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作成年月日:2013年10月7日

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海外情報−中国9月分

作成日:2013年10月7日
作成者:中国 上海 佐藤 忠幸

親会社の経営理念を子会社に押し付けるな

中国子会社の現地化は古くて新しい話題である。原材料の現地化から始まり、人材の現地化は当然の流れ。昨今の課題は「経営方針・経営理念」の現地化であるが現実はどうであろうか?江蘇省のI社の事例で研究する。

I社は、日系精密機器メーカーであり、創立は13年前の独資企業である。製品は極めて特殊性がある高付加価値なものである。このため、過去は大きな赤字も出さないが大きな黒字にもならないという典型的な日系企業である。社長(総経理)は2011年に親会社から派遣されたH氏である。人事評価制度と賃金制度を確立したい、さらに目標管理制度を導入したい。そのためには、社員の意識改革から入らなければということで幹部研修が始まった。

幹部研修の第一ステップは「経営方針・経営理念」の共有

I社は、半年間12回コースの幹部研修を計画し、土曜休みを使って第一回目の研修を行った。せっかくの休日だが、幹部全員が集まってくれホッとした。もちろん、自分たちのためになることだからということで、休日出勤手当ては無い。

第一回目の研修であるので、経営理念や経営方針の理解と共有化を中心に行った。
経営理念などには立派な四文字熟語が作られ、立派な(高尚な)解説文章が入っている。
もちろん、中国語にも訳されており廊下や食堂など随所に掲示してある。

グループごとにそれを話し合い、理解を深めてもらったが、ここで驚きの発見があった。

自分は分かるが説明はできない

ある程度話し合いが進んだところで「新人でも分かるような平易な言葉で解説文を入れろ」と言ったら話し合いが止まってしまった。

理由を聞くと次のやりとりとなった。(このやりとりは日本人のいない所でやった)

*どうして議論しないの?

「一般社員はどうせ理解できないよ」

*だったら尚更やさしい解説文が必要だよ!

「経営理念などは、日本本社のもので中国子会社、すなわち我々のものではない」

*その経営理念は気に入らないし、中国に合わないということか?

「経営理念はスローガンとしてはよい。しかしそれに付いている解説文は中国語だが、日本人向けの内容だ。中国人には理解が難しく、例え理解できても実践はできない」

*それを何故何年も黙っていたのか?

「社長にそれを言っても理解して貰えそうにないし、しつこく言えば首が危ない」

*理解できないものを押し付けられて黙って受け入れたのでは、幹部の職責を果たしたことにならないよ。反省して、新たな経営理念を提言するか、新たな解説文を考えろ。

と言ったら皆、こっくりと頷き再び議論が進み始めた。

日本人経営者と中国人社員との間は面従腹背の関係?

前記のやり取りは、I社独特なものだろうか?

実は、中国にある日系企業の多くが、この姿である。I社は、その実態が表立っただけ幸運である。
中国政府が数年おきに行う腐敗防止運動などと同じである。立派なスローガンを見てなるほどと思っても実行・実体は別物ということである。

また、その解説文を見たら「こんなこと出来るわけないよ」「まあ、あの日本人社長もすぐに帰るから、それまでは分かったふりをしていよう」で終わりにしているのである。

すなわち本社と中国子会社は本土と植民地の関係であり「面従腹背」の関係である。表面的には従っているが、裏では舌を出して違う行動をするのである。
これが日系企業には労働争議が多いと云われる所以であろう。

日本人対中国人という構造をなくす

赴任して3年目のH社長に、このことを伝えたら愕然としていた。

「あれだけ中国と中国人を理解しようと努力して来たのに!」

「経営理念は完全に理解してもらい、共有化できたと思っていたのに・・・」

しかし、H社長からは感謝された

「気がついてよかった!これで今後は本当の経営ができます」と。

次の研修会では、中国子会社独自の経営理念を作るべく、その基礎的なことを皆で議論しようということとなった。

I社の経営者と幹部(社員)とのベクトルが合い、日本人対中国人という変な構図も無くなり、一体化する日も近いことだろう。

以 上