 

以 上